月鍔ギンコperspective
セイン殿を気絶させた某は、毒婦リサに敗れ倒れたセツナ殿達を見た。
「生憎、残ってるは貴女だけよ」
セツナ殿……
フラウ殿……
めぐみん殿……
悔しいだろ……
無念であったろう……
後は……
「あら?やるき?」
某に任せよ!
「やる気も何も……既に賭けはセツナ殿の勝ちです」
「……賭け?」
その途端、某の中でガラスが割れるような音がした。
《報告:経験値貯蓄のLvが上限に達しましたので百倍となって支払われます》
《報告:Lvが1000となりました》
《報告:『レベル上限達成者』の称号を取得しました》
《報告:勇者のジョブを取得しました》
《報告:スキル『天命未だ尽きず』を取得しました》
《報告:スキル『スキルコピー』を取得しました》
《報告:現在の種族では肉体を維持できません。肉体の再構築を行います》
《報告:肉体の再構成完了。種族が龍人となりました》
何が起こっているのか解らず困惑する毒婦リサ。
「何が……何が起こってるの……」
「某にもわかりませぬ。ただ……」
「ただ?」
「天がそなたを見放した。それだけはハッキリと言えます!」
「見放した!?この私が、今日この場で死ぬって言うの!?」
「でなければ、某の経験値貯蓄と言う病がここで完治する事はない筈です」
そう……この世界の仏様がこの毒婦リサを見捨て見殺しにしただけだったのだ。
それを、某は「今度こそ誉高い戦死を得られる!」と勘違いしていたのだ。
その証拠が、この『天命未だ尽きず』と言う物だ。
「それに、某がそなたを殺さねばならぬ理由がもう1つあります」
「ふざけるなぁー!クリムゾンフレア!」
聞く耳は持たぬ様ですな。
でも、語らねばならぬ!某が絶対に毒婦リサを殺さねばならぬ理由を!
「無駄です。今の某にはこの程度では死にませぬ」
「何それ?自慢?レベルが1000になったからっていい気にならないでよね!」
そう言うと、毒婦リサは某の説明が終わる前に何やら不気味な杖を持ち出しました。
「セインは所詮、魔剣に使われていただけの男ね。最上位ともなれば形状は自由自在、真に力を引き出せば五割の上昇も可能なのよ。つまり、今の私はレベル1200」
「そうか……お陰で良い教訓になり申した。人の話はちゃんと最後まで聴くべし!」
リサperspective
あんな偉そうな事を言ってしまったけど……今の私は、遠距離攻撃でチクチク攻撃する以外に手は無い。
まさか、こんな土壇場でツキツバが勇者のジョブを手に入れるなんて、想定外過ぎるわ!
ほんと、最後まで役立たずだったわね。ウンコセインの奴!
勇者のジョブは毎秒魔王のレベルを1ずつ下げる。
だからこそ、なんとしても勇者であるセインを手懐けて飼い馴らす必要があったのに。
と言う訳で、私は今のツキツバに接近戦が行えないって訳よ―――
「黒より黒く、闇より暗き漆黒に。我が深紅の混淆を望み給う。覚醒の時来たれり、
……え?
「
なっ!?
ツキツバがそんな高等魔法を使うなんて、そんな報告は一切―――
「これが、某が今手に入れた『スキルコピー』とやらの力の様です。つまり、今のはめぐみん殿の分です」
え……それってまさか―――
「次はセツナ殿の分!」
すると、今度は氷の爪を纏いながら襲い掛かってきた。
不味い!
勇者となったツキツバ相手に接近戦なんかやったら、魔王である私のレベルがどんどん下がってしまう!
私は急いで飛びのいたが、ツキツバは一気に距離を詰めて来る!
不味い!レベルが!
「そんなに負け戦がお嫌いか?道理でムゲン殿ほどのいくさ人がそなたを護る為の戦いを拒否した訳ですな!」
「ふざけないで!こっちはあんたに殺される為に魔王になった訳じゃないのよ!」
が、ツキツバの氷の爪が私の体に深々と突き刺さる。
「では、力で弱き者をねじ伏せる為か?見苦しいとしか言えぬ!」
すると、ツキツバの氷の爪が巨大なハンマーへと変異する。
「そしてこれが、フラウ殿の分!フェアリィイイイ、ハンマァァアアアアア!」
私の脳天にハンマーが落とされる。
足下の床は円形に陥没し、建物全体を揺らす。
「……1つ、言い忘れておった事がある……『天命未だ尽きず』の事です」
『天命未だ尽きず』?
「『天命未だ尽きず』。これがある限り、某は魔王リサが生きている限り、いかなる手段をもってしても絶対に死なないのです」
「ちょっと!何それ!?どうあがいても私の負けじゃない!」
「人の話はちゃんと最後まで聴くべきでしたな?魔王……リサ」
月鍔ギンコperspective
「たかがお人好しの馬鹿な戦士、だと侮った事が間違いだったわ。認める。ツキツバ・ギンコ、貴方は私にふさわしい女だわ」
見苦しい……
負けを悟った途端に命乞いか……
「つまり、某が人間を捨てて魔族に就けと?」
「そうよ、ずっと思ってたの。あのグズで間抜けな男より、貴方の方が勇者にふさわしいって。もし怒っているなら、謝罪になんでもするわ」
ここまでくると、セイン殿も気の毒で滑稽な道化だな。
この様な尻軽毒婦に振り回されるとは……
「生憎、『天命未だ尽きず』に恨みはあれど感謝はしておりませぬ」
「何で!?この私が生きている限り、貴女は絶対に死なないのよ!」
「つまり、そなたは某が生き恥を晒す姿を観て嘲笑いたいと?」
「え、あの、その」
「殺すもまた情けと知れ!死すべき時死ねぬは辛き事よ!」
「止せ!考え直せ!」
本来なら、こういう恥知らずこそが生き恥に相応しいのだが、某は生き恥に耐えられる程大人ではないので……
「許して、お願い!」
某は魔王リサの頸を斬り落としました。
《報告:スキル『天命未だ尽きず』を消失しました》
「さらば、
セツナperspective
私達が目を覚ますと、既にツキツバが全てを終わらせてくれていた。
「セツナ殿、賭けはそなたの勝ちの様です」
「……そうか」
その割には素っ気無い返答をしてしまう私。
「でも、もしウンコセインから奪った経験値をもってしてもとなると―――」
「それでも、某は毒婦リサと戦っていた事でしょう。寧ろ、そっちの方が某は大喜びしているかもです」
そんなツキツバの言葉に慌てて飛び起きたが、
「って、あれ?私って魔王リサにボコボコにされたんじゃ」
「それなら、某が無理やりエリクサとやらを飲ませました」
「……そうか」
これは、私はツキツバに頭が上がらんな。
と言うか、足向けて寝られないわ。
フラウもめぐみんも無事な様だし。
「さて……そなたも起きられよ」
って!?誰にエリクサーを飲ませてるの!?
「は!?ここは……は!?僕の手!……有る……どう言う事だ?」
「それなら、某が無理やりエリクサとやらを飲ませました」
ツキツバの言葉に対し、ウンコセインは困惑のあまり無言になった。
「で、ツキツバ様はそのウンコセインを如何する御心算で?」
「『様』は不要です。いつも通りで結構です」
……ツキツバは、どこまで行ってもツキツバなんだな。
「で、どうすんだウンコセインを?」
「連れ帰って生き恥を晒していただく。ここで殺すべきだと言う言葉もありましょうが、寧ろ、生きて苦しむ事の方が贖罪として重い事でしょう」
哀れだなセイン。
道を踏み外さなければ、ツキツバが今いる場所にお前が立ってたかもしれないのに。