色々と間違ってる異世界サムライ   作:モッチー7

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第38話:勇者の計算外その8

セインperspective

 

「ぺっ、ぺっ、ツキツバめ」

起き上がれば、頬に激しい痛みがあった。

グレイフィールドの街を襲ったのはいいが、偶然にもツキツバがいた事で、手痛い反撃をもらってしまった。

しかも、ツキツバには僕の誘惑の魔眼が効かない。

僕の魔眼は、対象者が自身よりレベルが低いことが使用の条件だ。

怒りで歯噛みする。

「そうだ、バーズウェル!」

大丈夫だ。息はある。

こいつがいないと城に戻れないからな。

「起きろ!」

「……グルゥ?」

「城に戻るぞ」

のそりと起き上がり、体をかがめる。

遠くでは未だ夜の闇の中で炎をあげる街があった。

宣戦布告は一応だが成功といえる。

僕を虚仮にした奴らはさぞ動揺することだろう。

ばさっ。

バーズウェルが飛び立つ。

 

謁見の間にてリサが深々と僕に頭を垂れた。

「宣戦布告の件、見事だったわ。ヒューマン共はさぞ恐怖に震えたことでしょう」

「そんなことはもういいんだよ。それよりもっと強くなる方法はないのか。このままじゃ、ツキツバに勝てないだろ」

「じゃあ、さらなる魔装武具を用意するわね」

大幹部の1人、デネブが漆黒の鎧を部屋へ運び込む。

「……え?」

それを見てゾッとした。

剣の比じゃないヤバさを感じ取ったのだ。

そこにあるだけで空気がよどむ。

邪気、とでも言えばいいのだろうか。

ドロドロとした怨念をそのまま鎧にしたような異様な物体。

「これは過去、3名しか身につけることができなかった。呪われた武具よ。強力すぎて封印されていたのだけれど、剣に認められた貴方なら必ず手に入れられるわ」

「それを身につければどれだけ強化されるんだ?」

「記録では五割までレベルを上げることができるそうよ。ただ、これに関しては力を解放する度に、激痛が走るらしいけど」

リサは笑顔のまま「どう?」と返答を待つ。

完全に失敗作じゃないか。

そんな物を僕に付けろだと、冗談じゃない。

でも、五割……魔剣と合わせると九割も底上げされる。

あれから僕は魔物を殺しまくってレベルを100にまで上げることができた。

今なら190まで上昇させることができる。

ツキツバのレベルが200前後だと仮定すれば、この数字はかなり大きい。

無視できないほどだ。

「気が変わったよ。付ける」

「いい返事ね。心配しないで、これに関してはそこそこの激痛に耐えるだけで、所有できるそうだから」

「どこへ連れて行くんだ!?」

「ここだと暴れちゃうでしょ」

リサは寝室に連れて行き、僕をベッドに縛り付けた。

「それじゃあ始めるわね」

「ひぃ!?」

リサの持つガントレットの口から触手が出ていた。

チラリと見えたその中は、うぞうぞとなにかがうごめいている。

がぽり。ガントレットが腕にはめられた。

「ひぎゃぁぁあああああっ!」

気持ち悪い!

なんだこれなんだこれ!!

ぬめぬめしてて、ぐじゅぐじゅしてて、絡みついてくる。

「あらあら、ずいぶんと気に入られたみたいね。もしかして相性がいいのかしら。五割といわず六、七割はいけそうね。ふふっ」

「ひぎゃぁぁあああああっ!」

腕から激痛が走る。

まるで腕を切られたような痛み。

「次は足」

「やめ、やめてくれ!」

「頑張ってセイン。勇者でしょ」

「ぎゃぁぁああああああっ!」

足をあの気持ち悪い感触と激痛が襲う。

許して、もう無理。

耐えられない。

「あらあらあら、漏らしちゃったの?さすがはウンコ勇者ね、ぶふっ」

「魔王様、次の防具を」

「そうね。頑張って続行しましょうか」

リサが何かを言っているようだったが、はっきり理解できなかった。

早く終わって欲しい。

それだけしか考えられない。

 

「はい、終わり。4人目の誕生ね」

「はぁ……はぁ……」

朦朧とする中で右手を見る。

そこには漆黒のガントレットがあった。

僕は鎧を手に入れたのだ。

幸いなことにこの鎧には兜がなかったので、あの気持ち悪いものを顔で受け止めることはなかった。

ベッドからゆっくりと立ち上がり、腕や足を動かしてみる。

まるで自分の肉体の一部のような感覚だ。

それでいて恐ろしく軽い。

「さ、セイン。鎧を発動させてみて」

「今からか?」

「痛みに鈍感な内になれておかないと」

「……それもそうだな」

鎧の力を解放する。

思ったよりも痛みはなかった。

最初はびりびりする程度。

魔剣の力も解放し、レベルは……210!

七割も上昇している!

素晴らしい。これこそ僕が望んでいた力だ!

「くっ!?」

1分が経過したところで痛みが増す。

1分ごとに痛みは強化され、5分ほどで歯を食いしばらなければ耐えられないほどになっていた。

鎧の力を閉じる。

苦しさから解放され、床に両手を突いてしまった……

リミットは5分……

それ以上はまともに戦えない……

だが、いいさ。ツキツバを殺せるならこの程度のこと受け入れてやる!

あいつは僕が殺す!

その為にここまでしたんだ。

震える足でなんとか立ち上がる。

リサは笑顔で拍手した。

「すごいすごい、あの状態からよく立てたわね! もう、はいはいしかできないかと思ったわ!」

「この僕を馬鹿にしているのか」

「冗談よ。冗談」

 

「セイン、次のお願い事をしてもいいかしら」

「ちょっと待て。僕はお前の主だよな。どうして僕ばかりが動かなくてはいけない」

「これは宣伝なのよ。魔王を従える勇者がどれほど強いのか、世に知らしめないといけないでしょ? もちろん私が出てもいいけど、それだと魔王が恐れられるだけだと思うけれど」

体よく使われている気はするが、リサの言うことも一理ある。

魔王よりも勇者である僕を恐れなければ、意味はないのだから。

加えて城にいるだけではレベルアップはできないのだ。

すでにツキツバを追い抜いているとはいえ、まだ安心することはできない。

圧倒的差であいつに勝たなければならないんだ。

僕が全てにおいてあいつよりも上だってことを教えてやる。

「聞いてるセイン?」

「ああ、それで次はどこへ行けばいいんだい」

「それなんだけど、暗黒領域にある国々を潰してきてくれるかしら」

「魔族の国を僕に?」

どうやらリサによれば、魔族共は全てが魔王に協力的なわけではないらしい。

中立の立場を表明している国もあれば、彼女を始末しようと考えている国まであるらしい。

実に愚かだ。リサに従わないのは僕に従わないのと同じだ。

勇者と魔王が手を組んだのだから、伏して喜ぶのが普通だろう。

ヒューマン側もだが、魔族も馬鹿が多いな。

「魔王討伐の任を受けたツキツバ達は、必ずどこかを通ってくるわ。いち早く察知するためにも、多くの国はこちらに引き込んでおきたいの」

「ツキツバ!」

その名を聞いて怒りが燃えさかる。

「ツキツバが向かいそうなのは3つ。順番に可能性の高い国を潰してくれるかしら」

「兵は?」

「もちろん出すわ」

いいね、僕が軍を指揮するのか。

やりたい放題できそうだ。

くひっ。

「それと、アスモデウ国は一番最後にしてね」

「どうしてなんだ?」

「あそこにはムゲンと言う名の歴戦の戦士がいるわ。たぶん、今の貴方でも勝ち目はない。なにせ2人の勇者を退けた旧魔王の幹部なの」

「リサよりも強いのかい」

「私よりは劣るでしょうけど、一筋縄ではいかないでしょうね」

へぇ、レベル800のリサを警戒させるなんて、相当できる奴みたいだな。

でも僕にかかればそいつもすぐに死ぬさ。

その国に行く頃には、かなりのレベルアップを果たしてるだろうしね。

 

「はははははっ! 勝ったぞ!」

燃えさかる宮殿、そこで僕は王の首を兵士共に見せてやった。

戦く魔族にすこぶる気分がよかった。

宮殿の外では、僕の軍が敵兵を取り囲んでいた。

これで落としたのは2つ。

あとはアスモデウ国のみだ。

レベルも急激に上がり150となっている。

剣と鎧の力でレベルは315にまで上昇していた。

とうとうツキツバでは手が届かない領域に到達してしまった。

200で自慢気にしていたあいつにはなんだか申し訳ないな。くくく。

 

セツナperspective

 

「ツキツバのレベルは300で、2つの聖武具の効果で540かぁ……」

それに対して、魔王リサのレベルは800……

普通に考えたら勝ち目が無い。

それに……

「問題は私の方だ!レベルは未だに280止まり……聖武具の効果で392……捨て駒ですらないぞぉー!」

フラウもめぐみんもレベル上げを頑張ってくれてるし聖武具持ちだ。

が、そちらも魔王リサの800に比べたら……

「セツナ殿、何を焦られてる?」

「ぶっちゃげた話、私達、魔王リサに勝てんのかよ?」

そんな私の不安に対し、ツキツバは呑気な事を言った。

「セツナ殿は焦り過ぎです」

「……は?」

「ただうろうろ歩いて風土を見、人に会えば良い。魔界の人間が何を着、何を食い、どんな酒を呑み、どんな夢を見るか、そいつが解れば良い」

本当に呑気だなぁー。

「出来れば血沸き肉躍る敵の1人も見つかれば、これに過ぎたるものはない」

だが、それだけではなさそうだ。

「おいおい……魔王リサはどうするんだよ?」

「斬るさ。それ以外にあの毒婦を救う術は無い」

「救う……?」

「あの毒婦は死ぬべき時に死ねなかった。その点だけは某と同じなのです」

この時のツキツバの表情はどこか寂しげにも見える……

「それ故に、某はあの時のセイン殿のリサ殿への行為が許せなんだ!セイン殿は自分の名声を守る為と言っておるが、結局はリサ殿の生き恥を晒しているだけです!」

そうだった……ツキツバは人を殺して生きてきたんだった……

それは大罪だ!

その重責から完全に逃れる唯一の術、己が死ぬ時だ。

生き延びる事は、必ずも幸福じゃない……

「ならば死ぬべき時に死なぬは恥さらしなだけです!」

戦いの世で死に損ない、息苦しい世に生きる事を強いられているのは、他ならぬツキツバだ!

私は馬鹿か!?

耳に胼胝が出来る程散々聞かされた筈なのに!

「……ツキツバの言うとおりだな。じゃ……斬るか。リサを」

ここで漸く、ツキツバが笑った。

「そうですな。それが、リサ殿を救う事にも繋がりますしな」

「……困った女だな」

おそらく、私はこの言葉を困った顔で言った事だろう。

恐らくはツキツバ・ギンコの、その魅力に。

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