切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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地獄姉妹

 癲狂院遊羽 & 大瀧修三 /  LP3500

 

      VS

 

 獄城幸 & 獄城明美 / LP3400

 

 

 二体のペンギンのダイレクトアタックを受けて吹っ飛ばされた地獄姉妹は倉庫の床を転がった。

 この攻撃によって両陣営のライフポイントが逆転する。

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 大瀧の伏せたカードを遊羽はデュエルディスクを通して確認した。

 タッグデュエルではパートナー同士で互いの伏せカードを閲覧できる。

 

「……私のターン、ドローカード」

 

 倉庫の床に倒れていた獄城明美が立ち上がってカードを引く。

 裏のデュエリストだけあって、これで戦意喪失とはいかないようだ。

 獄城幸も姉の後に続いて無言で起き上がる。

 

「リバースカードをセットします。ターンエンド」

 

 得意のバーンカードを使用することもなく、伏せカードを一枚出してのエンド宣言。

 デュエルの流れが切り替わったことを遊羽は確信した。

 この機会を逃さず一気に攻め立てる。

 

「私のターン、ドロー。まずはペンギン・ナイトメアを守備表示に変更」

 

 遊羽は引いたカードを手札に加えた後、《ペンギン・ナイトメア》の表示形式を守備表示に変える。

 

「バトルだ。ボルト・ペンギンでプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 電気の鞭を手にしながら再度地獄姉妹へと襲い掛かる《ボルト・ペンギン》。

 

「リバースカード発動。《攻撃の無力化》」

 

 獄城明美が発動したのは、相手モンスターの攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる罠カード。

 流石に二度目は簡単には通してくれないらしい。

 まあ《聖なるバリア -ミラーフォース-》のように、こちらのモンスターを破壊する罠でなかっただけマシだ。

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 レベル3のペンギン二体が健在なら、次に大瀧にターンが回った時、再攻撃をかけることができる。

 

「……生ぬるい」

 

 ボソリと呟いたのは獄城幸だった。

 

「この程度の劣勢なんて……私たちの地獄に比べれば生ぬるい!」

 

 叫びながら獄城幸はカードをドローする。

 

「本当の地獄を見せてやるわ。私は二体のモンスターをリリースして最上級モンスターを出す」

「何を馬鹿なことを。君たちの場にはリリースできるモンスターなどいないでしょう」

 

 余裕ありげな態度の大瀧。

 だが遊羽はこの状況でも最上級モンスターを出す手段を知っている。

 

「ボルト・ペンギンと否定ペンギンをリリースして、あんたたちの場に溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを特殊召喚!」

 

 突如として遊羽たちのフィールドに巨大な溶岩の怪物が出現する。

 《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》は相手のフィールドのモンスターを二体リリースして特殊召喚する最上級モンスターだ。

 

 《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》

 星8 炎属性 悪魔族

 攻撃力3000 守備力2500

 

「なっ! 私のペンギンをリリースして、このようなモンスターを!?」

「感謝しなさいよ。あのブルーアイズと同じ攻撃力のモンスターをくれてやったんだから」

 

 確かに《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》は《青眼の白龍》に匹敵する3000の攻撃力を持つモンスターだ。

 

「ちなみに攻撃名はゴーレム・ボルケーノ。攻撃する時はそう宣言するといいわ。攻撃宣言ができたらの話だけどね」

 

 だが《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》がある限り、レベル4以上のモンスターは攻撃できず、それはレベル8の《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》も例外ではない。

 加えて、このモンスターには厄介な能力があるのを遊羽は把握している。

 

「そして溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムはあんたたちのスタンバイフェイズごとに1000ポイントのダメージを与えるわ」

 

 遊羽たちのライフポイントは現在3500。

 《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》の効果を四回受ければライフは0になる。

 

「どう。これが地獄よ。一度だけチャンスをあげる。今、サレンダーするなら潰すのは片目だけでいいわ」

「断る。サレンダーはデュエリストとして最も恥ずべき行為だ」

 

 獄城幸の降伏勧告を遊羽は即座に拒否した。

 仮にデュエルで負けたのであれば、アイスピックで自らの両眼を刺して失明することになろうが遊羽は受け入れるつもりだ。

 デュエルの結果を受け入れるのはデュエリストとして当然のことであり、それを拒絶するなどデュエル軽視に他ならない。

 もっとも拒絶しようが、全てがデュエルで決まる世界である故に、敗者は強制的に勝者に従わざるをえないのだが。

 

 重要なのは失明という『結果』の部分ではなく、その『過程』。

 遊羽がアイスピックで自らの眼球を刺し抜くということは、デュエルに負けるということ。

 デュエルの結果には従う。

 だが――

 

 デュエリストとしてデュエルに負けるのは我慢ならない。

 

「何よ、何なのよ。あんたは」

 

 この状況下においても遊羽に一切の恐れはなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 獄城幸はブラックドミノシティC区の一般家庭に生まれた。

 トップス在住者のような上級市民ではないが、下層区市民のようにその日の生活に不自由するほど貧しくはない家庭。

 優しい母と姉もおり、ここまでならブラックドミノシティにおいては比較的恵まれた側の人間のように見える。

 だが幸は幼少期の自らの境遇について語るなら、こう切り出す。

 

 ――私たちは地獄で生まれた。

 

 幸の父親、獄城善人(ぜんと)は妻に対してデュエルでDVを繰り返す男性だった。

 幼少期の幸はデッキを所有しておらず、それは姉の明美も同様だった。

 それ故にデュエルDVを止める手段もなく、毎日母がデュエルで暴行されてから犯されるのを震えながら見ているしかなかった。

 だが後から顧みれば、この時期はまだマシだったと言える。

 

 本当の地獄はデュエルDVで母が絶命してから始まった。

 通常なら獄城善人(ぜんと)はセキュリティに逮捕された後、長期にわたって投獄される。

 そして幸たちはデュエル孤児院送りになるはずだった。

 そうであったら、どれだけよかっただろう。

 

 だが獄城善人(ぜんと)はブラックドミノシティの人権派デュエリスト集団とされる『デュエルで子供の笑顔と人権を守る会』の上級会員であり、デュエル有識者として名高い男だった。

 結果としてセキュリティは幸の母が亡くなった一件を、デュエルによる夫婦喧嘩の際に意図せずして発生した事故、所謂デュエル事故として処理してしまい、獄城善人は少額の罰金刑のみで釈放されることとなった。

 

 釈放された獄城善人(ぜんと)が自宅に戻って最初に行ったのは娘二人に対する強姦。

 デッキを持たない幸と明美が相手であれば、デュエルをする必要すらない。

 これまで体を張って母が守ってくれていたのだということを幸は実感した。

 デュエル刑務所で溜まっていた性欲処理と称して、幸は明美と共に実の父親によって処女を散らされた。

 

 せめてデッキがあればと幸は思った。

 40枚のデッキとデュエルディスクさえあれば、デュエリストとして独立ができる。

 だが、この父親が自分たちにデュエルモンスターズのカードを与えるはずがない。

 母が隠れてデュエルモンスターズのカードを購入して幸たちに渡そうとした時でさえ、目ざとく見つけて取り上げた男だ。

 

 しかし幸の予想に反して、獄城善人(ぜんと)はこう提案してきた。

 

 ――お前たちが一回犯されるごとに、デュエルモンスターズのカードを一枚やる。

 ――デッキができたらデュエルディスクも買ってやる。

 ――そしたらお前たちは、ここを出て行けばいい。

 

 そして獄城善人(ぜんと)は幸と明美に一枚ずつカードを投げ渡してきた。

 二人に渡されたのは両方とも同じモンスターカード。

 

 《モリンフェン》

 星5 闇属性 悪魔族

 攻撃力1550 守備力1300

 長い腕とかぎづめが特徴の奇妙な姿をした悪魔。

 

 それはお世辞にも強力とは言い難いカードだった。

 中途半端なステータスの上級モンスターであり、下層区の市民ならともかくC区の人間ならまずデッキに入れることはない。 

 

 それでも希望が見えた瞬間だった。

 あと40回、父親から強姦されるという地獄に耐えて、40枚のカードを集めればデッキを作ることができる。

 

 二日目。

 白濁液まみれになった幸と明美に渡されたのは、またしても《モリンフェン》のカード。

 この時、明美が「嫌な予感がする」と言ったのを覚えている。

 姉は既にこの先にある地獄を察知していたのかもしれない。

 

 三日目。

 姉妹凌辱の後、渡されたカードは《モリンフェン》。

 それでも、まだ希望はあった。

 弱いカードでも40枚集めれば自由になることができると思っていた。

 

 そして四日目。

 

「さあ、早くカードを渡しなさいよ」

 

 その日も白濁液で汚れながら幸は父親、獄城善人(ぜんと)にデュエルモンスターズのカードを要求した。

 父もそれに応じ、幸と明美に一枚ずつカードを投げ渡した。

 白濁液まみれの床に裏向きで落ちたカードを拾い上げる。

 カードを表向きにした瞬間、幸に動揺が走った。

 

「ちょっと待って! これ」

 

 《モリンフェン》

 星5 闇属性 悪魔族

 攻撃力1550 守備力1300

 長い腕とかぎづめが特徴の奇妙な姿をした悪魔。

 

「あ、あんた馬鹿じゃないの! デュエルモンスターズでは同じ名前のカードはデッキに3枚までしか入れられないのよ」

 

 薄々は父親の意図に気づいていながら幸は必死に訴えかける。

 

「早く別のカードを寄越しなさいよ」

「ん? デュエルモンスターズのカードを渡すとは言ったが、何のカードにするかは俺が決めることだ。デュエリストでもないお前が口出しするんじゃない」

 

 それだけ言って獄城善人(ぜんと)は部屋から出て行き、外側から鍵をかけた。

 姉、明美の方を振り返ると顔面蒼白でその場に佇んでいた。

 鏡がないのでわからないが、多分自分の顔面も真っ青なんだろうと幸は思った。

 

 五日目。

 性的暴行を受けた後、渡されたのはやはり《モリンフェン》。

 もはや父親、獄城善人(ぜんと)の意図は明白であった。

 この男はまともにデッキを作らせる気などなかったのだ。

 デュエルディスク購入の条件はデッキが完成することであり、同じカードを40枚集めてもデッキとは言えない。

 

「ぁぁあ、ああああ、ああああああああああああああああっ!」

 

 全てを理解した幸は絶叫した。

 

 そして繰り返されるのは強姦と《モリンフェン》のカードを渡される日々。

 もはや希望などなく、そこには地獄があった。

 

 

 その一年後。

 白濁液と大量の《モリンフェン》のカードが散乱する部屋で新たな地獄が幕を開ける。

 

「喜べお前ら、今日は強姦はなしだ」

 

 一見すれば、それは安堵すべき言葉。

 

「その代わりゲームをしよう」

 

 そう言って父親、獄城善人(ぜんと)が取り出したのはアイスピックだった。

 

「な、何よ、これ」

 

 犯され続ける日々の中で枯れてしまったと思われていた恐怖の感情が再燃する。

 

「何、ルールは簡単だ。今から五分の間にお前たちはそのアイスピックで自分たちの目を刺してもらう」

 

 これまでが性的な地獄であるならば、今から始まるのは激痛を伴う地獄。

 

「お前たちの目は全部で四つ。その内、二つをアイスピックで刺し抜くんだ。俺は優しいから、刺す箇所は好きに選ばせてやる。幸が右目、明美が左目でもいいし、その逆のありだ。ただし右目と左目を一か所ずつ刺すこと。一人が自分の目を二つ刺してもいいぜ。まあその場合、完全に失明することになるがね」

 

 くるくるとアイスピックを回しながら獄城善人(ぜんと)はゲームのルールを説明した。

 

「盲目の娘を強姦するのも面白そうだが、不具者の飼育には手間がかかるからな。完全に失明した方には近いうちにブラックドミノ湾に沈んでもらう」

「そ、そんな簡単に人を殺せるわけ」

「できるんだよ。俺はデュエルで子供の笑顔と人権を守る会の上級会員だ。幹部の方々の力添えがあれば子供の一人や二人、簡単にブラックドミノ湾に沈められる」

 

 デュエルで子供の笑顔と人権を守る会は表向きは人権派デュエリストの集団であり、一般会員からは恵まれない子供を救うとの名目で多くの募金を集めているが、その金の用途は決闘奴隷(子供)の購入と性欲処理道具として使い終わった子供死体をブラックドミノ湾に処分することに使用されていると獄城善人(ぜんと)は愉快そうに語った。

 

「そして、このゲームにおける注意点は二つ。アイスピックで目を刺し抜くのは自ら行うこと。怖いからって明美に刺してもらうのはなしだぜ、幸。いいか、デュエリストってのは勇気を持たなくちゃならない。お前はデュエリストじゃないが俺の子だ。ちゃんと勇気を持て」

 

 獄城善人(ぜんと)がぽんぽんと幸の頭に手を乗せる。

 その様子と言葉の後半部分だけなら、まるで良い父親のようだ。

 

「そして二つ目のルール。五分を過ぎても右目と左目の二か所がアイスピックで刺し抜かれていない場合、ペナルティとして俺がお前らの目を合計四つアイスピックで刺し抜く。その場合、二人とも完全に失明することになるな」

 

 笑顔を浮かべながら獄城善人(ぜんと)が言った。

 

「……そんなことしたら、あなたは性欲を満たせなくなります」

 

 黙って話を聞いていた明美がここで口を開く。

 先ほどこの男は失明した娘はブラックドミノ湾に沈めると言った。

 両方を殺した場合、毎日のようにしている強姦の相手がいなくなると明美は言外に匂わせている。

 

「その時は面倒だが決闘奴隷(デュエルスレイブ)を購入するさ。それに俺はデュエルで子供の笑顔と人権を守る会の幹部の方々には気に入られてるんでね。おさがりの高級決闘奴隷を譲ってもらえるかもしれない」

 

 もはや交渉の余地など一切ないことを理解した。

 

「元々このゲームはデュエルで子供の笑顔と人権を守る会の幹部の方々が嗜まれている遊びでね。ただ子供を強姦するだけではない、上のステージにいる方々なんだ。彼らこそまさに真のデュエリストだよ。俺も今日、そのステージに進むとしよう」

 

 獄城善人(ぜんと)が両手をパンと打ち合わせる。

 

「さあ、それじゃあゲームスタートだ」

 

 アイスピックを台の上に置くと、ストップウォッチを取り出してボタンを押す。

 最初の一分間、幸も明美もその場から動くことができなかった。

 

「……幸ちゃん、覚悟を決めましょう。あなたは左目の視力の方がよかったはずね」

 

 一分三十秒が経過した時、明美がアイスピックを手に取って、震える手でそれを自らの左目に向けた。

 そして間髪を入れず、アイスピックを眼球に突き立てる。

 明美の左目は潰れ、そこから深紅の血が涙のように流れた。

 激痛でアイスピックを床に落とし、呻き声をあげながら左目があった箇所を抑える明美。

 

「いいね。さすが俺の娘だ。よくやった」

 

 興奮した様子の獄城善人(ぜんと)がそれを褒めた。

 

「さあ、幸も明美を見習って頑張りなさい」

 

 獄城善人(ぜんと)は床に落ちたアイスピックを拾うと幸に差し出す。

 震える手で幸はアイスピックを受け取った。

 

「……やる。やってやるわよ」

 

 恐怖を堪えながらアイスピックを自らの右目に向ける。

 だが二分三十秒が経過し、三分が過ぎても、幸は眼球にアイスピックを突き立てることができなかった。

 そして、そのまま時間は流れていく。

 

「おいおい、四分が過ぎたぞ。このまま五分になったら、お前たちは二人とも失明することになる。俺だって親だ。お前たちをブラックドミノ湾に沈めるのは本音では心苦しい」

「だ、だったら、助けてよ! お父さん!」

 

 この男を「お父さん」などと呼びたくはなかった。

 それでも情に訴えかけて助かる可能性があるならと思っての言葉。

 

「駄目だ。俺はこれからデュエルで子供の笑顔と人権を守る会の幹部の方々と同じ真のデュエリストにランクアップする男。一度始めたゲームのルールを途中で変えたりしない」

「そ、そんな!」

「あと三十秒だ」

 

 その時、明美が幸の手からアイスピックを取り上げた。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 突然の事に呆然とする幸。

 そのまま明美は自らの右目にアイスピックを向ける。

 

「幸ちゃん、たとえ地獄からでも、あなたを見守ってる」

 

 そのまま自らの右目を刺し抜こうとした姉の手を間一髪で掴み、強引にアイスピックを奪い取る。

 

「違うよ、お姉ちゃん。きっと、この世界が地獄なのよ」

 

 そして幸は自らの右目にアイスピックを突き立てた。

 直後に襲い来る激痛。それに耐え切れず床に倒れて呻き声をあげる。

 

「エクセレント! さすが俺の娘だ。ご褒美をあげよう」

 

 獄城善人(ぜんと)が懐からデュエルモンスターズのカードを取り出すと床に放り投げる。

 幸の眼前に落下する一枚のカード。

 

 《モリンフェン》

 星5 闇属性 悪魔族

 攻撃力1550 守備力1300

 長い腕とかぎづめが特徴の奇妙な姿をした悪魔。

 

 潰れた右目から流れる血涙は《モリンフェン》のカードを深紅に染め上げた。

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