観客席にて遊羽はタコスを咀嚼しながら巨大モニターに目を向けていた。
このタコスは奴隷杯の販売員が次の試合の決闘者券と一緒に売り歩いているものである。
現在巨大モニターには準決勝、第一試合の選手とオッズが表示されていた。
インセクト遊羽 1.5
ドラゴンプリンセス麗華 2.5
二回戦第一試合ほどに両者の数字に差はない。
今回は遊羽の倍率の方が低いが、これは倒した相手の差だろう。
常連優勝者であったセックスデーモン豚島倒したことが高く評価されたようだ。
それでも倍率にそこまで大きな差がないのは、龍堂院麗華が真青眼の究極竜を所持しているからだと思われる。
状況次第では一瞬でワンキルを決めることができる究極の融合モンスター。
ブルーアイズ系以外にも龍堂院のデッキには数多のレアカードがあり、一度倒したからと言って決して油断していい相手ではない。
「ブラックドミノシティにおいて下層区の人間はトップスの市民に勝てないと言われているのう」
隣に座っていたミカがモニターを見ながら言った。
「確かに、まともな仕事をしていればレアカード格差は覆せん。だがそれは表の話じゃ」
デュエルアカデミアを卒業した際、遊羽には一般企業に就職するという選択肢もあった。
だがブラックドミノシティの大企業は基本的に、どの会社も下層区の人間を書類選考で落とす。
加えて下層区出身者が中小企業に就職しても薄給であり、その安い給料から更に高い税金が天引きされてしまう。
結果、手取りとして残るのは10万ぐらいだ。
この金額はアカデミア卒の遊羽の場合であり、普通の下層区市民だと更に薄給である。
それでも卒業時、遊羽は手取り20万以上の仕事に就く機会があった。
良くしてくれた教師は、アカデミアの教員に推薦すると言ってくれた。
トップスの友人は、書類選考をスキップして面接するように親を説得すると言ってくれた。
そこに就職できれば手取り40万ぐらいは初任給で貰えたかもしれない。
だが遊羽は目的を達成するために、それらを全て断って裏のデュエル社会に足を踏み入れた。
「かつてわしは貴様をクズ呼ばわりした。実際、貴様のしてきた行為がクズの所業であることは変わらん。だが、貴様は覚悟を持ったクズじゃ」
一見貶しているようで、ミカの言葉にはある種の敬意が込められていた。
「どれだけレアカードを持っていようが、あんな甘ったれのブルジョア女に貴様が負けるものかよ」
「デュエルの結果は勝負がつくまでわからない。だから私は相手が誰であろうと全力でデュエルする。もちろん負けるつもりはないけどね」
「……相変わらず、貴様どこまでもデュエリストじゃな」
呆れているようで、どこか嬉しそうにミカが言った。
そろそろ準決勝が始まる。
大瀧や明美たちにも一声かけてから、遊羽はコロシアムへと向かった。
◇
コロシアム。
遊羽の入場から十分以上経過してから、龍堂院麗華がこの場に現れた。
試合開始まであと一分ほど。
多少遅れても不戦敗になることはないだろうが、けっこうギリギリだった。
「わたくし、人に待たされるのは嫌いですけど、人を待たせるのは大好きなんですわ。特にあなたのような底辺を待たせるのはね。そもそも、わたくしのようなVIPが人を待たせるのは当たり前でしてよ」
開口一番にこれである。
特権階級意識丸出しの龍堂院麗華の発言。
「そう言えば、面白いことを思いつきましたの。奴隷杯では勝者が敗者を凌辱できる。下民との性行為など御免でしたけど、あのファックプラント植木という方から触手マシンを買えばあなたを凌辱できましてよ」
確かにファックプラント植木は2000万であの機械を売ると言っていたし、このお嬢様なら即座に購入できるだろう。
「わたくしが勝った後、観客たちの前で触手マシンを使って、あなたを滅茶苦茶にしてやりますわ」
ドッと観客たちから歓声が上がった。
これで今回の試合、観客たちの多くは龍堂院麗華の味方につくことになりそうだ。
「わたくしが奴隷杯に出たのはあなたを潰すため。ですがここまで来たら、ついでにヘルカイザー亮とかいうのを倒して優勝してしまいましょう」
試合開始時間は過ぎたが奴隷杯運営からのアナウンスはない。
このお嬢様に喋らせた方が、会場が盛り上がるという判断か。
「おそらく、次の第二試合で勝つのは、ファックプラント植木ではなくヘルカイザー亮ですわ。だって攻撃力8000のモンスターを出してらっしゃったもの」
実際、サイバー・エンド・ドラゴンが圧倒的だったのは事実だが、ファックプラント植木は手の内を隠しているようだった。
遊羽としても『7:3』でヘルカイザー亮が有利だと思っているが、デュエルの勝者は決着がつくまでわからない。
「ですが彼も所詮は下民。トップスの市民であるわたくしのようなVIPに勝てるわけありませんわ。今回の奴隷杯、優勝はわたくしで決まりですわ」
遊羽も優勝を目指している以上、強気な発言を全否定する気はない。
だが勝てる根拠がトップス市民だからというのは如何なものか。
「優勝して元トップス市民の決闘奴隷を助けるの?」
「はぁ? あなた、何を訳の分からないことを言ってらっしゃるのかしら」
同じトップス市民なら仲間意識でもあるのかと思ったが違うらしい。
「過去にトップスの市民だとしても、A区の市民権を剥奪されたなら、それはもう下民ですわ」
無情にも龍堂院麗華はそう断言した。
「ですが決闘奴隷を売ったところで精々数億円程度でしょう。なら底辺地区に住んでる浮浪者にでも強姦させて、その動画をDチューブにでもアップしますわ。ああ、どうせなら触手マシンを使った動画も撮ろうかしら」
このお嬢様の性根は出会った時から何も変わっていない。
「というわけで、まずはあなたをサクッと瞬殺して差し上げましてよ」
「やってみなよ、お嬢様」
龍堂院麗華の挑発に対して、遊羽は正面から受けて立つ。
『それでは、これより準決勝第一試合を開始します。両者デュエルディスクを起動してください』
観客たちが盛り上がったタイミングで、奴隷杯の運営からアナウンスが流れた。
両者のデュエルディスクのオートシャッフルシステムが起動して互いのデッキが自動でシャッフルされる。
そしてデュエルディスクによって先攻後攻が決定される。
害虫 ―― 癲狂院遊羽 / LP4000
VS
龍姫 ―― 龍堂院麗華 / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのは遊羽だった。
「私のターン。まずはモンスターをセット」
手始めに裏側守備表示でモンスターを場に出す。
「そしてリバースカードを伏せてターンエンド」
「底辺に相応しい地味な盤面ですこと。わたくしのターン、ドローですわ」
龍堂院麗華が引いたカードを見て笑みを深め、即座に使用する。
「《サンダーボルト》を発動!」
《サンダーボルト》は相手の場のカードを全て破壊する強力なレアカードだ。
セレブ流やブルジョア流のデッキには必ず投入されている。
そしてこのお嬢様の強運なら、それを早い段階で手札にもってきてもおかしくはない。
《サンダーボルト》によって、セットしていた《代打バッター》が破壊される。
「代打バッターの効果発動。手札からアルティメット・インセクトLV5を攻撃表示で特殊召喚」
《アルティメット・インセクトLV5》
星5 風属性 昆虫族
攻撃力2300 守備力900
「だったら《ハーピィの羽箒》発動でしてよ」
前回のデュエルではそれで伏せカードを破壊されたのだったか。
無論、相手の手札に《ハーピィの羽箒》があるかなど、普通は分からないので仕方ないこと。
だがセレブ流の性質と龍堂院麗華の強運を判断材料に加えれば、ある程度は先読みすることはできる。
「罠カード《和睦の使者》。このターン私のモンスターは戦闘では破壊されず、受けるダメージは0になる」
「ちっ、小賢しい真似を」
セレブ流の高額レアカードを連発する戦略はワンパターンであるが故に読みやすい。
《ハーピィの羽箒》は強力な魔法カードだが、《和睦の使者》のようなフリーチェーンの罠なら破壊される前に効果を発動できる。
これで仮に龍堂院麗華がこのターン、《真青眼の究極竜》を出してもワンターンキルされることはない。
「それなら《ドラゴン・目覚めの旋律》。わたくしは青眼の白龍を捨てることで、デッキから二枚の青眼の白龍を手札に加えますわ」
《ドラゴン・目覚めの旋律》は手札を一枚捨てて、デッキから攻撃力3000、守備力2500のドラゴン族モンスターを二枚手札に加えるカード。
その条件は《青眼の白龍》をサーチするのに適している。
「そして魔法カード《死者蘇生》を発動ですわ!」
《サンダーボルト》《ハーピィの羽箒》《死者蘇生》。
この三枚はトップス三種の神器と呼ばれており、A区の市民、特にセレブ流とブルジョア流のデュエリストのデッキには、全種がほぼ確実に投入されている。
それをこの準決勝で早々に三枚揃える辺り、やはりこの龍堂院麗華という娘は強運だった。
「わたくしが蘇生するのは青眼の白龍!」
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
《死者蘇生》の効果で墓地から《青眼の白龍》が攻撃表示で特殊召喚される。
とはいえ《和睦の使者》の効果で、このターン遊羽は戦闘ダメージを受けず、モンスターが戦闘破壊されることもない。
「わたくしはカードを一枚セットしてターンエンド」
「私のターン、ドロー」
引いたカードを遊羽は手札に加える。
「アルティメット・インセクトLV5の効果発動。このカードを墓地に送ることで、デッキからアルティメット・インセクトLV7を特殊召喚!」
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
「ほほほ、そのモンスターなら前回のデュエルの時に青眼の白龍で倒しましたわ」
確かに龍堂院麗華との一回目のデュエルにおいて、《アルティメット・インセクトLV7》は《青眼の白龍》の攻撃を受けて戦闘破壊された。
だがそれは《アルティメット・インセクトLV7》の本来の力が発揮されていなかったからに過ぎない。
「バトル! アルティメット・インセクトLV7で青眼の白龍を攻撃!」
「はぁ? あなた何をやっていらっしゃるの」
こちらの攻撃の意図を理解できていない様子の龍堂院麗華。
次の瞬間、《アルティメット・インセクトLV7》の攻撃によって《青眼の白龍》が破壊された。
ドラゴンプリンセス麗華 LP3700
「なっ、どうして!?」
「アルティメット・インセクトLV5の効果で特殊召喚されたアルティメット・インセクトLV7が場にいる限り、相手の場のモンスターの攻撃力と守備力は700ポイントダウンする」
つまり《アルティメット・インセクトLV7》が場に出た時点で、《青眼の白龍》の攻撃力は2300に下がっていたということ。
相手が攻撃力3000打点のモンスターであっても、正面から戦闘破壊できるインセクトカード。
これが遊羽を支え続けた、デュエルアカデミア時代のエースモンスターの真骨頂であった。
「私はモンスターをセット」
《応戦するG》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1400 守備力1400
バトルフェイズ前に攻撃表示で出せば追撃できたが、龍堂院麗華の手札には既に《青眼の白龍》が二枚ある。
勝負を決められる状況ならともかく、そうでないなら裏側守備表示で場に出す。
このモンスターの役割は場から墓地に置かれた時のサーチ効果を発動することだ。
「更にカードを一枚伏せてターン終了」
セットしたカードは《攻撃の無敵化》。
状況に応じて二種類の効果の内、一つを選択して発動できる罠カード。
「わたくしのターン! ドロー」
引いたカードを見て龍堂院麗華が口元を歪めて笑った。
「引きましたわよ!《融合》のカードを」
四大企業の令嬢としての強運は留まるところを知らない。
「永続トラップ《正統なる血統》を発動。青眼の白龍を蘇生しますわ!」
デーモンスレイブ莉子とのデュエルでも使用していた永続罠《正統なる血統》によって、墓地から《青眼の白龍》が特殊召喚された。
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000→2300 守備力2500→1800
既に龍堂院麗華の手札には二枚の《青眼の白龍》がある。
これで《青眼の白龍》、三体融合の準備は整ったわけだ
「おほほほ、そう言えばそのモンスターもアルティメット、究極の名を冠していますのね。ですが所詮は虫けら。本物の究極には勝てないことを教えてあげますわ」
龍堂院麗華が《融合》のカードをデュエルディスクに差し込む。
「魔法カード《融合》を発動。場と手札の青眼の白龍三体を融合しますわ」
三体の《青眼の白龍》が融合して、龍堂院麗華のエクストラデッキから融合モンスターが特殊召喚される。
それと同時に墓地から特殊召喚した《青眼の白龍》が場を離れたことによって《正統なる血統》が自壊した。
「究極のVIPモンスター! 真青眼の究極竜を融合召喚!」
《真青眼の究極竜》
星12 光属性 ドラゴン族
攻撃力4500→3800 守備力3800→3100
《アルティメット・インセクトLV7》の効果によって、即座に《真青眼の究極竜》の攻撃力と守備力が低下する。
「目障りな虫けらの能力で多少は攻撃力が下がりましたが、この程度なら何の影響もありませんわ。バトル! 真青眼の究極竜でアルティメット・インセクトLV7に攻撃! ハイパー・アルティメット・バースト!!」
《真青眼の究極竜》の光線攻撃が《アルティメット・インセクトLV7》に向けて放たれた。
「トラップカード《攻撃の無敵化》。このカードは二つの効果から一つを選択して使用する」
ここで遊羽は伏せていた罠カードを発動する。
「一つ目はフィールド場のモンスター1体を戦闘、効果による破壊から守る効果。そして二つ目は私がバトルで受けるダメージを0にする効果」
「ふん、またダメージを0にして逃げるつもりですわね。お好きになさい。どうせ、あなたにわたくしの真青眼の究極竜は倒せませんわ」
確かに現在の遊羽の手札に《真青眼の究極竜》を破壊できるカードはない。
だからこそ選択するのは『一つ目』の効果だ。
「《攻撃の無敵化》によって、このバトルフェイズ中、アルティメット・インセクトLV7は戦闘、効果によって破壊されない!」
自らのライフを削ってでも《アルティメット・インセクトLV7》を守ることを遊羽は選んだ。