切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

34 / 100
決勝戦

 奴隷杯コロシアムの巨大モニターには決勝戦に出場する選手とそのオッズが表示されていた。

 

 インセクト遊羽 1.8

 ヘルカイザー亮 1.6

 

 両者のオッズに殆ど差はなく、観客のみならず運営側としても、どちらが有利か判断の難しい試合のようだ。

 それ故に観客たちは盛り上がりを見せていた。

 賭けというのはどちらが勝つか分からない方がエンタメになる。

 元々、ここにいる観客の大半は金持ちであり、賭けで稼ごうという考えは薄い。

 

 だが遊羽としてはそういうわけにはいかなった。

 何としても優勝して賞金と高級決闘奴隷を勝ち取らなくてはならない。

 

「行くのか」

 

 遊羽が席から立ち上がったのを見てミカが声をかける。

 

「勝ってくる」

 

 ミカと大瀧、明美の三人に遊羽は言った。

 

「遊羽、わしはこれまで貴様をクズ呼ばわりしてきた。じゃが、それは本来デュエルヤクザである、わしの言えることではない」

 

 デュエルヤクザは日常的にデュエルで命の奪い合いをしている。

 世間一般の基準で見ればクズの側の存在。

 

「それでも、クズに身を落とさねば果たせないこともある。綺麗なままで何も成せないなら、泥を被ることになろうとも成すべきことを成せ」

 

 その言葉にはアカデミアに通うような年齢でありながら、デュエルヤクザの組長をしている者としての重みがあった。

 

「癲狂院遊羽、19歳」

 

 相変わらずフルネームの後に年齢を添えるという個性的な呼び方だった。

 

「私は汚い地べたに平気で座り込み、己の厚顔無恥を省みず、自分のことだけを語る、今風の愚かな若者が嫌いです」

 

 アダルトアミューズメントパーク『ペンギンランド』のオーナー、大瀧修三。

 

「だが君はそうではない。君には可能性がある。惨めな将来を打ち破るだけの力も。私から言えるのはそれだけです」

 

 それは若者を軽視する、このペンギン好きの中年男からの最大限の激励だった。

 

「癲狂院さん」

 

 おっとりとした口調で名前を呼ばれる。

 

「ヘルカイザー亮さんは紳士的な方のようですし、試合後に強姦がないなら、私としてはどちらが勝ってもいいかもしれません。ふふ、冗談ですよ。元々は幸ちゃんのためでしたが、今は私もあなたに勝ってほしいと思っています」

 

 元紅龍の雇われである裏のタッグデュエリスト、地獄姉妹の姉、獄城明美。

 

「それから幸ちゃんが今、こちらに向かっていると連絡が入りました。コロシアムの選手入場口に向かうようにコメントを入れたので、時間ギリギリまで待ってあげてください」

「幸が? いいよ、わかった」

 

 遊羽としても、それは特に問題はない。

 龍堂院麗華が一分前に来て平然としていたように、時間ギリギリ、或いは多少遅れようと不戦敗になることはないからだ。

 奴隷杯運営としても賭けで大きな金が動いている以上、選手が数分遅れただけで負け扱いにはできない。

 

 三人に手を振ってから観客席の出口へと向かう。

 途中でキースの姿が目に入った。

 また遊羽に賭けたのか少し気になったが、わざわざ聞くことでもないので、そのまま通り過ぎた。

 

 選手控室に到着したので、そこの椅子に座る。

 最初は十六人いた選手が、今はもう誰もいなかった。

 ヘルカイザー亮は既にコロシアムにいるのだろう。

 

 試合開始まで残り十分になった時点で薄暗い廊下を進んで、コロシアムの選手入口付近まで移動。

 壁にもたれかかりながら、スマホを取り出して時間を確認する。

 

 試合開始五分前になった時、彼女は来た。

 地獄姉妹の妹、獄城幸。

 走って来たようでかなり息が上がっていた。

 

「受け取りなさい!」

 

 幸が投擲したカードを遊羽は空中でキャッチした。

 

《完全態・グレート・インセクト》

 

 それはエクストラデッキに投入する昆虫族融合モンスターであり、三億円ぐらいするウルトラレアカードだった。

 

「それから、これも」

 

 傍に来た幸から更に二枚のカードを手渡される。

 

 《ジャイアント・メサイア》《寄生虫パラノイド》。

 手札誘発のレアカードで、どちらも一億円はするはずだ。

 これらを購入するよりは一枚2500万円のカードを四枚買ってデッキ全体のパワーを上げるのを優先していたことから、未だに遊羽が所持していなかった二枚の昆虫族カードである。

 

「その三枚はあんたにくれてやるわ。さっさとデッキに入れなさい」

 

 奴隷杯では15枚までデッキ、エクストラデッキのカードを入れ替え、または新規投入が認められているのでルール上は問題ない。

 そして戦略的にもこの三枚をデッキに加えない理由はない。

 

「何でそこまでしてくれるわけ」

「はん! あんたに賭けて五億以上儲けたから、それを使って買ったのよ」

「答えになってない。自分で賭けた金なんだから、自分のために使うのが普通でしょ」

 

 そちらが勝手に賭けたのだから私は責任なんて取らない。

 あの時、遊羽が言った言葉であり、逆に言えばそれで儲けたとしても、取り分を要求する気はなかった。

 

「地獄姉妹に勝ったあんたが奴隷杯で優勝するところを見たくなった。ただ、それだけ。あの決闘強姦魔からエクストラデッキがなくて舐められていたのも、見ててムカついたしね」

「私は遠慮を美徳とは考えない。相手がくれると言って差し出したものは遠慮なく貰う」

「だから、それでいいって言ってるわ」

 

 その言葉を受けて遊羽は《完全態・グレート・インセクト》をエクストラデッキに、《ジャイアント・メサイア》と《寄生虫パラノイド》をデッキに投入した。

 

「ありがと。正直、かなり嬉しい。グレート・インセクトは前から欲しかったから」

 

 以前から入手したいとは思っていたが、金額が金額だけに手が出せなかった。

 買うとしても奴隷杯で優勝して多数のデュエル成金とコネを作り、高額報酬の仕事を複数受けてからだと思っていた。

 

「お礼なんていらない。私は自分のために金を使ったの。じゃあ、もう行くわ」

 

 踵を返して幸が選手控室の方に歩き始める。

 

「……勝ちなさいよ」

 

 背中を向けたまま、幸はそう言った。

 無論、言われるまでもなく遊羽はそのつもりだ。

 自分の目的のために勝つというスタンスも変わらない。

 

「あんたから受け取ったカード、無駄にはしない」

 

 それだけ言って遊羽はコロシアムへと足を踏み入れた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 観客席にてキース・ハワードは組んだ両足を前の座席に乗せたままコロシアムを見ていた。

 現在、コロシアムで向かい合っているのは二人の男女。

 一人目は黒いコートを着た、暗い青色の髪と鋭い目をした青年。

 地獄帝王(ヘルカイザー)の異名を持つデュエリスト、丸藤亮。

 二人目は黒いロングコートを羽織り、首から金属タグをかけた、緑みがかった髪の女。

 害虫(インセクト)の異名を持つデュエリスト、癲狂院(てんきょういん)遊羽(ゆうは)

 

 過去に一度、酒場にてキースは癲狂院遊羽に会った。

 その時の彼女の目を今でも覚えている。

 キースと同じように地獄を知っていながら、決定的に異なる目をした彼女の瞳を。

 

 それから数年後に噂で《青眼の銀ゾンビ(ブルーアイド・シルバーゾンビ)》販売なんていうセコイ商売をしていると聞いた時はがっかりしたものだ。

 あの娘も結局は地獄に、この街の闇に飲まれたとかと。

 

 だが奴隷杯で再開して、そうではないと分かった。

 癲狂院遊羽の瞳はあの頃と何も変わってはいない。

 

「ククク、思い出すぜ。あの時、てめぇは俺様の指示を必要としなかったな」

 

 以前、利害関係の一致からキースは癲狂院遊羽のデッキを強化してデュエルをさせた。

 だがその際、キースは指示を出すことができない事情があり、デュエル中の判断は彼女だけで行わせた。

 結果として、癲狂院遊羽はキースから受け取った初めて使用する昆虫族カードを使いこなして勝利を重ねた。

 

「また稼がせてくれよ、癲狂院」

 

 キースの手には大量の決闘者券が握られていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 奴隷杯のコロシアムにて遊羽はヘルカイザー亮と相対していた。

 両者の間に会話はない。

 試合開始を間近にして、互いに極限まで集中力を高めている。

 

『皆様、お待たせしました。これより奴隷杯決勝戦を開始させていただきます』

 

 奴隷杯運営からの最終戦を告げるアナウンス。

 

『デュエルディスクを起動する前に、両者一言ずつ意気込みをお願いします。まずはヘルカイザー亮選手からどうぞ』

 

 それは決勝戦らしい演出であった。

 

「リスペクトなどしない、俺は勝利だけを求める。勝つのは俺だ!」

 

 ヘルカイザー亮が力強く宣言した。

 サイバー流におけるリスペクトデュエルの精神からはかけ離れた言葉。

 とはいえ観客たちには受けがいいようで、会場は歓声に包まれた。

 

「だったら私は勝利と金、そして奴隷を求める。欲しい物が多い私の方が勝つ!」

 

 向こうが勝利のみを求めているというなら、同じ土俵に上がる必要はないと遊羽は判断した。

 一つを追求する相手に対して、多を追い求める人間の欲望の強さで勝負する。

 

『それではデュエル開始!!』

 

 両者のデュエルディスクのオートシャッフルシステムが起動して互いのデッキが自動でシャッフルされる。

 そしてデュエルディスクによって先攻後攻が決定される。

 

 

  害虫 ―― 癲狂院遊羽 /  LP4000

 

          VS

 

 地獄帝王 ―― 丸藤亮 / LP4000

 

 

「「決闘!!」」

 

 先攻をとったのは遊羽だった。

 

「私のターン。モンスターをセット。更に《大樹海》発動」

 

 セックスデーモン豚島戦でも用いた永続魔法《大樹海》。

 昆虫族モンスターが破壊された際、同じレベルの昆虫族をサーチする。

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

 

 セットしたのは《攻撃の無敵化》と《闇の増産工場》。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ヘルカイザー亮が引いたカードを手札に加える。

 

「来い! サイバー・ドラゴン」

 

 《サイバー・ドラゴン》

 星5 光属性 機械族

 攻撃力2100 守備力1600

 

 《サイバー・ドラゴン》は相手の場にのみモンスターがいる時、特殊召喚することができるモンスター。

 

「こいつだ! サイバー・ドラゴン・コア!」

 

 《サイバー・ドラゴン・コア》

 星2 光属性 機械族

 攻撃力400 守備力1500

 

「サイバー・ドラゴン・コアの効果発動! デッキから《サイバーロード・フュージョン》を手札に加える」

 

 ヘルカイザー亮がデッキからサイバー・ドラゴン専用の融合カードをサーチする。

 

「バトルだ! サイバー・ドラゴンでセットされたモンスターを攻撃! エヴォリューション・バースト!」

 

 《ドラゴンフライ》

 星4 風属性 昆虫族

 攻撃力1400 守備力900

 

 《サイバー・ドラゴン》の攻撃によって、裏側守備表示で出していた《ドラゴンフライ》が戦闘破壊された。

 

「《大樹海》効果発動。デッキからレベル4昆虫族モンスター、髑髏顔 天道虫(ドクロがん レディバグ)を手札に加える」

 

 そして普段であれば《アルティメット・インセクトLV3》をリクルートするのだが、ヘルカイザー亮が《サイバーロード・フュージョン》を手札に加えている以上、そういう訳にはいかない。

 

「ドラゴンフライの効果でドラゴンフライを特殊召喚」

 

 《ドラゴンフライ》

 星4 風属性 昆虫族

 攻撃力1400 守備力900

 

「速攻魔法発動!《サイバーロード・フュージョン》!」

 

 《サイバーロード・フュージョン》はバトルフェイズ中に融合召喚を行えるカードだ。

 そして《サイバー・ドラゴン・コア》はフィールド、墓地に存在する限り、カード名を《サイバー・ドラゴン》として扱う効果を持っている。

 

「俺は場のサイバー・ドラゴン二体を融合! 出でよ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 《サイバー・ツイン・ドラゴン》

 星8 光属性 機械族

 攻撃力2800 守備力2100

 

 一回戦でもヘルカイザー亮が使用した二回攻撃可能な最上級融合モンスターだ。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンでドラゴンフライを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

 《ドラゴンフライ》が破壊されて、リアルソリッドビジョンの衝撃により遊羽は後退する。

 

 インセクト遊羽 LP2600

 

「《大樹海》の効果発動。代打バッターを手札に。そしてドラゴンフライの効果で再びドラゴンフライを特殊召喚」

 

 《ドラゴンフライ》

 星4 風属性 昆虫族

 攻撃力1400 守備力900

 

「俺はこれでバトルフェイズを終了する」

 

 《サイバー・ツイン・ドラゴン》で追撃すれば遊羽のライフを削れるのに攻撃してこない。

 ここで《ドラゴンフライ》が戦闘破壊されれば、《アルティメット・インセクトLV3》をリクルートして、次のターンに《アルティメット・インセクトLV5》に進化できるのだが、完全に戦略が見切られている。

 

「だったら永続トラップ《闇の増産工場》を発動」

 

 《闇の増産工場》は1ターンに一度、自分のフィールド、または手札からカードを一枚墓地に送って一枚ドローする永続罠だ。

 

「私は手札の髑髏顔 天道虫(ドクロがん レディバグ)を墓地に送って一枚ドロー。更に髑髏顔 天道虫が墓地に置かれた時、ライフを1000回復する」

 

 インセクト遊羽 LP3600

 

 サイバー流の猛攻への備えは伏せてある《攻撃の無敵化》だけではない。

 

「俺はターンエンドだ」

「なら私のターン。ドロー」

 

 アルティメット・インセクトを特殊召喚する戦略は破られた。

 ならば別の昆虫戦術を披露するまでのことだ。

 

「まずは《闇の増産工場》でフィールドのドラゴンフライを墓地に送って一枚ドロー」

 

 これで遊羽の場にモンスターはいなくなった。

 一見、サイバー流の激しい攻撃を凌ぐ上で、リクルーターを自ら除去するのは悪手。

 だが自分フィールドにモンスターがいない時に出せる上級モンスターは《サイバー・ドラゴン》だけではない。

 

「相手フィールド場にのみモンスターが存在する時、このモンスターは攻撃力を1300にしてリリースなしで場に出せる。地獄大百足(ヘル・センチピード)を召喚」

 

 《地獄大百足(ヘル・センチピード)

 星7 闇属性 昆虫族

 攻撃力1300 守備力1300

 

 元々の攻撃力は2600だが、リリースなしで出すと半分になる最上級の昆虫族モンスターだ。

 

「バトル! 地獄大百足でサイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃!」

「迎え撃て、サイバー・ツイン・ドラゴン! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

「速攻魔法《禁じられた聖杯》発動。ターン終了時まで地獄大百足の攻撃力は400アップして効果は無効化される」

 

 効果が無効にされたことによって《地獄大百足》の攻撃力は2600に戻り、その数値に400が加算される。

 

 《地獄大百足(ヘル・センチピード)

 攻撃力3000

 

 光線を弾き返した《地獄大百足》が《サイバー・ツイン・ドラゴン》に巻き付いて、そのまま絞め殺した。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴン撃破!」

 

 ヘルカイザー亮 LP3800

 

「クク、面白い」

 

 サイバー流の最上級融合モンスターを破壊されたというのに、ヘルカイザー亮に焦りは見えなかった。

 

「私はターンエンド」

 

 このターンが終われば《地獄大百足(ヘル・センチピード)》の攻撃力400アップは元に戻る。

 だが一度でも効果が無効化されれば、2600になった攻撃力はそのままだ。

 

「俺の勝利の糧となれ。ドロー!」

 

 引いたカードを見てヘルカイザー亮は攻撃的な笑みを浮かべた。

 

「永続魔法《サイバーダーク・ワールド》を発動! デッキから《サイバー・ダーク・クロー》を手札に加える」

 

 一瞬、背筋が寒くなるような感覚に襲われ鳥肌が立つ。

 あのカードはこれまでのサイバー流のカードではない。

 

「サイバー・ダーク・クローを墓地に送ることで《サイバーダーク・インフェルノ》を手札に加える! ククク、フィールド魔法《サイバーダーク・インフェルノ》発動!」

 

 突如としてフィールドが禍々しい業火に包まれた空間へと塗り替わっていく。

 その光景はまるで神話における地獄のようだった。

 それは彼がファックプラント植木を相手にした時でさえ、使われることがなかった『サイバーダーク』のカード。

 

「裏サイバー流の切れ味、とくと味わうがいい」

 

 この瞬間、奴隷杯にて裏サイバー流デュエリスト、ヘルカイザー亮の完全なる実力が解放された。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。