メンヘラ天使とヤンデレ一番星   作:リララ

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ラテン語とギリシャ語って中二心をくすぐられるよね

 アイが俺を追いかけてアイドルになる宣言をして早一週間が経過した。

 この間、俺はアイに五線譜や音符や記号の意味、使い方、それに伴う楽譜の読み方や作曲のやり方、さらには広義的な音楽知識を教えていた。

 意外…といってはアイに失礼だが、アイは学校の勉強はからっきしなのに音楽的才能はあったようで、既に簡単な楽譜ならすらすら読めるようになっていた。

 

 アイドルになるならまずは歌唱力を鍛えるって?

 違うな。それは凡なアイドルに限った話だ。アイは既にそんじょそこらのアイドルでは足下にも及ばないほどの歌唱力がある。本人曰く、毎日エルの歌を聴いていたら自然と自分も歌えるようになっていたらしい。

 アイは天才だ。トゥエルという高次元の肉体を持つ俺はともかく、アイは普通の人間の女の子て、まだ7歳という若さ。声帯だって未発達だし技術的にもまだ粗が残るものの、何か恐ろしいものを持っているというか、驚異的なクオリティなのだ。きっとこれが本物というやつだろう。

 おかげで歌唱力の方はある程度後回しにしても問題なかった。発声による音の使い分けよりも、静聴による音の聴き分けの方を優先した方が良いだろう。

 

 というわけで俺はこの一週間ひらすらアイの音楽の先生をしていたのだ。

 そして一週間経ったということで俺のクラスの担任よろしく、簡単な小テストを作成し、アイに抜き打ちで出したのだが……結果は見事に満点。さすがアイ。

 ひとまずこれで良いだろう。時間はまだたくさんある。短期間で詰め込みすぎも7歳児の脳には大きな負担となるからな。

 一週間勉強したら次の一週間は発声練習、また一週間勉強して一週間発声練習。そういうルーティーンを組んだ方がより脳に定着するだろう。

 そうと決まればいよいよ明日からはボイトレだボイトレ!と、意気込むのはいいものの、あいにく俺は前世でもアイドルになんぞ微塵も興味なかったし、彼ら彼女らがどうやってボイストレーニングをしているかなんて皆目検討もつかない。まぁ事務所がプロを雇ってるか専属のトレーナーがいるんだろうけど、それは資金と設備があるからだ。俺たちはまだ子供。しかも施設育ちだ。親もいなければ金もない。トレーナーなんて雇えない。ならどうするか。

 

 至極簡単なことだ。ひたすら歌って鍛えるしかないだろう。

 

 幸いにも俺には前世の記憶がある。それを元に前世の曲を引っ張ってきて完全コピーすればいい。俺がもし普通の人間に転生していたら叶わなかったその芸当は、トゥエルという存在そのものがアカシックレコードというチートなら余裕なのだ。

 あらゆる曲の譜面や歌詞を覚えている…というかインプットされてる上にそれを出力する脳も持ち合わせている。元よりこの肉体は超越種故、何をしても世界一になれるポテンシャルがある。

 それを使って実践さながら歌って練習していくつもりだ。

 

 まぁ、それも明日からの話だ。

 今日は特に何をするとかは決めてない。決めてないのだが──

 

「私たちのユニット名決めるかー」

「それなー」

 

 ユニット名。グループ名。元々俺は『トゥエル』名義でソロデビューするつもりだった。芸名もそのままトゥエルだ。先週までの俺はまさかアイとツインボーカルユニットを組むなんてこれっぽっちも思ってなかったことだろう。正直、今もまだ驚きが残ってる。

 

「『トゥエル』『星野アイ』のままでもいいんじゃない?」

「それだとお互い個人活動してるっぽくなるからやだなー」

「じゃあお互いの愛称をくっ付けて『アイエル』とか?」

「えー、『アイエル』のアイでーす!とか『アイエル』のエルの方でーす!とか言うの?なんかやだ。あとその呼び方は私たちの特別のままでいたいな…」

「うむ。却下だ却下。自分で言ってあれだけど、私のことを〝エル〟と呼ぶのはアイだけがいい。アイは私の特別だからね」

「うん。私以外がエルって呼ぶのは嫌だもん」

「うん、私もアイ以外にそう呼ばれるのは嫌だね」

 

 となると…そうだな。どうせなら俺たち二人の特徴を取り入れたいな。

 こう、その名前を聞いただけでダレとダレって判るような。

 これは俺の前世、死ぬ最期まで患ってたあの病気が火を吹くときじゃないか?

 

 その名を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中二病。

 

 早速アイに提案してみよう。

 

「ねぇねぇ、どうせなら二人の特徴的な部分を取り入れた名前にしない?」

「それいいね。エルだったら〝天使〟〝虹色の瞳〟とか?」

「そうそう。アイはやっぱりその大きな瞳に宿る〝一番星〟かな。〝一番星の生まれ変わり〟とかそういうやつ」

「ならエルは〝銀河を宿す虹眼の美少女〟ってとこかな」

「──銀河?」

「うん。エルの目にはお星様がたくさん輝いてるもん。星がたくさんあるところを銀河って言うんでしょ?」

「う、うん、そう…だね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたの瞳…とっても綺麗…。瞳の中に銀河が流れているみたい…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──驚いた。

 

 まさかアイが〝あの子(原作主人公)〟と同じことを言うなんて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原作のトゥエルとしての記憶もあるから、今のアイの台詞は過去に言われたことと重なってしまった。俺が動揺して固まってしまうと、返答がなくなった俺を不審に思ったアイが俺の顔を覗き込んできた。

 

「エル?」

「ん、ごめん、ちょっと銀河なんて言われてびっくりしちゃって」

「固まってた」

「大丈夫だよ。……昔、私の眼を見てアイと同じことを言った娘がいてね。一瞬、アイとその娘が重なって見えただけ」

「──そう、なんだ」

「ぁ……」

 

 しまった…俺は何を言っているんだ…。一度出た言葉は取り消せない。そしてアイのこれはこのまま流したらダメなやつだ。俺だって、自分がアイの立場で最愛の恋人から過去の女の話が出たら嫉妬で怒り狂ってしまうだろうに。だめだ、早くアイの不安を取り除かねば…。俺自身のせいで大好きなアイを不安にさせてしまったことに、怒りを通り越して途方もない呆れと無力さを覚える。違う、今は俺のことなんてどうでもいい。早くアイのケアをしろ。

 そう思った俺はすぐにアイを抱きしめた。

 

「……昔のことだよ。別にその娘と何があったわけじゃないし、ただの協力者だっただけ。共通の敵を倒すね。ほら、敵の敵は味方って言うでしょ。そんな関係よ。もう二度と会うこともないし、何も思い残すこともないよ」

「うん…」

 

 不安気に揺れるアイの瞳。悲しい、寂しい、つらい…、強い負の感情が渦を巻いてダイレクトに伝わってくる。煌々と輝く一番星は鳴りを潜めてしまい見られない。その娘と付き合ってたわけでもなく、そういう関係になったこともない。ただ、物語の都合上(原作の展開で)一時的に同盟関係にあっただけ。

それでも、(メンヘラ)アイ(ヤンデレ)も、最愛の口から自分以外の存在が出てくることすら嫌なのだ。どんな時も自分だけを見ていて欲しい。たとえ過去であったとしても、自分以外の存在は出さないで欲しい。その気持ちは他でもない、俺自身が一番よく知っているはずなのに…。

 ああ、やからした。今のは明らかに失言だった。過去のことなんて言うべきではなかったし、動揺を見せるべきでもなかった。きっと原作のトゥエルなら動揺することもなかった。この瞬間にも俺はまだまだ未熟で、本物のトゥエルとはだいぶかけ離れているんだと痛感させられた。俺がアイの立場なら、過去のことなんて聞きたくないから。それでも足りない頭をフル回転させて、アイの心のケアをすることに全力を注ぐ。俺はアイに、未来永劫そばにいてほしいから…。

 

「不安にさせちゃったよね…?ごめんね…。もちろん私にはアイだけだよ。私の最初で最後の恋物語。アイに出逢って私は誰かを愛することの素晴らしさ、誰かに愛されることの幸せを知ったの。こんな感情、知らなかった。アイに出逢えて良かったよ。私の最愛。愛してるよ。この言葉に嘘偽りはないと、信じてほしい」

 

 言葉を紡ぐうちに、我ながら必死だなって思った。陳腐な言葉の羅列かもしれない。でも、その言葉の底にあるのは紛れもない俺の本心なんだ。それだけアイのことが好きなんだ。どうかこの気持ちを信じてほしい…。アイに嫌われたくない。アイを不安にさせたくない。そんな二つの似て非なる想いが俺の心に渦巻いていた。

 

「うん…。ありがとう、エル」

「……アイは言ってくれないの?」

「愛してるよ、エル」

「私も愛してるよ、アイ。──まだ不安?」

「ッ……」

 

 (メンヘラ)アイ(ヤンデレ)は本質が似ていると思っている。だからお互いに考えていることも自然と似てくる(ほぼ同じだ)。こういうとき、俺ならこう思う…ということがアイにも当てはまるし、逆も然り。

 メンヘラもヤンデレも、結局のところ究極の寂しがりなだけなんだ。そして少しだけ悪い方へ深く考えがちなだけ。そう考えること自体が逃げなのかもしれない。だけどそれでもいい。無理に戦う必要なんてない。俺もアイも、相手が本気でそう思ってるわけではないとか、自分の気持ちはちゃんと伝わってるとかはわかってるんだ。ただどうしても発言の一つ一つに不安になりがちで、相手には常に自分のことを考えていてほしくて、そうすることで愛されてるなって実感したいし、安心感を得たいという気持ちが人よりも強いだけ。そうすることで、この塞がらない心の穴が暖かい愛情で満たされていくんだ…。

 

「ふふ。アイのことなら何でもわかるよ。アイが今どういう気持ちなのかもね。どう、すごいでしょ!」

「……すごい」

「でしょ!そんなのアイだけだから!もう好きすぎてアイのことなら何でもわかっちゃうから!だから──アイがその子の記憶を消してほしいなら、いいよ」

「っ!それは…!」

「アイが望むなら過去の記憶すべて消して、アイと出逢ったとこからの記憶だけ残すこともできるよ。私は天使だからね」

 

 だから今俺が言ったことも紛れもない本心だ。トゥエルとして生きた記憶も、なんなら前世の記憶すらも消してもいい。それでアイが納得するならそれでいい。本気でそう思っている。

 もしも誰かに〝お前は愛されている自分が好きなだけ〟と言われたら、俺は絶対的な自信を持って〝ノー〟と言える。俺はアイのことを誰よりも愛したいし、アイに誰よりも愛されたい。

 ──いや、違う。正しくは〝俺だけが〟アイのことを愛していればいいし、アイも〝俺だけを〟愛してほしい。こんな醜い独占欲が俺の心に巣くっているけど、こればかりは治らない。きっと最期まで付き合うことになる。でも大丈夫、アイだって俺のこの醜い独占欲を受け入れてくれるし、同じことを思ってくれているはずだ。俺の一方通行じゃないことは知っている(だって俺たちは両想いだから)。だから、大丈夫。

 ずっとアイと一緒にいたい。不特定多数の愛なんて要らない…俺が欲しいのはたった一人からの愛なんだよ…。俺の心に空いた穴は、アイじゃなきゃ塞がらない。

 

「エル…重いね」

 

 俺のなりふり構わない決死の気持ち(想い)が伝わってくれたのか、アイは少しだけ笑顔を取り戻してくれた。

 その様子に回復の兆しが見えたことを確信する。ああ…よかった…。

 

「言ったでしょ?私こう見えてかなり重いよ?アイのこと窒息させちゃうよって」

「うん……、でも」

「でも?」

「──私の方が重くて深いからね」

 

 俺の目を見て、ニヤリと不敵に笑うアイ。

 これはもうほとんど機嫌直してくれたかな?

 

「なんだってー!?」

「アハハ!だって私、一瞬エルに私と出逢う前の記憶消してほしいって思うくらい嫉妬したんだよ?ヤバすぎでしょ私!」

 

 客観的にみたら相当ヤバイ発言をしている俺に引かないでいてくれるどころか、こうして同等かそれ以上の愛を含んだ言葉を返してくれるあたり、アイも重たいしそれだけ大切に思われてるんだと実感して幸せな気持ちになれる。それはとても心地良いもので、この重たい愛だけが俺の寂しさを埋めてくれるんだ。

 

「ま、私がアイの立場なら同じこと思うからセーフ。むしろそれを自分から言う私のがヤバイっしょ」

「いやいや、そんなの普通だよ!それだったらその提案に頷きかけた私のが重くて深いね」

 

 アイもアイで相当ヤバイ発言をしているけど、当の本人はそんなこと微塵も思ってないらしく、純粋かつどこか誇らしげに笑っている。

 私の愛は深いでしょ!言外にそう言っているようだった。深すぎて窒息しそうなのに、ぜんぜん苦しくないし、それどころかこの恍惚にいつまでも浸かっていたくなる。そんなアイの濃厚な愛情を全身で感じ取って、敏感な身体はぞくぞくっと身震いしてしまう。

 ──でも、愛の濃密さなら俺だって負けていない。

 

「じゃあ二人ともめちゃくちゃ重くて深いってことで!」

「うんっ!」

 

 俺が力強く頷くとアイは屈託のない笑みを浮かべてくれた。それは闇を抱えた狂気的なものでもどこか影のあるものでもなく、純粋に心から嬉しい、楽しいといったものだ。

 よかった。メンタルケア成功かな?

 

「ねぇ、エル」

「ん?」

「今度聞かせてよ、エルのこと」

「ああ、いいよ。アイには私のすべてを知ってほしいからね」

「エルの世界のことも教えて!魔法とかあるんでしょ?いいなぁ」

「ふふっ。じゃあ今日の夜にでも教えてあげるね」

 

 ここに来るまでの俺の記憶。アイにはぜんぶ見せてあげる。

 

「やったー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、これからも一緒にいてね?俺の最愛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

「ま、銀河は置いといて──名前どうしよおおおお」

 

 仲直りした──まぁ喧嘩してたわけでもないけど──アイにぐで~と後ろからもたれかかる。

 後ろからアイの首に腕を回して体重を預けると、アイは振りほどくこともせず、だらんと垂れ下がった俺の両手に自分の手を重ねて愛おしそうに撫でたあと、ゆっくり指を絡めた。

 

「んー、日本語で考えるから難しいんじゃない?」

「たしかにー」

 

 言われてみれば日本語のグループを組んでるアーティストってほとんどいないな。いてもカタカナを英語っぽく並べたりで、こう…ザ・日本語!っていう発音のグループはあまり見かけない気がする。ソロで活動する人は自分の芸名をそのままアーティスト名にしてる人が多いけど、グループ名はなぁ。

 

「星とか天使とかって英語だと何て言うの?」

「英語だとスター、エンジェルかなぁ」

「スターエンジェル…」

 

 うん、ダサいな。というか昭和アイドル感がすごい。いや、英語自体は悪くないんだけど、俺的にはこう、心に突き刺さるナニカがないというか、インパクトに欠けるというか。

 

 英語…フランス語…まだ弱い。この二つはよく使われがちで凡な選択肢だ。いや、音の響きはかっこいいよ。でもメジャー過ぎて埋もれそう。

 

 ドイツ語…イタリア語…あと一声!でもドイツ語のかっこよさは認める。もしトゥエルがドイツ人寄りの見た目をしていたらドイツ語を採用していたかもってくらいには好き。

 

 ラテン語…ギリシャ語…それだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──Mirastrea

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に脳裏をかすめた単語を口にしていた。

 

「え?みら…なに?」

「『Mirastrea(ミラストレア)』──『運命』を意味するミラと『星乙女』を意味するアストレアを繋げてみた。〝運命の星乙女〟Mirastrea」

「みら…すとれあ…みらすとれあ…ミラストレア!」

「どう?けっこう良くない?」

 

 我ながらなかなか中二極まってて良いと思う。こういうのはとことん突き詰めるべきだ。これは持論だけど、アーティストなんて中二病患ってるのが前提条件で、突き詰めすぎてオリジナリティ溢れる世界観を生み出せてやっと一流と呼べると思っている。だから俺たちももっと攻めて良いだろう。

 

「いい!すごくいい!好き!」

「だよね!人に言われるとき、〝Mirastreaのアイ〟って言われるのめっちゃかっこよくない!?」

「おお~っ!」

 

 俺もアイもその音の響きや自分がそう言われている場面を想像してテンションが上がる。

 だけど、まだまだこんなものじゃない。一つ思い付けば連鎖するように次の語録が浮かぶのが中ニ病患者の特徴なのだ。

 

「他にもあるよ!『虹』を意味するイリスと『星』を意味するアステルで、『Iriaster(イリアステル)』」

「いりあすてる!」

「イリアステル」

「イリアステル!」

「虹と星。私たちにぴったりじゃない?」

 

 先ほどのとは違ってこちらはそれぞれを象徴する単語を並べただけだが、そもそも〝虹〟と〝星〟という単語がかっこいいからその時点で様になっている。外国語もかっこいいのが揃ってるし。なんだよアルコバレノって…イケメン過ぎだろ。

 

「すごい!エル天才!」

「ふふん!」

 

 俺はドヤ顔を決めて自慢気に胸を張った。

 

「〝Iriasterのアイ〟〝Iriasterのエル〟…うーん、良い響きだ…」

「うぅ~、どっちも好きぃ…」

「これは甲乙つけ難いな…」

 

 俺が重度の中ニ病患者だから、どうしてもラテン語とかギリシャ語を使いたくなる。でもアイは女の子だから〝かっこいい〟よりも〝かわいい〟方が好ましいのかなって思ったけど、反応を窺う限りかっこいい路線も大丈夫そうだ。

 それに実際前世も含めて世間で活躍してるアーティストや、ほとんどのゲームにはラテン語・ギリシャ語を元にした名前があったりするしな。そもそもそういう世界観を題材にした作品だって、それこそ星の数ほどある。

 つまり結局のところ、みんな心の奥底には眠っているのだ。ラテン語・ギリシャ語への憧れが。もちろん俺もそうだ。あとマイナーだけどヘブライ語とかサンスクリット語とか梵字とか。俺レベルになると造語もいける。何なら原作で用いられていた言語や、誰も発音できなかった『管理世界』の言葉だっていける。誰も発音できないし地球では使う気はないけど。あ、でももし造語で詩を書くときは使おうかな。どうせ誰もわからないだろうし。

 

「そうそう、こっちの天使の一人に『イスラフィール』っていう音楽を司る天使がいるらしいね。もう名前からして好きだな」

「私は天使だったら『トゥエル』が好きだなあ」

「!!」

「えへへ♡」

 

 何気なく呟いただけなのに、凄まじいキラーパスを受けてしまった。完全に油断していた!今の不意打ちはやばい!驚いてアイを見ると可愛い顔でぺろっと舌を出して、してやったりとウインク。はぁ~~俺のアイが可愛すぎる。そういうところだよほんとに!

 嬉しい嬉しい超嬉しい!心の奥底から溢れんばかりの嬉しさが込み上げてくる。身体が震えて、感極まってアイに勢い良く抱きついた。

 

「~~~~っ!アイしゅき♡」

「エル~♡しゅき♡」

「いっぱいちゅき♡」

「ちゅき~♡」

 

 アイも抱きしめ返してくれて、二人でぎゅうっと抱き合って顔中至るところにライトキスの雨を降らす。

 それからしばらくの間、部屋にはちゅっ♡ちゅっ♡というリップ音と、幸せそうな二人の笑い声だけが反響していた。

 

 あ~幸せ♡

 

 ◆◇◆◇

 

「イスラフィール。最後の審判にてラッパを吹く音楽を司る天使…か」

「最後のしんぱん?」

「あー、大昔の人が書いた本に出てくる信仰で、世界が滅んだあと、人間たちは天国と地獄、どっちに行くんだろうね?ってのを決めるイベントだよ」

「ふーん。私もエルと一緒なら天国でも地獄でも何でも良いよ」

「ふふ、その前にアイは私のだから天国にも地獄にもあげないよ。私と一緒に無常天に来てもらうからね」

 

 まぁそもそもアイは私が不老不死にさせるから死なないけどね?認識阻害を応用すればどうとでも誤魔化せるし、アイを天使化させてもいいかもしれない。もちろん本人の意思を尊重した上でだけどね。

 

「むじょうてん!」

「うむ。そこでずっと一緒に暮らそう」

「うん!」

 

 さぁて、名前の続きを考えますか。うーん…イスラフィール…アイリス…イリアステル…閃いた!

 

『いりやすふぃーる』

 

「!!」

「!!」

「なんか今脳内に『それはダメだ!』って声が聞こえた」

「私も…なんかこの名前を使ったらナニカが終わっちゃう気がする…」

 

『あいりすふぃーる』

 

「!!」

「また聞こえた!!」

「この名前もダメだね…」

「うん…」

 

 俺たちは謎の電波を受信したことで、その名前を諦めざるを得なかった。

 うーん、とても素敵な音の響きだっただけに残念。

 

 ◆◇◆◇

 

 その後色々候補を挙げていったが、どれも最初のものを超えるインパクトはなく、最終的に『Mirastrea』と『Iriaster』の二択になった。こういうのって結局最初のが一番しっくりくるものだよね。

 

「ミラストレアとイリアステル。どっちにしようか」

「うーん…………ミラストレア!」

「ほう!その心は!」

「『運命』って言葉が素敵だなって思った。星乙女の導きの下で、私とエルの二人が運命的な出会いをしたって思うと…ね?素敵じゃない?」

 

 それを聞いて感心した。アイにしてはなかなかオサレな解釈だ。

 

「なるほどね。アイにしては文学的じゃん」

「あー!そうやってバカにして~!」

 

 可愛らしくぷりぷり怒るアイも可愛い。普段は小悪魔的な可愛さの面が強いアイだけど、こういう時は年相応の無邪気さというか、小動物的な可愛さになるというとか、とにかくずっと愛でていたくなる。

 

「ふふっ、ごめんごめん」

「でも、私たちの『星』と『虹』を合わせたイリアステルもすっごく好き!」

「そっちはそっちで楽曲でも作ろうかな」

「デビュー曲のタイトル?」

「ん、実はデビュー曲はもう考えてあるんだ」

「そうなの?」

「うん。まだ内緒だけどね」

 

 まだデビューはおろか事務所も決まってなければ収録のための機材もない……構想だけの状態。楽曲だけはたくさん作ってるんだけどね。

 まぁそれは前世の知識から書き下ろすだけの簡単なお仕事ですから。

 

 でもユニット名が決まったのは大きな一歩だ。

 衣装もそうだけど、こうして具体的な構想が出来上がるとモチベーションの向上にも繋がるな。

 

Mirastrea(ミラストレア)

 

 その名は〝運命の星乙女〟を意味する。

 

 瞳に一番星を宿すアイと、銀河を宿すトゥエル。俺たちが星の女神の導きの下に運命の出会いをした。

 運命の星乙女──それは俺たち自身だ。あるいは──星の生まれ変わり。

 

 うん、なかなか良いんじゃないか。

 

「Mirastreaのキャッチコピーは、〝あなたを導く運命の星乙女〟とか良くない?」

「えっ!めっちゃイイ!それめちゃくちゃ好き!」

「でさ、自己紹介する時に分担して言うの。どっちかが〝あなたを導く〟って言ったら、もう片方が〝運命の星乙女〟って」

「おお~っ!!なんかすごいアイドルっぽい!!」

「でしょっ!?ちょっとやってみない?」

「やろやろ!」

 

 すっかりその気になった俺たちには恥じらいなんてものはない。

 

「じゃあいくよ?──どうも、トゥエルです

アイでーす!

あなたを導く──

──運命の星乙女

 

「「〝Mirastrea(ミラストレア)〟ですっっ!!」」

 

 こ、これは…!

 

「「おお~~っっ!!」」

 

 最高かよ──!

 

「やばっ!めっちゃイイじゃん!」

「ねっ!これすごくイイよ!」

「決まりだね!これで行こう!」

「うんっ!これで決まり!」

 

 こうして俺たちのアイドルグループ名とキャッチコピーが決まった。

 

 先に言っておくことがある。俺たちはアイドルになるのは確定事項だが、可愛らしさを全面に押し出したスタイルで征くつもりはない。俺はもちろんアイだってそこら辺のアイドルや女優が裸足で逃げ出すレベルの顔面偏差値なのだ。可愛らしさなんて(そんなもん)わざわざ推さなくても後から勝手についてくる。それよりも俺は俺の──俺たちの歌を聴いてほしい。せっかくトゥエルになったのだから文字通り天使の歌声──実際は天使じゃないけど──をこの世界に披露したい。そしてアイドルとしても歌手としても世界の頂点に立ちたい。

 もちろん最終目標は海外の別荘地でアイとの蜜月を過ごすことだ。それはブレることはないが、そこに至るまでの過程を充実させたいと思っている。どうせやるなら世界一にならないとな。目標は高いが俺たちなら確実に届く距離にある。

 

 楽曲もそうだ。俺はすべて自作の楽曲を持ち込んでそれを歌うつもりだ。ぶっちゃけ俺の前世の好みが多段に反映されているが、知ったことか。ここまで作成した曲の中で、アイドルらしい曲はほとんどない。それでも俺たちの容姿と歌唱力なら何のハンデにもならないだろう。俺たちはあくまでもアイドルだが、その実ノンジャンルのツインボーカルユニットとして活動してきたい。アイがどう考えているかは分からないが、俺の方はアイドルらしいキャピキャピした曲が苦手というのもある…。もしアイがそういうアイドル然した曲を歌いたいと言ったらもちろん作るけどね。

 

 とりあえず今年は作曲とボイストレーニングを頑張ろうかな。

 あとパソコン欲しいな…。ついでに携帯も。

 デビュー前の下地作りに、前世でも流行ってた動画投稿サイトにいくつか曲を投稿したい。できれば二人、アイがダメだったら俺だけでも顔出しで。……いや、顔出ししたらそっち関連のコメントばかりになりそうだし歌声だけの方がいいのか?どっちにしろ、そういうところで固定のファンを獲得してからメジャーデビューを果たしたい。そうすればいきなり埋もれることはないだろう。実際前世でもYouTuberになる際はまずTikTokやニコニコ等である程度固定ファンをつけてから、と聞いたことがある。

 メジャーデビューするに当たって、いかにスタートダッシュを掛けられるかが大事だろうし。もし初手で爆発すれば、一気に新規のファンを獲得できて、その後も安定した成績を残せるようになると思われる。もちろんその時の事務所の意向云々もあるだろうが、やっぱりある程度ちゃんと俺たちの意見が通るようなところと契約したいな。

 

 あとは、実際に不特定多数に聴いてもらって彼らの反応を見て今後の動向を決めたいってのもあるしな。

 

 それと単純にヒマ潰ししたい。携帯ないならせめてパソコンは欲しい…。できればゲーミングのがいい。パソコンは携帯以上に値段によって性能が分かれるし、出来れば最新か一つ前のモデルが欲しい。こればかりはもう自作しよう(能力使おう)かな?

 

「それにしても、今の口上よく一発で合わせられたね?何気にすごくない?」

「ね!なんか体?口が勝手に動いた」

「え、やば」

 

 これが以心伝心ってやつ?いつかお互いに声に出さずとも思ってることを伝えられるようになれたらいいな。そういう関係に憧れる。いつしかそれが当たり前にできるようになれば、世界一のアイドルもぐっと近づくだろう。

 ていうかさ、まだ出逢って少ししか経ってないのにもうお互いに思考(イメージ)を共有できるって──

 

「私たちめっちゃ相性良くない!?」

「ね!」

「つーかアイ天才じゃん!」

「えっへへー♡でしょ!」

 

 若干の照れを誤魔化すようにぺろっと舌を出してはにかむアイが今日も可愛かった。




【天使】
まだなってないけどアイドルとしては既に超越者。最初からレベルキャップが外れている。歌も踊りも表情も仕草もすべてが極まっている。実は歌唱力だけなら現時点で世界一の実力があるが、自己肯定感が低いせいでまだまだこれからだと思っている。歌唱力だけでなく踊りやトーク力、カリスマ、注目度とか知名度も含めた総合的な世界一を目指している。
アイに原作主人公と似たような台詞を言われてびっくり。思わず顔にも態度にも出てしまった。やってしまったと思った時にはもう遅い。でも、相手の立場になって物事を考えるという成長でなんとかケア成功。アイと出会う前の記憶を消してもいいはすべて本心。徐々にメンヘラの本性が明らかになりつつある。でも、実際は俺もアイもただ寂しがりなだけなんだよな…。だから俺たちは片時も離れられないんだ。同等の愛をぶつけてくれるアイにますます依存していく。
やっぱり中二病と言えばラテン語とギリシャ語でしょ!『ミラ』ってファンタジーじゃかなり使われてるけど、『運命』はズルい。ミラって音の響きも、意味もかっこよすぎる。『アストレア』?星乙女なんてまさしく俺たちのことじゃん。『運命の星乙女』?採用!
それはそうとアイって天才じゃない?俺のアイが可愛くて最強で嬉しい♡

【一番星】
まだなってないけどアイドルとしては間違いなく天才。…なんだけど身近に超越者がいるせいで既に歌唱力だけなら原作の領域に達している。さすがに全盛期レベルではないが、まだ7歳だからここからさらに伸びていく。このとんでもない成長速度は簡単に言うとエルがそばにいることでレベルキャップが外れたから。まだまだエルと比べると荒削りだが、容姿込みで現時点で既に最強クラスだし努力次第でエルにも並び立つかもしれない。最早才能とかそういう言葉では言い表せないエルの実力に密かに尊敬と憧れを抱いている。そしてそれを誰よりも近くで見られることがとても嬉しい。
エルの過去に言われたことある発言で覇気と黒い衝動を混ぜたようなものを発現させた。エルに過去の記憶消してもいいと言われた時は割と本気で迷った。でも、自分とエルの時間はこれからたくさんあるし、エルも本気で反省しているのは見て明らかだったから、その後のエルの献身的なケアも相まって早めに立ち直れた。
エルの寂しさを埋めてあげられるのは私だけだし、私の心を満たしてくれるのもエルだけ。
私たちの出逢いは『運命』だよ、エル。
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