切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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タッグデュエル

 地獄姉妹の妹、獄城幸の提示した条件は残虐極まりないものであった。

 デュエルに敗北した場合、激痛と共に右目の視力を永久喪失することになる。

 

「わかった、勝負成立だね」

 

 しかしそれを理解して尚、遊羽は即座に提案を承諾した。

 集団決闘強姦であれ、アイスピックで右目刺し抜きであれ、敗北時のリスクをとることに躊躇はない。

 

「き、君は何を考えている!」

 

 隣にいる大瀧が狼狽しながら大声をあげた。

 多分、これが一般的な人の反応なのだろう。

 

 子供のころから命を含めてデュエルに何かを賭けることを躊躇したことはなかった。

 それは癲狂院遊羽が先天的に持つデュエリストとしての異常性。

 おそらくは生まれながらに遺伝子細胞に刻まれたデュエリストとしての歪さ。

 

 過去に親友から指摘されたこともあって自らの異常性は自覚している。

 自制していた時期もあったし、自制するのが正しいのだと思う。

 だが今は何を差し置いても果たさなければならない目的があり、そのためなら自らの異常性を利用することさえ厭わない。

 

 地獄姉妹との二対一のデュエル。

 遊羽は勝利した場合、大瀧からの報酬2500万円に加え、獄城幸から更に1000万円受け取る。

 敗北した場合は、パンダパークの男性スタッフに集団強姦された後、自ら右目をアイスピックで刺し抜く。

 デュエル開始を目前に控えた時であった。

 

「……わかりました。癲狂院遊羽、19歳」

 

 大瀧が何かを決意したような表情で言った。

 

「こうなった以上、この私、大瀧修三、55歳がパートナーとしてタッグデュエルに参加しましょう」

 

 それは見落としていた盲点。

 ペンギンランドのオーナー自らがデュエリストとして参戦すれば、タッグデュエルの条件は満たされる。

 大瀧修三と言う男はプロデュエリストでもなければ裏プロでもないが、元よりパートナーの力をあてにするつもりはなかったのだから問題はない。

 

「これで私が集団強姦される必要はなくなったね」

「このおっさん、余計な事を」

 

 露骨に舌打ちする獄城幸。

 大瀧の参戦は地獄姉妹が有していたタッグデュエルを受けるかどうか決められる権利の消失を意味している。

 

 もしデュエル孤児院で四人揃っていた頃なら、地獄姉妹との賭けは白紙に戻していただろう。

 だが、今はそういうわけにはいかない。

 

「アイスピックで右目を刺し抜く方も無理に受けなくていいわけだ」

 

 ここで、あえて思ってもいないことを口にする。

 

「この腰抜け! 所詮あんたなんて、その程度のデュエリストね」

 

 獄城幸とのやり取りを見て、安心したような様子の大瀧。

 だが右目を賭けて1000万を手に入れる機会を捨てる気などない。

 これは、駆け引きである。

 

「早合点しないで。条件次第ではあんたの提案を受けてやってもいい」

 

 三本指を前に出して『3つ』と数字を強調する。

 

「1つ。敗北時のパンダパークスタッフによる集団強姦で1000万円。

 2つ。同じく敗北時、アイスピックによる右目の刺し抜きで1000万円。

 3つ。そして私がその二つの条件を承諾するのに1000万円。

 合わせて3000万円払うなら、あんたの要求を呑んでやる」

 

 獄城幸のブラックドミノ銀行口座残高は3000万円以上あった。

 そこからできるだけ多く金を賭けさせる。

 

「はぁ!? あんた何、滅茶苦茶言ってるのよ! 二つ目まではいいとして、三つ目は調子に乗りすぎでしょ!」

 

 獄城幸の言っていることは基本的には正論。

 

「タッグデュエル専門のデュエリストが素人のおっさんとのコンビに臆したわけ? あんたのいう地獄ってやつも大したことないね」

「て、てめぇ!」

 

 左目を見開いて怒る獄城幸。

 

「……幸ちゃん。受けましょう」

 

 そして怒ったのは姉の獄城明美も同様らしい。

 口調こそ丁寧だが、声のトーンが下がっている。

 三度目の挑発は彼女の琴線にも触れてしまったようだ。

 

「私からも提案があります。賭け金を更に2000万追加しましょう」

 

 その低いトーンの声のまま獄城明美が言った。

 ブラックドミノ銀行の口座が表示されたスマホの画面を遊羽に見えるようにかざす。

 獄城明美名義の口座残高は5000万円を超えていた。

 

「だからデュエルに負けた時、左目もアイスピックで潰してください」

「君たちはどこまで残酷なことを!」

 

 その言葉の意味を理解して声を荒げる大瀧だったが、今回動揺したのは彼だけではなかった。

 

「ちょ、ちょっと、お姉ちゃん! そんなことしたら、こいつ完全に失明しちゃうわよ! 流石にそこまでする必要はないんじゃない」

 

 意外にも慌てた様子の獄城幸が姉の提案に待ったをかける。

 

「そうね、幸ちゃん。彼女は光を失う。だからこそ尊いのでしょう。私たち両方の地獄を味わわせてあげればいい」

 

 右目を細めながら、おっとりとした口調で獄城明美はそう言った。

 どうやら残虐性は妹よりも姉の方が勝っていたようだ。

 

 確かに獄城明美の提案は単に賭ける眼球が一つ増えるだけではない。

 人間の目は二つしかない以上、その両方を賭ければ、敗北時に訪れるのは完全な闇。

 目が一切見えなくなるということは、カードを視認することができなくなるのでデュエリストとして再起不能になることを意味していた。

 そしてブラックドミノシティの下層区という治安が最悪の街で完全に失明することは死に直結する。

 

 ――あなたがデュエルで傷ついたり、死ぬことになったら悲しい。

 

 親友の言葉が頭をよぎり、数秒間目を閉じてから、一呼吸して開眼する。

 その間で覚悟を決めた、などという高尚なものではない。

 そんなことせずとも、癲狂院(てんきょういん)遊羽(ゆうは)のデュエリストとしての本質はデュエル孤児院の正門前に捨てられた頃から何一つ変わっていない。

 ただ自分のことを尊重してくれた彼女たちが傍にいた頃は、同じように彼女たちを尊重しようと思っただけだ。

 

「わかった。追加2000万で左目を賭ける」

 

 声にならない声をあげて顔を歪める大瀧。

 どこかバツ悪そうに顔を背ける獄城幸。

 満足げに頷いてにっこりと笑う獄城明美。

 

「一度条件を整理しましょう」

 

 おっとりとした口調で獄城明美が言葉を続ける。

 

「まず、こちらがパンダパークのオーナーから預かった土地の権利書です。大瀧さん、ご確認ください」

 

 獄城明美がポーチから土地の権利書を取り出して大瀧に見せる。

 

「これから行われるタッグデュエルにおいて、あなた方が勝利した場合は権利書を譲渡します。私たち地獄姉妹が勝利した場合は、指定された口座に土地の代金を振り込んでください」

 

 元々はこのタッグデュエルはペンギンランドとパンダパークの争いだった。

 

「そしてここからは、私たち地獄姉妹と癲狂院(てんきょういん)さんの個人間の賭けデュエルの内容です。私たちが勝利した場合は、あなたはパンダパークの男性スタッフに集団強姦された後、アイスピックで右目と左目を刺し抜いてもらいます」

 

 恍惚の表情を浮かべながら獄城明美がその条件を口にした。

 一連の言葉の中でも「男性スタッフに集団強姦」と「アイスピックで右目と左目を刺し抜いて」を言ったあたりで、涎を垂らしながら体をビクンと震わせて絶頂している。

 

癲狂院(てんきょういん)さんが勝利した場合は、私たち地獄姉妹が5000万円をあなたの口座に振り込みましょう」

 

 獄城幸から3000万円、獄城明美から2000万円。

 このタッグデュエルに勝利すれば合計で5000万円が遊羽の懐に入る。

 

「それで了承する。奴隷杯(スレイブカップ)の参加費は5000万。今回の賭け金で全額払えるなら丁度いい」

 

 これまで集めた資金と大瀧からの報酬は、デッキ強化のためのカード購入に使えるということ。

 より強い昆虫デッキを作ることができれば、奴隷杯(スレイブカップ)での勝率を高められるだけでなく、最終的な目的の達成にも近づくことができる。

 

奴隷杯(スレイブカップ)? あんた決闘奴隷(デュエルスレイブ)が欲しいわけ?」

 

 獄城幸の口調には侮蔑が含まれていた。

 

「私には目的があるからね。決闘奴隷(デュエルスレイブ)は奴隷杯オークションで売却するつもり」

「はっ! どこまでも金ってわけ。守銭奴ね。あんた本当に最低のクズだわ」

 

 獄城幸が吐き捨てるように言った。

 

「もういいでしょ。これ以上、デュエルと関係ない話をする必要はない」

 

 思考をこれから始まるタッグデュエルへと移行させる中で思う。

 牛尾からはクズ野郎と言われた。

 蛇沼ミカからはデュエルモンスターズを悪用しているクズと言われた。

 そして今回、獄城幸からも最低のクズと言われた。

 

 だが目的を達成するために裏のデュエル社会に足を突っ込んだ時から、そんな侮蔑を受けることもわかっていたので、今さら何とも思わない。

 

 この場に揃った四者がデュエルディスクを起動する。

 各自オートシャッフルシステムが作動して、タッグデュエルにおける先攻が決定される。

 

 

 ペンギンランド ―― 癲狂院遊羽 & 大瀧修三 /  LP8000

 

         VS

 

 パンダパーク  ――  獄城幸 & 獄城明美 / LP8000

 

 

「「「「決闘!!」」」」

 

 

 四分の一の確率で先攻をとったのは遊羽だった。

 

「私のターン。モンスターをセット」

 

 裏側守備表示で場に出したのは《ドラゴンフライ》。

 戦闘破壊されると、攻撃力1500以下の風属性モンスターをデッキから呼べるインセクトカードだ。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 セットしたカードは《ガード・ブロック》。

 戦闘時にダメージを0にして1枚ドローできる罠カード。

 

 遊羽のエンド宣言によって獄城幸にターンが回った。

 

「私のターンね。ドローカード」

 

 タッグデュエルでは先攻プレイヤー以外はカードをドローでき、バトルフェイズも行うことができる。

 

「残念だけどあんた、このデュエルが始まる前から負けてるのよ」

 

 獄城幸が一枚のカードを掴むと、デュエルディスクの魔法、罠ゾーンに差し込む。

 

「魔法カード《虫除けバリアー》を発動」

「何っ!」

 

 思わず目を見開いた。

 《虫除けバリアー》。それは遊羽もコンボ戦術で使用するカードであり、その効果もよく知っている。

 相手フィールド場の昆虫族モンスターの攻撃宣言を封じる永続魔法だ。

 

 遊羽のデッキは全てのモンスターが昆虫族であるため、《虫除けバリアー》がある限り、攻撃は完全に封じられることになる。

 対戦相手に使用された場合、あまりにも相性の悪い永続魔法カードだ。

 それが偶然にも獄城幸のデッキに採用されていたとは思わない。

 

「……フラワー花村のSNSか」

「そういうこと。そのおっさんがパートナーになるのは予想外だったけど、予備のデュエリストがいる可能性もあったから、デュエルの準備は万全ってわけ」

 

 Aランクプロデュエリスト、フラワー花村はデュエルSNS内で自分の相方が昆虫族を使用すると書き込んでいた。

 デュエルSNSの投稿を見てフラワー花村を拉致したパンダパーク側のデュエリストである地獄姉妹は当然その情報を知っている。

 

「続けて魔法カード発動《火炎地獄》!」

 

 《ドラゴンフライ》がフィールド場にいるにもかかわらず、業火が遊羽と大瀧を包み込む。

 対戦相手に直接ダメージを与える効果を持ったバーンカードだ。

 

「さあ、地獄のタッグデュエルを始めるわよ」

 

 好戦的な笑みを浮かべながら獄城幸が宣言した。

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