セツナperspective
セインとツキツバ、元勇者と現勇者が遂に相まみえますか―――
「さっきも言ったけど、元なんてやめてくれないかな。僕は今も勇者だ」
私は少しドキッとした。
こいつ!……心が読めるのか?
「それに、そこの罪深き女は英雄でもなければ勇者でもない、大量の人間を次々と惨殺した大罪人だ」
こいつ!?
「そう言うお前は―――」
「やめられよセツナ殿。これ以上の言い逃れは見苦しいだけですそ」
そうじゃないんだよツキツバ!
セインがやろうとしている事は―――
「確かに、某は多くの人々を斬ってきました」
なんで馬鹿正直に白状しちゃうのかなぁー……
これだと、そこの卑怯なウンコセインの思う壺じゃん。
「そうだろそうだろ!いーじゃんいーじゃん!この僕が勇者だと認められ、そこにいるツキツバが大罪人だと認めれば、それでいーじゃん!」
……言うと思った……
これじゃあ、ウンコセインの思う壺じゃん!
どうするんだよ!?この騒ぎ!?
「だが、無抵抗な者を斬った覚えは無い!某が人を斬る時、某はその者に必ず戦いを挑む意思を示している!」
卑怯なウンコセインが嬉々として言葉攻めで、ツキツバから人望と信頼を奪って逝く……
「ダメダメ。要は結果が大事。つまり、僕が本当の勇者であり、そこの罪深き大量殺人の―――」
「某の悪事を暴露したいのであれば勝手にしろ。某は気にもせん」
え?
無視?
「更に言えば、某は貴様と同じで欲深い。ただし、目指しているモノは真逆だがな」
……あれ?……
ツキツバってそんなに欲深かったっけ?
「つまり、お前は富や名声を得たいが為に、この僕から手柄を横取りして英雄気取りか?極悪人らしい考え方だなぁー!」
「黙れ!ツキツバは―――」
「飼い犬風情が。貴様こそ黙れ。偉大なる勇者様の御前だぞ」
何が勇者だ!
それに魔王のペットなのはお前の方だろ!
「……違うぞセイン殿」
「違わないよ!お前欲深いんだろ?」
「某が欲しいのは、金や地位で買える様な小さな物ではない。それに、人々の欲は十人十色。人々全員が富や名声で動いていると決めつけるのは早計ですぞ」
「嘘が下手!」
そうだった……
私達とツキツバは生きてきた世界がまるで違うんだった!
それを忘れて、完全にウンコセインの卑怯で軽薄な言葉に飲まれていた私。
私は馬鹿か!?
「セインよ……セツナ殿の事を犬と呼んだ時点で、そなたの視る目は信じるに値しない事が解ったが、某は某が欲する物の為にあえて言おう」
この時のツキツバは、正に威風堂々!
逆境すら楽しむ余裕すらある蛮勇の者!
正に勇者!
「なぜ逃げる?死力を尽くした果ての『死』にこそ、気高き誉が宿る。それが我らの唯一の『信念』ではないか。来い!その爪を牙を、某の首に突き立ててくれ。合戦をしよう!」
その途端、逃げ惑っていた筈の住民達が、野次馬となって好き勝手言い始めた。
「そうだ!本当にそこの罪人を捕まえに来たって言うのなら、最後まで責任もって捕まえてみろよ!」
「今度は逃げんじゃねぇぞー!偽勇者ー!」
「サムライ!いいぞー!」
そのほとんどは……ツキツバに好意的であった。
私……本当に馬鹿だ。
慌てず騒がずにツキツバを信じれは良かったんだ!
セインperspective
なんだこれは!?
なんで勇者である僕ではなく、大罪人であるツキツバの方を持ち上げる!?
まあ良い!
こっちには、ツキツバの嘘を暴く強烈な切り札が有るんだ!
「嘘は良くないぜ。ツキツバ」
と言う訳で、救い難い大罪人のツキツバに誘惑の魔眼を使用する。
「ぐっ!?」
ふふふ、効いてきた効いてきた♪
さあ、今からこの僕が救い難い大罪人のツキツバを丸裸にするからねぇー♪
「小賢しい……」
「やめときなよ。無駄な足搔きは辞めて―――」
「小賢しいわぁーーーーー!」
その途端!ツキツバの体から光る衝撃波の様な物が飛び出し、それがこの僕を襲い包んでしまった!
「ぐ!?ぐうぅー!?」
僕は汗だくになりながらツキツバの方を見る。勿論、ツキツバに誘惑の魔眼を掛け直しながらだ!
「ツキツバ……貴様、何をした!?」
《警告:魔眼所有者よりもレベルが上である為、効果を及ぼせません》
「なんだよ!?もおぉーーーーー!」
「余所見」
僕の横っ面を、鋭い蹴りが跳ね飛ばす。間髪入れず、空中から打ち下ろされる鉄鎚の様な拳が、僕の体を地面に縫い付ける。
「ぬるい!そんな熱の籠らぬ打ち込みでは、
屈辱!
こいつが僕より上だと!?
「バーズウェル!」
リサに貰った黒いワイバーン。
正統種のレッドドラゴンには数段劣るが、それでも怪物と呼ばれるくらいには危険な存在だ。
なのに……
「どけ」
「バーズウェル!?」
素手でバーズウェルを、蝿の様に叩き落とす。
「貴様こそ期待外れではないか?某はまだ、刀を抜いておりませぬぞ」
「黙れ。いいさ、直ぐに魔剣の錆にしてやるよ」
腹立たしさこの上ない。憤死してしまいそうだ。
「びびったかい?これこそが聖剣に代わる僕の新しい武器だ。本当はただの挨拶のつもりだったのだけれど、気が変わったよ」
「挨拶だと?」
「魔王を従える真の勇者としてのお披露目さ。宣戦布告とも言うけどね。お前を含め、僕を虚仮にした全てのヒューマンに、存分に恐怖を味わわせてやるよ」
だが、ツキツバは僕に侮蔑の視線を送りやがった!
「……やはり……貴様に期待した某が馬鹿だった様です」
「……何?」
「貴様が魔王を従える勇者ですと?ふっ、笑止、笑止!1度も魔王と戦っていない癖に、もう貴様の新しい主君である魔王を手下扱いとは片腹痛いわ!」
僕は容赦無く魔剣を振り下ろした!
……筈だった……
「なっ!?ぶぐぅっ!?」
気付けば、ツキツバはまた僕の体を地面に縫い付けた。
しかも、ツキツバは図々しくもこの僕の背中に座りやがった!?
「セインよ、欲を悪と呼ぶ気は某には無い。現に、某にも『誇りの為に命擲ち、勤めを全うするまで戦い抜き、合戦にて武士の死に様を晒す』と言う欲を達成する為に、命を賭けて戦ってきた」
何それ!?
誉高い戦死がしたいだとだとぉー!?
意味解んない!
そんな事をしたら、せっかく手に入れた手柄や名声が堪能出来ないじゃん!
「嘘が下手!がふっ!?」
「故に、某は欲を悪と呼ぶ気は毛頭無い。だが!その欲を全うする為の修行を怠れば、その欲はただの夢幻と化す!努々忘れる出ないぞ!」
この僕に説教だと?
貴様の様な救い難い大罪人が、勇者であるこの僕に説教だとおぉーーーーー!?
「頭が高いぞツキ、がふっ!?」
「本来なら、ここで貴様の首を斬り落とすのが習わし。だが!今貴様が死ねば、ノノ殿の本当の戦いに水を差す。故に、斬らぬ」
許さん……
まるで貴様が僕の殺生与奪の権利を握ってる様ではないかぁー!?
この屈辱、何時か返す!
月鍔ギンコperspective
「ツキツバ!」
セツナ殿が不安そうに某に向かって駆け出しましたが、その心配はおそらく、
「往生際を良くしましょう、セツナ殿。どんなに隠したって、事実はいずれ暴かれるものです」
寧ろ、清々しささえある。
このまま打ち首になっても構わないくらいに。
「諦めるなって!と言うか、あのウンコセインが言った事をどう説明する?」
「無駄ですよ。どうあがいたって事実は事実。後は座して裁きを待つのみです。ただ……」
そう……ただ……
「セイン殿が思ったより大した事が無かった事が心残りですな……」
そんな某の心残りに対し、セツナ殿はあっけらかんと答えました。
「そんな事、最初から解っていたよ」
セツナ殿らしい。
「でも、ノノ殿の様に勇者セインに期待はしていたのです。某の好敵手に成れる逸材ではないかと……でも、先程の暴露でその期待は霧散しました」
「先程の暴露がね。確かに、見苦しいちゃ見苦しいけど」
「笑われるかもしれませんが、セイン殿があの毒婦リサに同行した時も、リサの味方になる降りをしてリサの首を狙っていると、某の心のどこかで期待していたのですが……」
「敵を欺く為に味方を騙すって奴かい?そこまで賢いなら、セインはもっと早くに動いてるって」
セツナ殿はどこまで行ってもセインを信じない様です。
ま、今の某も同じですが。
「……それに、先程の暴露の事に戻しますが、相手の罪状を大義名分などの戦う理由とするならまだしも」
「ただ敵を不利な状況に陥れるだけの、ちゃんとした主義が無い野次馬の罵声頼りの恥知らずな暴露攻撃だと、やっぱ萎えるか?」
「ええ。それに、セイン殿が行った某の罪の暴露からは、傲慢で邪な虚栄しか感じられませんでした―――」
その途端、セツナ殿は顔を明るくしました。
「なんだ、そんな事で良かったのか。焦った私が馬鹿だったよ」
「……は?」
ともかく、某はセイン殿が暴露した某の罪についてぐれいふぃーるどの君主の裁きを潔く受ける事にしました。
……の筈でした……
「ツキツバ殿の罪状、セツナ殿から直に聴いた」
「……はい。全て事実です」
「それを、あの裏切り者のセインが暴露したと言うのだな?」
「は」
「で、ツキツバ殿は何を望む?」
「某に出来る事はもはや1つしかありませぬ。この場でぐれいふぃーるどの君主の裁きを潔く受けるのみ」
ぐれいふぃーるどの君主の溜息が漏れました。
「……では裁きを告げよう……ツキツバ・ギンコ」
「は」
「そなたがセインに代わって勇者となり、魔王に討たれて望み通り誉高い戦死を得るが良い」
「は……はあぁーーーーー!?」
某にとっては予想外の展開でした。
某は本気で打ち首になる覚悟で来たのに……
え?え!?どういう事!?
「あの裏切り者がそなたの何を知っていようと気にするな。どんな真実も、聞く者が信じねば意味が無いのだ」
しまった!
その手があったかぁー!
全く、悪銭身に付かずとはこの事だな!セインが手柄と名声を得る為に行った行為が、逆にセインから人望を奪う結果になろうとは!
「そう言う事ですわ。ツキツバ殿」
「そなたは……マリアンヌ殿!」
「ふふっ」
彼女は某達の横を通り過ぎ、国王の前へと歩み出る。
それから赤い箱を国王へと差し出した。
「わざわざ遠い場所までご苦労だった」
「とんでもございません。この様な素晴らしき日に立ち会えた事、心より嬉しく思っておりますわ」
国王は玉座から立ち、赤い箱から蒼い石を取り出した。
それを某の腕輪へとはめ込む。
腕輪には竜の眼のような美しい宝石が輝いていた。
これこそが勇者の称号。証だ。
あの日、この世界に放り出された某は、今日が来る事を欠片すらも想像していなかった。
人生何が起こるか分からない。まさにその通りだと思うよ。
セツナperspective
「いやぁー。色々と助かったよ」
使者は騎士のいでたちをした、ロアーヌ伯爵の娘マリアンヌ。
スマートな足運びとゆさりと揺れる胸、凜々しい顔つきは、以前の印象を変えるくらい様になっていた。
「マリアンヌさんは、また少し変られましたね」
「わたくしもあれから大変でしたの。レベルが上がったおかげで、近辺の魔物退治などにかり出されるようになりまして。それに加えて花嫁修業ですから、毎日が忙しくて忙しくて」
「でも、一段とお綺麗になりましたよ」
「ふふっ、ツキツバさんからそう言っていただけると、自信が湧きますわ」
いや、彼女は冗談抜きで本当に変わった。
ノノが持つ経験値倍加・全体【Lv50】と言うスキルの影響もあるが、最大の理由は成長に見合うだけの苦労をしたと言う事だろう。
つまり、彼女には冒険が出来る程の蛮勇が備わっていたと言う事になる。
それに加え、その成長をさらに輝かせる気品も備わっている。
私の見立てでは、ウンコセインはもうマリアンヌには勝てないだろう……
名声に堕ち、地位に甘え、蛮勇を捨て、悪しき力に頼り、損得勘定で主君を選ぶ……
ツキツバが言う『傲慢で邪な虚栄』が言い得て妙だよ。
「まったく……面倒な事をかましてくれたね、ウンコセイン」