東京ドームという球場がある。1988年に開場された、その名の通りドーム型の球場で、現在はプロ野球の球団の本拠地であり、スタジアムとして以外にもコンサート会場やその他のイベント会場としても使用される、国内最大規模のキャパシティを誇る球場だ。
その収容人数は球場としては43,500人、コンサート会場としてはアリーナ席の数により前後するものの、およそ55,000人とされている。この辺りの基本情報は俺が知ってる東京ドームと同じだ。アーティストにとっては武道館と並ぶ〝ライブの聖地〟であり、ここでのライブはアーティストなら誰もが憧れる。
そしてうちの事務所の斉藤社長の夢は、育てたアイドルをドームライブさせることらしい…。その夢なんだけどさ…、
『ドーム一択だろ』『東京ドームしか勝たん』『収容人数的に最低でも東京ドームじゃないと…できれば日産スタジアム』『京セラ!』『東京?』『京セラ来てくれ』『名古屋ドーム』『日産スタジアム』『東京ドーム』『カンプ・ノウいこうぜ』『武道館は?』『ドームで』『ドーム希望』『日産スタジアムでもいいけど初ライブってことで箔もつくし東京ドームでお願いします!』『よく知らないんだけど武道館じゃだめなの?あっちも聖地だよね?』『日産スタジアム!』『埼玉アリーナ』『東京なら東京ドーム、大阪なら京セラドーム』『人数考えたらドームかスタジアム以外ないよね』『余裕でキャパ超える』『東京でやるんだよね?なら東京ドームしかないね』『トゥエル~関西に来てくれ~』『武道館は狭すぎてな…』『武道館は収容人数がきつい』『姫のためならどこでも行きますよ』『横浜スタジアムきてよ』『参考までに。日産スタジアム:約7万、5大ドーム:約4~6万、アリーナ:約2~3万、武道館:約1万』『東京ドームなら地元だからいける』『ライブ開くと聞いて』『チケット倍率えぐそう』『武道館は狭い、アリーナも狭い』『東京ドーム人気だな。まぁ当然か』『ライブ会場は真剣に決めた方がいいよ。2人クラスだと万単位で人が動くことになるから』『会場決めた瞬間周辺のホテルの予約埋まるし当日の交通網にも影響でるからちゃんと決めた方がいい』『こんなとこで俺らと決めていいの?』『5大ドームツアーしよ』『チケット何人分用意するの?』『ライブ絶対行く!』『ライブってマ?』『ついに生トゥエル拝めるのか』『東京ドームにしてくれ~』『1ヶ月後ってことは三連休か?』『ドーム!』『俺はどこでも行くよ』『トゥエルに会えるならどこでも』『都内か近辺だろうしキャパ考えても日産スタジアムか東京ドーム以外なくね』『無難に東京ドームかなあ』
早くも叶いそうなんだよね。いや、まさかいきなりドーム推奨されるとは思わなかった。〝ライブの聖地〟の印象の強い武道館かなって考えてた。
まぁこいつらの言うことも分かる。武道館は収容人数が少ないのだ。『Mirastrea』の登録者は600万人を超えてるし、現時点での視聴者数をアクティブユーザーと捉えるなら既に33万人いる。しかも俺たちはまだチャンネル開設して三年だし、音楽系だからエンタメ系よりアクティブユーザーの数は多いと思われる。
何が言いたいかっていうと、これだけ見てくれる人がいるから東京ドームも満員まで埋まるんじゃね?ってことだ。さすがに登録者600万同時接続33万のYouTuberのライブ会場が1、2万程度では少ないだろう。それくらいは自惚れても許されるはずだ。
アルバムも出す度にオリコン一桁になってるし、一週間での売り上げは国内トップにもなった。海外のレジェンドたちには及ばないものの、国内では俺たちの存在は、YouTubeを観ない一般層にも広く認知されてきている。
ちなみにシングルだが、今はもう出していない。その理由としては俺の作曲スピードが早すぎるからだ。俺の場合、アルバムは10~15曲を目安にしているが、今はともかく初期は一日一曲という頭のおかしなペースで作ってたし。
商業化の話が来てからアルバム作製まであっという間だった。〝シングルの数倍のペースでアルバムを出すグループ〟として話題にもなったし。そのせいで俺たちが始めて間もない頃に出したシングルは、生産数の少なさもあって、発売から三年しか経っていないにも関わらずプレミアが付いて、市場価格はとんでもないことになっているらしい。
今年に入ってからはさすがにペースも落ちてきたが、それでも他のアーティストと比べたら圧倒的だ。今後もさらに知見を広げて、色々なジャンルの曲を取り入れていきたい。
「コメントありがとう。流れ早すぎて追いきれないけど、ライブ会場についてはあくまでも意見を求めただけだから。本決定どころか仮決定ですらないぞ。…いや、今日の反応見て仮決定に持ってくかもしれないけど」
事務所の人たちも見てるらしいからな。といっても苺プロは創設したばかりだし、今のところ社長とミヤコさんしかスタッフいないけど。あ、でも他の事務所の人たちもいたか。じゃあやっぱり下手なことは言えないか。
ここで俺の横で携帯を見ていたアイが顔を上げて、調べていたであろう画面を俺に見せてきた。
「ね、東京ドーム55,000人だって!アリーナ席?を増やせばもっといけるみたい。日産スタジアムは75,000までいくって!」
「ふむ…。収容人数的に言えば日産スタジアムか。だけど初めてだし東京でやりたいって気持ちはある」
どちらも野球をする場合はピッチの都合上アリーナ席を設置できないから収容人数は変わらないけど、ライブ会場として開く場合、ステージの大きさはこちらで決められるし、持ち込む機材の数や配置によってはその限りではない。東京ドームだと俺が記憶しているのは有名なプロレスラーやイケメン事務所のアーティストなんかで、7万人ほどだ。これが2023年時点での向こうの東京ドームの最大収容数だったはず。
しかし──おそらくこっちはもう少し増えると思う。
でも関心を僅かに高めただけで具体的な行動は何一つしていない。俺とアイ、二人の力で世界一を獲りたいからだ。人々の関心を芸能界へ向けたのはそのきっかけに過ぎないと思ってるし、もし本当にズルするなら俺自身へ関心を向ける。それが最速最強だ。
『東京ドームでも記録つくろうぜ』『歴代最多収容人数めざそう』『また伝説をつくるのか』『うおおおおおライブいくぞおおおおお』『東京ドーム!』『初手ドームは強い』『初ライブが東京ドームはもう海外のレジェンド級なんよ』『おいこらバカアイドル』『最初から知名度あるとこうなるって手本だな』『こんなん強くてニューゲームやん』『初手ドームはやばい』『東京ドームなら行ける』『地方民息してるか?』『海外のレジェンドも知名度すごいから来日して公演するなら東京ドームになりがちだよな。それと同じって考えるとこの子たちやっぱりおかしいわ(褒め言葉)』『埼玉だから電車乗り継いで行けるな』『都内まじ助かる』『さすがに東京ドームになるか』『北九州だけどトゥエルに会えるなら行くわ』『俺も北海道だけど飛んでく』『沖縄県民俺も行くぞ』『東京の俺勝ち組』『秋田だけど行くよ~』『名古屋ドームなら地元だったのに。まぁ行くけど』『大阪から行くで』『【悲報】俺氏三連休出張』『横浜だからわりと近くて助かる』『宮崎から行きます』『富山』『青森県民いくぞ』『四国民いるか?愛媛だけど行くわ』『離島俺氏、酷い船酔いするため島から出られない模様』『広島からも行く』『滋賀もいるぞ』『長野県民いきまーす』『山梨だから頑張れば日帰りできるな』『千葉県です』『長崎だから飛行機でいくわ』『楽しみー!ちな岡山』『佐渡島からも行って良いですかね』『四国いるぞ!徳島や』『札幌から行くぞ』『隠岐の島って知ってるか?』『栃木の日光在住だけど行く』『鹿児島!』『京都~もちろん行くよ~』『バカトゥエル』『トゥエルに会えるならどこでも行くに決まってるだろ』『道民いる?』『楽しみすぎる』『文京区民俺、ドームまで徒歩で通える模様』『出張ニキどんまい』『出張ニキざまぁ』『出張ニキ…あいつはいいやつだったよ』『都内在住でよかった』『やっぱ23区最強なんだよなあ』『出張わろた』
「出張…」
え、そこ拾うのアイ?なら俺も拾ってやるか。ついでに少しサービスしてやろう。
「出張なのか…。残念だ。お前にも来て欲しかったんだけどな…。なら私たちが応援してやろう」
「私たちも頑張るから、出張の人も頑張って!」
『は?』『なにそれ!?』『ファッ!?』『え』『は?』『絶許』『許さねぇ』『出張ニキ○す』『出張ニキ…お前は俺たちを怒らせた』『は?』『出張ニキ○ね』『絶許』『絶交するわ』『こんなの絶交案件だろ』『出張ニキてめぇ』『この2人から直接応援されるとかクソ裏山』『なんて羨ましいんだ!』『出張野郎てめえ…どうしてくれようか』『抑えようのないこの怒り』『キレそう』『ファッ!?』『こんな美少女2人に応援されるとか一生分の運使い果たしたな』『姫に名指しで応援されることの幸福を噛み締めなさい』『お前にも来て欲しかったんだけどなって台詞の破壊力やばい』『恋愛ゲームでありそうな台詞をさらっと吐くトゥエル』『トゥエルかわいすぎる』『まじかわいい』『お前にも来て欲しかったんだけどな。ではなくお前にも来て欲しかったんだけどな…って眉尻下げて悲しげに言うのがやばい。ギャルゲーなら好感度高くないと言ってもらえない台詞だぞ』『お前に、じゃないのが惜しい』『それ拾うなら俺も出張って嘘つけばよかった』『ニートだけど出張あるわ』『ニートだけど来月三連休に東京に出張あるわー』『俺も出張あるの思い出した!』『言い忘れてたけど俺も出張ある』『お前ら…』『嘘乙』『出張ニキです。まさかお二人にコメント拾って貰えるとは…その上応援まで…!ありがとう最高です!お二人のおかげで頑張れそうです!自分は今回参加できませんが応援しています!頑張ってください!』『おう、よかったな』『裏山死刑』『出張ニキ…お前の事はこの配信が終わるまで忘れないよ』『俺も休日出勤だけど無理やり有給取って行くわ』『結局ここの総意としては東京ドームで決定かしら』
コメントを見る限り東京ドームで決まりそうだ。と言ってもまだ意見を聞いただけで本当にそこになるかはわからない。そもそもライブ会場ってどうやって決まるんだ?その人が所属する事務所が会場を運営する企業に申し込むのか?それとも会場のホームページに申し込みフォームとかあるのかな。どっちにろ会場が大きければ大きいほど懸かる費用も多そうだ。苺プロダクション大丈夫かな?初手から借金とか嫌だからな?
俺が真面目に考えていると、アイがちょんちょんと小突いてくる。
「ん?どした」
「さっきからLINEすごい鳴ってる」
「うん…」
アイが耳元でこっそり教えてくれる。
うん、知ってた。知ってたけど無視してた…。まぁ誰からどんな内容なのかはわかるよ。
一応見てみる。
斉藤壱護『おい』『おい』『まて』『お前らまじか』『本気か?』『おい』『バカアイドル』『バカトゥエル』『本当にドームにするのか?』『確かにドームライブは俺の夢だが、お前らのは何か違う』『おいバカトゥエル終わったら電話かけるからな』
斉藤ミヤコ『壱護うるさい』『(怒りスタンプ)』
斉藤壱護『すまん』『(泣きスタンプ)』
トゥエル『誰がバカトゥエルだ』
アイ『社長さいてー』
斉藤壱護『俺悪くないだろ…』『(泣きスタンプ)』
あーこれはお説教の予感が~…、今のは見なかったことにしよう。アイにも小声で告げると、そうだね、と返ってきた。
意識を画面へ向け直す。
『事務所と相談してたの?』『内緒話してる』『携帯でなにかしてたな』『事務所から連絡来たか』『二人でコソコソ話してたのも気になる』
こんなに堂々と携帯をさわってたから事務所と連絡取ってたってバレるよな。別に隠すことでもないし正直に話すけどさ。
「そうだ。事務所から本当に東京ドームにするのか?って確認が来てた」
「東京ドームにしよっか」
「うん、私もそのつもり」
「これで埋まらなかったらウケるな」
「それはそれである意味おいしいでしょ」
アイと軽口を叩き合う。実際のところ、俺もアイもそこは全く心配していない。だって俺とアイだぜ?絶対的な自信しかない。それは視聴者も同じなようで──
『余裕』『余裕だろ』『埋まらないわけがない』『埋まる埋まる』『余裕で埋まるよ』『さすがに埋まる』『たぶんトゥエルが想像してるよりもずっと早いと思うよ』『Mirastreaは今日本で最も勢いのあるアーティストだぞ』『チケット一瞬で売り切れそう』『チケット3日持てば良い方だよ』『埋まるに決まってるだろ』『余裕』『何万人いると思ってるんだ』『倍の席あっても余裕でしょ』『むしろたった5万しかないことに絶望してる』『チケット売るとき複数応募出来ないようにしてほしい』『転売ヤーいたとしても確実に売れるだろうな』『楽勝』『自分で思ってるより影響力あるよ』『すぐ埋まるよ』『あっという間に完売しそうだな』『チケットの詳細決まったら教えてくれ。張り付く』『人雇わないと買えないレベル』『家族に協力扇ぐか…』『陰キャだからライブとか行ったことないけどトゥエルのは行きたい』『トゥエルになら俺のライブ童貞捧げてもいい』『可能な限りアリーナ席増やしてくれ』『7万くらい欲しいところ』『倍率も過去最高更新しそうだな』『倍率すごそう。想像もつかない』『実際Mirastreaの人気考えると5万でも全然足りてないんだよな』『アンケート取ってみたら?』『アンケートとろう』『アンケート機能使おう』『600万人だからな』『同接35万超えてるし』『アンケートいいな』『35万とか初めて見たわ』『また記録つくってるやん』『日本記録余裕で超えてて草』『35って…』『これ本格的にアイドルとしてメディア露出したらどうなっちゃうの』『YouTubeでも世界一行けるか?』
『アンケートしよう!』『35万てなんだよ言葉が出ないわ』『2人と同じ時代に生まれてよかった』『トゥエル見てると俺たちは今まさに時代の節目にいるんだなって思う』『アンケートしてみたら?』
コメントが騒いでるから何とか追って見てみると、どうやらこのLIVEが同時接続人数の日本記録を更新したらしい。その数実に35万人。ちなみに元々の一位は三年前に初配信した時の29万人だ。結局あの記録はこうして三年間、自分たちで更新するまで誰にも抜かれることはなかった。確かにこんな数値向こうでも数年に一回とかのレベルでしか見たことない。しかもこの時代に。俺が知ってる限りじゃ2023年時で芸能人の130万とが最多だったはず。いずれそれも抜きたいな。トップ5も50万超えてたと思うし。でも35万でも歴代トップ10には入れた気がする。
ただ気になるのは、あの時と比べてチャンネル登録者は三倍になったのに、同接の伸びが少ないということだ。これに関しては単純に時代のせいなのもあるし、俺のチャンネルに登録してくれてる海外勢が時差の関係で今現在仕事中なのもある。さすがの俺も時差はどうにもできないし、まずは堅実に国内の視聴者の数字を伸ばしていきたい。
「35万てすごいね。今画面の向こうで35万人が私たちのことを見てるんでしょ」
「ね。でももっといきたいなぁ。前人未到の同接100万人達成したい」
「100万!──いこう!私たちならいけるよ!」
「いける!絶対いってやる!」
『いけるいける!』『日本記録更新してまだ上を目指す貪欲さ…最高』『現状に満足しなてないトゥエル』『トゥエル△』『100万は見たいなあ』『壁は高い』『割とあと2~3年したら普通にいきそうなんだよな』『メディア露出する前から35万だからレベルが違う』『拡散しよう』『テレビ出始めたらもっと人増えるよ』『登録者1000万行くだろうな』『日本人初の1000万目指そう』『伝説をつくってけ』『そのうち全盛期のトゥエル伝説が作られそう』『さすが世界一のアイドル目指してるだけあって言うことが違うわ』『かっこいい』『トゥエル「日本人?」』『トゥエルは日本人だろいい加減にしろ!』『アイと結婚して名字と国籍取得したら日本人になれるから…』『俺と結婚しよう』『結婚してください』『トゥエル結婚してくれ』『早くお前ら結婚しやがれください』『アイー!すきだー!』『日本勢』『心は日本人だろ』『俺と結婚すれば日本国籍取れるよ』『お前らじゃ無理だろ』『トゥエルは俺と結婚するんだよ』『アイしか勝たん』『本人アイしか見えてないぞ』『お前たちごときが姫と結婚など烏滸がましいにも程がある』『トゥエル遺伝子検査とかしないの?』『トゥエルってどこの出身なんだろう』『結局3年経っても正体不明だよねトゥエルって』『16歳になったらアイと結婚しよう』『ミステリアスなところがいい』
遺伝子検査なんてしても果たして出てくるのか。一応母体はいたけど、それはトゥエルがこの世界に来るにあたって不都合が生じないように適当な母体の中に入っただけだし。
というかそんなことよりも──
「言われなくてもアイと結婚する」
「式交代で二回やろうね」
「うむ」
俺とアイが結婚するのは確定事項として……うーん、さっきから話がなかなか進まないな。アンケート機能使ってみようと思ったんだが。
「てか、アンケートしたいんだけどいいか?」
俺がそう言うと、騒がしかったコメントもチラホラ流れを変えて肯定してもらえた。
アンケート機能は使ったことなかったが、皆真面目に解答してくれるのか?
「へぇ~四択まで出来るんだね」
「なるほど…なら具体的に書いても大丈夫か」
今この配信にいる35万人全員に答えて貰いたいが……、これくらいなら能力を使っても問題ないだろう。俺は思想思念を発動して、見ている視聴者全員に対して『物理的に可能な場合は必ずアンケートに〝本心で〟答える』ように誘導した。
お題
【来月の三連休に東京ドームで行うMirastreaのライブ】
選択肢
①:行く ②:可能であれば行く
③:行きたいけど行けない ④:行かない、そもそも興味がない
こんなもんか。俺は作成したアンケートを配信画面に表示した。
「できたぞ。さぁ、真面目に答えてくれ」
「おお~!すごい!初めてなのにちゃんと使いこなしてる!さっすエルぅ♡」
「さすエルなんだよぁ…よし、とりあえず5分待つから」
『さすエル』『さすエル』『さすえる』『すげぇ』『はーい』『初見で迷わず使えててシンプルにすごいと思った』『よく一発でできたな』『やっぱりスペック高いよなトゥエル』『すげえええええ』『やるやん』『初見で出来たのはけっこうすごい』『お前らアンケートしろよ』『もうしたわ』『表示されて3秒後には押しましたが?』
待ってる間は暇なので椅子ごとアイの方に向くと、アイも同じように椅子ごと体をこちらに向けてくれた。
距離が近いのでそのまま抱き合ったり、服の上からさわったり、キスしたりして遊ぶ。当たり前のようにキスしてるけどもう見慣れた光景だろう。この三年間のまったく隠してないからな。キスするとコメント欄も盛り上がるし。やっぱり堂々と人前でイチャつけるのって最高だわ。TPO?知らない子ですね…。
先にここで俺たちの関係性を明かしておいて正解だった。やっぱり顔面国宝同士の百合は至高ってはっきりわかるんだね。キスして唇を離すと、俺の首に両腕を回した状態のまま、アイが提案を出してきた。
「ね、確かTwitterの方でもアンケートできるよね。そっちも使ってみようよ」
「あっ!それ天才!」
「えっへへ。エル忘れてたでしょ」
「忘れてた!使ったこともないし」
ぶっちゃけ前世から合わせて一度も使ったことがない。一般ユーザーはまず使わないだろあれ。
「使う機会ないよねー」
「ないー。でもそっちでも同じ内容でアンケート取ったらより具体的に得られそう」
「そもそも登録者600万人だし、みんなエル目当てだろうから5万人なんて下手したら一日で埋まりそうだけどね」
「いやいや、アイ目当ても相当いるよ?私って見た目は完全に洋ロリだから、外国人に興味ない人は皆アイに行くよ。あとは私たちが百合ってるのが見たい!って層も」
実際動画のコメントでも俺よりアイの方が好きだという層は一定数いる。日本人人気は俺の方が高いと思われるが、コメントを見た感じ外国人からは半々かアイの方が上まであると思っている。
「ようろり…?いや、エルは外国人が好みとか好みじゃないとかのレベルじゃないよ。美の化身って感じだから、好みとかそういうのは最初から超越してる。世界共通認識で美しい存在みたいな?芸術作品とか、綺麗な景色に対する美的感覚は世界共通でしょ?それと同じだよ」
そうなのか…。俺は基本的にエゴサをしないから、皆がどういう発言をしているのか、どういう反応があるのかは動画や配信のコメントでしか情報を得ていない。
一方アイは結構エゴサをしているみたいで、俺たちのアンチとレスバを繰り広げたことも一度や二度ではないらしい。それを初めて聞いたときはかなり驚いた。その時は特定される可能性もあるから基本無視でいいよ、と言っておいたのだが…。あんまり酷いアンチは思想思念で思考弄って俺たちのガチ恋……は迷惑だからしないけどガチファンにすることもできるしさ。ネット上とはいえあまり危ないことをしてほしくないのが俺の本音だ。まぁ気持ちは嬉しいけどね。
──ていうかアイの中では俺は美の化身なのか。素直に嬉しいけど、アイだってこの三年間で成長して、もっともっと可愛くなってるんだよ?ああ、これは俺がちゃんと言葉にして伝える必要があるな。アイにも、これを見てる視聴者にも分かりやすく。
「私からしたらアイもその領域にいるんだけどね…、世界で二番目に美しい顔立ちだと思ってる。それに完成されてる私と違ってアイはまだ成長するからさ、これからもっと綺麗で美しくなるんだろうなって、毎日考えててわくわくしてる。でも嬉しいよ。アイに言われるとものすごく嬉しい」
「こっちこそありがとうね、エル。エルに言われると私も自信になるよ。普通ならそれって嫌味になるし、エル以外に言われたらお腹の中煮えくり返るくらいムカつくけど、私は自分が一番になるというよりは、エルを一番にして誰よりも近くで永遠に眺めていたいって思ってるタイプだし」
こういう発言を聞くに、アイは意外と尽くすタイプなのかもしれない。俺もどちらかと言えば尽くす方だし、お互いに重くて深い愛情で尽くし尽くされの関係性は、俺とアイのどちらの幸福度も上げることだろう。そうじゃなきゃどっちかがヘラったときに、あんなに嬉しそうにケアしないよなって。
「実際アイは海外人気すごいから。人は無い物ねだりするのは世界共通らしくて。日本人が白人に憧れるように、彼らも美しさと繊細さを兼ね備えた日本人──その中でも取り分け美少女なアイに憧れる外国人は多いよ。ただ児童ポルノ…、有り体に言えば年齢が低すぎるからアウトなだけで。それは私も同じことが言われてるしね」
ネットの反応を見る限り、俺とアイのガチ恋は割といるらしいが……、特に国内で。けどさすがに幼すぎる。せめてあと三年は待てよって思う。それでも十分危ないが。
「アハハ、そうなんだ!それはちょっと嬉しいかも。私もエルのおかげで英語出来るようになったから向こうの人が言ってることも分かるんだけどさ、海外だとエルって芸術作品らしいよ。日本でも散々言われてるけど、外国でも同じこと言われてて少し驚いちゃった!だから私さっき、エルの美しさは芸術作品と同じく世界共通認識だよって言ったの」
なるほど。海外勢はそういったコメントをしているのね。確かに俺とアイの美しさ、可愛さは最早人間の尺度では測れない域に達してるもんね。今度試しにエゴサかけてみようかな?
「そうだったんだ。あんまりエゴサとかしないから自分の評価いまいち理解してないというか」
「大丈夫。エルは世界共通で美しいから」
「アイもね。世界共通で可愛い」
「えへへ」
「ふふ」
アイと見つめ合って、どちらからともなく身体を寄せて顔を近づける。再び唇が重なろうとしていた、その刹那──
ピコン、とLINEの通知を知らせる音が鳴った。
ハッとして携帯を見る。
斉藤壱護『とっくに5分過ぎてる』
あら、残念。まるで漫画やドラマのように、両想いの初々しい学生カップルが初めてのキスをしようとしたときに邪魔が入ってしまいお預けになったときのような、絶妙なタイミングで止められてしまった。
チッ…と舌打ちが聴こえた。え?アイ…?
見るとアイは何事もなかったようにきょとんとしている。…だが、俺にはわかる。アイはいつも通り可愛らしいけど、俺にしか判らないほど僅かにだがふてくされていた。さっきの舌打ちもやっぱりアイだった。まぁもう少しでキスできたもんな。いつもしてるとはいえ邪魔されたらモヤモヤする。
けど仕方ない。今は仕事中なので切り替えるか。俺はまた画面に向き直した。
『あ、気付いた』『お』『おかえり』『おかえり』『続けて』『続きキボンヌ』『自分で洋ロリ言うな』『洋ロリ草』『俺らのことは気にせず続けてくれ』『国宝級美少女の百合はイイゾ~』『百合最高!』『百合最高百合最高百合最高百合最高百合最高』『トゥエルは芸術作品』『美しいものは世界共通』『自分のことを洋ロリと称するトゥエル』『トゥエルが洋ロリって言った瞬間アイ困惑してて草』『やっぱ純真無垢はアイの方なんだよなぁ』『アイしか勝たん』『アイもすっかり英語できるようになったな』『やっぱり海外人気も高いのか』『同時翻訳イヤホンの登場が待たれる』『海外ニキも観てるのかな』『やっぱりトゥエルは別格なんだな』『海外でも芸術品扱いされてるあたりまじで別格だなトゥエル』『顔面国宝』『神がその生涯をかけて造った精巧な彫像って感じ』『圧倒的顔面力の前には誰もがひれ伏すしかない』『誰もが信じ崇めてる』『まさに最強で無敵の洋ロリ』『洋ロリ草』『成長したらどうなってしまうんだ…』『トゥエル級の美少女は金輪際現れないことが確定してる』『銀河を宿してる』『ただでさえ顔面国宝なのに世界で唯一の虹色の瞳持ちとかほんとチート』
「お前らもいい加減この顔に慣れろ。嬉しいけど話がなかなか進まないんだよ…」
「私はいつ見てもエルが褒められてるのは嬉しいけどね~。まぁエルだし当然だよね」
「…よしよし」
「…ん♪」
返す言葉が見つからなくて、誤魔化すようにアイの頭を撫でる。照れ隠しみたいになったけど、目を細めて気持ち良さそうに、猫が飼い主に甘えるかのごとく擦り寄ってきた。猫っぽい仕草をしてるので何となく喉の下を優しく撫でてみる。
「…ごろごろ♡」
「…かわいい」
アイもノってきたのか、本当に猫のようにごろごろとセルフで喉を鳴らしながら、俺に頭を擦り付けてくる。
「イイコ、イイコ♡」
「ごろごろ…にゃーん♡」
「かわいい子猫ちゃんだねぇ♡──ハッ!?」
「ッ!?私はなにを…」
また俺たちはトリップしていたのか!まじで話が進まねぇ…。これもアイが可愛すぎるのがいけないんだ…!この俺を骨抜きにするとは…、アイ…なんて恐ろしい子…!
「エルが魔性過ぎるっピ」
「アイの魔性っぷりには敵わないっピ」
いくら百合が求められてるとはいえ、さすがに進捗が遅すぎてもイライラの元になる。百合パートと真面目パートの絶妙な塩梅が大事なのだ。
「アンケート開示するぞ!」
「おー!」
半分くらいでも十分だが、果たして──
「えいっ」
①:行く 65.7% ②:可能であれば行く 21.3%
③:行きたいけど行けない 12.9% ④:行かない、そもそも興味がない 0.1%
回答率:97.5%
……なるほど!行くが65.7で可能であれば行くが21.3だから合わせて87%か……え?
「えっ」
「えっ」
これさ、視聴者は俺が能力使ったせいで本心から答えてるんだよな…。それによると87%が参加の意思を示してるってことよな?
えーと、具体的な人数を出すと…今の視聴者数は38万人だが、俺が能力をかけた時は35万人だったから、後から来たであろう3万人を除いても──30万4500人!?ハァアァッ!?いやいやいやいや、キャパオーバーってレペルじゃねーぞ!インドの満員電車よりごった返してるじゃねーか!アリーナ席を目一杯広げたとしても7万とかだろ?全然足りねぇ…。しかもこれにTwitter民も加わるんだろ?
「──余裕じゃん」
「は~……」
ボソッと呟く。アイも茫然としている。
『すっご』『すげえ』『まじか』『やばすぎ』『行くやつ22万もいるのか』『①と②合わせて30万超えてるの草』『皆行くんだな』『行きたいやつ多すぎだろ』『逆に行かないやつがおよそ3000人しかいない事実』『行かないが0.1%なのもやばい』『人気過ぎる』『これはチケット倍率すごそう』『しかもこの後にTwitterでのアンケートが控えているという事実』『良かったな2人とも』『三連休全部使ってもまだ足りないということに驚いてる』『本当にお前らはMirastreaが好きねぇ』『さすがトゥエル姫ですね』
「エルっ!すごいねっ!なるべく多くの人に来て欲しいから三日間やりたいね」
「うん。もし本当に決まったらなるべく三日間押さえられるように掛け合ってみる」
確か来月の三連休は何もイベントがなかったはずだ。ちゃんとホームページで見て確認済だ。元々ドームを使うような大規模なものだが、さすがにそんな頻繁に大型のイベントが開かれているわけもなく、普通に何の予定も入っていないようだ。だから俺は今回こうして配信を通して外堀を埋めたのだ。会場代とか機材代とかは気にしていない。そんなものは最悪俺たちのポケットマネーから出せばいい。既にお金は有り余っているのだから。
『ありがとう』『神』『まじ神』『ありがとうトゥエル様アイ様』『助かる~』『いいね』『さいっこう!』『ナイス』『ありがとう』『絶対行くわ』『運営会社見てないかなぁ。見てたら協力してほしい』
「というわけで、もう時間もいい感じだから終わるよ」
「あ、配信終わったらTwitterでも同じアンケート取るからみんな答えてね」
「うんうん。よろしく頼むな」
『おk』『おけ』『おk』『り』『おk』『はーい』『おk』『把握』『はぁい』『了解!』『り』『り』『ドーム決まるといいね』『ドーム楽しみ』『できればチケット発売は夜でお願い昼間は仕事なんや』『詳細決まったら告知して』『えーもう終わり!?』『もう一時間経ったのか』『楽しい時間はあっという間』『たのしかったー』『ありがとう2人とも』
「じゃあ会場は暫定で東京ドーム、日時は○月の○日~○日の三日間、あくまで暫定だがな。万が一会場取れなかったらまた追って連絡する」
「それじゃあまたね~。おやすみ~」
「じゃあな。後でTwitterのアンケート出しとくからそっちもよろしくな。おやすみ」
乙、おやすみ等のコメントが流れる様子を見ながら、俺たちは配信を終了した。
この三年間で慣れたとは言え、やっぱり配信より動画投稿の方が楽でいいな。なんてことを思いながら、俺は背もたれにもたれ掛かってぼんやりと天井を眺めていた。
この時の俺たちはまだ知らなかった。今日の発言が元で既に東京ドームの運営会社に多数の仕事の依頼の確認や連絡が届いていること、俺たちのスポンサーの座を狙っている複数の有名企業が一ヶ月後のライブの支援を申し出るために俺たち宛にメッセージを送ろうとしていること、ライブ関係の話がTwitterで出回り拡散していること、この配信やTwitterを見た気の早いファンが周辺のホテルの予約を軒並み埋め尽くそうとしていること…そして、この配信の後に社長から鬼電が掛かってくることなど、知る由もなかったのだ。
『俺たちの発言で万単位の人間に影響を与える』という言葉の意味を、正しく理解できていなかったことに。
事態は既に後に引けないところまで来ていたのだ。
【天使】
ごめん社長、夢叶いそう。軽い気持ちで意見聞いたらまさかの結果に驚いたけど、すぐに順応してその体で話を進める狂メンタル。社長の警告やコメントでもいくつか指摘があったけど、その意味を正しく理解してなかったことに、今はまだ気付いていない。
話が脱線したり停滞するのはだいたいこの人からだけど、前世の経験もあるから話の引き出しは多い方だし、アイと絡むとそのまま百合へ発展するからそれを目当てにしている視聴者もいる。子供だけど大人と話しているような感覚に陥るし、百合シーンも百合に興味のない視聴者ですら目の保養になるし需要は高い。
この後社長からお叱りの電話を受けるしDMに大手企業から支援の申し出が来てるしでようやくやらかしたことに気付く模様。ポンコツ天使。
ちなみに後日、日本の配信者として歴代一位の同時接続人数を記録したとネットニュースやトレンドに上がる。
【一番星】
この子もまぁまぁ抜けてる。でもどこぞの天使と違ってまだ10歳だから仕方ない。
アンケートの結果を見て驚いて、これこのまま緩く続けて大丈夫なのかなって危機感を募らせた。でもエルに対して絶対的な信頼を寄せてるし、いざとなれば自分とエルの顔を利用すればどうとでもなるよね、だって私たち可愛いもん。
配信中は比較的大人しいけど、実は描写がないだけでエルにちょっかいをかけてたりする。手を握ったり太ももさすったり脚絡めたりと、画面に写らないところでエルにアプローチしてる。その目的はエルをその気にさせて寝る前に襲う、または襲わせるため。さすがに配信中は過激なスキンシップは出来ないから、その分エルを我慢させて終わった後に開放してもらうとお互いにめちゃくちゃスッキリするもんね。
実はトリップしてない。でもエルにちょっかいかけられるのは普通に嬉しいから何も言わずに受け入れる。だってみんなもこれが見たいよね?腹黒一番星。