メンヘラ天使とヤンデレ一番星   作:リララ

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明日で書き溜め終わりです。

年内に小学生編終わらせたいなぁ。
あ、今さらですけど私は重度の中二病です。


星は日が生まれると書くから、辛い時に星空を見上げれば明日が生まれるんだ

 もし街中で有名人に出会ったら貴方はどうする?

 声をかける?写真を撮る?握手してもらう?それともそっとしておく?

 ミーハーな人なら声をかけて一緒に写真を撮ってそれを自分のSNSにあげるかもしれないね。

 だけど、実は意外にも何もしない──正確には気になるから視るけど相手もプライベートだった場合はそっとしておく、ドラマの撮影など仕事中だったら合間を縫って声をかけることはあるが、そうでないなら何もしない、中には〝推し〟は画面の中の存在であり遠い存在だから、目の前に現れるのは解釈違いという意見もあるらしい。とあるアンケートでは実に全体の8割が何もしないと回答したとのデータもある。

 しかし裏を返せば2割は声をかけるということ。ざっくり言うとすれ違う人の五人に一人と言えばけっこうな割合で声をかけられることになる。

 単純に一言二言会話して終わればそれでいい。写真を撮るのも握手をするのも俺は特に抵抗はない。正直アイドルにとってこの二つはそれをメインにしたイベントがあるから、できれば金を積んでそっちに参加してほしいというのはあるが、メジャーデビューしてない今はそんなことを言う権利はないと思ってる。

 これは難しい問題で、たとえば今俺が言ったようにメジャーデビューした途端、街中で握手や写真を求められた時に断って握手会やら撮影会やらを勧めると、サービス精神がないとか守銭奴とかデビュー前は神対応だったのにデビュー後は塩対応になったとか色々言われる可能性もある。デビュー前と後でファンへの対応を変えてしまうと、ファン同士の交流の場でそういった話題が出て物議を醸す可能性もあるのだ。だから余程の事情がない限りはファンへの対応は一貫して行った方が良いと俺は考えている。

 そもそも俺自身、ちやほやされるのは嫌いじゃないし。俺もアイもお互いには本心で語るけど、ファンへは完璧なアイドルになろう(嘘吐きであろう)と決めていることだから、そこに抵抗感はない。手が汗でベトベトだったり変なものを送り付けて来ない限りは、ね。

 

 どうして今になってこんな話題を出したのか。

 

 それは俺たちがここ最近で話しかけられることが急増したからだ。

 

 俺たちは小学生だ。お揃いの色のランドセルを背負って通学している。だから周りから見た際に登校と帰宅──つまりプライベートの時間がはっきりしているのだ。

 ここで先程のアンケートの話に戻ると、プライベートの時は8割の人がそっとしておくと回答している。だと言うのに俺たちの場合は何故か帰宅時に話しかけられるのだ。プライベートなのに。

 一体何故?と思ったが、察するに彼らからするとランドセルをしょっている時点で学校という『職場』に通っているという認識なのかもしれない。〝家に帰るまでが遠足〟という考え方があるように、〝帰宅するまでが仕事〟という考え方もあるのだろう。彼らにとって、ランドセルは小学生の『仕事鞄』なのかもね。だからランドセルを背負っている=仕事中=話しかけれるという循環になっているのかもしれない。

 もちろんこれは俺の持論だし、我ながらなかなかに意味不明だと自覚している。でもこの三年間を振り替えると、逆に二人で遊びに行く時はほとんど話しかけられないことから、そうなんじゃないかなって思うんだよね。

 

 話しかけれても握手や写真は構わない。アイと二人で話して、ファンサービスは頑張ろうと決めているから。昔、鏡の前で笑顔の練習をしたけど、元はと言えばあれもその一環であったから。

 ちなみに笑顔の練習は今も続けている。成果は聞くな。

 

 このように基本的にNGはない俺たちだが、しかし、一つだけ求められても現状完璧に答えられないものがある。

 

「サインください!!」

 

 一人の子がそう言ったのを皮切りに、私もー!とあがる声。

 

 今、俺とアイは学校の帰宅途中に三人組の女子高生に声をかけられていた。

 元々視線は感じていたし、話しかけたそうな雰囲気を醸し出していることも判っていたからさして驚きはなかった。女子高生なんてミーハーだしな。

 

 『Mirastrea(ミラストレア)』のトゥエルさんとアイさんですよね?と、疑問系ではあるが確信めいたその問いかけに、そりゃこの容姿は見間違えようがないよなぁと納得していた。

 世の中に似ている人は自分を含めて三人いると言われているけど、俺やアイは一点ものの顔面国宝だからな。

 

 そうだよ、と当たり障りなく答えると、きゃーきゃー言いながらファンです!応援してます!から始まって、握手いいですか?一緒に写真撮ってもいいですか?となって、写真を撮った後は、は?加工なしでこれ?ちょっとレベル違いすぎん?と驚いていた。まぁ俺たちは加工なしでも98点だからな。そのうちの一人が、これSNSに載せていいですか?とわざわざ俺に許可を取るあたりちゃんと節度を保った良識ある子たちだなと思った。

 そう、ここまではよかったのだ。

 

「サインかぁ…」

 

 それを聞いて俺が一瞬渋ったのを見た彼女たちは、え?サインNG?写真おっけーなのに?と疑問に思ったらしい。三人揃って不思議そうな顔をしていた。そうだよな。普通に考えたら写真の方が重いよな。

 アイと顔を見合わせる。現状サインは俺たちにおける課題の一つであったから。

 

「サイン自体はいいんだよ。でも、私たちはまだサインの練習をしていなくてね。芸能人みたいなかっこいいサインなんて書けないんだよ」

「片仮名で『トゥエル』『アイ』って書くだけだけど、それでいいなら書くよ?」

 

 アイの言葉に目の前の三人は、まじ?逆にそっちのが良くね?レアじゃん!時間が経てば経つほど価値高くなるやつじゃね!と、口調はともかく言ってることは先日の企業訪問の際のお偉いさんと同じだった。

 まぁ確かにそういう考え方もあるのだろうが、俺とアイが納得していないのだ。俺としてはこう、サインを求められたら二つ返事で了承して、紙と書くものを貰ったらスタイリッシュにシュルシュルッと流れるようにペンを滑らせて、かっこいいサインを書きたいのだ。最早名前の原型がなくなるくらい文字を崩してそれを一筆書ですらすら書きたいのだ。だってその方がかっこいい。『トゥエル』なんてそのまま書くのはダサいとは言わないけど気乗りしない。

 もちろんそういうサインを否定するつもりは全くない。むしろそういうお堅いサインが似合う人だってたくさんいるのは解っている。ただ俺の見た目とキャラ的に合ってないってだけ。

 

「あたしたち、全然それでいいっスよ!」

「うんうん!逆にその方が嬉しいし」

「初期の『Mirastrea』のサインなんて他のファンにマウントとれるし!」

 

 確かに彼女たちの言うことは俺も理解できる。俺が彼女たちの立場にいたら、好きな有名人の練習する前の初期のサインなんて冗談抜きに家宝になるレベルだと思うし。

 ……ならまぁ、いいか。

 俺たちはファンを悲しませることはしない。〝Mirastrea(俺たち)〟は応援してくれるファンを最高の笑顔にさせるグループだから。

 もう一度アイと顔を見合わせて、お互いに頷いた。

 

「いいよ。どこに書けばいい?」

「そう言ってもらえてすごく嬉しい!ありがとね!」

 

 アイがキラキラエフェクトが出るような笑顔を振り撒いた。さすがだなぁ。無表情で淡々と答えた俺とは大違いだ。

 

「まじすか?じゃあここに!」

「色紙あります!」

「私はできれば、シャツにも書いてほしいです!」

「あ、ずるいあたしも!」

「私も!」

「ん、ちゃんと色紙とシャツの両方に書くから焦らないで」

 

 俺が宥めるように言うと、おお~!すげぇ神対応だ…!まじ推せるわ、なんて言って瞳をキラキラ輝かせている。

 渡された三枚の色紙に俺とアイの名前を書いていく。色紙が三枚しかないということは、一枚に二人の名前を書くことになるからスペース配分も気をつけないとな。

 そこで俺は色紙の真っ白な四角い面を半分に分割して、右側に『トゥエル』と書いたものをアイに渡した。俺から色紙を受け取ったアイはえへへっと可愛らしく笑った。

 

「実はちょっとイメージしてるのがあるんだ~!」

「まじか」

 

 そのまま空いた左側にサインを書いていくアイは楽しそうだ。

 

「ほら!」

 

 完成したサインを、渡してきた子より先に俺に見せてくれる。覗いてみると、『アイ』の『ア』の上半分が大きく丸みを帯びていて、一画目と二画目の繋ぎ目をクルっと一回転させて繋げて一筆書で書いていた。

 

「お~!いいね!」

 

 シンプルだけど俺よりそれっぽい。

 

「わぁ~!すごい可愛い!」

「ほんとだ!」

「アイちゃんぽい!」

 

 色紙を返された子も他の二人もご満悦みたい。

 どうする?俺も挑戦するか…?

 

「私もやる!」

「おっ!」

「おおっ!?」

「おー!?」

「エルがんばれ~!」

 

 この子たちには申し訳ないが練習として使わせてもらおう。

 次の色紙も同様に分割して、右側に『トゥエル』と書いていく。しかし、最初と違うのは今回は『ゥ』の二画目と三画目を崩して『(ハート)』にした。全体的なイメージとしてはさくらんぼで、一画目を(ヘタ)に、『♡』を実に見立てて、頂上の凹んでる箇所にくっ付ける感じ。

 そういえばさくらんぼの茎を口の中で結べる人はキスが上手いとかなんとか。今度俺とアイで試してみるか。

 

「ふふん!できた!」

「どれどれ──かわいいっ♡さすエルぅ!」

「でっしょお!」

「見せて見せて──おお~っ!」

「かわいいい!」

「え?やばっ、かわいい」

 

 現役女子小学生と現役女子高生のお墨付きをもらった。これは大きな自信になる。

 

「ありがとうございます!」

 

 色紙を貰った子はとても嬉しそうだ。最初に渡した子が、いいなぁと羨ましそうにしていた。

 

「最初の子ごめんね。まだサイン自体決めてなくてさ。練習みたいになっちゃった」

「いえいえ!言い替えればあたしが初めてサイン書いた相手ってことですよね?その事実がすごい嬉しいんで!」

 

 厳密には違うけど、まぁこの子の夢を壊さないためにも頷いておくか。

 

「うん、そういうことになるね」

「よっしゃ!」

 

 こういう小さな嘘の積み重ねがアイドルにとって武器となる。大事なのは嘘を嘘と思わせないこと。本当の事だと信じさせること。その為の表情や仕草、それの元となる感情の起伏の変化も一切悟らせてはいけない。だからこそ、感情を固定できる『思想思念』は最強の武器となるのだ。使うかどうかは別として。

 

「私も書くね」

「うん」

 

 アイに色紙を渡す。なんとなく書いているところを覗き見る。

 

「──あれ?」

「へへ…真似してみた♡」

 

 なんとアイも俺に倣って、『ア』の部分の一画目と二画目の繋ぎの一筆書の部分を『(ハート)』にしていた。…なにこの可愛い生き物。

 

「可愛い…♡」

「えへへ…エルとお揃い♡」

「うん♡かわいい…アイしゅきぴ♡」

「私もエルしゅきぴ♡」

 

 う"っと何かを押し潰したような声でふと我に返った。そういえば人前だった。また俺たちはトリップしていたようだ。だってアイの言動がいちいち可愛くて可愛くて…。

 見ると女子高生三人組が揃って胸を押さえて呻いていた。

 

「ぐっ…生で見ると威力つよ…」

「尊い…」

「百合最高…」

 

 その様子を見て俺は純粋にすごいと思った。俺たちの百合は女の子にも通用するらしい。まぁあのミヤコさんにも特効あったしな。それに俺たちは世界一位と二位の美少女だし。色々なSNSやネット記事なんかの評価を鵜呑みにするなら、俺たちって男性アイドル並みに女子人気は高い方らしいから。やっぱり国宝級美少女同士の百合は世界を救うんだと確信した瞬間であった。

 

「はい、出来たよ」

「控えめに言って最高っス…」

「あはは、大袈裟だよ。でも嬉しいな。ありがとね」

 

 やっぱり立ち回り上手だなぁアイは。さすがMirastreaの笑顔担当。

 

「じゃあ私もお願いします…、あと、シャツにも…」

「はーい」

 

 三人目の子。まずは色紙から。俺とアイの二人分のサイン。どちらも名前の一部をハートマークにしていることで可愛さを演出できていると思う。ハートマークは王道だけど、いかにもアイドルらしい可愛い系のサインだ。

 完成したサインを渡すと、ありがとうございます!家宝にします!と言ってくれた。うん、ここまで喜ばれると俺も嬉しいな。

 

「シャツにもお願いできますか?」

「うん、いいよ。油性ペンで書いていいのかな?」

「はい、大丈夫ですっ」

「えっと、確認なんだけど、制服のシャツ?それとも中に着てる方?」

「中に着てる方でお願いします!」

 

 そう言って彼女は制服のシャツのボタンを外してインナーを露出させた。白いシンプルな半袖シャツだ。道端で女子高生が制服のボタンを開けて中身を見せてるこの光景、この場にいるのが全員女の子だから問題ないけど、普通に事案だよな。

 

「アイ、悪いんだけどランドセル開けて筆箱取ってくれる?」

「うん」

 

 アイに背を向けてランドセルから筆箱を取り出してもらう。この子たちの持ってきたペンは持ち手が細いから、洋服みたいな伸縮性のある生地には向いていないだろう。下手くそに書いても悪いし、どうせなら普段から使い慣れてるもので書きたい。何故ならこれは俺たちにとっても良い経験だから。

 

「はい」

「ありがと」

 

 アイに渡された筆箱から油性ペンを取ると、インナーを出してる子へ向き直った。

 

「どの辺に書く?」

「このあたりで!」

 

 彼女が指したのは半分より上の、ちょうど胸の辺りだ。まじかよ。いや、別にアイとそういう関係になってるから何にも感じないけどさ。

 

「ん。初めてだから上手く書けるか分からないけど頑張る」

 

 この子たちの期待に添えるべくなるべく丁寧に書く。位置的にもロゴっぽくなる。ほんとはお洒落な細いフォントでそれっぽくしたかったけど、今のスキルでは無理だ。ちょっと悔しい。

 なんとか書き終えると、アイに油性ペンを渡した。

 

「ごめん、ちょっと下手っぴになっちゃった」

 

 アイも苦戦したみたい。色紙と違ってペンの滑りも悪いし、書きやすいように伸ばしてくれてるとはいえ、完全な平らじゃないから難しいよな。

 

「大丈夫です!…すごく嬉しいです。ありがとうございます…!」

「そういうデザインのTシャツみたい!」

「うわぁ可愛いなぁそれ」

 

 他の二人からも高評価だ。よかったぁダサいとか思ってたのと違うとか言われないで。

 

「じゃあ次の子」

「あ、あたしはこれにお願いします!」

 

 そう言って彼女が取り出したのは化粧品ポーチ。アイボリーのシンプルなデザインだ。

 これなら服に書くよりも書きやすいな。ただ色紙よりも小さいからそこだけバランスを崩さないように…っと。アイが書きやすいように端のスペースを空けてから渡す。

 

「はいっ、どうぞ!」

「おおっ…!ありがとうございます!」

「次は?」

「あたしはそうだな~…、これにしよ」

 

 取り出したのはお洒落なレースのハンカチだった。しかも有名ブランドもの…!高そう。

 

「あーハンカチがあったか…!」

「やるなぁ…」

 

 てか今思ったけど、これ何気に女子高生の持ち物のリサーチもできていいね。俺は前世男だったから、女子が鞄に何を入れてるかとか分からなかったし。

 最後の子のハンカチにもサインを書いて渡す。二人分のサインなので、連続して書くと逆に悪目立ちしそうだったから、左右の隅にそれぞれ書いてあげた。ちなみにブランドのロゴが無い方の面だ。

 

「やったー!まじ推せるわ二人とも。ありがと~!」

「やばいよね!めっちゃ神対応じゃん!」

「芸能人でもこんなに神対応な人滅多にいないんじゃない?」

 

 こちらとしても良い経験になった。完璧で究極な〝偶像(アイドル)〟である俺たちの宿命は、ファンに()()()()()()()()()()()だから。

 

「どういたしまして。君たちが喜んでくれると私たちも嬉しいよ」

「っ、やべぇ…トゥエルちゃんイケメン過ぎる…」

「同性でも落ちるのよく解った気がする」

「でしょ~!エルはかっこよくて可愛くて最強の女の子なんだよっ」

「ふふ…照れる…」

 

 だめだ。人前でアイに褒められるとどうしても照れる。アイ以外に言われても何も感じないんだけどなぁ。

 

「照れてるとこは可愛いとか…」

「アイちゃんありがと!」

「やっぱりアイエル寄りなんだねぇ」

 

 さて、そろそろ行こうかな。これ以上立ち止まっていたら他の人にも話しかけられそうだし。

 

「じゃあ私たちはもう行くから。今日はありがとね。これからも〝Mirastrea(私たち)〟の応援よろしく頼むよ」

「始めてファンの人と交流出来て楽しかったよ~!」

「こちらこそありがとうございました!!」

「一生推します!!」

「ライブ絶対観に行きます!!」

「ありがとう。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

 ──まぁ、最初に交流したファンだし、特別にね?

 

 話しかけられるのが増えたと言っても、一言二言喋って握手したり写真撮るだけだったからね。三人いるとは言えこんなに長い時間喋ったのは初めてだった。

 

 深々とお辞儀する三人を背に、俺は初めてファンと交流したことや、予想以上にチヤホヤされたことの嬉しさを押さえきれず、ふふふ…と笑みが零れてしまった。さすがに隣を歩くアイには聞こえてしまったかな。

 そう思ってアイの方を見ると、アイはそんな俺を微笑ましく眺めていて、その表情は慈愛に満ち溢れていた。

 

「エルが幸せそうで私も幸せ」

 

 ◆◇◆◇

 

 帰宅後、俺とアイは施設の自室でサインの練習に勤しんでいた。

 さっき即興で書いたやつでいいじゃんか、と思うかもしれないが、あれは可愛い系のサインだ。俺としてはやっぱりお洒落に文字を崩したかっこいいサインを作りたい。

 

 サインというものは多岐に渡って使用される。色紙やイラストに書くものの他にも、クレジットカードや書類などに署名する所謂ビジネスサインというものもあり、サイン文化の強い海外では印鑑の代わりに筆記体での署名が見られる。海外ドラマとかでFBIとか警察もののワンシーンでお偉いさんが重要な書類に署名するやつとか。ああいうのかっこいいなって思う。是非俺も日常的に使っていきたい。

 だから俺としては普段用のサイン(ビジネスサイン)と、ファンに向けたサインを二種類計三つのサインが欲しい。

 ファン用のサインが二種類なのは、可愛い系とかっこいい系の二つを使い分けたいから。

 

「可愛い系はさっきのでいいよね」

「だね。たくさん書いて練習しよ」

「うん」

 

 先ほど女子高生たちに書いた、ハートマークを用いたサインは既に練習してものにした。

 次に習得するのはかっこいい系サイン。芸能人が書くようなあのめちゃくちゃ崩したやつだ。

 

「向きは全部横でいい?」

「いいよぉ。書きやすそうだし」

「『Mirastrea』って難しそうだなぁ。どうやって作ってこう…」

「うーん。一回さ、長方形の枠組みを作ってその中に色んなパターンの『Mirastrea』を書いてみるとか?枠組みを作れば全体の文字のバランスの基準にもなるんじゃないかな?」

「天才」

 

 さすアイと言わざるを得ない。

 アイの言うように、まずは白紙の紙に長方形を書いて、複写の魔法で大量に用意する。こういう時に便利だよね魔法って。

 

「分かってたけど魔法ってすごいねぇ」

「こういう使い方なら私も抵抗ない」

 

 人に使うのは抵抗あるからさ、とアイに笑いかけると、やっぱりそうだよね、と笑って返してくれた。

 紙の用意が出来たところで、各自ひたすら『Mirastrea』を書き出していく。芸能人のサインといえば一見ぐちゃぐちゃのように見えてちゃんと体を成していることが特徴だ。ここで注目したいのはぐちゃぐちゃのように見えても良いということ。『Mirastrea』の9文字のうち、『M』『s』『a』の三つの軸を作り残りをさらっと流れるように一筆書で書いてみる。うん、一発目にしては良い感じにできた。

 英単語は我々には馴染みがないから、最初と最後と真ん中の文字を軸にするようなやり方が良いんじゃないかと思ったが、俺の読み通り悪くない出来になった。最初と最後と真ん中を大きくすることで、それ以外の部分がぐちゃぐちゃでもなんとなく『Mirastrea』と認識できるだろう。特に『s』はアルファベット自体が大きく丸みを帯びていることからいじくり易い。『s』の両側の『a』と『t』を自然な形で繋げることもできるし、中に入れて『s』を軸とした一つの文字っぽく書くこともできる。真ん中『s』なの強いな。

 

「どんな感じ?」

「とりあえず斜めにしたよ」

「いいね。てかやっぱり『M』は大きくするよね」

「うん、なんか最初の文字って大きい印象がある」

「最初の文字から小さいと地味になっちゃいそうだよね」

「だねー。自信ないの?って思っちゃう」

 

 アイの方を見ると文字全体を傾けていた。書体は俺と似たような感じ。でも斜めに傾けることでパッと見のスタイリッシュさとアグレッシブさが俺のよりも強い印象があった。

 

「斜めいいな」

「枠からはみ出しちゃうけどね」

「それは仕方ない。あくまでも枠組みは全体のバランス調整の役割だから」

「だね。エルのやつ、『s』の使い方上手。最後の『a』も大きくしたんだ?」

「うん。『Mirastrea』って長いから、最初と最後と真ん中の文字を大きく書いてみた。パッと見て、ああ『Mirastrea』って書いてあるんだなって判るかなって思って」

「いいね。…なんかさ、調べたらサインの形って三角形と長方形があるみたい。私たちは長方形でいいよね?『Mirastrea』ってローマ字だし長いし」

「うん、そうしよう。で、若干斜めに傾けると」

「うん。『s』と最後の『a』も大きくして、ちょっとそれで書いてみよ?」

「おっけー」

 

 大まかな軸が決まったところで新たに書き連ねていく。

 繰り返していくうちに文字同士の繋がりも自然なものになっていって、筆記体も上達していくのが判った。

 文字全体を少しずつ崩し、デザイン性と可読性の両方が絶妙な配分になるように何度も何度も書き直す。地味な作業だけどとても楽しい。

 やがて完成したものをアイと見せ合って、二人であーでもないこーでもないと意見を交換し、早一時間──

 

 ついにその時はやってきた。

 

「できたああああ!!!」

「やったーやったーやったーやったー!やったったーのたー!」

 

 ようやく俺とアイ、二人が納得するものが仕上がった。

 

「いやぁ…まさかMirastreaだけで一時間かかるとは」

「ねー…、でもここは妥協しちゃだめだよ!」

「だね。本当お互いに納得できてよかった」

 

「さっきの可愛い系サインと合わせて書いてみよ!」

「書こうか!」

 

 魔法で色紙を作製して複写する。

 

「『Mirastrea』って基本一つあればいいけど、どっちが書く?」

「あー。実際に先に色紙受け取った方が書くってことでよくない?」

「そうだね、せっかく二人で習得したしね」

 

 その時の状況によってどっちが色紙を受け取るかなんて分からないから、二人とも書けるようにしておかないとダメだよな。私Mirastrea書けないから書いて、なんてダサすぎるし。

 

「とりあえず私から書くね」

「うん」

上に(ここに)書けばいいよね?」

「うん」

 

 アイが言い出したこともあって、アイから先にグループ名と名前を書いていく。渡された色紙を見ると、ちゃんと左側に書いてくれていた。そこは別にどっちでもよかったんだけどね。ともかく俺もさっきの可愛い系のサインを書く。

 

「おっ…良い感じじゃん!」

「うわぁそれっぽい!」

 

 筆記体の『Mirastrea』のクールさと、『♡』入りの丸みを帯びた名前の可愛らしさが絶妙にマッチしていて完成度が高い。

 隣でカシャっと音がした。アイが携帯のカメラで完成したサインを撮っていた。

 

「Twitterに載せとこっと!」

「いいね」

 

 俺はあんまりSNSは更新しないから、こういうのはアイがよくやってくれる。俺の方は基本的にアイと俺の自撮りがメインだ。

 同じようにして俺もグループ名と名前を書いてアイにパスした。俺も記念に写真を撮っておこ。

 

「『Mirastrea』はこれだけでいいよね?」

「可愛い系は合わないだろうし、イイと思う」

「ん。じゃあ次は名前!名前をかっこよく書こう」

「これも筆記体だよね?」

「うん、というかビジネスサインと併用できそうだね」

「だね。将来的に海外での活動が増えたらこっちがメインになるかもねぇ」

「かもねぇ」

 

 まぁ海外勢には逆に最初の可愛い系の片仮名サインの方が良いかもしれないけど。てかそっちがいいなぁ。本場の人に筆記体とか見せるの自信ないんだよな…。これが彼らから見て上手なのか下手なのか判らないしさ。片仮名…というか日本語ならそういうものだって誤魔化せるし。

 

「てかさ!やばいこと気付いちゃった!私めっちゃ簡単なんだけど!!」

「っ!?確かに!!『A』と『i』だもんね」

「うん、だからこそ逆に難しいまである!」

「二文字だから大胆に崩しちゃってもイイと思うよ」

「おっけー。エルはどう?エルの世界の言葉で二つの言葉を合わせて〝真なる神〟だっけ」

「あ、う、うん…」

「エル?…もしかして自分でそう名乗って恥ずかしくなっちゃってる感じ?」

「…うん」

 

 やばい、なんだろう?すっごく恥ずかしいんだが。なんだよ真なる神って…。トゥエルっていうか◼️◼️◼️◼️はよくそれを名乗ったな。現在進行形で俺に黒歴史ダメージ入り続けてるんだが…。

 

「でも私は好きだけどなぁ、トゥエルって。発音しやすいし、音の響きが綺麗だし」

「ありがとう…。いや、別に自分の名前を後悔してるとかじゃないんだ!なんていうか、ふと冷静になったときに〝真なる神〟って自分で言ってるのがやばいなぁって」

「あはは…ま、まぁそれはね…?」

「…はっず」

「実際エルはそれだけすごい存在なんだから!名は体を表すを地で行ってるじゃん!」

「うむ…」

「それにほら、地球(こっち)の人たちには分からないんだしさ!分解したら『True(トゥルー)』『El(エル)』になるなんて」

「…私、Twitterの名前『truEL』にしてる」

「…………」

「…………」

 

 初めてアイとの間の無言が気まずいと感じた瞬間だった。

 

「……中二病」

「グハァッ!!」

 

 こ、これが、ダメージを負うという感覚…!某骸骨系ギルマスも同じ気持ちだったに違いない。

 作中で一度もダメージらしいダメージを受けた描写のないトゥエルちゃんに精神ダメージを与えるなんて…。アイ、恐ろしい子…!

 

「ま、まぁとにかく今はサインのこと考えよ!」

「うむ…。まぁ実際ビジネス用も兼ねてるから『T』が大文字で他は小文字にするよ」

 

 ちにたい。

 

 死んだ魚のような虚無の瞳で、俺はサインを書き続けた。

 

 ◆◇◆◇

 

「私たちのサイン完成ぇ!!」

「やったあぁっ!!」

 

 ついに俺たちのサインが完成した。一番初めの可愛い系サインと、筆記体を用いたかっこいい系サイン兼ビジネスサインの二パターンだ。

 途中俺が黒歴史ダメージを負うというハプニングがあったが、なんとか完成まで漕ぎ着けた。

 

「決まるまで約二時間!けっこうかかったね」

「ね~。あとはこれをひたすら書いてものにしよう…」

「頑張ろう!まぁでも私たちこういうの得意だからすぐ覚えるよ」

「うん、私もそれは心配してないかな」

 

 所感としては意外とかかったなぁって印象。端から見たら形を決めるだけなのにどれだけ時間使ってるんだろって思うかもしれないが、逆に言えばそれだけお互い真剣に考えてたということ。

 俺はこの二時間を誇りに思っている。

 

「ね、エル…」

 

 アイがちょんちょんと俺の服を引っ張ってきた。

 

「んー?」

「見てみて」

 

 そう言ってアイが取り出したのは一枚の色紙。そこには──

 

 Mirastreaと書かれたグループ名の()()に、デフォルメされた可愛い文字で『星野アイ』と書かれていた。

 

「本名じゃん」

「うん。16歳になって、エルと結婚したとき用に書いてみたの」

「っ…そっか…」

 

『アイ』の部分は可愛い系と同じだが、注目するのは名字の『星』という文字。『星』を構成する『日』の中は『(スター)』だった。

 瞳に〝(スター性)〟を宿すアイと同じ。

 

「ね、エルも書いてみてよ」

「いいよ」

 

 俺は見よう見まねで書いてみる。『星野トゥエル』…あぁ、緊張して文字が震えてしまった。

 『星野アイ』『星野トゥエル』と書かれたそれを、ベッドの頭の上の棚に立て掛けた。

 

「あはは、エルが緊張してるなんて初めてじゃない?めずらしいものを見た!」

「アイのこと、自分のこと、未来のことを考えたら…ね」

 

 星という漢字は日が生まれると書く。だが、これは簡略化されたものであって、実際は日の部分は『晶』という文字が使われていた。『晶』の意味は〝澄んだ星の光〟…。以前俺はアイを太陽に喩えたことがある。(太陽)のように力強く、澄んだ星の光の下に生まれた少女(星野アイ)

 

 俺という自分では輝けない月を照らすためにここにいる。

 ああ、そうだ(わかってるさ)。きっと本来ならアイは──

 

「ちがうよ」

 

 アイ?

 

「私は望んでここにいるの。私が照らすのは私に愛を向けてくれる〝(ファン)〟だけど、私が導くのは、この世界で一番優しくて暖かい光で包み込んでくれる〝私の最愛の女の子(星野トゥエル)〟だけ」

 

 アイは今にも倒れそうなほど憔悴しきった状態で、ふらふらと俺にもたれ掛かるように抱きついてきた。その顔には生気がまるでなかった。

 

「っ…アイ…、アイッ!」

 

 俺のせいだ。また俺が変なことを考えたから。ほんの僅かでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて考えたから。だからアイはそれを感じ取って──

 ──ああ裏切りだ。これはアイに対する紛れもない裏切り行為だ…!

 

「エル、私はね──あなたがいれば、他は何も要らないんだよ?皆からの愛だって、()()()()()()()()()()()。そもそも初めから欲しいなんて思ってないの。私が欲しいのはあなただけ。エルの心も体も人生も、エルという()のすべてが欲しい。贅沢な願いでしょ?──だって私は世界一の欲張りだから」

 

「アイ…、ちがう…、私は…」

 

「お願いだよ、エル…、お願いだから…、どこにもいかないで…!いこうとしないで…!私から離れようなんて思わないで!」

 

「アイ!」

 

「言ったよね?エルの…、エルの幸せが!!私の幸せなんだってッ!!言ったよね!!?死んでも離してあげないって言ったよね!!?私のことを愛してるなら、一生私のそばにいてよッッ!!!」

 

 ──俺は、バカだ。

 

「泣かないで…アイ…」

 

「エルが居てくれないとッ!!!私は…、私は!!!幸せになんかなれないよぉぉぉ!!!うわあぁぁぁああんんっっっ!!!」

 

 俺は天使の姿を解放して、両手でアイを抱きしめて、両翼でアイを包んだ。

 

「ごめんっ!ごめんねッ!もう二度とそんなこと考えないから!!約束する!!」

 

「うぅっ、ぐずっ、えるの、ばかぁ…!そう言ってまたすぐ変なこと考えるじゃんかぁ…!」

 

「ッ……わかった。なら()()()()()()、アイ。私と永遠に一緒にいる覚悟があるなら繰り返して」

 

「う"んっ!!ずっと一緒にいる!!」

 

「……我が魂に極印す。『古の盟約の下、未来永劫我らは共にあることをここに誓う』」

 

「わ、我が魂に極印す。『古の盟約の下、未来永劫我らは共にあることをここに誓う』」

 

「『我が愛は星野アイに帰す』」

 

「『我が愛は星野トゥエルに帰す』」

 

「『我が愛は〝永遠〟なり』」

 

「『我が愛は〝永遠〟なり』」

 

「『ここに盟約は果たされん』」

 

「『ここに盟約は果たされん』」

 

 俺たちの間に誓約の赤い糸が現れて、俺とアイをきつく結んだ。いや、結んだというより縛ったと言う方が正しいか。

 

「ッ…くっ…!」

「あぅッ!うぅぅ…!」

 

 胸部に強い圧迫感。例えるなら心臓に鎖を雁字搦めに巻き付けられて、それを強い力で引っ張りあげられるような、そんな感覚。苦しいけど、これでいい。これでもう俺とアイは物理的にも精神的にも離れられなくなった。

 

「…ありがとう、アイ。ここに契りは結ばれた。最も強く、最も重たいものだ。もう私もアイも、お互いに離れることはできなくなった。心も体もそう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは人間の定義で言うところの〝死〟と同じだ。私は肉体こそ滅びないけど魂は消滅する(今の私は死ぬ)。アイはそのまま文字通り〝終わる〟。これは脅しでもなんでもない。……本当に、後悔していないね?今なら〝巻き戻す〟ことができるよ?」

「はぁっ、はぁっ、巻き戻す?そんなの、ぜっっっっったいに嫌」

 

 強い決意の込められた瞳が俺を射貫く。一番星がこれまでに見た中で最も強く光輝いている。

 

「うれしい…うれしい!!ありがとう!!アイ!!」

「いつも言ってるでしょ。ずっとエルと一緒にいるって。エルのいない世界とか生きてる価値ないから。死んでも離さないし、エルが要らないって言っても離れてあげないし。覚悟?そんなもの、()()()()()()()()()()()()。本当に覚悟が必要だったのはエルの方だったよね?」

 

 ──え?

 

「あ、アイ…?」

 

「ねぇエル。私さ、今すっごく怒ってるんだよ?」

 

「あ、…う…ご、ごめん…」

 

「私はこれまでたくさん愛を伝えてきたつもりだったんだけどさ、エルにはまったく伝わってなかったってことだよね?」

 

「え!?ち、がう!そんなこと──」

 

「じゃあなんで私から離れた方が良かったんじゃないか、なんて思ったの?どうしてそこで不安になるの?」

 

「そ、それは…」

 

「私はそういうの、とっくに通り越しててさ、今日はエルと何しようかなーとか、明日はエルと何して遊ぼうかな、結婚したらハネムーンはどこにしようかな、別荘はどこに買おうかなとか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………」

 

「エルはどう?私と結婚したら何しようとか考えたことある?…ないよね?いっつも不安になるようなことばかり考えてるよね?確かにエルがそういう性格で、楽しいことを考えることよりも寂しいことを考える方が多いって知ってるよ?でもさ、それも最近は少なくなってきて、少しずつ治ってきてるんだなって思ったらこれだよ」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「……信じてよ、私のこと。私に対して裏切りだなんて思うくらいならもっと私のこと信じてよ。私はずっとエルのこと信じてるし、疑ったことなんて一度もないし。エルは私に本心をぶつけてくれるから、私もエルにだけは安心して本心からぶつかっていけるのに。…エルが私に伝えてくれる愛は、嘘だったの?」

 

「なっ…!ふ、ふざけるな!!!それは絶対にちがうっっ!!!」

 

「ッ…!だったら…!過去じゃなくて未来を見て!!もっと私を見て!!もっと私を信じて!!ふざけてるのはそっちでしょ!?私の〝愛〟をみくびるなッッ!!!」

 

「…っ、く…!」

 

「足りないなら言ってよ!!かっこつけてないで正直に言って!!私ってバカだから、なるべくエルの気持ちを察して先に先にって言ってるつもりだけど、それでも全部はできないよ!!だからもっと私を愛してって直接言ってよ!!それを言うこと自体が私への裏切りだとか、そんな的外れなこと考えてる暇があったら言ってよ!!ねぇ、嘘じゃないなら言って!!お互いに本心をさらけ出すって約束してるじゃん!!私との約束を破るつもりなの!?あなたが私に言ってくれた言葉はすべて嘘だったの!!?」

 

「嘘じゃないッッ!!!私がアイに向けるこの想いは、絶対に嘘じゃない!!!この気持ちを否定するのは、たとえアイであっても許さない!!!取り消せ!!!今の言葉を取り消せ!!!はやく!!!」

 

「取り消さないッッ!!!エルが私にもっと愛して欲しいって正直に言うまでは絶対に取り消さない!!!死んでも取り消してあげない!!!」

 

「なんだと!!この…分からず屋!!」

「うるさい頑固者!!いいから早く言いなさい!!」

「誰が言うもんか!!この、腹黒バカ一番星!!

「なによこのポンコツ中二病天使!!

 

 アイと睨み合う。瞳に宿る一番星の、()()()()()()──〝俺以外は覗き込むこともできないその場所(俺だけが知ってるアイの心の内側)〟で、燃え盛る焔のようなとても強い想いを鮮烈に受け取る。

 きっとアイも同じなのだろう。お互いに視線を逸らさず、真っ直ぐ相手だけを見つめる。

 

 そして──

 

「「──プッ!」」

 

「「アハハハハハッッッ!!!」」

 

 お互いの気持ちを十分に受け取った俺たちは、同時に我に返った。

 

「アッハハハハ!!あー!おかしい!私の命よりも大切で掛け替えのないアイにこんなこと言うなんてどうかしてるよ私ったら!」

 

「アハハハッ!!私もだよ!目に入れても痛くないくらい好きで好きで堪らないエルにこんな酷いこと言うなんて変だよ!」

 

「なんかさ…、どうかしてたね、お互いに」

 

「お互い頭に血が上り過ぎておかしくなってたね」

 

「うん。ごめんね、アイ。たくさん酷いこと言って。…本当にごめんなさい」

 

 うわぁ、酷いなぁ。全部覚えてるよ。最悪だわ俺。救いようのないクズじゃんか。アイになんてことを言ってしまったんだろう。

 

「私も…ごめんなさい。エルを傷つけるようなことばかり言ってごめんなさい」

 

 いやいや、アイは謝らなくていいのよ。さすがにこれは俺がクズ過ぎた。

 

「アイは謝らないで…。だってアイが言ったことは全部正しいことだからさ。私、言葉と行動が一致してなかった。口だけ立派で中身が伴ってなかった。アイのこと、不安にさせた。アイのこと、疑ってしまった。これは言い訳できない事実だもの…。ごめんなさい、信じることができなくて、本当にごめんなさい…!」

 

 契り結んだ直後に大喧嘩するとは…。これはさすがに…。

 

「いいよ。許してあげる……けどさ、その代わり今ちゃんと言って欲しいな。本当に申し訳ないって思ってるなら、私に伝えて欲しい」

 

 アイの方がずっと大人だ。こんな癇癪起こした俺を根気よく宥めてくれて、俺に酷いこと言われたのに赦してくれて…。アイの思いやりの心が…今はつらい。俺はなんて酷い奴なんだろう。それでも伝えないといけない。俺は、アイを愛してるって、ちゃんと言葉にして伝えなきゃ。

 

「うん。ねぇ、アイ──これからも、ずっと私のことだけを愛して欲しい。不安なこととか全部掻き消して、アイのことしか考えられなくなるくらい、アイの愛で満たして欲しい。私をあなたの愛で溺れさせて欲しい。心の底から愛してる。()()()()()()()()()()()()()。契りにかけて誓う。私は星野アイを愛しています。これからも私と一緒にいてください

 

「うん。私の方も、エルの言葉が嘘だとか言ってごめんなさい。あなたのことを疑おうとしてしまってごめんなさい。私の力不足で、エルを不安にさせてしまってごめんなさい。約束する。これからもう二度とエルにこんな想いはさせないって。私の愛であなたを埋め尽くして、24時間一年中私のことしか考えられなくなるくらい、私の愛で満たしてあげる。信じてるよ。エルの言葉を疑ったことなんて一度もないし、これから先もないから。だってさ──」

 

 ──エルは私に能力を使わなかったじゃん(私を信じてるから心を読まなかったんでしょ)

 

「それが何よりの証。それが私は何よりも嬉しいの。愛してる、エル──これからも私のとなりにいてくれる?

 

 ば、バレてる!さすアイさすアイさすさすアイ!…ふざけるのはここまでにして、だってアイ、俺のこと大好きじゃん。読まなくても日々の言動で十二分に伝わってくるもん。さっきも真っ直ぐ見つめ合って、瞳の奥に宿る想いを余すことなく受け取ったし。この身体そういうの敏感だし。

 あれ?俺、ちゃんと愛伝わってるじゃん。なのに俺が変に拗らせて受け入れ拒否ってただけで。あれ?俺、控えめに言って戦犯では?…やっば。死のう。いや死んだらアイが悲しむから…誠心誠意謝ろう。

 

 ──本当はちゃんと愛されてるって分かってた。ただ、自信がなくて。こんな俺なんかをアイは本当に愛してくれてるのかな、心の内ではめんどくさいって思ってないかなって不安になってた。アイはそんなこと思ってないってことも分かってた。

 こうなったのも俺が自分を信じきれなかったからだ…。不安や焦りが少しずつ蓄積していって、それが積もり積もって爆発しちゃって…。

 

「もちろん!絶対に離さないから!ごめん、だからこそ正直に言うね。さっき一瞬、これはもう愛想尽かされたかなって思った。ごめんなさい!」

 

 ──でも、もういいんだ。おかげで吹っ切れた。疑うことがバカらしくなるくらい、俺はアイの愛情を感じているから。

 結局俺が一人で拗らせて暴走しただけ。アイはそれを宥めようとしてくれただけ。

 やらかしすぎた。もう俺はアイに隠し事はできない。元々してないけど、これから先もずっと。それは約束を破ることになるから。

 俺は何があってもアイと一緒にいたいから。

 

「知ってる。エルってそういうことあるもんね。今回は許すから。でも次からはもうそんなこと思えなくなるくらい深くて重たい愛で溺れさせるから、覚悟しておいてね?だからエルも不安になったら隠そうとしないで正直に言って?」

 

「そうする。私も返すから。アイが重すぎてちぬぅって言うくらい重たくて、ふっかぁい愛をぶつけ続けるからね」

 

 俺は新たな決意を胸に秘めて、真正面からアイの瞳を見据えて俺の最愛に宣言する。

 

「ふふ。期待してるね?」

 

 そんな俺の決意表明を後目に、アイは年不相応の妖艶な笑みを浮かべて真っ直ぐ俺を見つめ返してきた。

 

「ね?仲直りのキスしよ?」

 

「いいよ!しよ!」

 

 ちゅっと軽いリップ音を立てて触れるだけのキス──だけでは飽きたらず、俺の方からアイの口に舌を入れた。

 

「んっ…♡ふふっ♡誘ってるの?いいよぉ♡このまま仲直りエッチしよっか♡」

 

「するぅ♡仲直りエッチするぅ♡アイだいしゅき♡」

 

 アイに誘われるように、そのまま俺たちはベッドに横たわった。

 

 この時、激しく絡み合う二人の頭上では、二つの()が彼女たちの気持ちが乗り移ったかのように淡い輝きを放ちながら、愛し合う彼女たちを見守っていた。

 

 エルとアイ──二人の心と体はマグネットのようにぴったりくっついている。これから先、二人の心の隙間が開くことは決してない。




【天使】
話しかけられることが増えれば必然的にサインをねだられる回数も増える。
サインに関してはアイにちょっとだけ先を越されて悔しかったので、自分も適応変化した。『ぅ』を『♡』へ変換したのは我ながら神アドリブだろ。
『星野トゥエル』に胸打たれた。なんて素敵な響きなんだろう。同時にアイがこの世界の主人公なんだと確信した(違います)。自分のせいで霞んでしまったことに酷い罪悪感。俺がアイの立ち位置を奪ってしまった。俺がいなければ…。
初めてアイに本気でぶつかった。実は今までこっそり契りを結んでいた。今回最上位の契りを結べた上に、お互いの思いの丈をぶつけて、最終的にもっと愛が深まって幸せ。良い意味で吹っ切れた。
それはそうとアイに乱暴な口調で酷いこと言ったのは引き摺る。アイ本人にもしばらくそれをネタにされてからかわれる。
ちなみに仲直りエッチはめちゃくちゃ愛をぶつけられた(わからされた)
ようやく本当の意味で覚悟ができた。お待たせ。待たせちゃってごめんね。もう間違えない。愛してるよアイ。

【一番星】
実はけっこう前から脳内でサインのイメージを描いていた。ファンに、というよりエルに披露できて満足。と思ったらエルがそれを越えてきて感激!ちゃっかり良いところは真似する。
アイにとってのサインの完成形は『Mirastrea』の『星野トゥエル』と『星野アイ』。早くこのサインを書きたい。今回はその予行練習で他意はなかった。本当にたまたま書いただけ。エルが書いたとき手が震えているのを見て色々なものが込み上げてきた。それなのにまさかあんなことになるなんて…。
理想のサインを書いたのに、エルが余計なこと考えて少しムッとした。同じ〝未来〟でも、アイは楽しいこと、エルは悲しいことばかりを考える。今までは見て見ぬふりをしてエルの成長を促していたが、今回ばかりは我慢できなかった。契りを結んだのは嬉しかったけど、それとこれとは別。〝ちゃん〟付けする余裕もなかった。
でもおかげでエルの本音を聞けて、エルの心の闇の大部分を祓えたし、心の距離もひっつくくらい近づいた。暴言はそこまで気にしてないし、そもそもあんなのネットで見るような芸能人アンチと比べたら可愛いもんじゃん。それはそうと〝Mirastrea〟ってアンチ全然いないよね。さすエル。
とっくに覚悟してる。遅いよ。どっちかが迷ったらもう片方が導くのがパートナーだって言ったじゃん。エルのばーか。…愛してるよ。
仲直りエッチは最高に気持ち良かった♡たくさん愛をぶつけられて幸せ♡

【契り】
一方が持ち掛け、もう一方がそれに肯定的な発言をすることで結ばれる。一度契りを結んでも、より強力な誓約のものに上書き可能。口上に『永遠』があるものは最も強力で、最も重たい。破れば二人の魂は砕け星天へ舞い上がり虚空へ散り行く。
どちらかが肉体的な『死』を迎えた場合は…。
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