セツナperspective
翌日、ピオーネに連れられ、地上にある宮殿へと案内された。
はっきり言おう。
魔族の王宮はヒューマン共のよりもデカい!
何重にも外壁に囲まれ、いくつもの門を越えなくてはいけない。
その度に衛兵に睨まれピオーネが挨拶をした。
国王がいる本宮殿に着くまでに、かれこれ30分以上経過していた。
「遅い!いつまで待たせるつもりだ!」
「申し訳ございませぬ」
武具を身につけたムゲンは会って早々に怒鳴る。
予定時間を数分過ぎていた。
怒るのも無理はない。
「ごめんおじいちゃん、ボクが道に迷ったのが悪いんだ」
「いいんだよぉ、ピオーネは何も悪くない。全てそこの女の責任だ」
「急に性格が変わってませぬか!?」
……ツキツバの言い分も解る。だが、祖父というのはこう言うものなのだろう。
宮殿の方を見れば、入り口は開かれており、そこには国王らしき男性が椅子に座ってツキツバを見ていた。
「本日は国王も同席される。無様なところを見せるなよ」
「望むところ」
ツキツバがムゲンから鋼の大剣を受け取った。
それを観ていたユーミルやエドンが物凄く不安そうだ。
無理も無い。
今のツキツバは聖武具の力を借りられない状態だ。
それに、この戦いが魔王リサに辿り着けるかの分水嶺。
ツキツバがムゲンに負ければ全てが水の泡だ。
だが、
「今更不安がってもしょうがない。それに、あんなに決闘を楽しみにされては、止めるのも気が引ける―――」
私が不安がる2人に声を掛けた時にピオーネが叫ぶ。
「両者構えて」
それに合わせて互いに構えた。
この戦いに審判はいない。
負けを認めるか戦闘不能になるか、そのどちらしか終わらせる方法が無い。
なのに……ツキツバは、笑っていた。
ツキツバは、こういう戦いを待っていたのだろう。
月鍔ギンコperspective
「始め!」
ピオーネの掛け声とともに某は駆け出しました。
瞬時に距離を詰め、ムゲン殿へ切り下ろす。
剣を剣で防いだムゲン殿は後ろへ下がるでもなく、横に逃げるでもなく、いきなり頭突きをかましてきた。
「ふんっ」
某がそれをどうにか躱すと、今度は足払いを繰り出してきました。
体勢が崩れながら、なんとか地面に片手を突いて後方へと飛ぶ事が出来ました。
だが、すでに目の前にはムゲン殿がいる。
再び剣と剣がぶつかり金属音が響いた。
「その若さでわしと同等のレベルか。久々に勇者と戦った日々を思い出したぞ」
「某も……関ヶ原の事を思い出してしまいましたぞ」
ムゲン殿……
この者、無茶苦茶だが面白い!
この様な者と戦えただけでもこの世界に来た甲斐が有ります!
このままムゲン殿にこの首級を差し出しても悔いは無い!
……と、言いたいところですが……
ふと観客席を見ると、ノノ殿の不安そうな顔が見えました。
ノノ殿の理想では、某が今立ってる場所にセイン殿が立つべきだった筈です。
こういう者相手に技に逃げるのは癪に障る愚行なのですが……
この勝負、勝たねばならんのです!
ムゲン殿の放つ突を右へと払い流し、その隙に某は逆袈裟を加えました。
許せ、ムゲン殿……
だが、
「ただ力任せに剣を振り回す馬鹿でななさそうだな?感心したよ」
ムゲン殿が某の逆袈裟を上方に弾き、某の体勢を崩そうとしてきました。
ならば!
今度はムゲン殿の太刀筋を受け流す様に払い、その隙に表一文字を放ちますが、ムゲン殿は某の表一文字を弾き、その隙に剣を振り下ろしてきました。
「ふっ……楽しそうな顔をしておるな」
楽しそう……か……
「あー?そうか?そうだな。そーかもなぁ!」
どうやら……やはりこの戦いには余計な邪念は不要な様です。
その時、ムゲン殿が某の手を掴み、文字通り某を引き廻そうとしましたが、某はそんなムゲン殿の手を―――
「おじいちゃん!?」
すまぬ……ムゲン殿……
「よかろう、わしの負けだ」
「!?」
「すでに実力は拮抗していた。このまま続けてもいずれは剣を折られていただろう」
「ムゲン殿……」
ムゲン殿は剣を収め宮殿へと向かう。
「陛下、あの者は紛れもなく魔王を討つ者でございます。魔法陣使用の件、なにとぞご許可をいただきたく存じます」
「其方がそう言うのならば信用しよう。ヒューマンの英雄に力を借りるのは癪ではあるが、あの魔王リサは魔族をも滅ぼす厄だ。今回は目を閉じる事にする」
「ご英断に感謝いたしまする」
どうやら某がヒューマンだという事は報告されていたらしい。
それでも信じてくれたのはムゲン殿への信頼だろう。
某達は国王へ一礼した。
ノノ・メイタperspective
ムゲンさんとの試合が終わり、僕達は彼の屋敷へと招かれる事となった。
今夜は彼の屋敷で過ごす事ができるらしい。
「好きなだけ食べなさい」
「なんか悪いな、豪勢な飯なんか用意してもらって」
テーブルの中央では、1m以上もあるカニが鎮座している。
さらにその周囲に、魚の塩焼きに見た事もない野菜のサラダなどが置かれていて、調味料もなじみのない茶色いどろりとした物が用意されていた。
他のみんながそんな料理をおっかなびっくりしながら堪能している中、僕は相変わらず食欲が萎えていた……
ツキツバさんが行っていたムゲンさんとの試合、本来ならセイン様が行わなきゃいけない事だったのに……
そんな中、ムゲンさんが突然真面目な顔をした。
「おほん、そろそろ魔法陣の話をしないといけないな」
「そうだよ、それを忘れてた」
ムゲンさんの声に僕以外の全員が集中する。
セツナさんにとっては物凄く重要な話だ。
この為に此処まで来たと言っても過言ではないのだろう。
でも……
僕の耳には届かなかった……
「それと、これは先ほど入った報告なのだが、勇者の率いる魔王軍が近隣の国を攻め落としたそうだ。そう遠くない内にここにも来るだろう」
!?
名前を聞いただけで体が硬直するのが判った。
勇者セイン様がムゲンさんを倒しに来る……
僕達の為じゃない……
勇者セイン様の仇敵である魔王リサの為に!
だが、ムゲンさんは逆に楽しそうだ。
「今代の勇者がどれほどか戦ってみたいと思っていたのだ。む、なんだその顔は、まさかこの国がたかだか寄せ集めただけの魔王軍に、負けるとでも考えているのか」
意地の悪い笑みを浮かべ、まるで戦いが待ち遠しい様だった。
そういえば、魔族って好戦的でしたね。
それに引き換え、セイン、貴方と言う人は……
「明日には魔法陣へ案内する。今夜はゆっくり休むと良い」
セインが勇者の務めを真面目に果さなかった事で、ツキツバさん達がどれだけの苦労を強いられたか……
僕は……無意識に拳を強く握りしめていた!
エドンperspective
明日、いよいよ裏切りの勇者セインと毒婦魔王リサの許へ強襲する。
ムゲンから渡された地図(の複製)を開いて確認する。
地下遺跡は八層あるらしく、地上までの最短ルートのみが記載されていた。
ぱっと見はすぐに上に行けそうな感じだが、縮小されているのでそうじゃないのだろうな。
しかも、門番は3匹も居て、最初の1匹は転移魔法陣を越えた直ぐ先に居ると言う。
その事を踏まえ、この戦いで俺がすべき事を考えた。
俺にはツキツバの様な強さは無い。
セツナやフラウと違って聖剣を有していない。
めぐみんと違って強力な一撃必殺を有してはいない。
ノノの様に他者の成長を促すスキルすらない。
……はっきり言って完全にお荷物だ。
だが、腐ってる場合じゃない。
つまり、俺とユーミルが成すべき事。
それは、ツキツバ達の代わりに3匹の門番と戦い、出来るだけツキツバ達の消耗を抑える事。
……覚悟を決めろ!俺!