書きたい欲が復活したけどブランクがあるので、取り敢えず自分が書きたいのを一気に書いただけのリハビリ作品。

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不死身の男は今日も周りを曇らせる

 突然ですが、私は今大量の魔物に囲まれています。

 右を見ても左を見ても、空を見上げても、何だったら多分、足元地面の下にまで、360度全てにおいての完全包囲。

 空から魔物の軍勢のど真ん中にぽいっと投げられでもしない限りはなかなか有り得ないこのシュチュエーション、当然ながら今に始まった訳でもなく、もう半日は同じような状況に身を置いています。

 身体は血だらけ、服もボロボロ、使い物にならなくなった武器や盾は投げた後にどこにいったか。客観的に見て満身創痍なひとりぼっちの人間と、ようやく自分の番が来たかと獰猛な吐息と共に身体を揺らす魔物達。君たち多勢に無勢って知ってる? 

 

 さて、どう見ても将来的には死ぬしか無いような状況。ここでこんなはずじゃなかったと悪態のひとつでもついて唾でも吐けば格好もつくかもしれないが、残念ながらはずじゃなかったもくそもない。わたくし、この状況は想定外でもなんでもなく。仲間やら何やらに騙されたとかでも一切無くて、自ら望んでこの魔物天国にやってきました。

 

 本日は赤い月の日。いつものお日様はお休みを貰い、1日中空に我が物顔で居座る無闇に明るい赤い月が目に悪い世界を映す、弱者お断りのハードモードな世界が現れる。

 どこから沸くのか雑魚から伝説のお話にいそうな化け物まで、今日は自分達が支配者だと我が物顔で世界を蹂躙する、この世の終わりを考えてしまう月イチでくる大イベントである。

 

「おっ」

 

 ちょっと疲れたのでそんなことを考えながら休憩していると、見に見えない斬撃が左腕を切り飛ばした。おや、魔術個体が現れたようである。取り敢えずそのまま飛んでいきそうな腕を回収。便利な収容魔術を使って腕をその中に放り込んだ。くっ付けたほうが早く治るからね。勿体ない。

 

「魔術なら負けないぞー」

 

 言いながら、防護壁を魔術で展開。

 バキン、バキンと音を立てて壁が自分を守ってくれているうちに、攻撃用の魔術を展開し始める。

 負けない、なんて言ったが魔術に関しては細かい技術なんてとんと学んでない。やることは、ちから·イズ·パワーの脳筋魔術である。

 

 有り余る魔力を全身に循環。増幅回路となっているこの身体を巡らせるだけで、大量の魔力は更に馬鹿げた密度を持って爆発的に増加する。当然身体は早々に悲鳴を上げ、皮膚が裂け、漏れだした魔力と共に血が吹き出し始める。鼻血も出るし血涙だって垂れ流しだ。

 常人なら死ぬか発狂して死ぬかのどちらか……どっちみち死ぬけど。

 まぁ痛覚ありませんし? 自分には関係ないですけども。

 

「詠唱とか覚えれば楽なんだろうなぁ」

 

 声に血が混じってそうな、そんな音が言葉と共に口から出ていく。

 その頃には、空には超巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 いつ見てもぐっちゃぐちゃな魔法陣である。あれ、意味ちゃんと通っているのだろうか。まぁ、範囲と威力さえあればいいんだけどね。

 

「そろそろ月も落ちそうだし」

 

 防護壁が無くなる。展開中ずーっと魔物の攻撃に晒されていたが、別に耐えきれずに割られた訳ではない。その分の魔力を、なんちゃって大魔術の起動分に回しただけである。

 当然ながら今度はこの身体に猛攻が入る。なんとなく顔回りは防御するが、獣系の魔物に五体余さず蹂躙されていく。

 

 同時に、空が真っ白に染まった。

 

「一緒に死のうぜ」

 

 その言葉がちゃんと言えたか定かでは無いほどに、直後轟音が世界に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「また……あんたって奴はぁ……!」

 

 ぷるぷると震える目の前の女性。全身に力が入り、目をつぶって肩を怒らせ、音が聞こえてきそうな程に握りしめられた拳。うむ、もう何度も何度も見てきたから確信を持って言える。これはもうはちゃめちゃに怒ってます。

 取り敢えずそんなに握りしめると痛いだろうとその拳を手にとって緩め緩めと撫でてみる。そんなに怒るなと言いたいが、諸事情から声が出ないので仕方ないのだ。

 

「そんなに怒るなぁ……? 誰が怒らせてると思ってんの!!」

 

 流石に長い付き合いである。結果的に逆撫でたとしても、こちらの思考はちゃんと伝わっているらしい。

 もみもみしていたこちらの手を振り払う──ことはされず、包帯まみれの手を逆に両手で包まれた。あったかい。

 

「今回は特に何も構えずのほほんとしてたから流石に懲りたかと安心してたアタシが馬鹿だった。アンタ、次から一人で死にに行ったら殺すから」

「ふも……」

「死にに行ってないって? そう見えないから言ってるのよ。スタンピードの日にあんなガラクタ持って外に出るなんて、自殺しに行ってるのと同じじゃない」

「もふ」

「何も持って行かないと怒るから持っていったのに? ……アンタねぇ。ロクに使えもしない剣と盾なんて荷物でしかないじゃない。しかも数打ちの安物とか、役に立ったの?」

「もふ」

「嘘つけ。使ったはいいけど直ぐに使えなくなったから捨てたんでしょ。それっぽいゴミ転がってたわよ」

 

 なんでもいいけどどうして会話出来てるのだろうか。こっちは全身無理矢理巻かれた包帯まみれで口まで覆われ、喉も治ってないうえ、そのせいでふもふもしか言えていないというのに。

 

「とにかく、治るまでアンタはここで監禁させてもらうから」

「ふもも……」

「仕事ぉ? アンタが粗方吹き飛ばしたせいでしばらくノープランよ。素材くらい残して欲しいわ」

 

 はん、と鼻で笑った彼女は、ベッドに座る自分をあからさまに見下してきた。それはゴメン。見渡す限りの平原にでっかいすり鉢出来てたもんね。治ったら埋めにいくから……。

 

 ギシリ、と木製の椅子に腰かけた彼女は、その横にあるテーブルから読みかけの本を手に取った。

 本当は目が覚めたら色々後始末しにいくつもりだったが、ボロ雑巾になっていた自分を回収したのも、治療してくれたのも彼女だろうし。流石にこれ以上彼女を怒らせるのもちょっと気が引けるので、大人しくもう一眠りしようかと思う。

 と、横になったところで。

 

「そういえば、アンタ腕は?」

 

 あ。

 

 言われて見れば腕が吹っ飛んだままである。これ以上時間を置くと腕の再生が始まってしまい、せっかく回収した腕が無用の長物になってしまう。

 もう一度起き上がって、しまっておいた腕を引っ張り出した。

 

「……くっつけるから、寝るのはその後ね。貸しなさい」

 

 すみませんねぇ毎回毎回。

 

「そう思うならせめて五体満足で帰ってきなさい」

 

 ぐうの音も出ないとはこのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 無事全快しました。

 

 

 かかった日数は約一週間。完全自己治癒能力に任せたのでなかなか治らなかったものの、別段無理する必要もなく、というか四六時中看病と言う名の監視を受けていたので無理も出来なかったというか。

 何はともあれ完治したのでこの軟禁生活も終わりである。吹っ飛んだ腕もちゃんとくっつきました。

 

 

「……少し遅かったんじゃない?」

「怪我の質かなぁ。魔物にやられた怪我なんて戦いながら治ってたし、最後の魔術が悪かったかも」

 

 とある事情からこの身体は人間離れした性能を持っているので、多少の怪我なら直ぐに治るし、普通なら死んでしまうような大怪我でも気にしたものではない。腕が飛ぼうが足がもげようが、時間をかければ普通に再生するトンデモボディなのだ。

 そんな不死身に片足突っ込んでいるような自分だが、言った通り怪我の種類によっては治りが遅くなるものもある。

 今回は最後の魔術行使の際に自分の身体で魔力を増幅させたので、身体の中身がズタズタになっていた。その直後にあの魔力にモノを言わせた超極大の雷である。普通なら二回死んでる。

 まぁ、そんなこと言ったらこれまでに何回死んでるんだって話だけど。

 

「さ、先ずはギルドに行ってから穴埋めにでも行きますかー」

「ギルドに行くなら、諦めてアタシ達のパーティー入りなさい」

「それはダメー」

「なんで」

「こんなの連れてたらキャリアの傷になるじゃん」

 

 

 彼女は冒険者ギルドの中でも何百年に一人の天才とか言われてる超実力者である。そんな彼女の仲間達も例に漏れず才媛の集まりなのに、そこに自分がぽんと入る訳にはいかない。最初からいたならともかくだけど。

 それに、もう自分の戦い方を変えることも難しい。敵も味方も、なんなら自分まで巻き込んで殲滅していく自分の戦い方では、パーティーにいるだけ邪魔というものだ。

 

「毎回毎回ズタボロになった挙げ句アタシに引き摺られてる時点で遅いと思うけど?」

「それはありがとう。でも僕は一人でいいのさ」

 

 この生活が苦痛で苦痛でたまらないって自分で思っているならともかく、どうにも自分はその辺り麻痺してしまったのか特に辛いとは思っていないのだ。

 それにほら、毎回とは言うけどたまには無傷で済む時もあるからね。お金だって沢山入ります。そんなに使うことも無いけど。

 

「そんな訳でいってきまーす。あ、治療費と宿代は、ギルド通して払っとくね」

「……次死にそうになっても助けないからね」

「死ななければおっけーおっけー」

 

 いやぁ、逆にどうしたら死ねるんだろうね? 

 

 

 

 

 つい数日前まで死にかけていた小柄な身体が、元気に部屋から出ていった。開いていた本を閉じて、彼が寝ていたベッドに腰掛ける。

 

「こっちの気も知らないで」

 

 毎回毎回、死にかけたアイツを見付ける度に心臓が絞られる思いをする。今回はまだマシだったけれど……それでも全身黒焦げの片腕が無い状態だ。それでもかなり再生が進んだ状態だったのだろう、周りの魔物だったであろう物達はほぼほぼ全て吹き飛んでいた。一体直後はどんな状態だったというのか。

 

「ノルン? 入っていい?」

「いいよ」

 

 扉の外から名を呼ばれ、顔を上げる。

 入ってきたのは、仲間の一人だった。

 

「どうだった?」

「駄目だった。またフラれたわ」

「頑固だねぇ。もう何年フラれ続けてるの」

「色々含めてもう十年」

「アンタも頑固だね」

「アタシは一途なのよ。一緒にしないで」

 

 十年……。そう、もう十年だ。アイツがあんな身体になってから、あんな無茶なことをし始めてからそんなに経ってしまった。

 

 元々、アイツはただの人間だったのだ。それが、あんなクソみたいな研究のせいで……。

 

「十年……そっか。私達エルフにとってはそんなに長くは感じないけど。結構経つんだね」

「そうね。今思い出しても反吐が出る」

 

 当時、中堅クラスのアタシ達が受けた、血生臭い裏の世界を初めて真正面から受け止める羽目になったひとつの依頼。

 

 この世界は正直言ってやってられない。ただでさえ魔物蔓延る日常で、国や村の外に戦えない者が出ればまず間違いなく生きては帰ってこれない。

 たとえ、この国のように大きな壁があるような場所であっても、赤い月が昇れば安全なんて無いようなものだ。だからこそアタシ達のような冒険者や傭兵なんかが職業として成立している。

 そうなると、強い力を持つ者を育てようとするのは至極当然のこと。戦闘の英才教育や、魔術の素養があるものを率先して育てる機関がどの国にも存在する。

 真っ当にやっているところはいい。しかし問題なのは、真っ当ではない……どんな手段でも使う、平たく言えば非人道的な手段を用いて人を強くしようとする裏機関だ。

 結果から言って、この国のその機関はアタシ達が跡形も無く潰した。研究内容は杜撰と言っていいほどのものだった。これでなんで成功すると思えたのかがわからないものだった。

 そう。どう考えても成功するはずがなかったのに……そこにいた、唯一成功してしまった存在が、アイツだったのだ。

 

 アタシはそれ以前のアイツを知ってる。

 あの楽観的な性格や掴み所の無い話し方。コロコロ変わる一人称なんかは、持ち前の性格ではあるのかもしれない。

 けれど、どうしてもアタシは今のアイツが歪みきってしまった結果ああなってしまったとしか考えられない。きっと、知り合った時にはもう既に、あそこであのふざけた研究に身体をめちゃくちゃにされていたのだ。

 でなければ、どうしてあんなことが出来るだろうか。痛覚が無いからと言ってああまで身体を捨てられるか? 治るからと言って腕や足を簡単に投げられるか? どう考えても、おかしいだろう。

 極論を言えば、アイツが戦う理由なんて、アタシ達が機関を潰した時点でもう無くなっている。誰にも強制なんてされていないし、アタシがさせない。なんなら、アタシはアイツに戦って欲しくない。

 だと言うのに、アイツは嬉々として魔物の群れに向かっていく。

 まるで死に場所を探すように。どうしたら自分が死ねるのかを試すように。

 見るに見かねて、どうせ無茶をするならとアタシ達のパーティーに加えようとしたのは先程見ての通りで、それを断られたのもまた先程の通り。

 普段つるむなら嬉々として着いてくる癖に、こと戦闘となると彼は意地でも一人で戦おうとする。

 そりゃあ、確かに並みの冒険者やらであれば彼の隣には立てないだろう。敵にやられるよりも前に、彼のトンデモ戦闘に巻き込まれて命を落とすのが目に見えている。あれだけの戦闘力があるのに、アタシ達以外のどのパーティーにも誘われていないのはその為だ。

 けれど、アタシ達は違う。そもそも背中を預ける相手さえ出来れば、あんな玉砕戦法なんて取る必要も無いのだから。

 

「そもそも、アイツは戦い方の手札が少なすぎるのよ」

「そうだねぇ。一回たまたま近くにいたから手助けしたけど、こっちを気にしてかマトモに戦えてなかったもんね」

 

 今のアイツの戦い方は、良く言うならば広範囲殲滅型だ。自分ごと巻き込む、という欠点さえ除けば、魔物の軍勢相手には効率的とも言えるだろう。

 けれど、いかんせんマトモな訓練も受けていないせいで応用が出来ない。

 今回も、おそらく使ったであろう大魔術。本来ならある程度の座標を指定して、離れた場所から撃ち込むのが定石の天蓋魔術だが、不器用故に彼はそれを自分を中心にした場合にしか放てない。座標指定のイロハを知らないが為に、自分を指定することでしか魔術を展開出来ない上に、いざ発動する際には並列起動が出来ないので防護魔術も出していられない。結果、ああなるのが常なのだ。

 

 救わなければいけない、なんて思ってる訳ではない。

 アイツは自分が何をされたかなんて深くは語らないし、もしかすると望んでやっていた可能性だってある。

 けれど、なんにしたって不器用過ぎる。魔物を相手にするならもっと賢く立ち回れるはずだ。たとえ不死身に近い身体を持っていたとしても、無駄にそれを切り売りするような真似なんてしなくていい。

 友人として、それを願うくらいは良いだろう。

 

 そんなことを考えていると、扉からノックの音が響いた。

 

「ただいまー」

「え、ずいぶん早……」

 

 返事をしきる前に扉が開く。そこにいたのは、何やら泥まみれとなった彼の姿で。

 

「……一応聞くけど、何してきたの」

「予想よりも深い穴を埋める為に魔術使ったら頭まで埋まった。良い感じに水の魔術で流して欲しいかなぁって帰ってきた」

「…………」

 

 アタシは無言で、彼に向かってでかい水球をぶつけるのだった。

 

 

 

 


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