インセクト遊羽 / LP4000
VS
ドラゴンプリンセス麗華 / LP4000
先攻をとったのは龍堂院麗華。
まずは発揮する。四大企業の令嬢としての生まれ持ったその強運を。
「わたくしの先攻ですわ。あなたのような底辺の貧民ごとき、このカードで十分でしょう。サファイアドラゴンを攻撃表示!」
《サファイアドラゴン》
星4 風属性 ドラゴン族
攻撃力1900 守備力1500
「パワー1900、セレブリティラインか」
遊羽は僅かに目を細めながら呟く。
セレブリティラインとはブラックドミノシティで用いられる用語であり、レベル4の通常召喚可能かつデメリットのないモンスターで攻撃力1900以上を指している。
「これが底辺の貧民デュエリストと、わたくしのような選ばれたセレブ流デュエリストの差ですわ」
セレブ流と言えば、現在はトップス二大流派と呼ばれるブルジョア流と対を成すデュエル流派だ。
F区にいるデュエリストの七割はセレブリティラインを突破することができないとされている。
何故ならF区のデュエリストのデッキの大半はパワー1500以下のモンスターで、魔法、罠カードもカードパワーが低いものしかない。
エクストラデッキに至っては高級品であり、F区出身者がまともな労働をしたところで生涯手にすることはできないだろう。
「これまでわたくしが潰した底辺デュエリストに、このサファイアドラゴンを突破できた者はいませんわ」
F区デュエリストの七割がセレブリティラインを突破できないということは、逆に言えば残りの三割はこのラインを突破できるということではある。
だがその三割というのは、C区等からやって来た裏プロやデュエル殺人をしてF区に逃げてきた凶悪デュエル犯、弱い女性デュエリストを狙うため他区から遠征してきた決闘強姦魔、テンバイヤー山田のように裏取引をするため一時的にF区に来た転売デュエリストが大半である。
そのためF区出身者で攻撃力1900のラインを突破できるのは1%にも満たないのが実情だった。
そして遊羽はF区出身のデュエリストだ。
「終わりですわ! ジ・エンド!! あなたは汚い浮浪者にレイプされて虫けらのように死ぬ!! その動画がバズって、わたくしのチャンネル登録者は激増でしてよ!」
早くも勝利宣言する龍堂院麗華。
「それで、次は何。さっさとターンを進めてくれない」
遊羽は動じることなくターンの進行を促した。
「気に入りませんわねぇ……いいでしょう。まずはデュエルたっぷりと痛めつけてやりますわ」
遊羽は原則としてデュエルディスクのセイフティモードをオンにするようにしている。
だがどちらか片方がオフにした場合、デュエルにおいてセイフティモードは適用されない。
龍堂院麗華はリアルソリットビジョンで痛みを伴うデュエルをお望みのようだ。
まあ言動から察するに、そもそも自分がダメージを受けるとは考えていないのだろう。
「精々、ライフを失わないように逃げ回ることですわね。わたくしはこれでターンエンド」
「私のターン。ドロー」
現在の手札にリリースなしで出せる攻撃力1900以上のモンスターは存在しない。
「代打バッターを攻撃表示」
《代打バッター》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1000 守備力1200
「おほほ、貧民の虫けらに相応しい気持ち悪い昆虫族のモンスターですわね」
《代打バッター》を指さしながら龍堂院麗華がそれを貶す。
このリアクションも見慣れたものだった。
トップスの市民に限らず、特に女性から昆虫族は気持ち悪いと言われることが多い種族だった。
だが遊羽はそんな昆虫族が好きだ。
常に昆虫族のカードを使用してきたし、結果として
「そして、やはり学のない貧民は馬鹿ですわね。逃げ回るように警告してさしあげたのに。デュエルアカデミアに通う高学歴のわたくしが良いことを教えてあげますわ」
デュエルアカデミアに通えるブラックドミノ市民は全体の約3割なので、高学歴という表現は不適切ではないだろう。
「モンスターには攻撃表示と守備表示があり、戦闘でダメージが発生するのは攻撃表示のみ。つまりその醜い昆虫を守備表示で出しておけば、ライフポイントを失わずに済んだのでしてよ」
ライフポイントを失わないことを優先するのであれば、龍堂院麗華の言っていることは原則として正しい。
だが遊羽の狙いは別にある。
「バトル! 私は代打バッターでサファイアドラゴンを攻撃する」
バトルフェイズに移行して攻撃宣言を行った。
「ほほ、おほほほほほほ! ここまで低能とは予想外ですわぁ、くっく、あははははははは!!!」
それが愉快であるのか龍堂院麗華は腹を抱えて笑い転げる。
「デュエルアカデミアに通ったことのない低学歴の貧民は数学の知識がないのですわね。1900と1000のどちらが大きい数字なのかも理解できていないようですわ」
遊羽が数字を理解していないため誤った攻撃を行ったと判断したようだ。
「デュエルアカデミアに通う高学歴のわたくしが高等な数学の授業をしてさしあげますわ。1000と1900なら1900の方が大きな数字でしてよ!」
自慢げに学歴を強調しながら龍堂院麗華が言い放った。
「あるいはレイプ願望でもあって、わざと負けるために攻撃をしたのかしら。まあこんな底辺地区に住んでいるような輩は全員男とヤリまくってる非処女のクソビッチですわ」
黙って話を聞いていたが、この龍堂院麗華の発言には『3つ』訂正する箇所がある。
1つ。
遊羽は毎年四枠のみ確保される特待生として学費免除でデュエルアカデミアに入学しており、最終的には『次席』で卒業している。
高学歴の定義がデュエルアカデミアに通っているかどうかであれば、遊羽は低学歴ではなく高学歴ということになる。
2つ。
遊羽に男性との性行為の経験はない。
レイプ願望などないし、男性から強姦されたこともない。
過去に女性相手に性行為をしたことはあるが処女膜は健在であり、処女膜の有無で処女、非処女を判定するなら処女ということになる。
だが正直なところこの二つに関しては、今はどうでもいいことだった。
これらは現在行われているデュエルとは何の関係もないからだ。
デュエリストである以上、デュエル中はデュエルと関係のないことを原則として話す必要はないと考えている。
一切のコミュニケーションを拒否する気もないが、こういうデュエルに関係のない話は聞き流すことが多い。
低学歴か高学歴か、処女か非処女かなどデュエルとは一切関係のない話であり、デュエル中にわざわざ訂正する気はない。
重要なのは3つ目。
龍堂院麗華は遊羽が《代打バッター》で《サファイアドラゴン》を誤って攻撃をした、または負けるために攻撃したと思っているようだが、それは断じて違う。
当然のことながら1000と1900では1900の方が大きい数字であることは理解している。
別にデュエルアカデミアに通わずとも、デュエル孤児院で習う算数の知識があればわかることだ。
そして何より、わざと負けるなど冗談ではなかった。
別にレイプ願望があるわけではないが、仮にデュエルに負けたのであれば、強姦されようが殺されようが受け入れるつもりだ。
デュエルの結果を受け入れるのはデュエリストとして当然のことであり、それを拒絶するなどデュエル軽視に他ならない。
もっとも拒絶しようが、全てがデュエルで決まる世界である故に、敗者は強制的に勝者に従わざるをえないのだが。
重要なのは強姦だの殺害だのという『結果』の部分ではなく、その『過程』。
遊羽がレイプされたり殺されたりするということは、デュエルに負けるということ。
デュエルの結果には従う。
だが――
デュエリストとしてデュエルに負けるのは我慢ならない。
「サファイアドラゴン、返り討ちにして差し上げなさい!」
バトルが行われ《代打バッター》が《サファイアドラゴン》に戦闘破壊される。
そしてその攻撃力の差である900が遊羽のライフポイントから差し引かれた。
リアルソリッドビジョンの衝撃の余波で遊羽の体が僅かに後退する。
インセクト遊羽 LP3100
「この瞬間、代打バッターの効果発動!」
「なっ! ま、まさか特殊能力モンスター!?」
「代打バッターが破壊されたとき、手札から昆虫族カードを一体特殊召喚することができる」
それはアカデミア時代の遊羽のエースモンスターであり、今でもデッキの主力として活躍する1枚。
「アルティメット・インセクトLV7を攻撃表示で特殊召喚」
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
「なんですって! 底辺の貧民が気持ち悪い昆虫とはいえ、そんなウルトラレアカードを!?」
龍堂院麗華が驚くのも無理はない。
F区出身者のデッキにはウルトラレアカードや最上級モンスターなど基本的に入っていないからだ。
「アルティメット・インセクトLV7でサファイアドラゴンに攻撃!」
《サファイアドラゴン》が戦闘破壊され、その差である700が龍堂院麗華のライフポイントから引かれる。
「くっ! わたくしのサファイアドラゴンが、そんな醜い虫けらに」
リアルソリッドビジョンの衝撃で龍堂院麗華の体が僅かに仰け反る。
ドラゴンプリンセス麗華 LP3300
「私はカードを1枚伏せてターンエンド」
セットしたのは《ライヤー・ワイヤー》。
自分の墓地の昆虫族一体を除外して、相手モンスターを破壊する罠カード。
「さあ、あんたのターンだよ」
「くっ、貧民が調子に乗って」
龍堂院の表情を見る限り、おそらく現在の彼女の手札に逆転のカードはない。
だが相手はあの『龍堂院』だ。
トップスでも最上位に位置する大企業。
その跡取り娘に生まれる程の強運の持ち主がこのまま終わるとは思えない。
「わたくしのターン。ドロー!」
ドローしたカードを見た龍堂院麗華の表情がパッと明るくなる。
「引きましたわ。青眼の白龍のカードを!」
龍堂院麗華は見せつけるようにカードをかざした。
その手には確かに本物の《青眼の白龍》があった。
遊羽が売ってきた偽物とは違う、1枚300 億円、正真正銘のブルジョアレアカード。
「……ブルーアイズ?」
別に四大企業の令嬢なら300億のカードを持っていても不自然ではない。
ただ遊羽は《青眼の白龍》を見た時、その所有者は男性の社長なのではないかという違和感を覚えたのだ。
この感覚はかつてキース・ハワードがおませな女の子に敗北した際、バンデット・キースが子供に敗北すると初めから決まっていたのではないかと感じた時と似ている。
遊羽はこれまでも何度か、こういった根拠のない違和感を覚えることが時折あった。
「あらあら、わたくしの青眼の白龍に言葉も出ませんか。当たり前ですわねぇ。底辺の貧民がこのブルジョアレアカードを拝める機会なんて普通ならあり得ませんもの。これで心置きなく強姦されて死ねるでしょう」
龍堂院麗華は《青眼の白龍》を見せつけたまま口元を歪めて嗤う。
「わたくしは『特別』が好きなんですわ。攻撃力が高いカードなら他にもありますが、世界で四枚しかないという『特別』はこのカードだけの価値。ですからお父様におねだりして買ってもらったんですわ」
実際、あらゆるカードの中で世界に存在する枚数が四枚なのは青眼の白龍のみである。
「まずは魔法カード《ハーピィの羽箒》を発動」
《ハーピィの羽箒》によって伏せていた《ライヤー・ワイヤー》が破壊された。
「続けて《古のルール》を発動ですわ」
《古のルール》は手札にあるレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚するカード。
「これがわたくしの超VIPレアカード! 青眼の白龍を攻撃表示で特殊召喚ですわ!!」
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
伝説のドラゴンが姿を現す。
青い眼に白いボディ、その圧倒的な威光は凄まじかった。
「バトル! 青眼の白龍の攻撃、滅びのバーストストリーム!!!」
《青眼の白龍》の口から放たれた白い光線によって、《アルティメット・インセクトLV7》が破壊される。
インセクト遊羽 LP2700
「ブルーアイズが召喚された以上、あなたに勝ち目はありませんわ。所詮、底辺低学歴の貧民女ではわたくしに勝つなど不可能だったということ」
《青眼の白龍》を召喚したことにより優位に立って気をよくしたのか龍堂院麗華が囀る。
「あなたは真のデュエリストの条件を理解しておられるのかしら」
「真のデュエリスト? あいにくだけど、そういうのに興味はないよ」
真のデュエリストについては、デュエル孤児院時代、デュエルアカデミア時代にも何度か話題になったことがあるが、あまり関心のない事柄だった。
「低学歴の貧民でもわかるように教えてあげますわ。真のデュエリストとは大企業を経営する家系に生まれた者。ブルジョアだけが名乗ることができる称号」
デュエルの実力ではなく生まれた環境によって、真のデュエリストかどうかは決まると龍堂院麗華は語る。
「つまり、わたくしこそが真のデュエリストですわ!」
「もうわかったから、デュエルを進めたら?」
「ふん。わたくしはこれでターンエンド。さあ、あなたのラストターンでしてよ」
「私のターン。ドロー」
同感だ。確かにこのターンがラストターンとなる。
遊羽の勝利で終わるという意味でのラストターンだが。
ドローしたカードを手札に加えてから、元から手札にあったモンスターを場に出す。
「ゴキボールを攻撃表示で召喚!」
《ゴキボール》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1200 守備力1400
「ほほ、おほほほほ、何ですの、そのカードは。見たところ効果モンスターではないようですし、それでそのステータスなら、正真正銘のカスカードですわ」
確かにこのカードのステータスは低いが、そんな低い攻撃力だからこそ役に立つ場面もある。
とはいえ、このデュエルにおいて《ゴキボール》がその真価を発揮することはなさそうだ。
このレベルのデュエリストが相手では《ゴキボール》の真価を見せるまでもなく決着がついてしまう。
「私は装備魔法《月鏡の盾》をゴキボールに装備」
「何をしたって無駄ですわぁ! わたくしのブルーアイズは無敵でしてよ」
「バトルだ。ゴキボールで青眼の白龍に攻撃」
攻撃宣言を受けて《ゴキボール》はゴロゴロ転がりながら《青眼の白龍》に向かっていく。
「トチ狂いましたか。ならお望み通り消し飛ばして差し上げなさい! 滅びのバーストストリーム!!」
《青眼の白龍》の光線が《ゴキボール》に直撃する。
それによって《ゴキボール》は跡形もなく消滅した……かに思われた。
だが滅びのバーストストリームを受けながらも《ゴキボール》はゴロゴロと《青眼の白龍》に向かっていく。
「な、何故!?」
「《月鏡の盾》の効果発動。このカードが装備されたモンスターは戦闘を行うダメージ計算時、相手モンスターの攻撃力か守備力の高い方に100を加算した攻撃力になる」
「ゑ」
阿保のように口を開けて呆然とする龍堂院麗華。
《月鏡の盾》によって《ゴキボール》の攻撃力は《青眼の白龍》の攻撃力に100プラスした数値3100になる。
《ゴキボール》の体当たりによって《青眼の白龍》は木端微塵に砕け散った。
ドラゴンプリンセス麗華 LP3200
「わたくしのVIPモンスター、ブルーアイズが……」
受けたダメージは100なのでリアルソリッドビジョンによる衝撃は最小限だが、自らのエースモンスターが破壊されたという事実は相当ショックだったのだろう。
龍堂院麗華は呆然としている。
「で、ですが、わたくしのデッキには《サンダーボルト》がありますわ。次のターンでそれを引けば、すぐに逆転できますわ」
確かに戦闘を介さない魔法カードであれば《月鏡の盾》を装備した《ゴキボール》を破壊することは可能。
「それ以外にも、強力で高額なレアカードがわたしくのデッキにはたくさん投入されていますわ。まぐれでブルーアイズを倒したぐらいで、わたくしに勝つなど不可能でしてよ」
デッキにはレアカードが幾らでもあるのだから、まだ優位なのは自分であると龍堂院麗華が主張する。
「なんか勘違いしてるみたいだけど、私のバトルフェイズはまだ終わってない」
「な、何をおっしゃっていますの? そのカスカード以外に攻撃できるモンスターなど何処にも」
「私は手札から速攻魔法《超進化の繭》を発動する」
速攻魔法とは手札からバトルフェイズ中に発動できる魔法カードである。
「このカードによって、フィールドの装備魔法を装備した昆虫族モンスターをリリースすることで、召喚条件を無視してデッキから昆虫族モンスターを一体特殊召喚できる」
《超進化の繭》によって《ゴキボール》が黄金の繭に包まれる。
呼び出されるのは遊羽のデッキにおける最大の攻撃力を誇るインセクトカード。
召喚口上を遊羽は高らかに言い放つ。
「地べた這いずる虫けらも
――羽虫となって
黄金の繭から巨大な蛾のモンスターが姿を現す。
「究極完全態・グレート・モスを特殊召喚!」
《究極完全態・グレート・モス》
星8 地属性 昆虫族
攻撃力3500 守備力3000
「こ、攻撃力3500ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
《青眼の白龍》を超える攻撃力のモンスターの登場に、龍堂院麗華は失禁して股から黄金水を垂れ流していた。
「究極完全態・グレート・モスの攻撃、モスパーフェクトハリケーン!」
遊羽の攻撃宣言によってフィールドがガラ空きの龍堂院麗華に向けて、巨大な蛾の竜巻攻撃が放たれる。
プレイヤーへのダイレクトアタックだ。
「あへぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」
《究極完全態・グレート・モス》の攻撃を受けた龍堂院麗華は悲鳴をあげ、きりもみ回転しながら宙を舞った。
そして股をおっぴろげにして、黄色く汚れたビチャビチャの白パンツを丸出しにしながら地面に落下する。
ドラゴンプリンセス麗華 LP0
決着はついた。