切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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part2

 昼休憩が終わり遊羽は職員に引率されてFクラスに来た。

 このクラスは五名の空きがあったらしく、あの場にいた子供で遊羽以外にも四人が連れてこられていた。

 見たところ同年代の子供が集められているようだ。

 五人は自己紹介を終えてから空いている席に着いた。

 席にはデイバッグと教科書一式が置いてあった。

 

「このクラスを担当している宮原です。えー、新しく入った5名はその教科書を読んで授業の内容に追いつきなさい。余計な質問はしないように。授業の妨げになりますからね」

 

 どうやら授業は途中から受けることになるようだ。

 そして教師は授業中の質問を受け付けないらしい。

 

「それでも分からないなら、授業の時間外にクラスメイトに教えてもらってください」

 

 時間外対応もしないと教師が言外に含ませる。

 そのまま授業が始まったが、当然のことながら内容が理解できない。

 なので、とりあえず今は教科書を最初から読むことにした。

 一時間経過して十五分休憩になった時、隣の席の女子から声をかけられる。

 

「遊羽ちゃん、だったけ。ちょっといい」

 

 教科書を読むのをやめて、その女子の方に目を向ける。

 

「私は鈴木良子。さっき教師が言ってたクラスメイトが勉強を教えるって話。私がしてあげてもいいよ」

 

 一見すればそれは親切心にあふれたクラスメイトの行動。

 

「ただし遊羽ちゃんの持ってる100枚のカードのうち20枚のカードを貰うことになるけどね」

 

 だがブラックドミノシティにおいて無償の善意というのは絶滅危惧種、ウルトラレアカードなのだ。

 大抵の話にはこうして裏がある。

 

「あ! 言っとくけど他の子に頼んでも同じだよ。むしろ私以上に、ギリギリまでカードを要求してくる子もいるんじゃないかな」

 

 鈴木が両手を広げてニコニコしながら言う。

 

「むしろ私はデッキを組める40枚だけじゃなくて、80枚残してあげるだけ良心的だよ」

 

 他の子供に確認をとればすぐわかる以上、この言葉に嘘はないのだろう。

 デュエル孤児院において、新入りは足元を見られるようだ。

 

「悪いけど遠慮しとく」

 

 鈴木の提案をバッサリと断った。

 100枚のカードはここで生き残っていくための武器であり全財産だ。

 20枚はその五分の一であり、簡単に渡すわけにはいかない。

 それに教科書は今読み進めた範囲なら分からないことはなかった。

 

「あっそう、デュエル孤児院って定期的に試験が行われて成績が悪いと追放されるからね」

 

 安い脅しであったが、成績不振による追放は冊子にも記載された事実である。

 高い水準のデュエリストを育成するためと書いてあったが、まず建前であろう。

 新しい孤児を入れた分だけデュエル孤児院には市から100パック分のカードパックの予算が支給される。

 言い換えるならそれは新しく入る孤児が多ければ多いほど、デュエル孤児院の職員たちがレア抜きできるレアカードが増えるということだ。

 おそらく年度ごとの支給額限度いっぱいまで市から予算を貰うために、成績が下の順に追放して孤児をローテーションしている。

 

「言っとくけど20枚で引き受けてあげたのは今回だけ。もし気が変わったら言って。30枚のカードを渡すなら教えてあげる」

 

 それだけ言うと鈴木は次の授業の教科書を取り出し始めた。

 もうすぐ十五分休憩が終わる。

 

 

 別の授業が始まったが先ほどと同じ教科書を読み進める。

 区切りのいいところまで読むとデッキを取り出した。

 トレードを行う片手間で昆虫族のカードをまとめながら作ったデッキだ。

 

 現在、遊羽の所有する昆虫族モンスターは42枚であり、これがほぼそのままデッキになった。

 大半の昆虫族が通常モンスターなので選ぶ基準は攻撃力の高い順番だ。

 デッキは基本的に40枚のカードで構築するため、何とか種族を統一することはできた。

 モンスター以外にも昆虫族をサポートする魔法カードが数枚は含まれている。

 

 授業中にカードを出しても教師から注意されることはなかった。

 この機会にデッキの調整をする。

 調整と言っても入れるカードが限られているので内容が大きく変わることはない。

 あくまでデッキの見直し、確認作業がメインだ。

 机にカードを並べていても教師は最後まで何も言わなかった。

 

 

 放課後。

 デュエル孤児院の職員が授業で使った教材を片付けている中で、遊羽も教科書をデイバッグに入れて帰り支度を始めた。

 教科書と一緒に渡された冊子には施設案内図もあり、それによればデュエル孤児院の西区画で子供たちは寝泊まりできるようだ。

 早速向かってみようと考えていた時だった。

 

「ははは、何だ、こいつ! 配布されたカードが全部《モウヤンのカレー》ってマジかよ」

 

 このクラスに元からいた大柄な男子が笑い声をあげながら言った。

 その男子の前には俯いて目を伏せた豊満なバストの女子がいる。

 僅かに茶色がかった黒髪の気弱そうな女の子だ。

 彼女は遊羽と同じく今日このクラスに配属された五人の中の一人だった。

 

「へへ、こいつはいいカモになりそうですね」

「《モウヤンのカレー》100枚じゃデッキは作れねえ」

 

 大柄な男子の後ろにいた取り巻きらしき二人がニヤニヤしながら言う。

 確かに取り巻きの言う通りモウヤンのカレー100枚ではデッキを構成することはできない。

 デュエルモンスターズのルールにおいてデッキに入れられる同名カードは三枚までだからだ。

 

「俺は山岸。おい、てめえ名前は」

 

 リーダー格だった大柄な男子、山岸が脅すような口調で豊満なバストの女子に問いかけた。

 

「わ、私は萩原 真帆、です」

「よし、萩原。お前も理解してると思うが、はっきり言っておく。このクラスの中でお前は唯一デュエリストじゃねえ」

 

 デュエリストの最低条件はデュエルで使用可能な40枚のデッキとデュエルディスクを所持していること。

 萩原真帆はデュエルディスクを所持しているが、デュエルで使用できるデッキを持っていないためデュエリストではない。

 

 そして、この世界は全てがデュエルで決まる。

 

 この世界におけるデュエルは大きく分けて二通り。

 

 一つ目は互いに取り決めた条件の元に行われるデュエル。

 敗者は勝者に対して強制的にデュエル開始前に取り決めた条件を履行することになる。

 全てがデュエルで決まる世界においてそれは法則であり逃れることはできない。

 例えばレアカードを賭けたアンティ勝負であれば敗者は強制的にレアカードを渡すことになる。

 

 二つ目は強制デュエル。

 こちらは同意なく強制的にデュエルをしかける行為であり主にデュエル犯罪に用いられるケースが多い。

 繰り返しになるがこの世界は全てがデュエルで決まる。

 相手を暴行するにも、強姦するにも、殺害するにもデュエルで勝利しなくてはならない。

 決闘殺人鬼や決闘強姦魔は被害者にデュエルで勝利してから犯行に及ぶ。

 無論、これはデュエル犯罪であり内容によってはセキュリティというデュエルで犯罪者を逮捕する警察官たちが動く。

 

 ただしセキュリティが動くのは被害者の人権があった場合だ。

 この全てがデュエルで決まる世界においてデュエリストでない者に人権はない。

 そしてデュエリストである最低条件はデッキ40枚とデュエルディスクの所持。

 例外としてデュエリストの親の庇護下にいる十八歳未満の子供は人権が保障されているが、この場にいる子供には関係のない話だろう。

 

「つまりお前は暴行されようと強姦されようと無抵抗で受けるしかないわけだ」

 

 小さく呻き声をあげて怯える萩原真帆。

 

「おっと、勘違いするなよ。何も無理やりしようってわけじゃねえ。デュエル孤児院の職員共に見つかっても面倒だしな」

 

 どうやら山岸は実力行使するつもりはないらしい。

 まあ萩原真帆は仮にもデュエル孤児院に引き取られた孤児の一人だ。

 いくら不手際でデッキを所持していないとはいえ、大勢の前でデュエル強姦を行えば問題になる可能性が高い。

 やるならリスクを下げるため周囲に多くの子供がいる教室ではなく、孤児院の裏など人通りのないところで行うだろう。

 

「むしろ俺は同じクラスの仲間としてお前を救ってやろうとしてるんだぜ」

「どういうこと、ですか」

「余っているカードを40枚提供してやってもいい。そうすれば、お前はデュエリストになれる」

 

 一見すれば、それはクラスメイトの思いやりに溢れた行動。

 

「ただし条件としてこの場で全ての服を脱いで俺に抱かれてもらう。公開セックスってやつだ。以前からこういうのをやってみたかったんだよ」

「そ、そんな」

 

 怯えた様子で後ずさる萩原真帆。

 

「おいおい、その態度は心外だね。俺はレイプではなく合意の上でセックスしようって言ってんだ。言うなればトレードだよ。40枚のカードと引き換えにその体を差し出す。でかい胸でよかったな。じゃなきゃカード40枚との交換は成立しなかったぜ」

 

 荻原真帆は体を震わせて俯きながら目に涙を浮かべる。

 

「お前、いい加減にしろよ」

 

 そんなやり取りを見かねて声をあげたのは、遊羽と同じく新たにクラスに配属された男子の一人だった。

 

「あ? てめえ、余計な口を挟んでんじゃないぜ」

 

 愉快そうに笑っていた山岸の声のトーンが低くなる。

 

「他にも反抗的な目をしてる新入りがいやがるな。面倒だ、クラスのヒエラルキーを理解してない輩はよ」

 

 恫喝するような口調で山岸がデュエルディスクを振りかざす。

 

「文句がある奴はデュエルで相手をしてやるぜ。俺のこの暗黒の竜王が入ったデッキでな」

 

 そしてデッキから一枚のカードを抜き出して表向きにした。

 そのカードは《暗黒の竜王》。

 攻撃力1500のドラゴン族モンスターだ。

 

「こ、攻撃力、1500!?」

 

 山岸に反抗した新入りの男子が動揺する。

 どうやらこの新入りの男子の配布されたカードにも攻撃力1500のカードはなかったようだ。

 

「どうする、デュエルするか?」

「……い、いや。それは」

「デュエルしないなら謝罪しろ!」

 

 口調を荒げながら山岸が叫ぶ。

 

「わ、わかった。謝る。申し訳ない」

「他の連中もわかったか。このクラスで俺に逆らえる奴はいないぜ」

 

 どうやら山岸という少年はこのFクラスのリーダーのような存在らしい。

 クラスに元からいる子供でこの発言に異を唱えるものはおらず、遊羽以外の新入りたちも悔しそうに目を伏せていた。

 

 これら一連のやり取りで山岸に対して嫌悪とかいう感情を覚えたわけではない。

 

「ねえ、デュエルしてよ」

 

 その上ではっきりとそう言った。

 

「何、てめえは新入りの癲狂院だったか。今の言葉、聞き間違いじゃねえよな」

 

 癲狂院という苗字はかなり特殊なので、自己紹介が山岸の記憶に残っていたらしい。

 

「もう一度言った方がいい? 私とデュエルしろって言ったの」

 

 一見すればそれは正義感あふれる行動。

 

「私が勝ったらアンティカードとして暗黒の竜王を貰う」

 

 しかし今、遊羽の頭にあるのは攻撃力1500のドラゴン族モンスター《暗黒の竜王》を入手することだけだった。

 このカードがあればトレードで《吸血ノミ》を手に入れることができる。

 《吸血ノミ》の所有者である谷口は、このクラスには配属されなかったが、休憩時間や放課後に探せば見つかるだろう。

 

「アンティは互いの合意があって成立する。てめえのデッキに暗黒の竜王とつり合うモンスターはいるのか」

「生憎だけど私が配布された100枚のカードの中でリリースなしで出せるモンスターは最大で攻撃力1200だった」

 

 あえてこの情報を隠さずに言う。

 

「おいおい、悪いが攻撃力1200程度のモンスターと暗黒の竜王はつり合わねえな」

「何? 偉そうなこと言っといて逃げるの?」

「てめぇ、女だからって優しくしてもらえると思ってんじゃねえよな」

 

 案の定、山岸は挑発に乗ってきた。

 

「いいだろう。デュエルを受けてやる。ただしてめぇには体を賭けてもらう」

「私をレイプするつもり?」

「おいおい、萩原みたいな豊満なバストならともかく、なんでお前みたいなまな板女と俺がセックスしてやらなきゃならねえ。こっちから願い下げだ」

 

 体を賭けろと要求したにもかかわらず、性行為はしないという発言。

 

「てめぇがデュエルで負けたら、その窓から飛び降りてもらう」

 

 山岸が教室の窓を指差しながら言う。

 このFクラスの教室はデュエル孤児院の二階にあるため、地面との距離はかなりあった。

 

「安心しろよ、足から落ちれば死にはしねえ。まあ両足は骨折するだろうけどな」

「だったらさ、暗黒の竜王も含めたそのデッキのカード、全部賭けてよ」

「何だと、お前の足ごときが俺のデッキ全部とつり合うとでも思ってるのか」

 

 苛立ちを露わにする山岸。

 

「こっちも賭けるものを追加する。あんたはその窓から飛び降りろって言ってたけど、屋上、それも足じゃなくて頭から飛び降りるってのはどう?」

 

 デュエル孤児院は五階建てである。

 その屋上、それも頭から落下すれば絶命は免れない。

 

「つまり、何だ。お前が賭けるのは」

「そう、私が賭けるのは……命」

 

 親指で左胸を指しながら、何の迷いもなく遊羽は言った。

 

「マジかよ……」

 

 これには山岸も若干動揺した様子だ。

 

「や、山岸さん、まずいですよ」

「人が死んだら、デュエル孤児院の職員共からどんな罰を受けるか」

 

 取り巻き二人が慌てて止めようとする。

 

「……強制デュエルなら、まずいだろうな」

 

 仮に強制デュエルで勝利した後、敗北した相手を強引に屋上まで連れて行って突き落せばそれはデュエル殺人である。

 だがデュエルディスクに取り決めを記録した上でデュエルを行い、デュエルの結果として片方が身投げするのであればセキュリティであっても罪には問えない。

 デュエリスト同士の合意の上で行われたデュエルの結果に介入するなど、デュエル軽視に他ならないからだ。

 

「それにデュエル孤児院は隠ぺい体質だ。両者合意のデュエルで人死にが出ても大事にはしねえだろ」

 

 遊羽よりも長くデュエル孤児院にいる山岸はそう判断したようだった。

 

「いいぜ、受けてやるよ。俺は一度、人の頭が潰れたトマトみたいにグチャグチャになる瞬間を見たかったんだ」

 

 山岸が合意したことによってデュエルが成立する。

 

「ダメです! わ、私が、抱かれますから、もうやめてください」

 

 声をあげたのは萩原真帆だった。

 体を震わせながらも勇気を出した一言だったのだろうが、デュエルを行おうとしている『両者』にとってそれは邪魔でしなかった。

 

「萩原、セックスならデュエルが終わって落下ショーを見物した後に好きなだけしてやるから今は黙ってな」

 

 恫喝するような山岸の言葉に萩原真帆は一度硬直しながらも、今度は遊羽の方を向く。

 

「私のことはもういいです。癲狂院さん、こんなデュエルをする必要はありません」

 

 遊羽の頭にはてなマークが浮かんだ。

 そもそも先ほどまで遊羽の意識にこの萩原真帆という少女は一切含まれていなかった。

 デュエルする理由は一貫して《暗黒の竜王》を手に入れ、それを《吸血ノミ》とトレードするためだ。

 

「おい、山岸。さっさとデュエルを始めよう」

「いいね。その生意気な顔が文字通り粉砕されるのが楽しみだ」

 

 互いにデュエルディスクを起動した。

 カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。

 オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされる。

 デュエルディスクによって先攻、後攻が決定された。

 

 

 癲狂院遊羽 /  LP4000

 

      VS

 

  山岸健介 /  LP4000

 

 

「「決闘!!」」

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