月鍔ギンコperspective
まさか……
ノノ殿が自決を決意する程落ち込んでおったとは……
某の見込みが甘かった様です。
今回は思い直してくれましたが……
そう言う意味では、このぐれいふぃーるどにいる事は天祐と言えます。
なぜなら、この国は国全体が湯治場となっており、その最たる物が大衆浴場と呼ばれる、誰でも入れる風呂が有るのです。
曰く、強者は1日3回風呂に入る。
曰く、風呂から上がったあとのミルクは格別。
曰く、グレイフィールドで風呂に入らない奴は馬鹿。
兎にも角にもこの国は湯治場を中心に回っている様です。
「ふぅー、気持ちいいですぅー」
湯船に浸かって体の力を抜く。湯に浸かっていると疲れや重みが溶け出す様です。
「私達の国のお風呂はどうです?」
「うむ!気持ちいいです。で、そなたは?」
「はろー、初めまして!第一王女のルーナだよ!」
「……は?」
この国のお姫様が、民衆が入る大衆浴場に?
「気にしない気にしない。私、ここに来るのは初めてじゃないし」
周囲を見回すと、お姫様がいる事に違和感を抱く者はいない様です。
「やあ、お姫様お元気」
「……は?」
このお姫様、お忍びの意味を知っておるのか?
「ツキツバちゃん達ってマリアンヌのことを助けてくれたでしょ?だからずっと会いたい会いたいって思ってたの。実は今回の案内役、無理言ってお父様にお願いしたんだ」
それを聴いたセツナ殿が驚きました。
「マリアンヌって、アイナークのマリアンヌか」
「うん、文通相手でお友達」
情けは人の為ならずとはよく言いますが、まさかこんな所でマリアンヌ殿の友人と会うとは。
「でさ、ツキツバちゃん達はどこ行きたい?観光名所?グルメ巡り?それとも遺跡探索?」
それに対し、セツナ殿が呆れながら言いました。
「ちゃん付けはやめておけ。ツキツバのがらじゃねぇ」
「いいじゃん。その方が可愛いし」
返事が軽い。
本当にお姫様なのかつい疑ってしまう。
エドンperspective
「気にするな。ここには何人か護衛が紛れている。それに余がここへ来るのは初めての事じゃない。だいたい1日1回くらいだ」
どんな国だよここ。仕事してるのかこの王様。
「ところで君達は我が国に移ってくる気はないか」
「それって!?」
「グレイフィールドの英雄になるのだ。いや、この場合は勇者と言った方が良いか」
彼が言いたいのはアルマンの称号を返上し、グレイフィールドで改めて称号を授かるというものだった。
なんだかんだで、彼もヒューマンの王族なんだな。
ただ、やれば確実にアルマン王の怒りを買う事になる。
ツキツバ達も、グレイフィールド王も。
「ツキツバさんはその気はないと思われます。あの者は強き者と戦える事が幸せの様ですし、英雄の称号もいずれは返却するでしょう」
「無欲だな」
「それはどうでしょうか?ツキツバさんは強き者がいると聞けば、必ずやその者の許へ逝くでしょう」
国王は「なるほど。確かに欲深い」と風呂の縁へ背中を預ける。
「貴公は魔王を倒せると考えているか?」
「気持ちの上ではその心算ですが、実際は相対して視ないと解りません。実力だってかなりの開きがある、まずはそれを埋めないと話になりません」
「正直な男だな。余は誠実な者は好きだぞ」
「そりゃあどうも」
国王がわざわざ来たのはツキツバさんの本心を知りたかったのだろう。
ツキツバさんまで裏切るんじゃないかと、警戒するのは普通の事だ。
「正直?」
ノノ君?
「彼は本音を言ってませんよ」
「やめるんだノノ君!そこから先は言うな!絶望になる!」
だが、ノノ君は絶望の言葉を易々と口にする。
「誰も魔王には勝てませんよ。だって―――」
「あの裏切り者のウンコセインですら勝てなかったからかな?」
言っちゃったよ……大衆に聞かせてはいけない禁忌の言葉を。
だが、私の心配は杞憂だった。
「あの裏切り者は何時魔王と戦ったのかね?」
「それは!?……」
ノノ君は、グレイフィールド王の指摘に絶望の言葉を紡ぎ切れなくたってきた。
つまり、彼の指摘は正に図星なのだ。
「ノノ君、勇者とはどう書くかね?」
「……どう言う……意味ですか……」
ノノ君は明らかに返答に迷っている。
「君は、神に選ばれた者が勇者だと思っていないか?」
「違うと言うのですか?」
「勇者とは、蛮勇の者と書いて勇者と読むのではないか?」
蛮勇の者!?
「では!ツキツバさんは蛮勇……」
そこで私は自分の言葉を思い出して笑ってしまった。
「そうでしたな。ツキツバさんはあの時、我らの里の為に命懸けで戦っておりましたな」
「蛮勇……」
ノノ君は、この時裏切り者のセインが正体を現した魔王の前で行った恥行を思い出してしまった様だ。
「……確かに、あの時の勇者セイン様は……」
魔王と戦っていない。
そう言いかけて口を閉じる。
だが、実際にはそんな感じだ。
セインと言うヒューマンは、自分が勇者だと言っておきながら、戦わずして魔王に膝を屈したのだ。
これのどこが蛮勇の者だろうか?
なら、セインを勇者と呼ぶのはやはり間違っているのではないのか!?
「でも……」
「ん?」
「勇者セイン様以外は魔王を斃す為に必要なスキルがありません―――」
「だとしても、ツキツバさんは止まりませんよ。寧ろ、喜んで戦いますよ。我々の中でも最もツキツバさんと一緒にいた君なら、1番解っている筈だろ?」
ノノ君はまた黙ってしまった。
めぐみんperspective
「この国にある聖武具の神殿へ行く事になりました」
ツキツバの言葉に、わざわざ危険を冒して聖剣を取りに往った私は絶句しました。
「……は?」
と言う事は……私がわざわざフラウに苦労させてまでスノーエルフの里にある神殿に往く理由が無かった―――
「くくく、史上初の聖武具を持ったフェアリーになってやるわよ」
フラウも自信……どころか、どす黒い欲望が出てるな……
「大丈夫かこいつ?」
セツナのツッコミは無視され、フラウが扉に手を当てると光の波が走った。
明かりが灯り、奥へと俺達を誘う。
最奥には台座に刺さった聖剣があった。
「抜くわよ!絶対に抜いて魅せる!」
「ちゃんとイメージしろよ」
「任せてツキツバ様!フラウが絶対に必要な奴隷だってこと証明してあげるから!」
「お、おお……」
本当に大丈夫か?
ま、無駄な心配なのだが。
フラウが勢いよく剣を抜いた。
次の瞬間、剣は光に包まれフラウが扱いやすいサイズのハンマーへと変化を遂げた。
「革命的瞬間だよ!フェアリーが英雄になっちゃった!」
「ふふん!フラウにかかれば抜きまくりよ」
「おめでとう!やっぱりフラウちゃんは格好良くて可愛い!」
「えへへ」
褒められて嬉しいのか、フラウはだらしない顔だ。
「じゃあ、次はどこへ行く? ダンジョン!? 遺跡!?」
「今日はもう遅いし街に戻るつもりだ」
「え~、せっかく装備調えてきたのに!」
ルーナは途端に不機嫌になる。
そんなにも冒険を楽しみにしていたのか。少し悪い事をしたな。
だが、姫君を野営させる訳にもいかない。
今日のところは大人しく帰って貰うとしよう。
「む!?」
ツキツバが何かを気にしてフラウの方を見ると、突如、フラウが光に包まれた。
「肉体の……再構築?」
まさか種族の変化か!?
光が収束し、人の形へとなる。
だが、その大きさはフェアリーの何倍もあった。
光が収まりフラウが姿を現わす。
「……なにこれ……何が起きたのよ……」
「フラウ、お前」
フラウは身長はそこまで高くないものの、どこからどう見てもヒューマンの姿をしていた。
だがしかし、その背中にはフェアリーの証である羽がある。
「フラウ殿、早く何か着てくだされ!」
「そ、そそ、そうね!服、服!?」
がさごそリュックを漁る。
「フラウ、これなんか良いんじゃないか」
「ルーナの服じゃない」
「でもサイズぴったりだよ」
「あ、ほんとだ。ちっ、胸はすかすかだわ」
フラウの舌打ちが聞こえる。
しかし、なんでまた急に大きくなったのだろうか。
「今の種族は?」
「ハイフェアリーね。多分だけどレベル300に達したことが原因だと思うわ」
ビーストと比べると、フェアリーの身体能力は数段劣る。
フラウに変化が起きたのは、力を維持するだけの肉体を有していなかったからなのだろう。
「大きくなったのは良いけど、なんだか変な感じね。ツキツバ様やセツナがフラウサイズだ」
「お前が大きくなったんだ。けど、その大きさだと里には帰れないな」
「なんで? フラウ、大きくなっても気にしない――ぬぐわぁ!?」
しゅるん、とフラウが一気に縮んだ。着ていた服がぱさりと落ちる。
「あは、あははは!見てよ、自分で大っきくなれる!」
再びフラウのサイズがヒューマンサイズになる。
何がどうなっている?
フェアリーは謎が多過ぎる。
「フラウの時代が来たわね」
「もう行きますぞ。姫君を何の理由も無く野宿させるのは、忠義に反します」
「待って、もっと喜んでよ主様!」
付いてくるフラウはずっとニコニコしていた。
うーん、誰か説明してくれ。
セツナperspective
町に戻った私は愕然とする。
この街が、グレイフィールドの首都である、この街が火の海になっていたのだ。
「なんなのよ、これ!」
「ルーナ達の街が!?」
逃げ惑う大勢の人々。悲鳴が更に逃げ惑う大勢の人々を混乱させる。
上空から黒い塊が勢いよく降下し、突風を巻き起こして地面に足を付けた。
それは黒いワイバーン。ドラゴンの亜種。
「ははははっ!ツキツバ!こんな所にいたのか!」
ワイバーンにまたがるのはセインだった。
黒い服を纏い、腰にも禍々しい黒い剣を帯びている。奴の左腕には銀色の腕輪がはめられていた。
ウンコセインはワイバーンから下りずに、にやにや笑みを浮かべた。
「これはお前の仕業なのか!」
「そうだとも。僕が兵を率いてやった事だ」
真上を数頭のワイバーンが通過する。
それらを追う様にして複数のワイバーンが通り過ぎた。
「我が国のワイバーン部隊だ。敵の掃討に当たってくれている」
「そう言えばこの国にもいたね。少数精鋭の騎士団が」
「元勇者の貴公が何故この様な事を!」
国王は怒りから、血が滴るほど拳を握りしめていた。
だが、ウンコセインはどうでもいいとばかりに、薄ら笑みを浮かべていた。
「元なんてやめてくれないかな。僕は今も勇者だ。もちろん魔族側の勇者だけどね。あはははっ」
「きさまぁ!」
踏み出す国王をツキツバは手で制する。
「こういう時こそ、総大将は本陣に戻って配下を指揮するのが役目です。ここは某が引き受ける」
「ツキツバ殿……すまん。頼んだ」
怒りを飲み込み彼は走り去った。
本当は自身がセインと戦いたかっただろう。彼は立派な王だ。尊敬する。
だが、ツキツバは己よりも国王としての務めを優先させたのだ。
だからこそ、私は期待に応えなければいけない。
一刻も早くこの状況を収束させるのだ。