メンヘラ天使とヤンデレ一番星   作:リララ

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顔面国宝×お金の稼ぎ方=アイドルでしょ!

「La La La~♪」

「エル、また歌ってる」

 

 アイの感情が爆発したあの一件から、一週間が過ぎた。

 あの日から俺とアイの距離は一気に近くなった。

 それはもう何をするのにも一緒で片時も離れない俺たちに、施設の大人たちはおろか、他の子供たちすらも、「あの二人の距離感近すぎじゃない…?」と思われているらしい。

 

 確かにその通りで、アイは本当に俺にベッタリになった。毎日同じベッドで一緒に寝るし、ご飯の時も隣同士で食べるし、お風呂も二人一緒。その他の自由時間もアイは俺の隣にベッタリ張り付いている。

 俺以外には相変わらず淡白な受け答え(塩対応)だが、その分俺には全身で感情表現しているのか?ってくらい感情を見せつけてくる。

 

 恋を知らない幼女が過去のトラウマから助けてくれた相手に依存して一途な激重感情を向ける。

 俺がそうさせた訳だが…、いいよね、そういうの。

 きっと俺に恋人が出来たり、俺の身に何かあったりしたらエゴ剥き出しで爆発するんだろうなぁ。

 俺はアイ一筋だからそんなことさせないけど。もうすっかりアイ以外見えなくなってしまった。

 

 そうそう、正式にお互い〝アイ〟〝エル〟呼びになった。

 俺をエルと呼ぶのはアイだけの特権だ。こういう闇を抱えているような子には愛情の他に特別感を含ませることが大切なんだよね。もっともっと俺に依存してほしい。俺なしでは生きられなくなるほどに…。そのままずっと一緒にいてほしい。どこにも行かないでほしい。

 

 閑話休題(それはそうと)

 

「歌が好きなんだ」

「知ってる。…私もエルの歌すき」

「知ってる。もし私がアイドルデビューでもしたらファン第一号はアイだ」

「えー、エルは私だけのエルだからデビューとかやだ」

「かわいいなぁもう」

「えへへ♡」

 

 やることがない。施設は最低限の絵本や小道具しかなくて、家庭環境から早熟せざるを得なかったアイや、そもそも人生二週目の俺にとっては退屈しのぎの足しにもならない。

 アニメや漫画、ゲームといった前世のオタク趣味に関わるものは一切ないし、当然まだ小学校に上がったばかりだから携帯もない。この世界は前世の地球とは違うから、90年代でも既にスマートフォンが普及しているし、WindowsのOSが95とか98を通り越してXPやVistaだったり、TwitterやYouTubeなどもサービス開始しているが、はっきり言って今の俺たちには無縁の産物と化している。7歳児でしかもあまりお金のない施設暮らしということもあって、ここでは高学年の児童でも自分の携帯を持っていない。

 

 端的に言うと…暇なのだ。

 

 だから歌うことにした。だってCV──だし、口から──ボイスが出るんだぜ?歌うしかないだろ!

 前にも言ったことだが、どうやらこの世界は俺が元々住んでいた世界とは似て非なるようで、前世で流れていたアニメや漫画がなくて、アーティストなんかも微妙に違っていたのだ。このことは新聞のテレビ欄や、施設の人たちのパソコンをこっそり使ったり、思考共有を通して知った。ちなみにボカロもなかった。

 だから前世の好きだった曲をどれだけ歌っても、すべてオリジナルになるのだ。

 え?それなんてご都合主義?うん、俺もそう思う。トゥエルになったからか歌唱力も前世とは比較にならないレベルで上がってるし、超越種は何をしても超越するんだなって思った。

 

 そしてもう一つ。俺は将来の目標を定めた。それは、海外のリゾート地に別荘を買ってアイと蜜月を過ごすことだ。そのためにはお金がいる。どれだけ立派な目標を掲げるのも自由だが、何をするにしてもお金は必要だ。さすがに金銭面で能力を使ってちょろまかすのは気が引ける。何とか正当な手段で稼ぎたいものだ。能力を使えばお金を無限に生成できるが、それは最終手段にしよう。

 それを考えたときに、自分の容姿とこの歌唱力は使えるんじゃないかと思った。俺のセンスは何をしてもその道のプロですら超越する。

 

 ──やってみるか、アイドル。

 

 アイドルになって20歳くらいで辞めて、あとは前世で流行ってた配信や動画投稿で小銭を稼いで生きていこう。会社勤めとか二度と御免だし。俺とアイ、二人で生きていける分だけの稼ぎを目指して。衣装や作詞作曲などある程度まとまってから…三年以内にはデビューしたいな。

 

 俺を抱き枕代わりにしてすやすや眠るアイを見ながら、このお星様をどう説得しようかな、なんて考えていた。

 

 ◆◇◆◇

 

「アイドルになろうと思う」

「は…」

 

 それを告げた瞬間、顔からすべての表情が抜け落ちたアイをどうやって説得するか。

 アイは無表情だ。出会ったばかりの、何の感情も込めていない徹底した無。あの燦々と輝いていた瞳の一番星すら今はその輝きは鳴りを潜めている。そして代わりに浮かんだのは、あらゆる光を吸い込んでしまいそうな、仄暗い奈落を彷彿とさせる、黒く濁った星の輝き。

 

「なんで」

「お金を稼ぐため」

「そんなの、他にも」

「一番手っ取り早いかなって思った」

「た、確かにエルならすぐなれるだろうし、歌も上手だからいけるかも知れないけど…!」

「とりあえずデビューは三年後。で、10年ほど続けて20歳くらいで辞めようと思ってる。その後は印税とかのらりくらりで稼ぐつもり」

「…10年で私とエル、二人分の生活費を稼ぐってこと?」

 

 歳の割に聡明なアイは、私が言いたいことを概ね理解してくれたようだった。

 

「うん。もちろん最優先はアイだし、アイが本気で嫌なら別のプランを考えるよ」

 

 ここであくまでも最終決定権はアイにあると伝える。こういう子にはこれが重要になるだろう。

 

「……………いいよ」

 

 長い沈黙の後、アイは首を縦に振ってくれた。この分だと色々条件つきだろうけど。俺の思った通り、アイは、でも…と続けて言った。大丈夫、想定内だ。

 

「いくつか条件つけていい?」

「私にできる範囲でなら」

「まずファン一号は私であること!」

「もちろん!」

「仕事は受ける前に私と相談して決めること!」

「いいよ。ただ私とアイ、二人の意見がすべて通るとは思わないでほしい。今後所属する事務所の顔もある程度は立てないといけないからね」

「うん…」

 

 アイは俯いてしまった。彼女なりに思うことがあるのだろう。でも、どうかわかってほしい…。俺だって本当は嫌だしアイと離れたくない。

 

「アイが嫌だと思った仕事はなるべく断る方向で動くつもりだから、安心して?」

 

 そう言って俺はアイの頭を優しく撫でる。

 

「ん…。ありがとエル…」

「すぐに有名になって力をつけて、仕事なんて好きに突っぱねられるようにするから、最初だけ頑張るよ」

「うん。そう…だね」

 

 俯いていた顔を上げてはにかんでくれた。

 良かった…ちょっとは機嫌直してくれたかな。

 

「他にはある?」

「うん。えっと、次がね…休みの日は私にかまうこと!」

 

 は?可愛いかよ。

 そんなの答えは決まりきってる。

 

「当たり前。むしろアイ成分補給するからアイが疲れてても私がかまう」

「うむ。よく言えました!」

「ふふ…」

 

 えへん!と胸を張って、今度は逆にアイが俺の頭を撫でてきたから、素直に受け入れる。頭を撫でられるってこんな感じなんだ…。

 

「すぐ浮かんだのはそんなとこかなぁ。もしかしたらまた増えるかも」

「おっけー。実際になったら、ちょっとでも気になったり、直してほしいところがあったら言ってね。すべては無理かも知れないけど、なるべくアイの期待に沿えるようにはする」

「うん。ありがとうエル」

 

 これで最大の山場は越えた。後は下りるだけだ。

 とはいえ他にも問題はある。

 アイドルに成った後の活動拠点がそうだ。アイドルになったとして、いつまでも施設に居るわけにはいかないだろう。だから拠点を移すことも視野に入れている…が、その場合アイをどうするか。十中八九揉めるだろう。アイは俺と離れたくないだろうし、俺もアイが居ない生活とか耐えられない。

 ここは最悪『思想思念』を使うことになるだろう。それか事務所で理解ある大人を見つけられたらあるいは…。

 俺たちの境遇と仲の良さを見せつければ…、俺たちがお互いの存在でメンタリティーを保っていると見せつければ…、年齢的には思春期の俺たちを無理やり引き剥がす鬼畜な大人はそう居ないだろう。俺の理想は〝思想思念を使わずに(穏便かつ平和的に)〟事を進めることだ。

 どちらにしろ、まずは10歳でのデビューを目指して頑張るか。今から三年後だ。それまでに良い案が浮かぶかもしれないし。今しばらくはアイとの学校生活や作詞や歌唱力強化の方を頑張ろう。

 

 ◆◇◆◇

 

「第一回!アイドルの衣装を決めようのまき~」

「おー!」

 

 ぱちぱちぱち。

 俺とアイの二人部屋で、スケッチブック片手の俺とアイの二人分の拍手が鳴り響く。

 アイドルとしてステージに立つにあたって、専用の衣装は必要だ。

 と言っても前世男で、アイドルなんぞ一切合切観たこともなければ曲すら知らない俺が、一からアイドルの衣装を考案するなんてまぁ無理だ。

 なら女の子に助力を求めたらよいのだ。幸いにも俺には身内に一番星の生まれ変わりとも言える女の子がいる。アイは側だけ超絶美幼女の俺なんかよりよっぽど女の子女の子してる。

 

「早速だけど衣装どうしよう」

「うーん。エルは希望はあるの?大雑把でもいいから、こういうのがイイ!みたいな」

「うーん…。すぐ頭に浮かんだのは、学校の制服あるじゃん?あれを改造して可愛く装飾した感じのやつ、とか」

「坂系みたいな?」

「そうそれ!でも制服は坂系と被るのか…あれ派生もたくさんいるし」

 

 前世では2010年代になるまで出て来なかった坂系アイドルグループも、こっちでは既に派生も含めて腐るほどいる。

 

「キャラ的にはエルの一人勝ちだと思うけど、お洋服の個性って面では埋もれちゃうかな」

「ロリータ系は?」

「めっっちゃ推せる」

 

 一瞬で俺のロリータファッションを想像したであろうアイは前のめりで推してきた。

 〝金髪幼女×ロリータファッション〟はもう言うまでもない王道鉄板ネタだ。

 が、だからこそ量産されやすい。二次元でもありふれた組み合わせだ。トゥエルの顔面ならそんじょそこらの二次元には負けないだろうが、割と凡な選択肢ではある。海外ではゴシックやロリータはそれなりに受けるだろうけど。

 いっそ海外の方が人口多いからそっちをメインに取り込むか?いや、ないな。海外YouTuberを差し置いて日本のVTuberが投げ銭ランキング一位になったように、日本の〝推し〟に対する宗教(カルト)的人気は他の国々を遥かに凌駕するからな。それに日本発祥のアイドルなのに日本人気より海外人気が高いというのもなんか違う。

 まずは日本での地位を確実なものとし、ゆくゆくは世界へ。最終的に日本でも世界でも天下を獲るアイドル──世界一のアイドルになる。だってトゥエルには世界一以外似合わないでしょ。作中でも地位も実力も世界一だったし。という訳で保留だな。

 

「おっけー。参考にしとく。ちなみにゴシックは?」

「普通にあり。超推せる」

「なるほどね」

 

 ちなみに俺は、ロリータは俺みたいな外国産金髪少女が、ゴシックは黒髪が美しい純日本人のアイみたいな美少女の方が似合うと思っている。いつか二人でゴスロリで揃えたいな。ああいうのって、大人になるにつれて色々厳しくなってくるだろうから。

 

「アイドルの衣装ってだいたい可愛い系だよなぁ。シルエットが全体的にまるっこくて可愛いと思う」

「あと、汗とかを吸収しやすい生地にしないと」

「あー。確かに」

「それと、フリルとかネクタイ着けたりするなら、ダンス踊ってるときに派手に動き回らないように固定しないとダメじゃない?本人よりフリルが動き回ってたらそっちに注目が行っちゃうだろうし」

「な、なるほど…」

 

 装飾をつけるなら固定して動き過ぎないように…と。

 はーすっごいな…。そんなこと思いつきもしなかったわ。これが7歳の現役女子小学生──まだ学校周りの手続き終わってないけど──から出るんだぜ…。おっさ──人生二週目の俺にはついていけねぇ…。

 てかトゥエルって汗かくのかな?去年は夏場に外に出歩いても一回も汗かかなかったけど。

 

「下半身はどうしよう」

「スカートだったら、普通にオーバースカートでいいと思う」

「オーバースカート?」

「普通のスカートの上に重ねて着るスカートのことだよ~。アイドルのスカートって二重になってることが多いじゃん?あれのこと」

「へぇ~勉強になる…さすがアイ」

「えへへ…。私、エルの役に立ててる?」

 

 瞳の星をキラキラさせて俺の顔色を窺うアイ。それににっこり笑顔で返す。

 ほんとこの子と仲良くなれて良かった。

 

「うん。アイなしじゃ生きていけないくらい」

「──わ、わたしもエルなしじゃ生きていけないからねっ!」

「うむ」

 

 アイがいなかったら衣装で詰んでたな…。それか外部の人間にデザインから考えてもらうことになってた。その場合余計な権利とか金銭のやり取りが生じるからな。できるなら自分考案にしたかった。ぶっちゃけそういった権利は将来的にアイに渡してもいいな。俺ほとんど考えてないし。

 

「あ、スカートの内側はフレアで、外側がサーキュラーって書いといて!」

「なにそれ?種類?」

「うん。どっちもふわっと拡がりやすいんだよね」

「ほうほう」

 

 内側はフレア、外側はサーキュラーっと。

 前世なら知らない単語はいつでも携帯なりパソコンなりで調べられたけど、今はそのどちらも手元にないからなあ。

 

「スカートの丈はロング」

「うん。私以外にはあんまり肌見せないでほしい…って言ったら?」

 

 少し照れた様子でチラチラこちらを窺うアイ。その言葉と仕草に胸打たれた俺はアイを抱きしめた。

 

「ん…。かわいいからゆるす」

「やったー!」

 

 アイもぎゅうと抱きしめ返してくれる。

 そのまましばらく二人で抱き合ってた。

 

「靴はハイカットかロングかな、やっぱ。制服系なら革靴?」

「だね~。ロングだと夏場はきついからハイカット。でも…あれ、何て言うの?ロングブーツとスカートの間の部分…男の人が好きって言うところ」

「絶対領域?」

「そう!それ!私的にはエルがエロい目で視られるのはイヤだけど」

「うーん。季節によって変える?春夏はハイカット、秋冬はブーツ」

「それが良いのかなぁ」

 

 浮かんだ構想をスケッチブックに描く。

 下半身はほぼ出来上がった。問題は上半身にあたる部分だ。ブレザー系にして上下を独立させるか、ドレスやワンピースで上下一体型にするか。……あ。

 

「あ!ねぇ!」

「んー?」

「この衣装そのまま使えないかな!?」

 

 俺は立ち上がって、原作トゥエルの衣装に着替える。翼は出さず衣装だけ。

 やっぱりトゥエルといったらこのドレスだよなぁ。ちなみにこのドレスだが、ファンタジーよろしく色々な付与効果がある。質としても最上位のもので、どんなに激しく動いても破けることすらない優れものだ。着心地も部屋着並に良いし。

 まぁそれらについては追々話すとして、もう最初からこれで良くね?って思ってしまう。なんで最初に思いつかなかったんだろ。アイも前にこのドレス好きって言ってくれたし、すんなり決まりそうだな。

 なんて楽観視していた俺の予想とは裏腹に、アイを見るとにっこり笑みを浮かべていた。

 

「だぁめ♡」

「え?!なんで!」

 

 そんな可愛らしい仕草と微笑みで『だめ』!?

 

「わからない?理由ならさっき言ったよ?」

「え…」

 

 なんだっけ?と思い出しながらも目線を下げる。剥き出しの肩…大きく開いた胸元…あっ…。

 

「露出が多い…から…?」

「せいかーい♡」

 

 可愛らしい微笑みを浮かべながら俺の頭を撫でてくるアイ。

 なんだろう?こんなに可愛い微笑みなのに、アイを怖いと感じるのは…。

 

「そんなに大胆に晒しちゃって、エルはただでさえ可愛いのに、そんなえっちなドレスじゃ変な人たちがいっぱい来ちゃうよ?私のエルに…そんなの絶対だめだよねぇ?エル?」

「ハ、ハイ。ダメデス。ゴメンナサイ」

 

 うっかりアイの地雷を踏んでしまった。俺的には神案だったんだがなぁ。

 

「でも、ブラウスは絶対だめだけど、スカート部分はいいよね」

「っ!でしょお!ここに来る前はずっとこの格好だったから、私と言ったらこのドレス!って感じなんだよね」

「ふむふむ…。ならブラウスのところを長袖にしてくれたらいいよ」

「ほんとに!?」

「うん。私もそれを着て踊ってるエルは観たいし、実際にすごい可愛くて綺麗なんだもん、そのお洋服。ちょっと露出多いだけで」

「う…ま、まぁブラウスの部分は長袖にして胸元も布作って覆ってみるよ」

 

 脳内でイメージしたトゥエルのドレスを構築して、身に纏う。光の粒子がドレスのブラウス部分を覆っていき、俺の腕を包み込む。

 

「わぁ…きれい…」

 

 アイが呟いた。

 光が収まると、丈が伸びてグローブと一体化したドレスへと変わっていた。

 くるりとその場を一回転すると、風に靡てふわりと浮かぶスカート。花の香りが漂う俺。

 

「おお~!」

「どうかな?」

「イイ!すごくイイ!かわいい!きれい!イイ匂い!」

「へへ…ありがと!」

 

 花が咲いたような満面の笑みを見せるアイ。

 本音を言えばこの衣装は変えたくなかったけど、俺のお星さまのあんな可愛い嫉妬心を見せられたらイヤとは言えない。それにこれはこれでアリだな…と自分でも思うくらいには合っている。元の素材が良いからな。

 

 こうして俺のアイドルとしての衣装は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、夏場は元に戻していい?」

「絶対だめッ!」

「ハイ」

 

 でもやっぱり夏場は戻したい!俺汗かかないけど、でも夏場も長袖は変じゃない?ノースリーブにはしないから!

 必死にアイに頼み込むと、アイは腕を組んでうーん…と考え込む仕草を見せた。

 

「なら、今度の休み二人で買い物に行こ。それなら半袖までは許してあげる」

「え?それでいいの?」

 

 意外にも軽い条件だったことに拍子抜けした。アイのことだからもっとこう、エロちっくだったり重たい彼女みたいな条件を提示されると思っていたから…。

 

「いいけど…、他に何か条件つけた方がよかった?」

「あ、いやそんなことないよ!ありがとうね」

「デートだからねこれは」

「おおっ!確かに!」

「んもうっ!エルは鈍いなぁ」

「ごめんごめん」

 

 確かに想い人と二人で買い物とか普通にデートだよなぁこれ。まさか7歳の女の子の口からデートなんて単語が出るとは思わなかったけど。家庭環境が酷かったとはいえ、アイって結構ませてるよね。

 

 ◆◇◆◇

 

 とある週末の日。今日俺はアイと買い物に来ている(デートしている)

 ちょうど俺たちのいる施設の最寄駅にそこそこ歴史のあるアーケード商店街があるので、暇潰しにふらふら探索している感じ。

 

「エル!次はこれ着て!」

「ん」

 

 アイがまた別の服を持ってきた。それを受け取り更衣室に入って魔法で一瞬で着替える。

 

「おお~♡やっぱりエルって何着てもきゃわわ~♡」

 

 俺は今アイの着せかえ人形と化している。新旧様々なブティックが立ち並ぶこの商店街には比較的最近のファッションブランドも出店されていて、アイいわく〝アイドルの服の参考になるかも!〟と瞳の一番星をキラキラ輝かせながら俺の裾を引っ張って、行こ?なんて可愛らしく首を傾げて言うものだから簡単にやられましたよ、ええ。

 実際は最近の流行り物を着た俺を見てみたい!という何とも私欲にまみれた動機ではあったが、こうしてアイが楽しそうにしてるならなによりだよ。ちなみにアイ本人はブランドとかは特に興味ないらしい。

 

「エルさ、アイドルじゃなくてモデルになるのはどう?」

「モデルかぁ」

 

 モデルも考えたことあるよ?でもモデルってアイドルと比べてファン(金づる)と交流する機会が少ないし、歌とか作詞作曲周りの著作権とかそういうところでの稼ぎもないし、メディアの出演時のギャラもアイドルより安いイメージがあるしで、やっぱりお金のことを考えるとアイドルに軍配が上がるんだよね。

 ……なんだか転生してもお金のこと考えてるって、自分で嫌だなあ。夢がない。

 

「将来的なことを考えるとアイドルの方がいいかなって」

「そっか…」

「いや、モデルも悪くないんだけどね?アイドルの方が稼げそうだなって」

「なるほどね。まぁエルがそれでいいなら…」

 

 ──ん?どういう意味だ?

 ……まぁいいか。アイが少し残念そうな顔をしたのが気になるが、俺はモデルになるつもりはないとだけ言っておく。

 

「ところでさ、アイは私に散々着せかえさせてるけど、お金はあるの?さすがにこれだけの服を試着したらそのうちの何着かは買わないと悪いよ?」

 

 まぁお金なかったら俺が創造して(つくって)払うけど、ちょっと後ろめたいよなぁ。

 

「うん、大丈夫!施設を出る時に職員の人から貰ってるから!」

「そうなんだ?ちなみにいくらあるの?」

「3万円貰ったよ」

 

 え?聞き間違いかな?3万円って聞こえたような…。

 

「3万円だよ。エルと二人でって伝えたら多めにくれたの。もちろん余ったら返す約束だけど…」

「そ、そうなんだ…」

 

 軽く引いた。7歳の児童二人の買い物に3万も持たすなよ、職員。何かあったらどうするんだ。

 

「皆エルのこと好きなんだね」

「そうだとしても3万はないわ…。だからアイここに来たのか。ここ結構高いのに」

 

 海外展開とかもするハイブランドと比べたら安いけど、子供の金銭感覚では十分高い方に位置するこの店を見て、アイが臆せずに入ったのも金銭的余裕があったからなのね。納得、納得。

 

「うん。イイのがあったらエルに買おうと思って」

「なるほどね。まぁ、試着はここらへんにして、精算しよう」

 

 俺がそう言うと、アイもりょーかいっ!元気な返事をする。その後二人で買う服と買わない服を吟味して、選ばなかった服はしっかり畳んで元通りの場所に置いておくのも忘れない。

 精算の時に紙袋を余分に一枚貰っておき、精算が終わったら、そそくさと店を出る。

 そして人通りの少ない脇道に入ると、紙袋に入った服を適当に掴んで余分な方に入れて、「ん!」とアイに突き出した。

 

「エル?」

 

 それを見て不思議そうに首を傾げるアイに、もう一度「ん!」と言って突き出す。

 

「私は全部は着ないから、いくつかはアイも着な」

「え?でも──」

「いいから。私からのプレゼントってことで」

 

 アイが何かを言う前に遮って言葉を被せる。

 

「せっかくアイと二人で選んだんだ。私だけじゃなくてアイにも是非着て欲しいんだよ」

「エル…」

 

 アイは素材が俺の次に整ってるからきっと似合うだろう。そんなことを考えていると、アイは俯いてふるふる震えてしまった。

 

「アイ?」

「──こ、これ、ほんとに私が貰って良いの?」

「もちろん。……今はこんな形でだけど、いつかちゃんと私の稼いだお金でプレゼントするから。今はこれを受け取って欲しい」

 

 俺の言葉に顔を上げたアイの瞳には、うっすら涙が溜まっていた。

 え、どうして…そんな顔をするの…?

 

「わ、わたし…、今まで何かを買って貰ったことも、プレゼントされたこともなくてっ…!だから、エルが私にプレゼントしてくれるって言ってくれて、すごく嬉しくて…っ」

 

 ──ああもう、俺は何やってるんだ。またアイのトラウマを刺激してしまった。

 自らの贖罪を果たすべく、俺はアイを抱きしめる。

 

「ん、大丈夫。ここにアイを虐める奴はいないから。これからは私がアイに今までの分以上の愛と幸せをプレゼントしてあげる」

 

 大切だよ、大事だよ、と気持ちを込めて優しく背中をさすると、アイは俺の肩に顔を埋めて静かに泣いた。

 なんだろう…アイのことが愛おしくて堪らない。メンヘラとかヤンデレとか関係なしに、今まで心を殺して独りぼっちで耐えてきた女の子が見せる涙が、こんなにも儚くて美しいものだなんて。

 それに、こうしてアイが俺に弱みを見せてくれることが、とっても嬉しいんだ。こんな泣き方をされたら、誰だって自分の人生をかけてこの子を幸せにしてあげたいって思ってしまう。

 

 先週のあの時といい、どうやら俺はアイの涙に弱いらしい。

 

「エルぅ…」

 

 しばらくアイをあやしていると、不意に俺の肩に顔を埋めていたアイと目が合った。

 その顔は涙で赤く腫れていたが、不安や怯えといったものはなく、安心と信頼と照れが混ざり合ったような、熱っぽい視線だった。

 

「もう平気?」

「うん、大丈夫だよ」

「そっか。……ねぇ、アイ。一つ訊いてもいい?」

「なぁに?」

 

 一拍置いて、問う。

 

「その涙は悲しい涙?それとも幸せな涙?」

「すっごく…幸せな涙だよ…!」

 

 涙で濡れた頬に、虹のかかるような晴れやかな笑顔。

 即答だった。それが何よりも真実味を帯びていて、今この子は心から幸せを感じてくれたんだと知る。俺に対するその信頼が、とても心地良い。

 

「それはよかった!」

「うんっ!」

 

 アイは真っ直ぐ俺の目を見て満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔を例えるなら、雨上がりの曇天の空に一筋の光が射し込み、満開の虹が咲くようなものだと思った。分厚い雲が晴れて、澄んだ青空がどんどん広がっていく。そういうアイの心情を表しているように感じられたんだ。

 

 この時から、アイとの心の距離がもっと近づいたのは間違いないだろう。

 

 ◆◇◆◇

 

 あれからお互いにべたべた手を繋いだり、腕を組んだりして恋人らしいデートを満喫して、時刻はちょうどお昼を過ぎたところだ。

 

「駅前に新しいコーヒーのお店ができたんだって!」

「へぇ~。アイはコーヒー飲めるの?」

「黒いやつは飲めないけど、ミルクとか入ってるのなら飲める!」

「おお~すごいね!じゃあ行ってみる?」

「いこいこ!」

 

 広いけど人通りの多い商店街を、俺の手を引っ張って走り出すアイ。器用に他の通行人を避けて走る小さな背中に声をかける。

 

「走ると危ないよ」

「平気だよ~!」

「もう、しょうがないな」

 

 そしてやって来たのはまさかのスタバだった。え、嘘?スタバってこの時代にあるんだって思ったけど、スタバ以外にもYouTubeとかニコニコとかあるしそんなものかと自分を納得させた。

 というか、もしかしたらこの世界の時間軸が変なのって俺のせいかも。俺が記憶取り戻す前に無意識に歴史改編しちゃってる可能性がある。

 

「…………ま、いっか」

「エル?何か言った?」

「ん?なんでもないよー。スタバが日本にあるの知らなくて驚いちゃった」

「へー!エル知ってる感じ?」

「多少はね」

 

 そんな会話をしながら店内に入ってテーブル席に着くと、テーブルの上にメニューシートが置かれていた。どれどれ…。

 

「お!サクラ咲くフラペチーノあるじゃーん!」

 

 まさかの最新のやつだった。うん、もう気にしないことにする。今はただ歴史改編してくれた(トゥエル)に感謝をってことで。

 

「え、なにそれ!サクラ咲くふらぺちーの?…なにそれ?私でも飲めるの?」

「飲めると思う。コーヒーとミルクと果汁とかを氷と一緒に砕いたものだから。普通のコーヒーと違って苦味より甘味のが強いからアイでも飲めるんじゃないかな」

「へぇ~、じゃあ私もエルと同じやつにする!」

「ストロベリー平気?」

「うん!」

「おっけー!ならもう頼んじゃうね」

「はーい」

 

 早速注文すると、午後一時を過ぎてることもあり、数分もしないで持って来てくれた。

 

「わ、綺麗だね!」

「ねー」

 

 テーブルの上に二つ並ぶ、桜色の華やかなフラペチーノ。まさかまたこれを飲めるとは…マジで歴史改編様々だな。

 

「「いただきます」」

 

 まずはスプーンでマカロンのフレーバーごとホイップクリームを掬って一口。

 

「んー!おいちい♡」

「あ、ほんとだ!なんか、優しい甘さって感じ!」

 

 このサクサク食感と程よいストロベリーの甘さが堪らない。

 同時に懐かしさも感じる。そうだよなぁ、7年ぶりだもんなぁ。

 

「フラペチーノ、だっけ?私、これ好きかも!」

「おお!やったー!仲間が増えたー!」

「えへへ♡」

 

 アイも気に入ってくれたようでなにより。

 やっぱりフラペチーノはイイ。

 

「エル」

「ん?」

「はい、あーん♡」

 

 なん…だと…!?こ、これは伝説のカップルの定番イチャイチャの〝あーん〟だと!?まさかアイの方から…!最高過ぎる!これだけで今日デートできて良かったと思えるくらいだ。

 

「待って、私も!…はい、あーん♡」

「食べさせ合いしよ♡……はむっ♡」

「あむっ」

 

 この感動を一秒でも長く味わうべく、ゆっくりじっくり咀嚼する。この身体は良くも悪くも敏感だから、口内に漂うサクサクのマカロンと柔らかいストロベリーホイップに加えてアイのほんのり甘い唾液の味すらも感じ取ってしまう。

 

「ん!なんか、今までで一番おいしいかも♡」

「ほんとに!?えっへへっ…、嬉しい…♡」

「ふふふ…」

 

 やっぱりあーんは至高なんだなって理解させられた(わからされた)。あーんには勝てなかったよ…。

 周りからねっとりした視線を感じるけど()()()()()どうだっていい。今はただただこの幸せを噛み締める。

 

「間接キスしちゃったね♡」

 

 頬を桜色に染めながら恥ずかしそうにこちらを窺うように見つめるアイが可愛過ぎる。

 

「ねー♡おいしかった!」

「私も♡今度は口でしようね♡」

「いいよぉ」

 

 アイに見惚れていて、思わず間の抜けた口調で肯定すると、蕩けそうなくらい甘くまろやかな笑みを浮かべた。もうすっかり見慣れたはずのそれに、どこか歳不相応な妖艶さを感じてしまって、ドキリと心臓が高鳴った。

 けれども、さっきからアイの可愛さにノックアウトされっぱなしの俺の精神とは裏腹に、この完璧な肉体(冷静沈着なトゥエルボディ)はそれを噯にも出さないから大したものだ。

 

 二人で約束を取りつけつつ、俺たちは残りのフラペチーノも食べさせ合った。

 あぁ、とっても幸せな時間だ…。

 

 その後少し休んでから店を出て、ゲームセンターに立ち寄ってクレーンゲームでぬいぐるみを取ったり、有名な髭親父のレースゲームでまさかのランキング一位になったり、ゾンビゲームでこれまたランキング一位になったりと、この最強の肉体のポテンシャルを遺憾なく発揮して、俺もアイもすっかり熱中してしまい、日が傾き出した頃になってようやく二人で手を繋ぎながら帰宅したのだった。




【天使】
お金欲しいなぁ。でもズルして稼ぐのは気が引けるなぁ。そうだ、アイドルになろう。軽いノリでアイドルになることを決めた。この瞬間、アイドル界隈の勢力図が一新することが確定した。全アイドルは泣いていい。女性物の服の種類なんてわからない。衣装は決まったが、そのうちこっそりドレスを元に戻してアイにこってり絞られる予定。それはそうと最近暇だなぁ。歴史改編の件は実は正解で、記憶が戻る前のトゥエルが主人公のために弄ってくれた。フラペチーノおいしい、また行きたい。デートできた。アイとの距離も縮まってハッピー!

【一番星】
本当はエルにアイドルになってほしくない。でもエルが自分のことを考えてくれてるのはわかってるから、妥協に妥協を重ねて許可を出した。でも露出の多い服は絶対にだめ。ぶっちゃけ服装とか関係なくエルなら天下獲れるでしょって思ってるけど、エルのやる気を削ぐようなことは言わない。エル限定で空気の読める子。でもやっぱりエルが仕事してる間だけでも離ればなれになるのは嫌だなぁ。
デートできた嬉しい♡エルは素材が良いから何着ても似合うよね。見てるだけで楽しめるってすごいことだよ?大好きな人からのプレゼントに嬉しくて思わず涙した。まだ上手に泣くことに慣れていない。大丈夫、天使はそんなあなたを優しく見守っている。スタバでエルと間接キスできたし着実に進んでいることにご満悦。
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