切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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part10

 目の前で《インセクト女王》が破られるのを遊羽は呆然と見ていた。

 

「もちろん、これで終わりではありませんよ」

 

 仰向けになった遊羽の腹を北条が勢いよく高級靴で踏みつけてきた。

 腹部への激痛で胃液を吐き出しながら呻き声を上げる。

 

「言ったでしょう。サレンダーしてもしなくても同じことだと」

 

 喋りながら何度も腹を踏みつけ続ける北条。

 

「それとも、犯されるとでも思いましたか? だとしたら身の程知らずもいいところだ。君のような胸の薄い女は僕たちトップスのVIPに犯してもらう資格はありませんよ」

 

 今度は遊羽の胸に足を置いてグリグリと踏みにじる。

 

「間宮さん、横沢さん、ご一緒にどうです」

 

 後方にいるトップス市民の二人に北条が声をかけた。

 

「いい運動になりそうだねぇ。最近、中年太りが気になっていたんだ」

 

 近寄ってきた間宮に胸倉を掴まれ片手で持ち上げられる。

 そのまま空いた右手で複数回にわたって顔面を殴られた後、地面に叩きつけれられた。

 

「独り占めはやめてくださいよ、間宮さん」

 

 横沢もリンチに加わり倒れた遊羽の脇腹に蹴りを入れてくる。

 

「だから僕は最初に言ったんですよ」

 

 間宮と横沢に暴行を受ける遊羽を見下ろしながら、北条が煙草を取り出して一服する。

 

「君は自分の行動がどのような結果を招くのか理解しているのかとね」

 

 しゃがみこんだ北条に火のついた煙草を手の甲に押し付けられた。

 所謂、根性焼きを受けながら顔面に煙草の煙を吹きかけられる。

 

「底辺のゴミがトップスのVIPである、この僕に勝てるわけがないでしょう」

 

 立ち上がった北条が間宮、横沢と三人がかりでリンチを継続した。

 

「死体の処理はデュエルヤクザに頼みましょう。彼らなら手際よくブラックドミノ湾に沈めてくれる」

 

 北条の言葉が脅しではないことを遊羽は理解していた。

 その上で自分が今、ここで殺されることを受け入れている。

 デュエルの結果を拒絶するのはデュエル軽視に他ならないからだ。

 

 ただ一つ、心残りなのは真帆たちを救えなかったこと。

 せめて色音だけはこの場をやり過ごしてほしいと思った時だった。

 

「やめてください! 師匠を殺さないでっ!!」

 

 真帆が涙を流しながら大声で叫んだ。

 

「うるさい奴隷だ。人が楽しんでいる最中に」

 

 真帆に対して苛立ちを露わにする間宮。

 一方で北条は何か面白いことでも思いついたような顔になる。

 

「僕は紳士ですからねぇ。君が全裸になった上で身の程を弁えてお願いするなら聞いてあげるかもしれませんよ」

 

 真帆は一瞬目を見開いたが、すぐに覚悟を決めた顔つきになる。

 

「……真、帆」

 

 殆ど動かない首を持ち上げ視線を真帆に向けた。

 目に入ったのは身に着けていた衣服を全て脱いで、生まれたままの姿になった真帆だった。

 

「お願いします、北条…様。私には、何をしてもかまいません。師匠を助けてください」

 

 羞恥心で頬を染め、それでも遊羽を救うために言葉を絞り出す真帆。

 

「ほう。これは予想以上の大きさだ。いや正直、君が全裸になろうが、これを生かしておくつもりはなかったんですが気が変わりました」

 

 北条が真帆の豊満なバストを凝視する。

 

「というか、こんな虫けら殺している場合じゃありません。デュエルヤクザを手配する時間も勿体ない。はやくこの娘を連れて帰ってお楽しみと行きましょう」

 

 最早遊羽への興味を失ったのか早足で真帆の方へと向かう北条。

 

「確かにあの胸は凄いですね。北条さん、私も調教したいのですがよろしいですか」

「もちろん、かまいません。二人がかりやりましょう」

 

 横沢はいやらしい目で真帆を見ながら近寄ると豊満なバストを鷲掴みにした。

 

 ――師匠、あなたは生きてください。

 

 その言葉を最後に真帆は北条と横沢に腕や胸を掴まれ、そのまま車の後部座席に押し込まれた。

 

「やれやれ、北条君も横沢君もお盛んだねぇ。私は胸にこだわりはないから、もう一匹の方でかまわないよ」

 

 間宮は沙良の方へと歩いていき、そのまま腕を掴みあげる。

 

「い、嫌っ! 助けて、姉さん!」

 

 咄嗟に色音に助けを求める沙良。

 

「姉さん、助けてっ! 姉さん!!」

 

 青ざめた表情で色音はその場に立ち尽くしていた。

 最愛の妹の危機であるにもかかわらず、その場を動くことができない。

 何故なら遊羽がデュエルをしたことによって証明されてしまったからだ。

 デッキのカードパワーに差があり過ぎて、万に一つも勝ち目がないことを。

 

 もし色音がもう少し頭が悪ければ、それでもデュエルを挑んだかもしれない。

 そして敗北して遊羽のようにリンチされるか、真帆や沙良と一緒に決闘奴隷にされるか。

 いずれにしても妹を助けるために全力を尽くしたという自己満足だけは残る。

 それは愚かな行動であるが、ある意味では救いになりえるのかもしれない。

 

 だがそんな愚かな選択をするには杠葉色音は聡明すぎた。

 

「助けて! 姉さん! 姉さんっ!!」

 

 最後まで姉に助けを求めながら、沙良は間宮の手で車に押し込まれた。

 間宮はそのまま車に乗り込み、後部座席のドアを閉める。

 

「北条さん、どうせなら姉妹丼にしませんか。あの娘、そこらのデュエルアイドルよりスタイルがいいですよ」

 

 そのやり取りを見た横沢が唐突にそんなことを言い出した。

 

「園山には後から100万払っておけばいい。その程度のはした金であのスタイルの娘が手に入るならお買い得だ」

 

 いやらしい視線を今度は色音に向けて、その体を舐めまわすように見る横沢。

 

 色音の顔に恐怖と僅かな安堵が浮かぶ。

 決闘奴隷にされて凌辱されるという恐怖。

 妹を見殺しにしなくていいという安堵。

 相反する二つの感情。

 

「それはいけませんねぇ」

 

 だが横沢の提案を北条が却下した。

 

「僕は初めから姉妹の一人しか購入する気はなかったんですよ」

 

 一見すれば、それは片方だけは見逃すという北条の慈悲。

 

「姉の体は綺麗なままであるにもかかわらず、妹は日々凌辱されて穢されていく。妹は思うでしょうねぇ、どうして姉は無事なのに自分だけがこんな目に合うのかと。実に芸術的だと思いませんか」

 

 この北条の言葉で色音の顔から完全に血の気が引いた。

 

「そもそも姉妹丼など下品ですよ。それでは低俗な決闘強姦魔(デュエルレイパー)と変わらない。僕たちはトップスのVIPです。紳士的な強姦を行わなければいけません。凌辱にも品格が求められる」

 

 遊羽からすれば、それは意味不明な発言。

 

「流石は北条さん。感服しました。やはりあなたこそ我々ブルジョア流のトップに立つべき存在。まさに真のデュエリストだ」

 

 だが横沢は北条の言葉に何やら感動した様子だ。

 

「それでは戻りましょう。横沢さん、運転をお願いします」

 

 横沢が運転席に座った後、北条は遊羽を一瞥もすることなく車に乗り込みドアを閉めた。

 

 度重なる暴行でまともに体を動かすこともできず地に伏した遊羽。

 体を動かすことはできても心をへし折られて、その場に立ち尽くす色音。

 

 高級車が走り去っていく中で、遊羽の体は限界を迎え意識が遠のいていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 意識が覚醒した遊羽は自分がベッドの上にいるということを認識した。

 体を殆ど動かすことができないので、首だけを傾け明かりがついている方に視線を向ける。

 目に入ったのは対面のベッドに座っている色音であった。

 色音のベッドにはライト機能を起動したデュエルディスクが置いてあり、それが光源となっている。

 

「……色音」

 

 色音の瞳からはハイライトが失われ、名前を呼んでも反応がなかった。

 ただ茫然と意識の戻った遊羽を見ている。

 色音のベッドにはもう一台のデュエルディスクと昆虫族のカードが散らばっていた。

 それは彼女が意識を失った遊羽をここまで運んだだけではなく、遊羽のデュエルディスクとデッキを回収してくれたということを示していた。

 ベッドに散らばった昆虫族のカードの中には真っ二つに破られた《インセクト女王》もあった。

 

 突然、色音が立ち上がって夢遊病患者のような足取りで近づいてくる。

 遊羽が横たわるベッドの傍まで来ると無言で数秒の間、佇んだ。

 そして色音はそのまま遊羽のベッドへと入り込んだ。

 

「……遊羽」

 

 名前を呼んでから突如、色音が唇を重ね合わせてきた。

 一瞬の出来事に目を見開く。

 数秒間の接吻の後、色音は自らの唇を遊羽から離した。

 

「私は……同性愛者よ。嫌なら、そう言って。親友を犯すような真似はしたくない」

 

 色音の体は小刻みに震えていた。

 最愛の妹を見殺しにしたことが原因であることは明白だった。

 その事実に耐え切れず彼女は人の温もりを求めている。

 それは普段気丈に振舞う色音が決して見せることのない弱さであった。

 

「……こういう行為は初めてだけど、あんたが相手なら悪くない」

 

 遊羽は元々、性的な行為への関心が薄かった。

 だからこれが初めてのキスであるが、相手が女性であっても特に拒否感は覚えなかった。

 ただ相手が男性だとしてもおそらく抵抗感はないので、自分は同性愛者ではなくバイセクシャルなのだろう。

 

「そう……ならもう躊躇はしないわ」

 

 色音は自らの衣服を脱いでから、遊羽の服を脱がせにかかる。

 その間も手は小刻みに震えていたが、こちらの体に痛みが伴わないように配慮した脱がせ方だった。

 

 今度は舌を交わらせる接吻をしてから貝合わせを行う。

 一見すれば、それはレズセックス。

 だが実際のところ、それはセックスなどという高尚なものではなく、獣のまぐわい。

 

 否、獣のまぐわいにすら劣る、まるで蟲の交尾だった。

 














これでプロローグは終了です。
結末は決めていたので、そこに至るまでの過程を書きましたが10話かかりました。
プロローグとしては長くなったかも。

次回から本編に入ります。

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