ノノ・メイタperspective
グレイフィールドの王様が言っていたフォーメリアが落ちたと聞いて、僕は一瞬、やはり勇者セイン様は魔族と戦う為に暗黒領域に!と……思ったけど……
「――魔王のジョブを発現する人は決まって強欲なんだ。だから結果的にヒューマン側へ侵攻する事になる。ヒューマン側も歴史があるから、魔王を始末しないと安心できない。この繰り返しがずっと続いているんだ」
ピオーネさんの言葉が、容赦無く僕達ヒューマンの希望を打ち砕いた。
が、何故かツキツバさんは全く絶望せず、とんでもない質問を口にした。
「ピオーネ殿、そなたは魔王リサ殿の事をどう思われるか?」
……ピオーネさんは観念したかの様に話し始めた。
「正直に言うとね、ボクらの国は今の魔王に協力的じゃないんだ。寧ろどちらかと言えば嫌ってるくらいだし」
その言葉にセツナさんが驚き振り返った。
「魔王リサの敵だと!?」
「セツナさん!?なんでそこまで驚くの!?」
え?
魔族全員が魔王に従ってる筈でしょ?
ただ、ツキツバさんは冷静に大雑把だが説明を行った。
魔王と戦う為に来ている事。
魔族とは必要以上に戦うつもりは無い事。
偽装をしていたのは無用な争いを避ける目的である事。
「――事情は分かったよ。つまりツキツバ達は魔王と裏切り者の勇者を倒せれば、魔族とは争うつもりは無いんだね」
「約束しよう。某は襲い掛かる者しか斬らぬ」
裏切り者の勇者……
その言葉の重み……
魔族であるピオーネさんと、ヒューマンである僕達とでは、その重さも絶望感も大違い―――
僕の発言は出されたセツナさんの手で止められた。
「寧ろちょうど良かったかも。ボクの国の王様が、魔王を討てそうな人を探してたんだぁ。ツキツバにお任せすれば安心だね」
「ん?魔族が魔王を?」
「都には魔王城の地下へ飛ぶ、転移魔法陣があるんだ。ボクから使える様にお願いしてあげるよ」
その途端、セツナさんが判り易い様にピオーネさんにゴマを擦った。
「ピオーネさん、お茶でもどうですか。喉が渇いたでしょう。ささ、どうぞ」
僕は呆れて何も言えなかった。
セツナperspective
結局……私達はフォーメリアに到着する事は無かった……
その事実に1番憔悴しきっていたのは、あのウンコセインが必ず勇者の務めを全うすると信じ切っていたノノだった。
「信頼って、捨てるのは簡単だが作るのは難しいか……」
どうしても考えてしまうのは、何故ウンコセインがフォーメリアを滅ぼしたのか?
まさかとは思うが、魔王リサが私達がフォーメリアを訪れると知っててウンコセインにフォーメリアを攻め落とさせた……
だとすると……
ノノのあの姿、ウンコセイン、お前が背負った罪とお前が捨てた信頼、めちゃくちゃ重いぞ!
とは言え、私達はノノの心が立ち直るまで待っている場合じゃない。
ピオーネの言葉が全て真実だったら、ウンコセインは何時か必ずピオーネの領地を攻め落とすだろう。
その前に手を打たなきゃ!
私達はピオーネにとある屋敷へと案内された。
ただ、そこは地上にある建物と違い、壁の中に作られたものだった。
しかも谷のかなりのエリアを占有しているらしく、谷の間に架かった橋を経由して行ったり来たりする。
紹介したい人物が暮らすのはそんな場所の下層らしい。
狭い階段を下り、漸く装飾の施された大きな門の前へと到着する。
「これはピオーネ様ではありませんか」
「うん。彼らはボクの連れだよ。ところでムゲン様はいらっしゃるかな」
「しばしお待ちを」
衛兵の1人が奥へと入る。
数分ほどして扉が開けられた。
「奥でムゲン様がお待ちです。どうぞお進みください」
「ありがとう」
本宅とでも言えばいいのか、ムゲンの暮らす屋敷は壁の中なのに煌びやかだ。
壁には絵が掛けられ、女性や男性を模した石像が至る所に置いてある。
一番奥の扉では、衛兵が立っていて俺達を見るなり扉を開けてくれる。
「よく来たなピオーネ」
「数ヶ月ぶりでしょうか閣下」
「うむ、もうそのくらいになるか」
謁見の間にてピオーネと俺達は、椅子に座る人物に一礼する。
白髪交じりの体格のいい男性。
服装は平民とさほど変わらないが、紺色のマントを羽織っている事で、彼が貴族である事は一目瞭然だった。
「ツキツバ達に紹介するよ。この方はこの国の公爵、ムゲン様だよ。2人の勇者と戦って退けた我が国の英雄なんだ」
「よせよせ恥ずかしいではないか。だが、どうしてもその時の話が聞きたいというなら、しぶしぶ話してやらんでもないぞ」
ムゲンは髭をイジりながらも、自慢話をしたくてうずうずしている様だった。
2人の勇者を退けたって事は、少なくとも200歳以上って事だよな。
かつての勇者と死闘を繰り広げた人物と会えるなんて、歴史的ロマンにドキドキしてしまう。
「む、この感じ……看破!」
しまった、ムゲンには看破スキルがあったのか。
露わとなった本当の姿を見て、彼は髭を撫でながらニヤリとした。
「ピオーネよ、まさかヒューマンだと知らず連れてきたのではあるまいな」
「もちろん存じた上で連れて来ました」
「ほう、ならば何故なのか聞かせてもらおう。つまらぬ話だったら孫と言えど、ただでは済まぬと思え」
「承知しておりますお爺様」
お、お爺様!?
聴いてないぞ、そんな話!
「あ、ごめん、紹介が遅れたね。ムゲン様はボクの亡きお父様のお父上なんだ。おじいちゃん、この人達はボクの領地を助けてくれた冒険者で、ツキツバさん、セツナさん、フラウさんだよ」
「ば、ばかもの、人前でおじいちゃんと言うな。威厳が無くなるだろう」
「でも、おじいちゃんの可愛いところをみんなにも教えたいのに」
「ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬ、ピオーネや!わしのピオーネ!」
威厳などどうでもよくなったのか、ムゲンはピオーネに抱きついて頬ずりする。
孫を可愛がるただの好々爺にしかみえない。
月鍔ギンコperspective
しばらく大名としての威厳を丸潰れにしてしまったムゲン殿の痴態を見せられましたが、
「おほん、恥ずかしい姿を見せてしまったな。それでここへ来た話を聞かせてもらおうか」
「ツキツバ達は魔王を倒しに来たんだ。だから協力して貰いたくてさ」
「魔王を……それはずいぶんと穏やかな話ではないな」
ムゲンの目が某に向けられ、全身に殺気がのしかかる。今まで出会った誰よりも冷たく強烈な気配。
故に期待してしまう。
この者なら、某の首を斬り落としてくれるのではないかと!
ですが、某の望みに反し、不意に殺気が無くなる。
「わしの殺気に耐えられるのならある程度はできそうだな。よろしい、話を聞くだけ聞いてやろう。協力するかはその後だ」
なるほど。某を試していたと言う訳ですか?
「ありがとうおじいちゃん!」
「そうだろそうだろ、いつだっておじいちゃんはピオーネの味方だからのぉ」
ピオーネ殿と某に対する落差が激しい。
……色々と不安です。
「その格好、魔王の討伐を受けた英雄の様だな」
「一応、勇者と言う事になっておりますが」
「ジョブなしの勇者か。ヒューマンもなかなか面白い事する」
この御方、普段は全く隙が無いのですが、ピオーネ殿の事になると一気にだらけてしまう様です。
ただ、それでも戦ってみたいと思うのは、侍としての意地でしょうか?
「で、我が国にある転移の魔法陣を使いたいと言う話だったか、あの目障りな魔王を倒してくれるというのなら願ってもない話だ。しかし、無条件というのは同意しかねる」
「おじいちゃん!?」
ピオーネ殿が声をあげますが、某は彼女を手で制しました。
某の今回の懇願、これは主君である魔王への反逆行為なのですから。
ムゲン殿の返答次第でこの国は、セインに滅ぼされたふぉーめりあと同じ道を辿る事になるでしょう。
だが、
「あのリサとか言う魔王は、我ら魔族を道具としか見ていない。つい先日も使者が来てな、ヒューマン共の侵攻を防ぐ盾となれなどとのたまう始末だ。こちらにも選ぶ権利くらいあるのを知らぬのかと呆れたものだ。我らは魔王就任の祝儀として、多くの物資と金を送ったのだ。それをあの女は『少ない』と使者をその場で斬り捨てた。おまけに無条件で傘下に入らなければ攻撃する、などと脅してくるのだ。実に無礼極まりない、あの様な魔王に力を貸す我らではない!」
下々に礼儀を弁えさせたたくば、先ずは上の者が礼儀を弁えよ!
とはよく言いますが、ムゲン殿はリサの家臣に対する態度がよほど気に入らない様ですな?
が、ムゲン殿の口があの者の事に触れた途端、ノノ殿の顔がみるみる蒼褪めていきました。
「さらにだ!あの女、よりにもよって我らが宿敵である勇者を引き込みおった!歴代魔王は堂々と戦い、我らにその雄姿をお見せになったというのに!なんだその軟弱は!魔王なら正面から戦え!ふぐぅううう、血圧が上がるぅー!」
「おじいちゃん、落ち着いて。冷静になろうよ」
「すまんのピオーネ。興奮し過ぎてしまった」
セイン殿が犯したノノ殿の期待と憧れに反する行為に対するムゲン殿の怒りが、ノノ殿に辛い現実を突きつけてしまった様です……
「軟、弱……正面から戦わない勇者……」
「ノノ殿……」
が、そんなノノ殿を心配している場合じゃないムゲン殿は、某に条件を付けました。
「とにかく条件がある。こちらも危ない橋を渡る事となる、絶対に失敗は許されんのだ」
「条件とは?」
「わしと戦い勝利せよ」
本来なら、某はどんどん蒼褪めるノノ殿の心配をせねばならないのに、なのに某は自然と笑みを浮かべていた。
「くくく、わしを相手に笑うか。面白い男だ」
「これでも侍の端くれなので。本物の
「さてはお主、馬鹿だな。だが、わしはそう言う奴は好きだ」
同感です!
某にとっては、誉め言葉よ!
ノノ・メイタperspective
その日僕は食べ物が喉を通らなかった……
ムゲンと言う魔族の貴族の言葉が、どうしても僕の頭から離れてくれなかった。
「よりにもよって我らが宿敵である勇者を引き込みおった!歴代魔王は堂々と戦い、我らにその雄姿をお見せになったというのに!なんだその軟弱は!魔王なら正面から戦え!」
……僕は……何を信じて良いのか解らなくなった……
「ねぇ、ツキツバさん」
「ん?どうなされた?ノノ殿?」
「勇者セイン様が選んだ道って、本当に軟弱、なのかな?」
そんな僕の弱々しい質問に対し、ツキツバさんは悲しげな顔をしながらこう答えました。
「確かにセイン殿が選んだ戦術は軟弱です。でも、馬鹿ではありません」
「軟弱だけど、馬鹿じゃない?」
「合戦に汚いも綺麗も無いのです。勝つか負けるか生きるか死ぬか、それだけの話なのです。勝って生き延びればそれで良いと言う者も確かにいる。そこに恥も外聞も無い、ギリギリの決着のところが、合戦なのです」
この時のツキツバさんの顔は物凄く寂しげだった。
ツキツバさんは知ってるんだ。所詮自分の美学など、世の中の巨大な真理の前では無力だと言う事を。
でも、
「故に、某は馬鹿です!」
その途端、ツキツバさんの顔は何時もの自信に満ちた顔に戻った。
「合戦がどの様な場所か知っていながら、某は合戦の中で綺麗に戦い、某は合戦の中で綺麗に死にたいと願っておるのです!そんな某を馬鹿と呼ばず、何を馬鹿と呼べは良いのでしょうか!?」
この時のツキツバさんは、物凄く綺麗だった。
これが、ムゲンさんが言う『正面から堂々と戦う』なんだろうな。
『綺麗な馬鹿』と『賢い軟弱』。
ツキツバさんにとって、どちらが自分の目指すべき道かをちゃんと弁えてる!
それに引き換え……勇者セイン様に裏切られたくらいで全てを諦めてしまった僕は―――
「そんなのウンコセインに決まってるじゃん!」
セツナさんの突然の乱入。
でも、なぜか僕は驚けなかった。
「あいつはせっかく築いてきた信頼や名声を、魔王リサに頭と心を下げる形で捨てたんだ。この先、ウンコセインがどんなに劇的大勝利しようが、そう簡単にヒューマンの信頼を勝ち取る事は無いさ。あいつは、信頼を壊す事の簡単さと、信頼を作る事の難しさ、そのどちらも全く理解していないのさ」
せっかく手に入れた信頼や名声を捨てた、か。
セツナさんの言う通りなのかもしれない。
現に、僕は勇者セイン様に裏切られたのだから。