ブラックドミノシティD区。
下層区の中では一番治安がマシな区域であり、数多くの裏デュエル大会が開催される場所だ。
本日遊羽が参加するのは、裏の大会で最も規模が大きいとされる『
参加費は5000万円。賞金は1億円。『高級決闘奴隷』が優勝賞品として贈呈される大会だった。
裏のデュエル大会はピンキリであり、簡易的なフェンスで四方を囲ってデュエルを行う小規模な大会もあるが、奴隷杯は別格であった。
下層区であるD区には不釣り合いな、C区やB区にあるようなデュエルドームで試合が行われる。
デュエルリングは古代ローマのコロッセオのような造りで、360度好きな場所から試合の観戦が可能。
観客席の上の方には二台の超大型モニターも設置されており、デュエルや『それ以外のエンタメ』を大画面でズームして観客に見せられるようになっている。
数多のデュエル成金、そして数人のトップス市民が出資することで運営されている裏のデュエル大会であった。
受付で選手確認を済ませた後、遊羽は飲食スペースへと足を進めた。
まだ試合開始まで時間はあるが、既に朝食は済ませているので自動販売機で缶コーヒーのみを購入。
それを飲みながら一服する。
周囲を見回すと改めて色々な意味で下層区らしくない場所だと思った。
比較的造りの新しい施設に、パーティー用の洒落た服を着たデュエル成金たち。
観客の安全を確保するために四方に配備されているデュエル警備員。
おそらくここは下層区で一番治安の良い場所なのではないだろうか。
「来たか、
「あ、蛇沼組長」
飲食スペースの椅子に腰かけてタコスを頬張る娘。
蛇沼組の組長、蛇沼ミカであった。
以前と同じ黒いゴスロリ姿だが、この場所には合っている装いである。
「蛇沼組長とは他人行儀じゃのう」
「えっと、何て呼べばいい。ミカちゃん、とか」
「ちゃん付けはやめい」
今日はスコップ持ってないし、服装と小柄なのも相まって普通に可愛いのでそう呼んだがお気に召さなかったようだ。
「じゃあ、ミカ」
「うむ。貴様のことも遊羽と呼ぼう」
満足げに頷きながら組長、ミカがタコスを一口頬張る。
「堅苦しい態度も取らなくてよい。今日はオフじゃからのう」
「でも部下は連れてきてるじゃん」
傍にこそいないが飲食スペースの隅から、こちらの様子を伺っている。
サングラスはしてないし白いスーツを着ているが、あの男性二人はあの時いた蛇沼組のデュエルヤクザだ。
「わしは来なくていいと言ったのじゃが、心配性な奴らじゃよ」
奴隷杯会場とはいえ、下層区で組長を一人にすることはできないということか。
前回のデュエルで吹っ飛ばされた組長を身を挺して庇ったあたり、ミカが部下に慕われているというのもあるのだろう。
「お前も一口食うか」
そう言ってミカが食べていたタコスを差し出す。
「いいの、それじゃあ一口だけ」
朝食は済ませたが満腹というわけもないのでタコスをご馳走になる。
オフというだけあって以前のような威圧感はなく接しやすい雰囲気だった。
もしかしたら、こちらの方が本来の彼女に近いのかもしれない。
「癲狂院遊羽、19歳」
年齢と共に名前を呼ばれ振り向いた先にいたのは緑色のスーツにネクタイを締めた髭のおっさん。
「大瀧、来てくれたんだ」
アダルトアミューズメントパーク『ペンギンランド』オーナー、大瀧修三がそこにいた。
「おや、蛇沼組長もご一緒でしたか」
「大瀧か。お前も遊羽の試合を見に来たのか」
遊羽の時と違いミカは組長呼びを訂正しない。
「ええ、癲狂院遊羽、19歳は今風の若者にしては見どころがありますからね」
「ほう。若者を軽視するお前らしからぬ意見じゃな」
二人にはある程度の面識があるようだ。
「はん! つるむ相手がデュエルヤクザの組長と裏カジノのオーナーって、あんた人間関係見直した方がいいんじゃない」
声のした方に目を向けると赤いチャイナドレスと青いチャイナドレスの娘がいた。
獄城幸と獄城明美。地獄姉妹の二人である。
「なっ、君たちは、一体何の用です」
警戒を露わにする大瀧。
「おっさんなんかに用はないわよ」
それだけ言うと大瀧から視線を外して獄城幸は遊羽の前に立った。
「私たち地獄姉妹を倒したあんたが奴隷杯でどこまでやれるか見に来てやったわ。感謝しなさい!」
ビシィと遊羽を指差しながら獄城幸が言った。
「幸ちゃんは癲狂院さんを応援しにきたんですよ」
「ちょっと、お姉ちゃん!」
姉の言葉で獄城幸は顔を赤面させながら慌てる。
「そういうことですから、蛇沼組の組長さんもそう警戒なさらずに。私たちは既に紅龍から解雇された身ですので」
黙って静観していたミカに獄城明美がおっとりした口調で言った。
「わしは今日オフじゃ。それに遊羽の人間関係に口を挟む気はない」
それだけ言うとミカはタコスを頬張って咀嚼する。
「何よ、それ。さっき人間関係を見直せって言った私に対する嫌味?」
「そんな意図はないがのう」
「こら幸ちゃん、蛇沼組の組長さんに喧嘩を売っては駄目よ」
そんなやり取りを見ていた遊羽は缶コーヒーが空になったことに気づき、二本目を購入しようと自販機に向かった。
そこで、先ほどまではいなかった男が視界に入り足が止まる。
「あんたは……」
アメリカ国旗のバンダナを頭に巻いてサングラスをかけた無精髭の男性。
その男はテーブルの上に組んだ足を乗せて、ハンバーガーを咀嚼していた。
「バンデット・キース!」
サイバー流で言うところのリスペクトデュエルの精神を欠片も持たない遊羽が唯一リスペクトする男、『盗賊』の異名を持つデュエリスト。
元全米チャンピオン、キース・ハワードがそこいた。
「クク、久しぶりだな、癲狂院」
初対面、ではない。
過去に一度だけ遊羽はバンデット・キースと会っている。
そこでキースから複数の昆虫族カードを提供されてデッキを強化したことによって、デュエルアカデミアの編入試験に首位合格して学費免除で特待生として入学できた。
「何であんたがここに」
事前に確認した奴隷杯の出場者名簿にはキースの名前はなかった。
仮に何らかの方法でキースが今回の奴隷杯に出るなら優勝の難易度は跳ね上がってしまう。
それは目的の達成のためには好ましいとは言えないこと。
だがデュエリストとしては『前回行うことができなかった』キースとのデュエルは望むところだった。
それに奴隷杯という大舞台でバンデット・キースとデュエルするというのは、ファンとしては高揚感を覚えるのも事実。
「ククク、奴隷杯には出ねえよ。俺様の目的は外ウマだ」
奴隷杯では『二回戦目』から選手たちを対象としてギャラリーによる賭けが行われる。
どうやらキースの目当てはそちらだったようだ。
「何だ、安心したか」
「安心半分、残念半分ってところかな」
「残念、だと」
僅かに不機嫌な口調になるキース。
「あんたは私がリスペクトする唯一のデュエリスト。そんな男と大舞台でデュエルできないのは残念ってこと」
軽視していると思われるのも不本意なので、はっきりと気持ちを口にする。
キースの表情に大きな変化はない。
ただ無言で遊羽を数秒見つめてから、組んでいた足を床に下す。
「……まあ精々頑張りな。てめえの目的が金なのか奴隷なのかは知らねえがな」
それだけ言うとキースは立ち去って行った。
『会場にお集まりの皆様にご案内申し上げます、本日は――』
ここで奴隷杯一回戦まで三十分である旨を使えるアナウンスが鳴った。
登録した選手は控室に集まるようにとの連絡も含まれている。
二本目のコーヒーを購入後、ミカたちに一声かけると遊羽は選手控室へと向かった。
◇
奴隷杯、選手控室
今回奴隷杯に出場するのは16人の選手であり、その半数以上が女性であった。
だがこの場にいる男性デュエリストが闘志に満ち溢れているのに対し、女性デュエリストの大半は暗い雰囲気である。
とても5000万円の参加費を払って賞金1億円と高級決闘奴隷を勝ち取ろうとするデュエリストには見えない。
奴隷杯について遊羽は事前に調べているので『一回戦』がどのような試合であるかという情報を持ってはいる。
だから彼女たちの態度に違和感はないし、特に嫌悪感があるわけもでないが、デュエリストとして好感を持つことはできなかった。
「あらあら、ようやく来ましたわね。底辺の貧民が」
それらの女たちとは異なる自信に満ち溢れた雰囲気の娘が話しかけてきた。
事前に出場者名簿は確認しているので、彼女が参加することは知ってはいる。
「龍堂院、あんたみたいなトップスの令嬢が奴隷杯に選手として出るとはね」
高級ブランド服に白い毛皮のコートを着た令嬢。
トップスの市民であり、ブラックドミノシティ四大企業の一つである龍堂院カンパニーの後継者、龍堂院麗華がここにいた。
「呼び捨てとは不敬ですが、所詮は底辺の貧民、虫けらの鳴き声。聞き流してあげましょう」
下層区の人間を見下した態度は健在であるが、その口調には以前はなかった遊羽に対する強い敵意が感じられた。
「わたくしとしても、このような下品な大会に参加するのは本意ではありません。ですが、あなたが奴隷杯に出るという情報を掴みましたの。わからせてさしあげますわ。前回のデュエルの結果がマグレでしかないということを」
四大企業の令嬢であれば、大会参加費の5000万円を支払うのは容易い。
龍堂院麗華は遊羽を倒すために奴隷杯にエントリーしたようだ。
確かに前回こっぴどくやつけたとはいえ、ここまで恨まれていたとは。
「おいおい、俺の奴隷杯で雌がイキってんじゃねえよ。女ってのは男に強姦されるためだけの存在。レイプされるためだけに生きている奴隷の分際でありながら、生意気そうな雌犬が今回は二匹もいやがる」
突如として大柄な体格をした男性がこの場に乱入する。
白いシャツの上からカーキー色のジャケットを羽織り、ジーパンを履いている中年男性。
男は龍堂院麗華と遊羽に視線を絡ませながら、清々しいほどの男尊女卑発言を繰り出した。
「あんたがセックスデーモン豚島か」
事前に下調べはしていた以上、奴隷杯の常連出場者であり常連優勝者の存在は把握している。
『
「気に入らねえ目をした女だな。女より上位の存在である男への畏怖がねえ。げへへ、だがな奴隷杯で俺と対峙すれば、すぐに理解することになる。男に対する恐怖を。女が種として下位の存在であり、男に強姦されるためだけに生きているってことを」
遊羽を見下しながらセックスデーモン豚島は男尊女卑発言を垂れ流す。
「ちょっと、何ですの。この下品で低俗な男は。その女とはわたくしが話しているのですわ。会話の途中で割って入るなど礼儀を弁えていない男ですわね」
不愉快そうな口調で龍堂院麗華が言った。
「げへへ、激レアのトップス令嬢、まさか本当に参加するとはな。俺も初めてだ、トップスの女を犯すのは。楽しみだねぇ、楽しみだ。世間知らずのお嬢様に大人の世界を教えてやるよ。そしてわからせてやるぜ、トップス市民であろうが女である以上、男より下の存在だってことを」
龍堂院麗華の体を舐めまわすように見ながら、セックスデーモン豚島が舌なめずりをする。
「安心しろよ、お嬢様。てめえの『二回戦』の相手には俺の雌奴隷をあてがっておいた。だから準決勝進出は決まっている。そこで俺に決闘強姦されるのもな」
意味深な言葉を残してセックスデーモン豚島は立ち去って行った。
「何が言いたかったのかしら、あの下品な男は」
龍堂院麗華はセックスデーモン豚島の言葉の意味を全くわかっていないようだ。
だが遊羽としては心当たりがないわけではない。
奴隷杯のスター選手である豚島は運営にも口を出せる立場だという噂がある。
だとすればあの言葉は……。
「まあ、あんな下品な男など眼中にありませんわ。わたくしが新たに手にした究極の切り札に勝てるデュエリストなど存在しませんもの」
龍堂院麗華も意味深な言葉を残して、遊羽から離れて行った。
セックスデーモン豚島と龍堂院麗華。
両者に共通しているのは、己の勝利を欠片も疑っていないということ。
それはデュエリストとして正しい姿勢ではある。
改めて選手控室を見回すと、この場には15人のデュエリストが集まっていた。
あと一人。最後の参加者が来たら、今回の奴隷杯の出場者が全員揃う。
そして16人目の出場者であるデュエリストがこの場に現れた。
黒いコートを着た暗い青色の髪と鋭い目をした青年だ。
この場に集まった男性デュエリストの中ではおそらく一番若い。
彼はこの場の男性たちの中でも異質な雰囲気を纏った青年だった。
セックスデーモン豚島も含めてこの場にいる男性デュエリストは多かれ少なかれ女性に対して卑猥な視線を向けている。
奴隷杯のルール上、この大会にそういった男性デュエリストが多く集まるのは当然のこと。
だが、この黒いコートの青年はそういった性的な行為を一切求めていないように感じた。
噂通り、彼は『勝利だけ』を求めている。
ヘルカイザー亮。
元サイバー流のデュエリストであり、現在はリスペクトデュエルを捨てて勝利のみを渇望していると噂される、裏サイバー流の使い手。
事前情報によれば、彼も遊羽と同じく奴隷杯初参加とのことだった。
16人全ての出場者が控室に集まったことによって電光掲示板が点灯してトーナメント表が発表される。
インセクト遊羽 -
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新井洋子 -
セックスデーモン豚島 -
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鈴木三佐枝 -
ドラゴンプリンセス麗華 -
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佐藤佳乃 -
デーモンスレイブ莉子 -
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田中朱里 -
ドメスティックバイオレンス郷田 -
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北野千代 -
ファックプラント植木 -
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斎藤恩 -
ネグレクト前田 -
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青木七海 -
ヘルカイザー亮 -
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平野芽衣 -
賽は投げられた。