月鍔ギンコperspective
「お前達、しばらく足止めしろ! 倒した者は将軍にしてやる!」
某達は今……卑劣にも逃げ去ったセイン殿に置き去りにされた魔族の掃討戦を行っております……
だが、魔族達は武器を掲げて歓声をあげる。
それに引き換え、セイン殿は己を鼓舞する様に武器を掲げて猛然と某達に向かって押し寄せてくる魔族を掻き分け地上へと逃げていった。
そんな姿を見て……嫌な事を思い出させます……
関が原が東軍勝利に終わり……
「西軍は皆殺しだー!」
「大谷吉継と石田三成を探せー!その首級が有れば、士官も夢ではないぞぉー!」
「その刀は貰ってくぜ!どうせもう使わないんだろー!」
某が観て来た落ち武者狩りは……ただの蹂躙であって、もはや戦ではなかった。
数に頼み、勢いに任せ、背中から斬り刻んで笑う事を旨とする下品な蹂躙。
一体、それのどこに侍の華があると言うのだろう。『勝ち戦』なる卑しい勝者と、何が違うと言うのだろう。
故に、某は叫んでしまいました。
「名を惜しむ者だけ来い!来る者は拒まぬ!だが!命惜しくばここから去れ!去る者は追わぬ!」
その、某の魂の叫びに対し、魔族側は1人だけ反応した。
「逃げた者を追わぬ?それは誠か?」
その言葉に、セツナ殿が困惑しました。
「どう言う……心算だ……?」
「ワタシはお前達の争いに興味は無い。重ねて言えば、あの魔王に命を捧げる程の忠誠も無い。将軍になったのは単純に賃金が良いからだ」
あの毒婦リサの人望の無さがこんな所で某に力を貸してくれるとはな。
ま、よくよく考えたら、長年歴代の魔王の盾となって多くの勇者を斬り伏せて来たムゲン殿が、あそこまで毒婦リサを毛嫌いしていたのだ。
この結果も、予想は出来た筈……なのだろう。
「勝てない相手に戦いを挑むほど馬鹿じゃない。進みたければ好きにしろ」
逃げる事を選択した魔族を横切る様に某達が前へと進みますが、セツナ殿だけは無事に通り抜けるまで警戒を解きませんでした。
リサperspective
――比較的、幸せな家族だったと思う。
読書が趣味な優しいお父さん。
料理が得意ないつも笑顔のお母さん。
賢くて良い子な私。
私が生まれたのは、都で暮らす男爵の家だった。
これといって不自由もなく育てられた。
下級貴族ではあるものの、お父さんの商売が上手くいっていて金銭面で苦労したことはなかった。
私の人生は順調だった。
ただ、強いて不満をあげるなら、ひどくつまらないってこと。
刺激のない毎日に既に飽きていた。
それに本当の自分を偽るのにも。
蝶よ花よと大切に育てられてきた私は、常に笑顔を貼り付け両親や周りの大人達が望む姿を演じなければならなかった。
世の中にはウザい奴らが多すぎる。
いっそのこと全員殺せればすっきりしたのに。
しかしながら5歳児に何かが出来る訳でもなく、相棒のクマのぬいぐるみを抱いて、いずれくるどうでもいい結婚相手の為に己を磨かなくてはならなかった。
「※※※は、きっと素敵なお嫁さんになる」
「そうね、※※※は可愛くて賢いから」
「うん! 男爵の娘として立派な奥さんになってみせるね」
「はははっ、頼もしいな。13歳になれば侯爵様が娶ってくださる。それまでに貴族の女性らしくならないとな」
「ええ、裕福な方との結婚は女の幸せよ。※※※は私の子供だからきっと存分に愛してもらえるわ」
本当は分かっていた。
両親は私など見ていないことに。
容姿に優れ、要領が良く、政略結婚の材料にできるから大切にしていたのだ。
この世界はつまらない。
あんた達は、鳥かごの中の鳥の気持ちを考えた事があるか。
己に羽ばたく翼があるのに、飛ぶことを許さず観賞用として生き殺される者の気持ちが。
力があれば自由なのに。
私はそんなことを考えながら、草原でお母さんが作ったサンドイッチをかじる。
我が家は週に一度、家族でピクニックに行く。
とは言っても都からすぐ近くの草原だ。
風で背の高い草が揺れ、トンボがふわふわ飛んでいた。
私はトンボになりたい。
感情なんて必要ない。
ひたすら自由に大空を舞い、どこへでも行くのだ。
突然、目の前に半透明な窓が開いた。
《報告:魔王のジョブを取得しました》
魔王……?
私はその文字をすぐには理解出来なかった。
ザシュ。
直後に肉を斬る音と悲鳴が聞こえた。
後方の草むらから武装した男共が現れたのだ。
彼らは次々に警護の兵士を切り捨てる。
「なぜこのような所に魔族が!?」
「貴方、どうするの!」
「お前は※※※を連れて都へ戻れ、時間を稼ぐ!」
「一緒に逃げましょ、あの数には勝てないわ」
私はお母さんに抱かれ、兵士が死んで行く光景を眺める。
不思議と胸が熱くなった。
ドキドキしている。
そう、こういう刺激を待っていた。
飛び散る赤い液体が綺麗。
悲鳴がすごく心地良い。
楽しい。すごく楽しい。
「あがっ……※※※……」
「いやぁぁあああああ、貴方!!」
お父さんが背後から剣で貫かれた。
お母さんは私を放り出しお父さんに駆け寄る。
「ふぐっ!?」
「……お母さん?」
お母さんも胸を貫かれた。
残された私は、周りを囲む男達を見上げる。
「陛下、お迎えに上がりました」
「へいか??」
男達は片膝を突き頭を垂れる。
一際体格の良い男が私をそう呼んだ。
「私をどうするの?」
「御身は新たなる魔王、魔族をまとめあげ全てを征服するのです」
「ふーん、じゃあみんな私に従ってくれるの?」
「この場にいる者達は貴方様の忠実な僕しもべです」
歓喜が、私を包み込んだ。
お腹の辺りが熱くなったのを感じた。
自由の鐘が鳴った気がした。
籠は破られ、私は大空へと飛び立つ。
「あは、あはははははっ!自由だわ!やっと、やっと解放された!もう何をしても咎められることはない!さいっこー!!」
クマさんの手を掴んでぐるぐる回る。
自由を得られた。
力も手に入れた。
目の前にいるこいつらが、私の手足となる。
「で、私はこれからどこへ行くの」
「我らが用意した集落でございます。そこでひとまず身を隠し、御身の成長を待つべきかと」
「幼さを悟られると、ヒューマン共が攻めてくるからかしら?」
「いかにもでございます。それに加え反抗的な同族、さらに最も警戒すべき勇者の出現もありましょう」
「なるほどね。その勇者ってどこに現れるか分かる? 私を見つけたのも偶然じゃないんでしょ」
「陛下は聡明であらせられる。我らには占術師のジョブを有するものがおります。そのものの未来予測にて出現場所を絞り込むことができたのです」
私の中で一つの案が浮かんだ。
ようやく得た自由。
刺激に満ちた人生を謳歌するには邪魔者が多すぎる。
特に勇者。
こいつを早期に排除できれば、いえ、こっちに引き込むことができれば私を止める者などいない。
「勇者対策に妙案があるわ。でも、それを実行するには早すぎる。せめてもう少し成長しないとね。あと私に従う意思のない魔族――できるだけレベルの高い奴らを用意して」
「何にお使いで?」
「経験値にするのよ。魔王なんだから低いと困るでしょ」
私は魔族の男の肩に乗る。
「ところで御身の名をお聞きしておりませんでした」
「……リサよ」
「では魔王リサ、参りましょう」
私のクマさんには両親の血がべっとり付いていた。
めぐみんperspective
重厚な扉を開き、ようやく謁見の間へと至る。
玉座に座るのはリサ。その背後にはセインがいた。
「よく来たなツキツバ、ここがお前の墓場だ」
腹立たしい男だ……結局は現実に屈して理想を捨てた弱い男じゃないのか?
勇者セイン。
私達はこの男が得た極上級のジョブにごまかさせていた。
それだけの話だった様です。
なら、この男に爆裂魔法を撃ち込んでも怒られる事はないでしょう……と、言いたいところですが……
「セイン。調子に乗らないでね、貴方は始末もできずおめおめと逃げてきたんだから」
「逃げたんじゃない、こちらへ誘導したんだ。リサがいれば僕も安心して戦えるからね。あんな兵士達じゃ、背中は任せられない」
「さすがは役立たずの勇者ね。言い訳だけは一人前だわ」
「くっ……」
問題はセインの隣に居る魔王リサの存在。
実は、私はレベル328となっており、セツナのレベルは280でフラウもレベル335となっています。
更に言えば、聖武具の力で私のレベルは一時出来に459となり、セツナのレベルは一時的に392、フラウのレベルは一時的に469となります。
が!それでもレベル800は脅威以外の何者でもありません!
爆裂魔法は強力無比故、外れる事が許されない魔法でもあります。
「私が援護するわ、貴方はツキツバを」
「もちろんだ」
セインは魔剣を抜いて力を解放する。
剣から伸びた根は鎧の隙間から内部に入り込み、彼の全身へと侵食して行く。
セインの眼が紅く染まり、体は二回りほど大きくなった。
額から太い一本角が生え犬歯は鋭く伸びる。
まるで魔族だ。
「ツキツバぁー!元居た世界から追い出された凶悪大量殺人鬼の癖に、どこまでこの僕の邪魔をすれば気が済むんだ!」
お前が言うな!……と、言いたいのですが、ツキツバとセインの決闘をリサに邪魔させてはいけないので、その言葉は飲み込みます。
「……確かに、某は天下分け目の関が原で西軍に与し、そして負けて落ち武者扱いされて冷遇を受けました。だが、それでも某の力を必要と言ってくれる者がいるのであれば、某はその者に与するのみです!」
「それが余計なお世話だと言うんだよ!お前はただ、この僕の栄光と名声をただ羨ましそうに眺めていれば良いんだよ!」
あー……本当にあの男に爆裂魔法を撃ち込みたくなる……
その間、セツナがリサに飛び掛かる。
「クリムゾンフレア」
至るところで爆発が起き、熱風と冷気が吹き荒れる。
爆発を掻い潜ったフラウが、リサの真上からハンマーを振り下ろした。
「ブレイクハンマー!」
「私にこんなもの効くわけないでしょ」
リサは片手でハンマーを受け止めてみせる。
だが、フラウはニヤリとした。
そうだったな……私がアークウィザードになったのは!
「エクスプロージョン!」
我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法〈爆裂魔法〉を操りし者!
この私に爆裂魔法を撃ち込まれたリサに向かって、セツナとフラウがもう一撃放つ!
リサは弾き飛ばされ、壁へと直撃した。
「こっちは3人いるのよ。レベル800でも同時に相手にするのは至難の業でしょ」
「一対一なら負けるかもしれませんが、三対一なら勝機はあります」
「……そう、じゃあどこまでやれるか確かめてあげるわ」
……とは言いますが……ほぼ無傷の魔王リサが立ち上がるのを見ると、最強の攻撃魔法〈爆裂魔法〉を操りしアークウィザードの矜持が傷つきます……
月鍔ギンコperspective
一方、某はセインと何度も剣を交差させていた。
「どうしてこんな事になってしまったのです!?セイン殿の事を尊敬し敬い慕ったノノ殿の気持ちはどうなるんですか!?」
「全部お前が悪いんだ!お前が僕の前に現れたから、全てが狂ってしまった!お前さえいなければ!」
セイン殿の力が急激に増大した。
恐らく、その邪な甲冑のせいでしょう。甲冑はミシミシ音を立ててセイン殿の体を締め付けています。
「僕の歩む栄光の道にお前は必要ないんだよ!ツキツバ!」
それがお前の答えか?
こんな……嬉々として落ち武者狩りをした東軍の者達と同じ醜き外道が、ノノ殿の全てを狂わせた悪党だと思うと……
次の瞬間、宙に腕と剣が舞った。鮮血が床を濡らす。
「ぎゃぁぁああああああっ!腕が!」
セインは右腕を押さえて床を転がる。しかし、そこにはもう腕はない。
最早、某にセインを倒す事に異論はありません。
「セイン」
「ひぃ」
彼は床を這いずり魔剣を拾う。
震える左腕で切っ先を俺に向けた。その顔は恐怖に染まっていた。
見苦しい……
某がが一歩進むごとに、セインも必死で後ろへ下がる。
「頼む、見逃してくれ。死にたくない」
呆れた某は、刀を鞘に納めました。
「殺す気はありません」
「ツキツバ!ああ、やっぱりツキツバは最高だよ!」
本気で言っているのか……
貴様はこれから、戦の世に死に損ない、息苦しい世に生きる事を強いられるのだ。
武士は人を殺して生きる。如何なる方便を用い様と、それは大罪である。
自覚ある者も、ない者も。
その重荷から解放されるのは唯一、己が死ぬ時だ。
生き延びる事は、必ずしも幸福ではない。
「……そう……某がそなたを生かしておくのは、実は祝福ではなく呪いである」
きっと、その方がセインにとって残酷だからだ。
「え?え?」
めぐみんperspective
「あぐっ!」
「っつ!」
爆音が響き渡り、フラウとセツナが吹き飛ばされた。
2人は床を転がる。
「もう倒されたの。やっぱり役立たずね」
リサに目立ったダメージは見受けられない。
2人の猛攻を受けて平然としているなんて、さすがはレベル800の魔王か。
だが!最強の攻撃魔法〈爆裂魔法〉を操りしアークウィザードの矜持がそれを許せない!
「私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。たとえ1日一発が限度でも、魔法を使った後に倒れるとしても、それでも私は爆裂魔法しか愛せない!だって私は爆裂魔法を使うためだけにアークウィザードの道を選んだのですから!」
「……だから?」
「黒より黒く、闇より暗き漆黒に。我が深紅の金光を望み給う。覚醒の時来たれり、無謬の境界に落ちし理。無業の歪みとなりて、現出せよ!踊れ、踊れ、踊れ!我が力の奔流に臨むは崩壊なり!並ぶものなき崩壊なり!万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段!これこそが究極の攻撃魔法!
……ツキツバ……ギンコ……後は……頼みます……