アダルトアミューズメントパーク『ペンギンランド』事務室。
遊羽は今回の仕事の雇用主となる男、大瀧修三と向かい合って座っていた。
「では面接を始めましょう」
「面接?」
「ぐふふ、そうです。蛇沼組からの推薦はありましたが、雇用するかどうか決めるのは私ですからねぇ」
大瀧が遊羽を品定めするように見ながら言う。
「いや、あんたは余程の理由がない限り断れないはずだ。そうじゃなかったらデュエルヤクザから寄越された人間なんて使わない」
本来であればデュエルヤクザから紹介されたデュエリストを使わず、直接雇用した方が紹介料を支払わずに済む。
だがブラックドミノシティのC区以下で店舗を構えて商売するなら、デュエルヤクザとの繋がりは必要不可欠。
だからこそ関係を維持するために店側はデュエルヤクザに上納金を支払う。
このデュエリスト紹介もデュエルヤクザとの関係を維持するために必要な行為のはずだ。
「どうなの、大瀧」
「……目上の人間に対する口の利き方がなってないですね」
「生憎とアカデミア卒業後に一般企業には就職しなかったからね」
調査されていた経歴をあえて復唱する形で言葉にする。
「ふん、まあいいでしょう。それでは今回のデュエル案件の説明を。まずは資料に目を通してもらえますか」
大瀧からホッチキス止めされた資料を手渡される。
資料によれば今回のデュエルは新店舗の出店場所となる土地を賭けて、同業の『パンダパーク』と行うらしい。
『パンダパーク』のバックにはデュエルマフィアの『
蛇沼組がわざわざデュエリストを派遣した理由も何となく見えてきた。
続いて勝負が行われる場所と日程が記載されている項目に目を通す。
それによれば一週間後、ブラックドミノシティC区郊外の倉庫にてデュエルが行われる予定のようだ。
「そして今回の勝負はタッグデュエルで行います」
遊羽が資料をめくると『タッグデュエル』の詳細が記されていた。
『タッグデュエル』とは2対2で行うデュエルのことである。
自分のターンが終了すると、相手にターンが回るまでは通常のデュエルと同じだが、『タッグデュエル』では相手のターンが終わると、自分のパートナーにターンが回る。
そして自分のパートナーがターンを終了すると、相手のパートナーにターンが回り、その後自分にターンが返ってくる。
ライフポイントは自身とパートナーで合わせて8000。
フィールドもパートナーと共有する。
読んだ限りでは一般的なタッグデュエルのルールだ。
「何か不明な点でも」
「私が組むパートナーもう決まってる?」
「ぐふふ、もちろん決まっていますよぉ。君も名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれませんがねぇ。フラワー花村、18歳。Aランクのプロデュエリストです」
残念ながら名前を聞いたことはない。
今や落ち目となっているプロデュエリスト業界の中で、よりにもよってAランクプロデュエリストを雇用するとは。
おそらく容姿で選んだのだろう。
Aランクのプロデュエリストは全員が女性であり、容姿だけは美少女、美女揃いだ。
彼女らは例外なくプロデュエリスト協会の現会長、堂本春男に体を売っている。
デュエルの腕はからっきしだが枕営業によってその地位を得たのが現在のAランクプロデュエリストだ。
まあ実際のところ、誰と組むかはそこまで重要ではない。
初めからパートナーの力などあてにするつもりはないからだ。
重要なのはその先。
資料には遊羽への報酬は『1,000万円』と記載されていた。
この金額なら『
「フラワー花村に払う報酬の金額も1000万?」
「……もちろんですとも」
僅かな間と大瀧の目が一瞬泳いだのを遊羽は見逃さなかった。
「あまり私を舐めるな」
拳をテーブルに強めに叩きつける。
ここでデュエルヤクザから派遣されたという立場を最大限に活用する。
「ぬふふ、おじさんを脅すとは、やはり君はいけない子だ」
しかしこの大瀧という男も伊達にブラックドミノシティC区で店を経営してきたわけではないらしく動じる様子はない。
「確かにフラワー花村、18歳には1500万円支払うことになっていますが、彼女には他の条件もつけているんですよ」
「他の条件?」
「ペンギンランドの店員として一日働いてもらうことになっています。店指定の制服を着てね」
あの下着みたいな服とペンギンを模したパーカーを着て一日仕事をするだけで500万円追加してもらえるようだ。
もちろんそれは容姿のいい女子プロデュエリストである『フラワー花村』に限った話なのだろう。
「……仮に私がそれをした場合は幾ら貰える」
「癲狂院遊羽、19歳では通常の社員と同じ給料になりますねぇ。その平坦な胸にも魅力がないわけではないのですが」
「そう。なら報酬は1000万でいい」
別にあの下着みたいな服を着るのに抵抗はないし、客前での脱衣も金額次第でするのはかまわない。
唯一躊躇するのはその脱衣デュエルにおいて手を抜いて接待デュエルしなければならないという点。
現在の目的が金を集めることである以上、プライドは捨てるべきだと理解はしているが、それでもデュエリストとして躊躇がある。
だがそれ以前の話として通常の時給労働をするぐらいなら青眼の銀ゾンビの販売に時間を使った方が金銭的な効率はいい。
「それでパンダパーク側のデュエリストに目星はついてるの?」
「残念ながら奴らの背後組織の紅龍はタッグデュエル専門に限っても多くのデュエリストを抱えていますから特定は厳しいですね。一応候補は記載していますが」
資料をめくって確認すると30組以上の裏タッグデュエリストのコンビ名が記載されていた。
DV兄弟
テンバイヤーズ
近親兄妹
ファックブラザーズ
被虐姉妹
ビッチシスターズ
メスガキツインズ
地獄姉妹
暴力夫婦
(以下数十名)
さすがに資金力が豊富な紅龍だけあって裏では名の知れたタッグデュエリストを何組も囲っている。
この中からどのデュエリストを派遣するのかを一週間で探るのは不可能だし、資金が膨大ということは新たな裏デュエリストを雇うこともできる。
相手側のデュエリストを調べるのは時間の無駄だろう。
「それでは説明は以上となりますが、何か質問はありますか」
「いや、特にない」
「そうですか。では当日はここに一度集まってから現場へ向かいます。一時間前には集合するように」
「了解」
軽く手を振って遊羽は事務室から退出する。
タッグデュエル当日までの一週間でできることを考えながら廊下を歩いていく。
店内へと通じるドアを開くと、丁度アダルトエンタメデュエルの決着がついたようで、客たちの盛り上がりは最高潮を迎えていた。
そこには笑顔があった。
デュエルに勝利したデュエリストと客たち、そして前開きペンギンパーカー以外の服を脱衣した女性の店員、皆が笑顔だった。
◇
翌日
遊羽が向かったのはデュエルDVDのレンタルショップだった。
目的はパートナーであるフラワー花村の情報を入手すること。
相方はそこまで重要ではないが、タッグデュエルである以上、パートナーとなる人物のデュエルは一度見ておくべきと判断した。
デュエルDVDレンタルショップに入店してプロデュエリストのコーナーを探す。
店の一番目立つスペースに並べられているのはデュエルクイーンのDVDばかりで、しかも全部貸し出し中だった。
流石は現在ブラックドミノシティで最も人気のデュエリストといったところか。
プロデュエリスト関連のDVDコーナーは店の奥の隅の方だった。
こちらのDVDは一つもレンタルされておらず埃を被っている。
現在の表のデュエリスト業界の縮図のようだったが、レンタルされていないのは都合がいい。
フラワー花村が出演しているデュエル番組のDVDを探す。
パッケージの裏にプロデュエリストの写真と名前が記載されていたので見つけるのは思ったより容易だった。
DVDを一つ手に取ってレジへと向かう。
「お客さん、本当にこれだけですか?」
商品をカウンターに置くと男性の店員から疑問を投げかけられた。
「どういうこと?」
「ああ、いえ。不人気業界のプロデュエリストDVDなんて、エロDVDを借りるのに抵抗がある人がカモフラージュで商品の上に乗せる用途でしかレンタルされることがないので」
「大丈夫、私が見たいのかこれだけ」
店員は珍しいものでも見るような目線を遊羽に向けながらDVDのバーコードを読み込む。
「市民証を拝見できますか」
ブラックドミノシティのデュエルDVDレンタルショップではDVDを借りる際に市民証を呈示する必要がある。
遊羽は財布から市民証を取り出して男性の店員に見せた。
「F区の方ですか。それだと完全レンタルはできないので、別料金を払ってそちらの視聴室で見てもらうことになりますが」
レンタルしてDVDを持ち帰るのには、C区以上の市民証が必要なのは知っている。
遊羽としても初めから別料金を支払い視聴室でDVDを見るつもりだった。
「あー、でも視聴室の料金はオマケします。こんなDVD見るために追加料金なんて馬鹿らしいでしょう」
その対応はブラックドミノシティでは珍しい店員の善意であり、プロデュエリスト業界がいかに不人気かを表していた。
「その代わり、どれだけ酷い内容だからって、クレームを付けて返金デュエルを仕掛けるような真似はやめてくださいよ」
会計を済ませて視聴室へ向かう途中、背後から店員に冗談めかした口調でそんな言葉を投げかけられた。
視聴室にて遊羽はDVDプレイヤーにディスクを読み込ませた。
中型のテレビにプロデュエリスト業界のデュエル番組が映る。
リモコンを操作して、フラワー花村が出ている場面まで早送りする。
そしてパッケージの写真と同じフラワー花村と思われる人物が見えたので再生ボタンを押した。
だが少し早送りし過ぎたようで、画面に映ったのは既にデュエルの決着がつきそうなシーンだ。
行われているのはAランクのプロデュエリスト同士のデュエルであり、現在のフラワー花村のライフポイントは300で相手の場には攻撃力2100の《ダイヤモンド・ドラゴン》がいる。
「うえーん。花村ピンチ。あ、でもこのカードなら勝てそう」
画面内でフラワー花村がわざとらしく泣きまねをした後、手札にあったモンスターを攻撃表示で召喚する。
「アロマージ-ローズマリーを攻撃表示で召喚しますぅ」
フラワー花村が召喚したのは攻撃力1800の女性型植物族モンスター《アロマージ-ローズマリー》だった。
プロデュエリスト業界の中では高額な給料を貰っているAランクプロだけあって中々のレアカードを使うようだ。
とはいえ、現時点では攻撃力1800の《アロマージ-ローズマリー》で攻撃力2100の《ダイヤモンド・ドラゴン》には勝てない。
「バトルフェイズに入りますぅ。アロマージ-ローズマリーでダイヤモンド・ドラゴンを攻撃しますぅ」
フラワー花村の場に伏せカードはない。
ならばダメージステップで攻撃力を上げる速攻魔法を手札から使うのかと思われたが……。
「きゃぴきゃぴきゃぴー!」
奇声を上げながらフラワー花村のライフポイントは0になった。
結局、何のカードも使用せずフラワー花村は敗北した。
「えー!? 攻撃力1800と2100って、2100の方が高かったんですかぁ、間違えちゃいましたぁー! 花村びっくりー!」
デュエルに負けたというのに悔しがるでもなく、おどけた口調でフラワー花村が言った。
いくら現在のAランクプロがボンクラとはいえ、この数字を間違えるのはあり得ない。
その疑問は試合後のやり取りを見ると解消された。
どうやらフラワー花村の相手をしていたAランクプロデュエリスト、ダイヤモンド金剛はこのデュエルに敗北すると降格だったらしい。
要するに八百長である。
このデュエルの結果は初めから決まっていたのだ。
デュエル番組において八百長は決して珍しいものではない。
デュエルアイドル業界でも、番組を盛り上げるためにデュエリスト同士が示し合わせる形での八百長は存在すると聞く。
だがフラワー花村の八百長はあまりにもレベルが低すぎた。
会場の一部にあるVIP席の観客は笑い声をあげて笑顔を作っていたが、十中八九あれはサクラだ。
ガラガラの状態の一般観客席に数人いる観客たちの表情には笑顔など皆無だった。
一応、八百長試合だけ見て実力を判断するわけにもいかないので、早送りしながらフラワー花村が他の相手とデュエルしている場面も見てみる。
わかったのはフラワー花村が『アロマガーデン』『アロマガーデニング』『アロマヒーリング』等のアロマをサポートする魔法、罠をデッキに入れているにもかかわらず使用することなく、アロマ系モンスターの効果もろくに使わず、単調な攻撃ばかりを繰り返すデュエリストだということ。
これではレアカードも宝の持ち腐れだった。
何か理由があるのかと思いながら映像を見ていたところ、フラワー花村がインタビューを受ける場面でそれらしい動機を語っていた。
「私、こういう文字が多くて難しいカードよくわかんないですよぉ。でもこういう効果が多いカード使うのってダサいと思いますぅ。こういうダサいカード、デッキに入れるけどあえて使わない人が真のデュエリストなんじゃないでしょうかぁ」
遊羽からすれば意味不明な発言だったが、とりあえずフラワー花村がどの程度のデュエリストなのかを知るという目的は達成できた。
DVDプレイヤーからディスクを取り出してケースに戻す。
初めからAランクプロデュエリストには期待していなかったので特別落胆したわけではない。
ただ当日フラワー花村と顔を合わせた時、何の意図もなく誤って攻撃力が上のモンスターに攻撃しないように警告だけはしておこうと思った。
◇
デュエルDVDのレンタルショップから退店した遊羽は『パンダパーク』へと足を向けた。
相手のデュエリストの特定は無理でも、一度は敵情視察しておこうという考えだ。
1000万円で仕事を請け負った以上、自分にできることはしておく。
本来は昼食を取って午後から行く予定だったが、プロデュエリスト業界DVDの視聴が思った以上に早く終わったのでそのまま向かう。
20分ほど歩いて目的地のパンダパークに到着した。
店舗の規模はペンギンランドと同程度。
建物は中華風の造りとなっており、店前にはパンダの置物があった。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると胸元にハートの穴が開いた露出度の高いチャイナドレスの店員から挨拶された。
他の店員も同じ格好であることから、このチャイナドレスがパンダパークの制服なのだろう。
並んでいるカジノギャンブルは『ブラックジャック』『ルーレット』『スロットマシーン』などだ。
一見すれば、店員の服装に違いこそあれど、ペンギンランドと大差のないアダルトアミューズメントパーク。
だが何かがペンギンランドとは異なっていると遊羽は感じていた。
歓声が聞こえた方に向かってみると、デュエルディスクを用いたデュエルが行われていた。
チャイナドレスの女性店員、いや厳密には既にチャイナドレスを脱いで下着の一部以外は身に着けていない女性店員と男性客が行う脱衣デュエル。
ペンギンランドで見た光景だが、やはり何かが違う。
「モンスターでダイレクトアタック! これで俺の勝ちだな」
数ターンが経過して、女性店員のライフポイントが0になったことでデュエルの決着がついた。
全裸になった女性店員の表情には怯えがあった。
そして周囲の客たちは何かを期待している雰囲気だ。
「ふひひ、それじゃあ始めるぜ」
突如として、男性客が女性店員を押し倒して犯し始めた。
一見すれば、それは
だが、いくら何でも白昼堂々、C区に店舗を構えて大っぴらに商売している店で決闘強姦をすればセキュリティ沙汰になるはずだ。
「おや、あなたはこのエンタメショーを見るのは初めてですか」
遊羽の疑問が顔に出ていたのか、隣にいた老紳士のような男性が声をかけてきた。
「あれは合意の上でのセックスですよ。パンダパークのエンタメ脱衣デュエルはライフポイントが0になった女性店員を犯すことができるんです」
あれはあくまで
「あの店員、本気で嫌がって泣いてるように見えるけど」
あれがプレイのための演技だというなら大したプロ意識だと思うが、とてもそうには見えない。
そもそもデュエルをしている最中も女性店員の顔色は悪かった。
「ここの店員はパンダパークのオーナーに多額の借金があると聞きます。給料もピンハネされているらしいので返済は事実上不可能でしょう。デュエルディスクとデッキこそ持っていますが、
ここで遊羽はようやく、パンダパークとペンギンランドの違いに気づいた。
それは女性店員に『笑顔』があるかどうかだ。
パンダパークでは入店時に挨拶をしてきた店員でさえ、表面上は笑顔だが、どこか顔色が悪かった。
エンタメ脱衣デュエルをしていた店員に至っては終始表情が暗く、決着後は泣きながら犯されている。
ペンギンランドではエンタメ脱衣デュエルをしていた女性店員含めて皆が笑顔だった。
だがパンダパークで笑顔なのは、デュエルに勝利した男性と周囲の客たちだけだ。
遊羽にとってデュエルは真剣勝負であり、そこにエンタメの入る余地などない。
とはいえ、それはあくまで自分が行うデュエルに限った話。
デュエル孤児院時代、親友のエンタメを意識したデュエルを割と気に入っていたように、エンタメデュエルそのものを否定しているわけでもない。
もう一度、犯されている女性店員に視線を向ける。
ペンギンランドとパンダパーク、同じアダルトエンタメデュエルなら、ペンギンランドのエンタメの方が好きだなと思った。