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地下に設営されたデュエル場にて二人のデュエリストが対峙していた。
ここは裏のデュエル大会『
周囲には装飾の施された仮面で顔を隠した身なりの良い服装の観客たちがいる。
これから始まるのはトーナメント開始前の余興。
禁忌杯の主催者である人物と挑戦者であるプロデュエリストによるデュエルだ。
プロデュエリストの名前は平岡。
白いTシャツにグレーのチノパンを履いた三十代前半の男性。
Cランクのプロデュエリストであり、Bランクへの昇格は確実と言われている実力者だ。
増長して風俗に入り浸った結果、各方面に多額の借金を作ってしまい、それらを全額肩代わりしてもらうことを条件にこのデュエルを受けた。
対する禁忌杯の主催者は赤紫のスーツを纏い、黒と水色の縞模様があしらわれた仮面を付け、シルクハットをかぶったマジシャン風の装いをした男性だった。
その名はパンドラ。
世界一の『ブラック・マジシャン』使いとして名高い男であり『マスター・オブ・マジシャン』の称号を持つデュエリストでもあった。
「契約内容を再度確認しておきましょう。勝敗にかかわらず借金は私が肩代わりする。あなたが敗北した場合はデッキを差し出す」
「ああ、その条件でデュエルだ」
ここまでは平岡がこのパンドラという男と交わした通常のアンティ。
「それでは紳士淑女の皆様、これより奇術師パンドラによる悪夢のショーをご覧にいれましょう!」
芝居がかった仕草をしながら宣言するパンドラ。
集まった富裕層の観客たちは期待を込めた笑みを浮かべる。
次の瞬間、パンドラと平岡の両足が足枷によって固定された。
これが『
両足を足枷で固定した状態でデュエルを行い、ライフポイントが減るたびに回転鋸が接近する。
互いの足元には鍵の入った箱があり、デュエルに勝利した側は鍵を取り出して足枷を外すことができる。
そして敗北した側は回転鋸で両足を切断されるのだ。
「俺は負けない! 借金を完済すれば、出て行った妻子も戻ってくるはず。またやり直すことができるんだ!」
両者のデュエルディスクが展開され、カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。
オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされた。
デュエルディスクによって先攻、後攻が決定される。
プロデュエリスト ―― 平岡 / LP4000
VS
奇術師 ―― パンドラ / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのは平岡だった。
「俺のターン。魔法カード《汎神の帝王》を発動。手札から《真源の帝王》を墓地に送り二枚ドロー!」
《汎神の帝王》は手札の『帝王』魔法、罠カードを捨てて二枚ドローする魔法カード。
「更に墓地から《汎神の帝王》を除外することで第二の効果を発動。デッキから『帝王』魔法、罠カードを三枚相手に見せて、相手が選んだカードを手札に加えて残りをデッキに戻す」
平岡が公開したのは《進撃の帝王》《進撃の帝王》《進撃の帝王》。
「どうやら選択の余地はないようですね」
「そういうことだ。手札に加えた《進撃の帝王》を発動。このカードが場にある限り、俺がアドバンス召喚したモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されない。冥帝従騎エイドスを召喚」
《冥帝従騎エイドス》
星2 闇属性 魔法使い族
攻撃力800 守備1000
「エイドスの効果によって、このターン自分は通常召喚に加えて一度だけアドバンス召喚を行うことができる」
平岡が主力とするのは『帝』というカテゴリのカード。
「冥帝従騎エイドスをリリースして炎帝テスタロスをアドバンス召喚!!」
《炎帝テスタロス》
星6 炎属性 炎族
攻撃力2400 守備力1000
「炎帝テスタロスの効果発動! アドバンス召喚に成功した時、相手の手札をランダムに一枚捨てる」
デュエルディスクによって自動的に捨てられるカードが選択される。
《炎帝テスタロス》の効果でパンドラの手札から墓地に送られたのは《魔道化リジョン》。
「捨てたカードがモンスターだった場合、そのレベル1つにつき100のダメージを受けてもらう」
《魔道化リジョン》のレベルは4。
よってパンドラは400のダメージを受けることになる。
パンドラ LP3600
そして、この『禁忌杯』はライフポイントが減るたびに回転鋸がプレイヤーに接近するルールだ。
「ヒャアアアア!」
近づく回転鋸を見て顔を歪めながら悲鳴を上げるパンドラ。
このまま戦意喪失してくれないかと期待する平岡だったが、パンドラの表情が一転して笑顔になる。
「楽ちぃ~! 最高っ~! この死がせまってくる緊張感、たまりませんねぇ。次のターンにあなたにも味わわせてあげますよ」
「クソ! 狂人が。俺はカードを一枚セットしてターンエンド」
伏せたカードは《聖なるバリア -ミラーフォース-》。
攻撃宣言された時、相手の場の攻撃表示のモンスターを全て破壊する罠カード。
「私のターン、ドロー。まずはマジシャンズ・ロッドを召喚」
《マジシャンズ・ロッド》
星3 闇属性 魔法使い族
攻撃力1600 守備力100
「このカードが召喚に成功した時、ブラック・マジシャンのカード名が記された魔法、罠カードを手札に加えます。私が選択するのは《黒・魔・導》。更に魔法カード《死者蘇生》。墓地から魔道化リジョンを特殊召喚」
《魔道化リジョン》
星4 闇属性 魔法使い族
攻撃力1300 守備力1500
「このモンスターにはあなたの冥帝従騎エイドスと同じような効果がありましてね。私はこのターン、魔法使い族モンスターをアドバンス召喚できる」
「魔法使い族……まさか!」
「お見せしましょう! 魔道化リジョンとマジシャンズ・ロッドをリリースしてブラック・マジシャンをアドバンス召喚!」
《ブラック・マジシャン》
星7 闇属性 魔法使い族
攻撃力2500 守備力2100
現れたのは奇術師パンドラをマスター・オブ・マジシャンたらしめる最上級魔術師。
「墓地に送られた魔道化リジョンの効果によりデッキから二枚目のブラック・マジシャンを手札に加えます。そして魔法カード《
「くっ!」
伏せていた《聖なるバリア -ミラーフォース-》と永続魔法である《進撃の帝王》が破壊された。
「《七星の宝刀》を発動。手札からブラック・マジシャンを除外して二枚ドロー」
《七星の宝刀》は手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、レベル7のモンスター1体を除外して二枚ドローできる魔法カード。
「魔法カード《千本ナイフ》! 炎帝テスタロスを破壊」
《進撃の帝王》があればアドバンス召喚したモンスターは対象にとられず、効果で破壊されることもなかったが《黒・魔・導》により既に破壊されている。
これで平岡を守る壁モンスターも伏せカードもなくなった。
「いけ! 我がしもべ、ブラック・マジシャン! 黒・魔・導!!」
平岡 LP1500
ライフポイントが半分以上削られたことにより、回転鋸が大幅に接近してくる。
そのプレッシャーを受けて平岡は青ざめた顔で体を震わせた。
普段、プロデュエリスト協会で行っているデュエルはトータルの成績で順位を競うスポーツ。
裏の大会におけるデュエルは全く別物であるということを理解する。
「私はカードを二枚セットしてターンエンド。さぁ、あなたのターンですよ」
「……お、俺のターン、ドロー」
引いたモンスターを平岡はそのまま場に出す。
「冥帝従騎エイドス召喚!」
《冥帝従騎エイドス》
星2 闇属性 魔法使い族
攻撃力800 守備1000
「エイドスをリリースして雷帝ザボルグをアドバンス召喚!」
《雷帝ザボルグ》
星5 光属性 雷族
攻撃力2400 守備力1000
「雷帝ザボルグの効果発動。フィールド上のモンスター1体を破壊する。ブラック・マジシャンを破壊だ!」
「ならば速攻魔法《イリュージョン・マジック》! 自分フィールド上の魔法使い族モンスター、ブラック・マジシャンをリリースして新たにデッキ、墓地から二枚、ブラック・マジシャンを手札に加えます」
「何!?」
こちらの戦略が完全に読まれている。
これがマスター・オブ・マジシャンの称号を持つ男、パンドラ。
この街のみならず、世界で最も優れたブラック・マジシャン使いと謳われるデュエリスト。
「バトルフェイズに移行する」
現状、パンドラの場の《ブラック・マジシャン》はいなくなり、残ったのは伏せカードが一枚。
普段からプロデュエリストとして行っているランキング戦であれば迷わず攻撃する場面だ。
あれがブラフの可能性は十分にあるし、攻撃を無効にする類の罠なら使い切らせることができる。
だが、この『
敗北時、100万円を支払えば治療してもらえるそうだが、金が払えない場合は放置されるという。
そうなれば大量出血で絶命することになるだろう。
治療を受けたとしても一生義足の不具者になるが、それでも死ぬよりはマシだ。
しかし多額の借金がありデッキもアンティしている平岡には100万円を支払う方法はなかった。
故にこのデュエルでの敗北は死を意味している。
「俺は雷帝ザボルグで」
仮にパンドラの場の伏せカードが攻撃反応型の罠で《雷帝ザボルグ》が破壊された場合はどうなるか。
平岡の手札には攻撃を凌げる魔法、罠はなく盤面をがら空きにしたままターンを渡すことになる。
「……ターンエンド」
「おや、攻撃しないのですか。墓地の《真源の帝王》の効果を発動すれば、壁モンスターを残しながら強気で攻めることもできたでしょうに」
「あっ!」
指摘を受けて平岡は最初のターンに《汎神の帝王》のコストとして墓地に捨てた《真源の帝王》の存在を思い出す。
《真源の帝王》はこのカード以外の『帝王』魔法、罠カードを墓地から除外することで、《真源の帝王》を攻撃力1000、守備力2400の通常モンスターとして特殊召喚する効果を持つ永続罠。
前のターンに《進撃の帝王》が破壊されたことで発動条件は満たされている。
普段のリーグ戦であれば間違っても犯さなかったであろうプレイングミス。
「やれやれ、所詮は表のデュエリストですか。もっとも、あなたが攻撃したとしても結果は同じでしたがね。エンドフェイズ時、私は場に伏せていた《闇次元の解放》を発動!」
《闇次元の解放》は除外された闇属性モンスター1体を特殊召喚できる永続罠。
「私が呼び出すのは当然、ブラック・マジシャン!!」
《ブラック・マジシャン》
星7 闇属性 魔法使い族
攻撃力2500 守備力2100
奇術師パンドラの場に再び《ブラック・マジシャン》が舞い戻った。
「私のターン。魔法カード《闇の誘惑》発動。デッキからカードを二枚ドローして手札の闇属性モンスター、ブラック・マジシャンを除外」
仮にパンドラがリリースなしで出せる攻撃力1400以上のモンスターを引いていれば平岡の敗北は確定する。
現在の平岡のライフポイントは1500であり《雷帝ザボルグ》が《ブラック・マジシャン》に戦闘破壊され、攻撃力1400以上のモンスターで直接攻撃を受ければ、それでライフは0になるからだ。
「魔道化リジョン召喚!」
《魔道化リジョン》
星4 闇属性 魔法使い族
攻撃力1300 守備力1500
出されたモンスターを見て平岡は安堵の表情を浮かべた。
「安心するのは早いですよ。むしろ、あなたはより恐怖を味わうことになる」
「ライフが100残れば、まだ逆転のチャンスはある」
「もうお忘れですか。これはあなたが普段やっているお遊びではない」
その言葉で無理やり意識の外に追いやっていた回転鋸に平岡の視線が向く。
「バトル! ブラック・マジシャンで雷帝ザボルグを攻撃! 黒・魔・導!!」
平岡 LP1400
「魔道化リジョンでダイレクトアタック!」
平岡 LP100
ライフポイントが残り僅かになったことで回転鋸が平岡の片足スレスレまで接近してくる。
あの数センチで足が切断される距離。
「……い、嫌だ」
我慢の限界だった。
「死にたくない! 助けて! 助けてくれぇぇぇぇ!!」
プロデュエリストとしてのプライドをかなぐり捨てて平岡は絶叫する。
それを見た富裕層の観客たちが大爆笑した。
「今回も私の悪夢のショーは好評のようですね。最高のエンタメデュエルを提供できたようで何よりです」
観客の反応を見たパンドラが満足気に頷く。
「頼む! 回転鋸を止めてくれ! 借金は何十年かかっても働いて返す! 一生、決闘奴隷になってもいい! だから助けてくれ!!」
「あなたの容姿と年齢では
「そ、そんなっ!」
「仮に回転鋸を止める手段があったとしても、それはお客様の笑顔を損なう行為です。エンターテイナーとして私にはそのような真似はできません」
観客たちが手を叩いてパンドラを称賛した。
「……まだだ! 俺はプロデュエリスト! ライフが残ってる以上、ここから逆転してやる」
それはプロデュエリストとしてのプライドか。
恐怖を克服したわけではないが、完全に退路が失われたことで、死にたくないという思いからデュエル継続の意思を示す。
「やる気になっているところ申し訳ありませんが、先ほど言ったはずですよ。安心するのはまだ早いと。これがあなたを死にいざなう魔法カード。《エクトプラズマー》を発動!」
平岡の表情が完全に恐怖一色に染まった。
「プロデュエリストならもちろんご存じですよね。この永続魔法によってエンドフェイズ時、一度だけ自分のモンスターをリリースして、その攻撃力の半分のダメージを与えることができる」
「や、やめろ! やめてくれ!!」
「ヒャハハハハハハハハハ! いきますよ! ブラック・マジシャンをエクトプラズマーに変換します! エクトプラズマー砲撃!!」
《ブラック・マジシャン》の攻撃力は2500であり、その半分は1250。
前のターンで《真源の帝王》を壁モンスターとして出していれば《魔道化リジョン》の追撃を受けることはなく、このターンを凌ぐことはできたはず。
墓地の《真源の帝王》を使用しなかったプレイングミスがここにきて致命傷となった。
平岡 LP0
ライフポイントが0になったことにより回転鋸が動き始める。
「や、やめ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
回転鋸の刃が右足の肉に食い込む。
そのまま高速回転しながら右足を切断。
続けて左足も切り刻む。
両足を失った平岡は悲鳴を上げながら床に転がった。
それ見た観客たちは満面の笑顔で歓声を上げる。
一見すれば、それは残虐なる惨状。
だがこの街、ブラックドミノシティにおいては、ありふれた光景だった。