メンヘラ天使とヤンデレ一番星   作:リララ

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幼少期の環境が壮絶だと人格形成も早くなるのは仕方ない

 ──物語を読んでいた時から好きだった。造りモノのような美しい顔立ちが好きだった。あらゆる感情を乗せない凍えるような無表情が好きだった。すべてを()()()()くせに、何も()()()()()空っぽの瞳が好きだった。

 

 『星天虚空(せいてんこくう)』──それが彼女に付けられた二つ名。数多の宇宙(星空)を内包する世界の管理者で、自らも瞳に銀河(星々)を宿しながら、目映い煌めきを絶え間なく放っているくせに、その本質は〝(からっぽ)〟。

 

 その〝在り方〟に、憧れを抱いた。

 

「どんなアイドルになりたいか。そうだな……私がなりたいのは、〝理想の自分を描き続けるアイドル〟だな」

 

 憧れだったトゥエルになる上で最適な場所──それがステージの上。自分にとって最も都合の良い仕事──それがアイドル。

 俺はトゥエルというキャラクター(俺の憧れ)を崩したくない。

 

 ──そんなこと、誰にもわからないのに?そもそも憧れを演じる必要性はあるの?誰に強要されたわけでもないのに?

 

 ──まったくその通りだと思う。だってこれは──この感情は俺の〝自己満足(エゴ)〟だから。俺は俺自身の感情(欲求)で〝理想を描いていたい(夢を見ていたい)〟。他人から望まれてるとか、求められている、いないとか、そういう話じゃない。大事なのは()()()()()()()()()()()どうかだ。

 だから俺はステージの上では仮面を被る(嘘を吐く)。それでいいんだ。それを()()()()()()()()()

 

 何もかも忘れて、永遠に夢の中で生き続けたい。

 そう思っているはずなんだ。

 

 だから──胸の奥が針で刺されたようなこの痛みはきっと気のせいだ。

 

 アイが俺をじっと見ている。

 俺も視線を向けて、次はアイの番だよと促した。

 

「私は──大切な人がとなりで心から笑ってくれるようなアイドルになりたいかな」

「──ぇ」

 

 チクリ。また胸が痛んだ。

 アイは画面ではなく、俺を見てはっきりそう口にした。

 

「ね?エル」

 

 アイは俺の首に腕を回して耳元で囁いた。

 

「仮面を被るなとは言わないよ。でも──私にだけは、()()()あなたでいてほしい」

「──っ」

 

 本当の自分……?

 

 そんなの、誰も──

 

「私がそうしてほしいって思ったの」

 

 ──いるじゃないか、ここに。

 

「私は〝トゥエル〟じゃなくて、〝エル〟と一緒にいたいの」

 

 あぁ、そうか。

 

「どこにもいかないで。いこうとしないで」

 

 俺はまた繰り返そうとしていたのか。

 

「──いかないよ」

 

 不安気に俺に寄り添うアイを安心させるように抱きしめた。

 

「アイと一緒に楽しく歌って踊ったら、幸せは2倍になるからね!」

 

 俺がそう言うと、アイは一瞬大きく目を見開いて──花が咲いたような満面の笑みを浮かべた。

 

「うんっ!!」

 

『てぇてぇ』『尊い』『尊い』『キャー』『尊い』『至高』『尊い』『尊い』『尊いが溢れてる』『桃源郷』『最高』『なんだこれ…これが尊いって感情なのか…』『百合最高』『良かったね2人とも』『アイちゃんが抱きついたあと何を言ったのか気になる』『最初にトゥエルが言いきった時つらそうな顔してたから心配したけど、アイと話したあとのトゥエルは幸せそうで安心した』『わかる。憑き物が取れたみたいに晴れやか』『尊い』『やっぱりトゥエルを変えるのはアイなんだな』『2人ともかわいい』『トゥエル良い顔になった』『穏やかな笑み浮かべるトゥエルかわいい』『良かったねアイちゃん』『天使の凍てついた心を溶かすのはアイしかいないんだ』『トゥエルはアイといるとだいぶ人間らしくなるね』『2人の関係性が尊い』『お似合いな二人』『お幸せに』『悔しいけどトゥエルのことを幸せにできるのは俺たちじゃなくてアイちゃんなんだ』『アイちゃん、俺たちの代わりにトゥエルを幸せにしてやってくれ』『トゥエルもアイのことちゃんと幸せにしろよ』『じゃないと俺たちがかっさらっちまうぜ』

 

 …あ。そう言えば配信中だった。

 てか、なんだよコメントのやつら。人が落ち込んでるのを良いことに調子に乗りやがって。

 

「ハッ!誰に物言ってやがる。アイは過去現在未来全ての時間軸において私のものだ。お前らには絶対渡さねェ」

「エル…っ!」

 

 俺の大胆な発言にさらに盛り上がるコメント欄。

 どんどん囃し立ててくる。

 

『!?』『!?』『キャー』『!?』『きゃああああ』『はわわ』『かっこいい』『男前』『それが素か』『俺様系だ』『!?』『イケメン』『キュンです!』『きゃあああああああああ』『かっこよ』『トゥエル様』『イケメンすぎる』『何様俺様トゥエル様!』『ときめいてるアイちゃんかわいい』

 

「あー…訂正させてくれ。どんなアイドルになりたいか。──アイが自分の気持ちに正直でいられるように。そしてステージの上でもアイに心の底から愛してるって言えるようなアイドルになりたい。てかなる」

「私も!エルが心から今幸せだって思えるようなアイドルになって、エルにステージの上でも愛してるって伝えられるようになるのがアイドルとしての目標だよ!」

 

『最高!』『言うこと全部かっこいい』『小学生とは思えないくらい大人びてる』『かっこいいなぁ2人とも』『相思相愛』『2人の周りだけオーラが漂ってる』『発言の重みが違う』

『大好きなんだね相方のこと』『なんて尊いんだ…』『眩しすぎて見てられない』『しゅき…』『最高』『百合最高』『2人とも強いなあ』『このお互いに心の支えになってる感じ…実に良き』『至高の百合』

 

「だからごめん。こんなこと言うとアイドル失格かもしれないが…私たちは私たちを応援してくれるお前たちに心の底から愛してるって言うことはできない。それは嘘になってしまうから。今も私の愛はすべてアイに──」

「私の愛はぜんぶエルに向けたものだから。でも──」

「──いつか私たちの〝この嘘(アイシテル)〟が本当になるように願って歌い続けるよ。心から君たちのことを愛してるって言えるように」

「だからこれからも私たちのこと応援してくれる?」

 

『愛してる』という感情のリソースを割くのではなく、新たに作りファンへ向ける。最愛への愛とファンへの愛を共存させる。

 傲慢だけど我が儘で欲張りな俺たちには丁度良いくらいなんじゃないだろうか。

 

『もちろん!』『当たり前だよなぁ!?』『応援するよ~』『二人の幸せが俺たちの幸せだよ』『幸せになってくれ』『最後までついていくよ』『応援します!』『応援してるよ』『頑張って』『俺らのことは二番目で良いよ』『2人が幸せになれるように願ってる』『式はいつですか?』『正直に言って偉いよ』『そうそう普通こういうのは思ってても言えないもんな』『潔いち』『自分に正直なところ好き』『逆に好感持てる』『正直でよろしい』『お二人がこれからもイチャイチャしてくれたら俺たちも嬉しい』『新鮮な百合を供給してくれー』『応援する!だからもっと百合を!』『いいぞもっとやれ』『トゥエルちゃんとアイちゃんが幸せなのが一番よ』『2人が幸せそうにしてるところを見るだけで十分だからね』『本当に心の底から愛し合ってるんだね』

 

 優しいコメントばかりでほっこりする。

 正直に言って良かった。この場で嘘は吐きたくなかった。きっとここで嘘を吐いたらこの先ずっと嘘を吐き続けることになるだろうし、それは最終的に自分自身の首を締めることになるから。

 

「みんな…ありがとう」

「ありがとう」

 

 愛してるよ。喉元まで込み上げてきた言葉を飲み込む。今はまだ、その言葉を言う資格はないから。

 

「よーし!気を取り直してどんどんいくぞ!」

「おー!」

「次は…ここがアイドルになるための下地ってのは本当だね。でもさっき言った通りアイドルになってからも活動は続ける。続けたい、が正しいかな。お前ら良い奴過ぎて絆された。あと私たちには会えません天使と一番星なので。最低でも彗星にでもなって出直してこい。私たちの間にも入れませんそんな隙間ありません」

「エルの心の(わだかま)りを(ほぐ)したのはちょっと嫉妬しちゃうなぁ。ぜんぶ私がやりたかったのに…」

 

『ツンデレ』『金髪幼女でツンデレとか解釈一致すぎる』『それな』『クール系要素もあるよねトゥエル』『クール系ツンデレって新しいな』『確かにめずらしい』『嫉妬してるアイちゃんかわいい』『アイちゃん独占欲強い』『幼女の激重感情たまらん』『そこがいい』『それ』『尊みが深い』『ツンデレ幼女とヤンデレ?幼女』『幼女って言うな』『幼女やめろ』『トゥエル様とアイ様だろぉ!?』『トゥエルとアイに挟まれたかった』『俺が2人の間に挟まって双方から矢印向けられる計画が…』

 

 アイの肩を強めに抱き寄せて一分の隙間もなく密着させる。

 

「はいはい残念でしたー。私たちはマグネットのようにピッタリくっついてるので入れませーん」

「べー」

 

 アイもそんな俺に合わせるように舌を出してべーと声に出しながらコメント欄を挑発していた。かわいい。ちなみにコメント欄は〝マグネット〟というワードに反応して軽くお祭り騒ぎになっていたが華麗にスルーしていく。

 

「逆に直してほしいところ!」

「えぇー!難しいなぁ」

「アイが私の理想を体現してるからなあ」

「あ、でも一つあるかも」

「!?」

 

 なんだって!?答えによってはガチで落ち込むぞ。

 

「エルは一人で悩みがちだからもう少し私に相談してほしいなぁ」

「ん"ん"っ!…ゴメンネ」

「悩んだら私に相談する癖をつけよ?ホウレンソウだよ、報告・連絡・相談」

「うん…わかった。気をつける」

 

 これに関しては俺は一生アイに勝てない。現にさっきの質問でもやらかしたし。

 

『これはトゥエルが悪い』『アイに頭上がらないな』『アイちゃん言ってあげて』『これはアイが正しいな』『愛されてるねトゥエル』『トゥエル良かったねこんなに想ってくれる子が相方で』『7歳児にホウレンソウを説かれる7歳児』『アイちゃんホウレンソウなんて知ってるんだすごいね』

 

「私の方は…うーん…あっ!お風呂入ってるときは恥ずかしいから写真撮っちゃだめ」

「えぇーっ!?そんなぁ!私のエルコレが…!」

「だめですぅ!水没したら大変だし毎日一緒に入ってるんだからそれで満足して!」

「はぁい…わかったぁ…。でもでも!その代わりこれからもちゃんと毎日洗いっこするからね!」

「うん、わかってるよ」

「ならいいよ」

「うむ」

「イイコね」

「んっ」

 

 少し不満そうにしていたアイの頬にチュッとキスをしてご機嫌取り。

 

「ここにもして」

「うん」

 

 結局ねだられて唇にもすることに。

 アイはカメラに見えないように目隠しの要領で手を前にやって、何度か俺の唇を舌でつついて舌を入れたそうにしていたが、さすがに歯止めが利かなくなりそうだし俺が心を鬼にして頑なに口を閉じていると、やがて諦めてくれたようだった。でもそのせいで俺が拒んだみたいになって、内心は不貞腐れているかもしれない。あとでしっかりケアしないとだな。

 

「機嫌直してくれた?」

「ん…少し…」

「少しかぁ。放送終わったらたくさんケアするからね」

「うん…おねがい。たくさんキスして

了解。私の最愛の望むがままに。大好きだよアイ。愛してるよアイ」

「大好きだよエル。愛してるよエル」

 

 コメントがものすごい勢いで流れている。平然とキスしてるしその後のやり取りも見せつけちゃったし仕方ないか。

 

『うおおおおおお』『すばら』『キマシタワー』『これは素晴らしい』『きゃあああ』『キス!』『なにこれ最高かよ』『百合最高!百合最高!お前も百合最高と叫びなさい!』『百合最高!』『百合最高百合最高百合最高百合最高百合最高』『キマシ』『きゃああああああ』『エンダアアアアアアアアイヤアアアアアアア』『アイエル最高!エルアイ最高』『やっぱりお互いに依存し合ってるんだな最高』『美少女同士の共依存はまじでいい』『今度はアイの番かそれしてそれをトゥエルがケアすると』『イイゾ~』『エンダアアアアア』『てぇてぇ』『尊さレシプロバースト!』『しゅき…』『いいぞいいぞいいぞ』『お二人の絡みを見ていたら…その…下品なんですが…』『2人の百合で酒が進むわ』『エルコレ?』『え、まって頬にキスしたあとアイが物欲しげに唇に指当ててここにもしてとか言うのマジで尊いんですけど』『もっとやれ』『俺たちのことは気にせずどーぞ』『かまわん。やれ』『国宝級美少女の百合はいい』『キスしてる!』『うわああキス!キスしてるよ!』『アイちゃんかわあいいいいいいい』『トゥエルイケメンすぎる』『トゥエルもアイもくっそかわいい』『こうして二人は幸せなキスをしましたとさ』『お二人さん配信中なの忘れてませんか』『エルコレが気になる』『まてキスで吹っ飛んだが毎日お風呂で洗いっこしてるってマ?』『それだよそれ!』『これは確実にヤってますねえ』『今度はアイがメンヘラってトゥエルがケアするとかこの子達やばい尊いが溢れすぎて爆発四散してる』『さっきと逆の構図になってる』『超絶美少女同士がお風呂で洗いっこ…』『ふぅ』『うわああああん俺もまざりてええええええ』『もう毎日配信してほしい』『日常会話が気になる』『この子たち10秒に一回百合してるな』『早く結婚しろ』『式はいつですか!?』『むしろもう結婚してそう』『むしろ子供いそう』『いやこの二人はお互いが一番だから子供作らなそう』『子供いたら取られちゃうからって理由で子供作らなそうだね』『あのー子供とか結婚とか言ってるけど一応女性同士なんですがそれは』『うるせえ愛に性別なんて関係ねぇんだよ童貞』

 

 すごい(小並感)。百合は正義はっきりわかんだね。

 コメントはさすがにスルーかな。

 

「はは…次行こっか~」

「はぁい」

「あ、SNSに蔓延る偽者へ一言」

「おーついに来たね」

 

 やっぱりコメントで言及されるよな、これは。もう先にアカウント作って誘導してもいいかもな。

 

「SNSに関してはあとでお知らせがありまーす。まぁ勘の良い人はもう分かると思うけど。偽者は去ね」

 

『お?』『お?』『おっ』『お』『おっ?』『スマホ買ったか』『ついに来たか』『さっきお風呂場で写真とか言ってたのってそういう』『SNS開設クルー?』

 

「お二人は夫婦ですか」

「愚問だね」

「愚問だな」

 

『はい』『愚問』『ですよねー』『知ってた』『しってた』『愚問だったか』『即答』『これはつまり?』『えっとつまり?』『愚問だろ』『皆まで言うな』『言わずもがな』

 

「ここからは飛ばしてくよ」

 

 ・詩を書くときどうしてる?ボイトレは?

「自分の中に空想の世界を創ってキャラクターを振り分けていく。一人一人の物語は連鎖していくときもあれば一話完結もある。共通しているのは道中は悲壮であること。ぶっちゃけ結末は決めないことの方が多くて、その辺りは聴き手によって変わっていくだろうから、わざと考察の種だけを残してく。あえて結末を描かないことで想像力を掻き立てるような?聴き手の数だけ物語があるんだよって。ボイトレはひたすら歌うだけ。やり方知らないもん」

 

 ・好きな映画、漫画、本、アニメ

「好きな映画はナイトミュージアムとジュラシック・パーク。好きな本は学術書全般だが特に心理・哲学、神話、生物・古生物、世界史だな。漫画とアニメは特にない」

「私はホラー映画かな。アニメと漫画はなし」

 

 ・好きな季節、音楽

「冬。静かだから。好きな音楽は『Mirastrea』」

「春!エルと出会った季節だから。好きな音楽はエルの作った曲かな」

 

 ・今日何食べた?遊びに行くならどこ?座右の銘は?

「手作り弁当、どこでもいい、…座右の銘は『愛はすべてに打ち克つ』だ」

「エルの手作りのお弁当、エルと一緒ならどこでも…、座右の銘?うーん…『あなたの幸せが私の幸せ』かな」

 

 ・好きな食べ物と苦手な食べ物

「どちらもなし」

「エルが作るものなら何でも好き。白米がちょっと…。エルが炊いたもの以外は苦手かも」

 

 ・好きな動物

「ネコ。何にも縛られない自由な生き方をしているから」

「ネコ。エルが好きだから」

 

 ・得意教科と苦手教科

「なし」

「得意なのは音楽と英語と国語で苦手なのはそれ以外全部!」

 

 ・自分が思う長所と短所

「何でも出来ること。何でも出来てしまうこと、一人で考えすぎた結果拗らせてしまうこと、アイがいれば他はどうでもいいと本心から思っていること」

「かわいいこと、嘘をつくのも見抜くのも得意なこと。エル以外の顔と名前を覚えられないこと、エル以外の人に興味が湧かないこと」

 

 ・されたら嬉しいこと嫌なこと

「アイに甘えられること。自分以外がアイに干渉すること」

「エルに甘えられること、頼られること。自分とエルにちょっかい出されること」

 

 ・地球最後の日から来たら何する?

「アイを連れて異世界転生もしくは滅びの運命を回避する」

「いつも通りエルと一緒にいる」

 

 ・お風呂でどこから洗う?

「髪」

「エルの腕」

 

 ・一億円もらったら何したい?

「返す。そもそも他人のお金は受け取らない」

「いらなーい」

 

 ・最近泣いたのは?

「秘密だ」

「内緒!」

 

 ・好きなタイプ

「分かりきってることを訊いてどうする」

「訊く必要ある?」

 

 ・貴族なの?

「知らん。どうでもいい」

 

 一度コメントを確認するのをやめて、質問を全部消化した。

 俺も知らないアイの一面を知ったし、改めて愛し愛されてることを再確認した。

 ふとコメントを見ると、相変わらず決壊した河川並の勢いで流れている。

 この後はSNSアカウントを開設してコメントの連中を誘導して、今後の展望を話して…。意外と忙しいな。巻いていくか。

 今の来場者数は…28万人か。頃合いだな。アイに耳打ちして準備する。

 

「ここでお知らせがありまーす」

「みんな聞いてー!」

 

『ん?』『お』『?』『どうした』『お?』『?』『なんだ?』

 

「「じゃーん!!」」

 

 良い感じに注目が集まったところで、俺たちはせーので同時にiPhoneを取り出して見せた。するとコメント欄が一斉に沸き立った。

 

『!?』『!?』『!!!』『お!!』『おおおおおおお』『!?』『スマホだ!!』『きたあああああ』『やったああああああ』『iPhone?』『ついにSNS開設か!?』『まってた!!』『うおおおおおおお』『やったぜ』『勝ち確定』『確定演出』『この時を待ってた』『iPhone!』『偽者終了のお知らせ』『時代の節目』

 

 画面の中央を大文字のコメントが多数。こういうコメント職人はすごいよね。面白いし。

 

「やっとiPhone買えたよ…最新機種出たからお揃いで」

「待たせてごめんね?」

「今から何をするかって言うと、私たちまだSNS開設してないんだよ。そこで、今から実際にアプリをインストールしてアカウントを開設するから皆もフォローしてほしいんだよね」

「私たちまだアカウント持ってないから、今君たちがフォローしてるとしたらそれは偽者だから解除してね」

 

『おk』『把握』『おk』『り』『はーい』『まかせろー』『準備できてるぜ』『wktk』『ついにか…』『これで合法的に貢げる』『やったーーー』

 

 盛り上がりを見せるコメントを余所に俺たちは素早くアプリをインストールしてTwitterアカウントを作成する。俺とアイ、二人分のアカウントを作り終えたところで同時にプロフィール画面のURLをコピペして配信画面のコメント欄に投稿者コメントとして固定する。ついでにPCの方で今作ったばかりのTwitterアカウントを開いて画面共有で視聴者にも見えるようにしておく。これで俺たちが本当にアカウントを作ったことの証明となる。

 

「今画面に映ってるのが私たちのアカウント。投稿者コメントにURL貼ったからそこから飛んでフォローしてくれると嬉しい。どちらか片方ではなく両方のフォローをお願い」

「お願いします」

 

 画面に向けて頭を下げておく。たまにはこういう謙虚なのも大事。

 同接20万超えの宣伝効果は凄まじく、今始めたばかりにも関わらず瞬く間にフォロワーは増えていき、あっという間に10万人を通り越して30万人に迫る勢いだ。

 このまま終わらせても良いが、せっかくフォローしてもらったのだから何か投稿しようと思い、俺たちは昼間撮った単品の写真やツーショットなんかを投稿していった。

 

 トゥエルです。名字はありません。

 この度アイ共々無事にTwitterを始めることができました。アイ→http://Twitter──

 フォローしてくれると嬉しいです。

 たくさん投下します。偽者はLockoff。

 

 写真を添付しつつ文章はこんなものだろう。これで誰しもが本人だと解る。アイも同様の文言と共に写真を投下している。…そのほとんどがトゥエル油断シリーズなのは家族会議ものだが。

 それは一度置いておいて、SNSを始めたことで今後の活動範囲が一気に広がった。そしてついにDMという形で俺たちに個別にメッセージを送ることも可能になったのだ。なんでも今たくさんの芸能事務所が三年後俺たちを確保しようと水面下で動き出しているとかいないとか。もしかしたら今後そういった企業からメッセージが来るかもしれない。いわば住所を得たようなものだ。宅急便だって住所がないと送れないからな。メッセージだって同じだ。個別アカウントという住所を得た俺に対して何が来るのか楽しみだ。

 

「Twitterは一旦これでいいかな」

「時間も良い感じ」

 

 時間を見ると配信開始から45分ほど経過していた。もともと一時間程度の予定だったが、当初のペース配分よりも遅れてしまっている。質問が多かったな。全部答えちゃったし。

 ラスト5分はやることは決めてあるから差し引いて10分程度。今後の展望を話す時間としてはちょうど良いかな。

 

 何となく背筋を伸ばして両手を膝に置いて真正面に画面と向き合う。

 アイも私の雰囲気が変わったことを察して同じように正面を向いた。

 

「今後について話していこうと思う」

 

『お』『いいね』『いいね』『これから大変だろうけど頑張って』『二人のこと一緒推します』『エルアイは至高』『うわ配信してたのか見逃したわクソッ』『200万いっとるやんけ』『もうすっかり国内トップのYouTuberだな』『時代が動き出す』『俺たちは歴史の転換期にいるんだ』『時代の節目』

 

「アイドルとしては当初の予定通り三年後のデビューを目指すつもり。これは遅れることはあっても早まることはないって断言しとく」

「もうしばらくは自由にやりたいし」

 

『はーい』『おk』『まだ小一だもんな』『あまり早くにデビューすると学校の勉強が疎かになって将来苦労するぞ』『学校あるもんね』『トゥエルなら学校行かなくても地頭良いだろうしなんとかなりそう』『トゥエル、ちゃんとアイに勉強教えるんだぞ』『アイが将来おバカになるかはトゥエルにかかってる』『これでトゥエルまでおバカだったら草』『学校はちゃんと行くんだよ』『この二人友達いなそう』『お互いに友達?そんなものアイ(エル)がいれば要らないよね、とか真顔で言ってそう』

 

 こいつら鋭いな。よく分かってるじゃないか。

 

「正解だ。よくわかったな」

「すごい。みんなよく観てるんだね」

 

『まじかよ』『草』『半分くらい冗談のつもりだったんだけど…』『←半分本気なの草』『えぇ…』『やっぱり学校でも二人の世界つくっちゃってたか…』『草』『友達ゼロなの?やったー!』『安心しろ俺たちも友達いないから』『友達?知らない子ですね』『やめろや』『傷口抉るのやめろ』『友達?ウッ頭が』『幼少期のトラウマ思い出すだろやめろ』『○○くんは先生と組もうねー』『お前らには俺がいる!』『友達…二人組…修学旅行…』『おいやめろ』『つらい』

 

「…まぁ、お前たちには私たちがいるから」

「そもそも友達の必要性を感じない。仲良くできるとも思わない…」

 

 お?切り込むね、アイ。やっぱりこういう不特定多数とのリアルタイムでのやり取りは普段聞かないような人の一面が見られるから面白いね。

 

「私が思うに、100人の友達よりもたった一人のかけがえのない親友を見つけた方が幸せになれる気がする。特に私たちみたいな環境の人間は」

「さすがに小学生とは話も合わないしな」

「子供って残酷だなって思った。私やエルは環境が普通じゃないし、エルに至っては外国人だし。あの人たちからしたら私たちって『ヘン』なんだよね。それを理解できないっていうか、周りと『ちがう』ことを受け入れられないっていうか。それで家に帰ってから母親に話すんだよ。うちのクラスにヘンな子がいるって。それがどんどん拡がっていって、そのうち噂から悪意に変わるんだよね。怖い怖い。あとからごめんねって謝られたところでそんな人たちと友達になろうなんて普通思わないよね」

「良くも悪くも私たちは早熟だ。そうならざるを得なかった。肉体と精神の成長が比例していない。環境がそれを許さなかった。だからこそ『悪気のない悪意』や『悪意そのもの』には人一倍敏感になるんだ」

 

 悪い言い方をするなら、俺とアイの関係は傷の舐め合いだ。お互いに精神的に早熟──俺は中身大人だけど──してるから同年代と付き合おうなんてなかなか思わないし、彼らの親から伝染する『悪気のない悪意』に翻弄される。これがなかなかやっかいでね。頭の中では所詮相手は子供だしどうでもいい、って割り切れるんだけど、いちいちうざいなって思う自分もいるんだ。

 よく転生ものの小説なんかで中身大人が子供に混じって学生生活を送ったりしてるけど、絶対俺たちみたいな外見と精神の不一致から来る心の在り方の葛藤はあると思うんだよね。描写されてないだけで。

 

「はぁ。あまり深掘りする話ではないな。そろそろ雑談も終わりにするか」

「うん、空気悪くしちゃってごめんね?」

「ん、私は大丈夫だよ。お前らもすまんな」

 

 コメントも色々考えてくれているようで、それぞれの持論が長文で流れている。

 このままだと荒れそうなので悪い流れを断ち切ることにする。

 

「陰鬱な気持ちは歌って吹き飛ばすしかないな」

 

 そう言って俺はあらかじめ作製した音源を流す。この曲はまだ世に出回っていない俺たちの新曲だ。

 イントロが流れるとコメントの流れが変わった。

 

「最後にサプライズ!だよっ」

「聴け。ひれ伏せ。酔いしれろ。確かに私たちが言い出したことではあるが、いつまでも無意味な論争を続けろとは言っていないが?お前らに私たちの何が解ると言うんだ?驕るなよ。私たちの生き方は私たちが決める。くだらない感傷に浸ってる暇があるなら私たちの歌を聴け」

 

 言葉に覇気を乗せて威圧すると、あれほど騒がしかったコメント欄が一瞬で静かになった。

 そうだ、それでいい。お前たちはただ黙って俺たちの歌を聴いているだけでいい。

 民衆に王の生き方を指図はできない。泥臭く這いずり回ってでも頂点を掴み取る。その生き様を刻み付けてやる。

 

「「ライオン」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

「あああああつかれたあああああ」

「おつえる~」

「おつあいぃぃぃ…」

 

 配信は大盛況だった。途中お互いにヘラったり不穏な話題になって空気が変わったりしたが、最後のサプライズの新曲披露で挽回した。

 最終的な来場者は28万、最大同時接続は29万と初配信としては大成功と言えるだろう。

 ただ、あと少しで30万というキリの良い数字に乗せられたので、強いて言うならそこが悔しい。いや、29万はこの時代では異常なんだけどね?ぶっちぎりで国内一位だし。

 

「やりきった…」

「さすがに疲れたね」

「うん…」

 

 二人してベッドに寝転んで向かい合う。

 無言で腕枕を差し出すと、アイは「ん」と言ってそっと頭を乗せてきた。

 目の前にアイの顔がある。

 

「バカ正直に話しすぎたかな?」

「ううん。あれでよかったと思うよ」

「そう?」

「うん。自分の気持ちに嘘は吐かないって決めたわけだしさ。あの場で咄嗟に嘘吐いて隠しててもモヤモヤするじゃん?正直に全部話して結果的に受け入れて貰えたし、赤裸々に語ったことで気持ちも軽くなったでしょ」

「まぁね。私も嘘は吐きたくなかったし。だから質問も基本的に全部答えた。本当受け入れてもらえて良かったよ」

 

 俺もアイも、かつてはその場をやり過ごすために咄嗟に嘘を吐く癖があったからな。出逢う前はともかく、仲良くなってからお互いそれはやめようって話してて実際になくなった癖ではあるけど、今回みたいな不特定多数が相手の時はどうなるか一抹の不安があったのも確かだ。

 

「ありがとう、アイ。色々フォロー入れてくれて、ケアもしてもらって。本当にありがとう」

「ううん、こっちこそありがとう。私も途中メンタルやられかけてエルにケアされちゃったし」

「ん、あれくらいどうってことないよ。かわいいものだよ」

「それでも、だよ。ありがとう、エル」

「…どういたしまして。じゃあ、今回はおあいこかな?」

「だね、おあいこ」

 

 アイと抱きしめ合う。アイの子供特有の高い体温が温もりとなって伝わる。それは俺もそうか。

 

「ずっと一緒」

「ずっと一緒。大丈夫、どこにもいかないよ」

「うん」

 

 お互いに不安を打ち消すように寄り添う。たとえ傷の舐め合いだと言われてもだから何だと言ってやる。たったひとつの最愛を得た俺は無敵なんだよ。

 

「…アイ」

「なぁに?」

「…私さ、今すごく幸せだよ。アイと出逢えて本当に良かった」

「ん…私も幸せ。エルがいなかったらこの気持ちは死ぬまで理解できなかったと思ってるよ」

「うん。私も同じこと考えてる。アイがいるから、私は愛してるって感情を理解できた。そういうの、私には無縁だと思ってたから」

「うん…、私もそう。エルがいてくれたから、こんな私でも誰かを愛することができるんだって…この気持ちは嘘じゃないって自信をもって言えるようになったの。全部、エルのおかげ」

 

 アイの安らかな声色に乗る、底知れないほど深い愛情を感じ取る。やばい、また泣きそう……。だって今まで誰かにそんなふうに言われたことなかったから……、自分が今日までしてきたことは無駄じゃなかったんだって肯定して貰えたことに加えて、アイからの信頼と安心と感謝といった気持ちを受け取ったことで、嬉しさと感動のあまり体も心も震えてしまう。

 

「ッ…アイのこと、絶対に幸せにするから!だから…そばにいて…どこにもいかないでくれ…アイ…」

 

 そう言った俺の声はひどく震えていた。この場には俺とアイしかいないから、強がる必要などないのに、それでも俺はなけなしのプライドを盾に、これ以上アイに弱さを見せたくなくて、泣いてしまわないように取り繕う。

 好きな女の子の前ではかっこつけたいと思うのは、当然のことだろう?

 

「ぁ──い、いかないッ!!どこにもいかないッ!死んでもエルといるっ!死んでもエルのこと離してあげないんだからぁ!!」

「わ…私もだッ!アイの身体も心も魂も私のものだ!死んだら私が天国に連れていく!他のやつになんかあげないもん!!一生一緒なんだからあぁ!!」

 

 アイは泣いていた。いつか見た、感情を押し殺して涙を流さず静かに泣いた時と違い、子供らしく感情を露にして泣いている。アイの泣き顔を見たら、もう俺だって我慢が効かなくなる。つられるように、俺の頬にも涙が伝う。

 でもこれは、決して悲しい涙なんかじゃない。

 

「う"ぅ"…ばかぁ…エルのばかぁ…しなないもん…エルを残してしなないもん…!!」

「う"ん"っ!しなせない"ぃ…!ふろうふしにさせるからぁっ!世界が滅んでもアイは死なせないからぁ!」

 

「「うあああぁぁぁぁんんんっっっ!!!」」

 

 泣きながら声に出して思いの丈を伝え合う。込み上げてくる想いが抑えられず、溢れて、涙となって零れていく。

 

 アイがちゃんと子供らしい泣き方をしてくれてホッとする。もう二度と、あんな悲しい泣き方はさせないって誓ったから…。

 

 お互いの存在を確かめ合うように絡みつく。

 目の前の最愛を強く抱きしめる。

 

 暖かい。安心する。

 

 そのまま目を瞑った。

 

 今日はもう寝よう…。

 

 あぁでも──

 

 これだけは言わなきゃ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「愛してる」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おやすみ

 

  アイ

  エル

 

 良い夢を。




【天使】
アイドルに夢を見ていた。もし一人でなってたら確実にそうなっていた。どんな仕事も淡々とこなす、人外味の強い完璧で究極のアイドル。
アイのおかげで人間らしさが生まれたから、最短での完璧で究極のアイドルルートからは外れたけど、このままだと遠回りするだけで時間の問題。
友達?話なんて合わないし、そもそもアイがいればおっけー。そもそも俺たちの世界は二人で完結してるから部外者は来んなって思ってるけど、さすがに口にはしない。
アイがちゃんと子供らしい泣き方を見せてくれて一安心。

アイのすべては俺のもの。

誰にも渡さないし、どこにもいかせない。

アイのためなら、世界の理だって変えてやる。

【一番星】
かつての自己防衛本能から母親(他人)の顔色を窺って生きてきたことから、他者の感情の変化に敏い。
それに加えてエル限定だが嘘を吐く必要がなくなった分のリソースが別の方面へ割かれて、最早〝能力〟といって過言ではないほど嘘や隠し事を直感的に見抜くことができる。直感によるものなので、たとえ相手が心に浮かべなくても分かる。
エルがまた変なこと考えてるなってすぐに分かったから、エルだけをずっと見つめていた。エルのケアは私の役目!エルにはヘラって欲しくないけど、ヘラった時のエルが向けてくる歪んだ愛情が堪らなく好きだし、ケアすること自体も好き。私も相当歪んでるなぁ。でもそんな私のことも受け入れてくれるエルが大好き♡
友達?いらなくない?エルがいればいいじゃん。そんなことよりエルってすごいんだよ?だってエルって時に親友、時に恋人、時にお嫁さんって感じで一人で三粒美味しいの!

ねぇ、大好き。愛してる。
出逢えて良かった。今とっても幸せ。
絶対においていかない。寂しがりなあなたを独りにはさせない。

だから、

エルも私をおいていかないで。

***

どうも、こんばんは。誤字脱字報告してくれている方はありがとうございます。

さて、明日の投稿分なんですけど、内容的にR-17.9超えてるような気がして…〝下〟に触れるのはやっぱりR18いきますよね。けっこうがっつりエロいんで、この次の本来の話は飛ばします(警告来てからじゃ遅いし、内容的に飛ばしてもそこまで問題さそうなので)。

軽くあらすじだけいうと、このまま抱き合って寝て起きて、朝風呂に入ってイチャイチャして同じ場所にキスマつけて登校。放課後に先生に呼び出されて、配信で言った友達うんぬんの話を深掘りする、といった感じです。
気が向いたらこっそりR18の方に載せるかも…。

なので明日投稿する話では一気に三年後まで時間が飛びます。
やっと原作キャラが出てきます。15万文字超えてやっとネームド登場って、どれだけ停滞してるんだ……(当初のプロットではもっと日常パートを挟む予定だったけど)。
日常パートの方が精神面の成長とかの話が書きやすいんだよね…。メンヘラもヤンデレもとにかく情緒不安定で、何気ない一言で簡単にヘラる生き物ですから。
私が直近で読んだ中だと、ブルーロックの氷織とかね。ここ数話の彼の心境の変化を観るに隠れメンヘラだと思うんですよね。そうだったら私が嬉しい。

そんな感じで、長くなりましたが今後ともよろしくお願いします。
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