色々と間違ってる異世界サムライ   作:モッチー7

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第34話:英雄となった女侍

月鍔ギンコperspective

 

「魔王様の命により貴様の相手をする」

「どけ!邪魔だ!」

力任せに剣を叩きつけるが、奴は槍で衝撃を逃し、鳩尾に強烈な蹴りをたたき込んだ。

蹴り飛ばされた某は、空中で体勢を整え、なんとか地面に指を立てて勢いを殺した。

「ツキツバ!」

「見えている」

「―――万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段!これこそが究極の攻撃魔法!爆裂魔法(エクスプロージョン)!」

「魔法使いか、邪魔な―――」

「フラウがいる事を忘れないでよね!ブレイクハンマー!」

「ぐぬっ!?」

咄嗟に槍でガードした奴は、滑る様にして着地した。

「一撃でこのダメージ、魔装しなければ」

だが、その前に氷の刃が通り抜け、ミリムの右腕を肩から切り飛ばした。

宙を舞う腕と槍。

「そのような暇を与えて貰えると思ったのか」

「あぎっ!?ひぃ、ひぃいいいいいっ!!」

ミリムは傷口を押さえて逃げ始める。

転んでも立ち上がって必死で走り続けていた。

その姿はあまりにも無様で滑稽だ。

セツナ殿が目で『どうしますか?』と問いかける。

「……いや、もう良い。あんな者を斬ったところで、あの毒婦を取り逃がした時点で某達の負けです。それに……」

某は、不都合な真実の連続に耐え切れずに気を失ったノノ殿を看ました。

「あれを斬り捨てたぐらいでは、ノノ殿の心の傷は癒えません」

セイン達は既にどこにもいなかった。

「逃げられたか」

左の拳を強く握りしめる。

 

セツナperspective

 

ヒューマン共にとっては最悪と言っていい。

魔王どころか勇者までもが敵に回ってしまったのだ。

 

歓声が聞こえる。

見れば砦にグレイフィールドの旗が立っていた。

暗黒領域への道を開いた。

いつでも魔族の領域へと踏み込む事が可能となったのだ。

だが、そこに私達の笑顔は無い。

 

前線から離れ数日後。

グレイフィールドの首都へと至った私達は、宮殿へと足を運んでいた。

玉座に座るのはグレイフィールドの国王。

まだ40代と若く、その目は力強さで漲っている。

「勇者が裏切ったと言うのは真か!」

「この目で見た。ウンコセインは、勇者は魔王に連れられ暗黒領域へと向かった」

「討つべき者が逆に取り込まれるとは!とんでもない事をしでかしてくれた!」

国王は肘置きを拳で叩いた。

謁見の間に重い空気が横たわる。

既にアルマン王には、メッセージのスクロールで報告を入れている。

早い内にバルセイユ王にもセインの裏切りが届くだろう。

「しかしどうしたものか。今はどの国も聖武具を持つ程の英雄が不在だ。加えて魔王を討てる程の兵力もこちら側には無い。せめてもう少し時間があれば」

「その役目、某が引き受けよう!」

出た。

ツキツバのいつもの癖。

そのせいで、ツキツバは魔王軍の幹部と何度……

そこで、私はツキツバと出逢ったばかりの頃の会話を思い出す。

……やはり、テンショウジのホトケはこの事態を予見していたのだ!

だからこそ、この世界にツキツバ・ギンコを送り込んだのだ!

という事は、アルマン王の次の言葉が容易に予想出来た。

「よろしい。では貴公に勇者の称号を授けよう」

「え?某が?」

「とは言っても称号を渡すのはアルマン国となるだろうが。こうなった以上、可及的速やかに勇者の席を埋めなければならない。できれば元から貴公が勇者だった、としたいところだ」

『できれば元から貴公が勇者だった、としたいところだ』……ね。

各国の士気に関わるからか?

私が知る限り魔王と手を組んだ勇者は、長い歴史を見ても1人としていない……事になっているのは?

「ですが、白状すると、某は『ここ』ではない『別の世界』から来た者。故に某は部外者ですぞ」

「では、勇者の称号はサムライに与えるとしよう。それならばその事実を伏せたままでも活動出来るのではないか?」

「って!私達を巻き込む気か!?」

「そう拒むな。すでにサムライは巷で真の勇者ではないかと囁かれている。その噂にお墨付きを与えるだけの話だ。もし勇者であり続ける事が嫌ならば、パーティーを一度解散すれば良い」

なるほど、解散して新しい名前で再結成すれば良いのか。

そうすれば称号から解放され、私達は元の自由な生活に戻れる。

だが、勇者のジョブを持っていないのに、勇者になって良いのだろうか。

それに、ウンコセインがこの前言っていた『何度も何度も何度も、僕の邪魔をしやがって!』は、つまりそう言う事ね。

ま、ほぼウンコセインの自業自得だけど。

「それと暗黒領域に踏み込むのは待ってもらいたい。砦は落としたものの、未だ守りは不安定な状況だ。しばしこの街で過ごしたのち、出発してもらえないだろうか」

それはある意味ありがたい。

実は……私達の中に、今回のウンコセインの裏切りを納得していない奴がいるんだ……

 

めぐみんperspective

 

2人が謁見の間から出てきました。

「どうでした?」

セツナがぐったりとした表情で言いました。

「私達……勇者になった……」

ですが、私の答えは素っ気無かったです。

「そうですか。つまり、私もですね」

「そうだよ。お前は気楽で良いよなぁ」

もっと気楽な方がセツナのお隣にいますがね。

「と言う訳で、魔王と合戦しに往きます」

「……ま、多少の猶予は頂けたがな」

「猶予?」

セツナの話だと、連合軍の再編が完了するまでこの国で待てとの事です。

「つまり、兵力が集まったら……」

「そう言う事だ」

それは良いのですが、ツキツバがそれまで待てるかと言う問題もあるが、それまでに間に合うか……ノノの心は。

 

あれから3日が経ちましたが、未だにノノは部屋に引き籠っております。

「やはり……ショックだったのでしょうな」

「ええ。ノノ殿は、信頼し慕った者にあそこまで卑劣に裏切られたのですからな」

そして、ツキツバはもしもの事を口にしました。

「やはり、ノノ殿を村に帰すべきなのでしょう」

私は……返す言葉が無かった。

先程、ユーミルが怒鳴り散らして激しくノックしながらノノを挑発した様ですが……

「あんなヘタレ、もうどうでもいいよ!」

効果は無い様です。

まさか!?あの部屋の中で死んでいるのではないのか!?

ツキツバの見立てではまだ大丈夫だそうですが……

そんな中、1人のエルフが私に話しかけました。

「探したぞ」

「……誰ですか?」

私がボケた途端、エルフは頭を抱えました。

「あー!やっぱり忘れていたかぁー!長老が魔王軍の死人使いに操られた時、俺達スノーエルフは何の役にも立たなかったからなぁー!」

「申し訳ありませんが、私達があなたを忘れた理由はそれでは全くありません」

もちろん、目の前のエルフは首を傾げた。

「どう言う事だ?」

 

私はそのエルフに全てを話しました。

勇者セインがヒューマンを騙って仲間のふりをしていた魔王リサに誑かされ、魔王リサの進言に従って『魔王を従える勇者』を目指してしまった事。

勇者セインが魔王を斃して世界を救うを信じていたノノがショックで部屋に引き籠った事。

勇者セインが誘惑の魔眼の持ち主で、それを使って様々な女性を寝取ろうと目論んでいた事。

その全てを。

もちろん、彼の答えは絶句だった。

「こっちも大騒ぎですよ。軍の再編成の必要性が出てきましたからね」

エルフがしばらく考え、そして、

「……レベルはいくつか?」

「それを訊いて如何するのですか?この私に魔王リサに向かって爆裂魔法を撃てと?」

それに対し、エルフは首を横に振った。

「それは、あんたのレベルしだいだ」

耳が痛い話です。

「もし、魔王軍に寝返った勇者セインが本当に誘惑の魔眼だと言うのであれば、更にレベル上げに勤しむ必要が有る。もし、万が一きゃつのレベルが君達のレベルを超えてしまったら……」

……耳が痛い話です。

そこで、エルフは私に提案をしました。

「我々の里の近くにある聖武具を使ってみないか?」

確かに……『戦闘時のみ使用者のレベルを一時的に4割アップさせる』という特殊効果を備えている。

だが……

「思い出してきました……確か、ツキツバは―――」

「今はそんな事を言ってる場合じゃないだろ?」

それはそうですが、ノノの事を思うと、素直に頷けませんでした。

「問題は―――」

それに対し、エルフは真剣に答えました。

「俺が必ず説得する!今この世界に必要なのは、魔王軍と戦う者達が誘惑の魔眼を上回るレベルを得る事だろ?」

「……本気の様ですね。で、名は?」

「エドンだ」

「解りました。では……その前にフラウを呼ばせてください」

「フラウ?」

「彼女の『妖精の粉』を使えは、あっという間に着けるでしょう」

 

エドンperspective

 

「!?」

どこからか矢が飛んできて木に突き刺さった。

「ここはお前達の踏み込める場所ではない。すぐに帰れヒューマン」

高い位置から着地したのは……アリューシャだった。

「アリューシャ!聴いてくれ―――」

踏み出そうとしたところで目の前に矢が立った。

「する必要はない。エドンの後ろにいる(もの)、我々と長老に対し思うところはないのか」

……まだそんな事を言っているのか!

「話を聴け!」

「忘れたというのであれば思い出させてやろう」

……駄目だ!完全に平行線だ。

説得では時間が掛かり過ぎる!

ならば!

「めぐみんさん!フラウさん!この俺が時間を稼ぐ!その隙に―――」

「正気かエドン!?その(もの)は長老を殺した罪人の仲間だぞ!」

くそ!

俺達は完全に外界との接点を完全に失ってしまったらしいな……

偽勇者のセインや魔王リサの悪行を全く知らない。そして、サムライがそいつらから名声や手柄を奪い続けていた事も。

正直に言って、何も知らな過ぎる!

「往ってくれめぐみん!そして、世界を……魔王リサと誘惑の魔眼から救ってくれぇーーーーー!」

そして、俺は勝ち目無い戦いに挑んだ!

「……許せ、娘よ。これも、世界の為だ」

だが……

「もういいわ……力尽くで里へ踏み込んでやる!」

え?……

ここは普通、この俺を囮にしてその隙に目的地に―――

「もしもツキツバがこの場にいたら、フラウの様に自らの力で道を切り開く筈です」

「!?」

……どうやら……この俺も外界を知らぬ引き籠りに成り下がったらしい……

よくよく考えたら、この程度で負けている様では、魔王リサどころか誘惑の魔眼にすら勝てないか!

「なら……時間を稼ぐ例の爆裂魔法を―――」

「―――深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段!これこそが究極の攻撃魔法!爆裂魔法(エクスプロージョン)!」

既に詠唱を終えていた様だ……

これが戦い慣れしている者と外界を知らぬ引き籠りの差か?

「アリューシャ、お前の敗因はこの里の外を知らな過ぎた事と知れ」

 

めぐみんperspective

 

厳かで豪華な装飾が施された神殿の奥にある剣……あれこそ、聖武具!

「抜いてくれ。あんたなら」

私はエドンの言葉に頷き、そのまま剣の柄を握ると、意外と簡単に台座から抜けた。

そして、剣は豪華な装飾がされた杖へと姿を変えた。

「はー」

私はつい見惚れてしまった……

 

で、フラウから妖精の粉を貰って急ぎグレイフィールドに戻った。

すると、セツナが慌ててやって来た。

「何をやってたん!めぐみん!」

なんか怒ってる気がするが、とりあえず訳を言おう。

「例のスノーエルフの里の近くにあった聖剣を抜いてきた」

それを聞いたセツナが呆然としていた。

「あそこの聖剣を?あいつら、怒っていただろう?」

それについてはエドンが代わりに答えた。

「あいつらは世界を、外を知らな過ぎたのだ!だから、フラウさんとめぐみんさんに負けたのだ」

「……誰?」

「エドンだ。例の外界を知らな過ぎる引き籠り・スノーエルフの」

が、セツナは何かを思い出して話題を変えた。

「そんな事より!バルセイユが……墜ちた」

……やはり、新たな聖武具を手に入れたのは吉の様です。

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