切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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決着

 《究極完全態・グレート・モス》はデュエルアカデミアを卒業した際、遊羽が恩師から受け取ったカードであった。

 下層区出身である遊羽を冷遇するアカデミア教師もいる中で、その恩師はそういった差別意識を持たない女性であり、アカデミアに複数いる『古代の機械(アンティーク・ギア)』デッキを使う教師の中でも優れたデュエリストだった。

 恩師は遊羽が裏のデュエル社会に行くことを悲しんでいたが、それでも《究極完全態・グレート・モス》を渡してくれた。

 そして裏のデュエル社会で幾度となく行ってきた、一流クラスのデュエリストとのデュエルでも《究極完全態・グレート・モス》は一度たりとも敗れることなく、遊羽を勝利に導いた。

 

 その《究極完全態・グレート・モス》が今、眼前で木端微塵に砕け散った。

 

 リアルソリッドビジョンの衝撃によって遊羽の体は後方へと吹っ飛ばされて地面を転がる。

 

 インセクト遊羽 LP650

 

 だがまだ遊羽のライフは残っている。

 

「……私が発動したのは《ダメージ・ダイエット》。このターン、私が受ける全てのダメージは半分になる」

 

 前のターン墓地の《超進化の繭》の効果でドローした《プリミティブ・バタフライ》を《闇の増産工場》のコストにして最後に引いたのが、この《ダメージ・ダイエット》だった。

 《封魔の矢》発動後では、そのターン終了時まで互いに魔法、罠の効果を発動できないこともあって、バトルフェイズ前に行った動作。

 攻撃宣言の瞬間に気が緩んだとはいえ、その直前まではデュエリストとして最適な行動をとれていた事により九死に一生を得た。

 

 《ダメージ・ダイエット》なら《サイバーダーク・インフェルノ》によって《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》に強靭な耐性が付与されていたとしても関係ない。

 この方法でミカの《毒蛇神ヴェノミナーガ》攻撃を受けながらも、首の皮一枚で繋がったのを思い出す。

 そして起き上がる際、ふと観客席の方に目を向けた。

 その《毒蛇神ヴェノミナーガ》の所有者であるミカはこちらを応援してくれているようだった。

 ミカだけではない。

 大瀧と幸、明美の三人も必死な様子で遊羽に声援を送っているようだ。

 

 意味のないことだと思う。

 応援も罵倒も、どちらも等しく無意味で無価値。

 それが癲狂院(てんきょういん)遊羽(ゆうは)のデュエリストとしての思考であり、セックスデーモン豚島相手に宣言した時に四人も聞いているはずだ。

 こうしてデュエル中に遊羽が観客席に意識を向けていることも、デュエリストとして正しくない行為だ。

 

 それでも自分を応援してくれる四人を見ていると体に力が入るような気がした。

 

「《大樹海》効果発動! レベル8昆虫族モンスター、デスサイズ・キラーを手札に加える。《闇の増産工場》でデスサイズ・キラーを捨てて一枚ドロー!」

 

 まだデュエルは終わっていない。

 

「俺はこれでターンエンド」

「私のターン、ドロー!《闇の増産工場》の効果発動、昆虫機甲鎧(バイオインセクトアーマー)を墓地に送って一枚ドロー」

 

 ドローした《昆虫機甲鎧(バイオインセクトアーマー)》を即座に《闇の増産工場》のコストにして、更に一枚カードを引く。

 

「魔法カード《貪欲な壺》を発動。ドラゴンフライ、代打バッター、甲虫装甲騎士(インセクトナイト)地獄大百足(ヘル・センチピード)、プリミティブ・バタフライの五枚をデッキに戻すことで二枚ドロー」

 

 《貪欲な壺》は墓地のカードを五枚戻すことによって二枚ドローできる魔法カード。

 初手で引けば腐るが《大樹海》と《闇の増産工場》で墓地が肥やされたこの局面であれば発動は容易い。

 

「速攻魔法《超進化の繭》発動!」

 

 《DNA改造手術》は永続罠であり、場に残り続ける限り効果を発揮する。

 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は前のターンと同じく、装備カードを装備した昆虫族だ。

 

「鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴンをリリースして、デッキから鉄鋼装甲虫を特殊召喚!」

 

 《鉄鋼装甲虫(メタルアーマードバグ)

 星8 地属性 昆虫族

 攻撃力2800 守備力1500

 

「墓地に置かれた《超進化の繭》を除外、究極完全態・グレート・モスをデッキに戻して一枚ドロー」

 

 可能であればヘルカイザー亮の場の伏せカードを除去するカードを引き当てたかったが、それは叶わなかった。

 

「グレート・インセクトを攻撃表示に変更」

 

 ヘルカイザー亮が伏せているのが《聖なるバリア -ミラーフォース-》のようなカードの可能性もある以上、戦闘破壊耐性を持つ《完全態・グレート・インセクト》は守備表示のままにしておくのが賢い選択にも思える。

 だが、そんな中途半端な攻めではこの男を倒すことはできないと遊羽は直感していた。

 

「ゴキボール召喚!」

 

 《ゴキボール》

 星4 地属性 昆虫族

 攻撃力1200 守備力1400

 

「墓地の昆虫機甲鎧(バイオインセクトアーマー)をゴキボールに装備」

 

 《昆虫機甲鎧(バイオインセクトアーマー)》は墓地からでも昆虫族モンスターに装備することができる。

 

「バトルフェイズだ!」

 

 現在の遊羽の場のモンスターは三体。

 

 《完全態・グレート・インセクト》

 星9 地属性 昆虫族

 攻撃力3000 守備力2600

 

 《鉄鋼装甲虫(メタルアーマードバグ)

 星8 地属性 昆虫族

 攻撃力2800 守備力1500

 

 《ゴキボール》

 星4 地属性 昆虫族

 攻撃力1200→2700 守備力1400→2900

 

 ヘルカイザー亮のライフポイントは2200であり、一体でも攻撃が通れば勝利できる。

 

「グレート・インセクトでダイレクトアタック! モス・ハリケーン!!」

「トラップカードオープン《パワー・ウォール》!」

 

 《完全態・グレート・インセクト》の竜巻攻撃が命中したと思われた瞬間、ヘルカイザー亮が罠カードを発動した。

 

「《パワー・ウォール》はモンスターから攻撃を受けるダメージ計算時に発動。戦闘ダメージが0になるように、受けるダメージ500につきデッキの上から一枚カードを墓地へ送る。俺が墓地に送ったカードは六枚。よって3000のライフダメージが相殺される」

 

 普通なら勝利を確信してもいい場面だった。

 こちらにはまだ攻撃可能なモンスターが二体おり、相手の場に伏せカードは残っていない。

 

鉄鋼装甲虫(メタルアーマードバグ)でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 サイバー・ドラゴンデッキの構成を考えれば、《超電磁タートル》のような墓地で発動する防御札を入れられる枚数には限りがあるはずなのだ。

 ましてや《パワー・ウォール》でデッキの上から墓地に送られた六枚に、墓地効果を発動できるカードが入る確率はかなり低い。

 

「墓地の《光の護封霊剣》の効果発動! このターン相手は直接攻撃できない」

 

 《光の護封霊剣》は相手ターンに墓地から除外することで、相手モンスターの直接攻撃を無効にするカードだ。

 それが《パワー・ウォール》で墓地に送られたカードの中に含まれていた。

 これで、このターンこれ以上の攻撃を行うことはできない。

 

「私はカードを一枚セット」

 

 ならば今出来ることをやるだけだ。

 伏せたカードは三枚目の《超進化の繭》。

 仮に次のターン、ヘルカイザー亮が《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を融合召喚しても《DNA改造手術》とのコンボで即座にリリースすることが可能だ。

 

「これでターンエンド」

 

 現在のヘルカイザー亮の手札は0枚。

 だが手札1枚からでも《パワー・ウォール》で落ちたカード次第では《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を融合召喚できるカードが彼のデッキには存在している。

 

「俺のターンドロー!」

 

 ヘルカイザー亮は引いたカードを即座に使用する様子はない。

 

「墓地の《置換融合》を除外。サイバー・ダーク・ドラゴンをエクストラデッキに戻し一枚ドロー」

 

 あれが《パワー・ウォール》で墓地に落ちた二枚目のカードか。

 またしても墓地効果を発動できるカードだ。

 これでヘルカイザー亮の手札は二枚になった。

 

「更に墓地の《ギャラクシー・サイクロン》を除外して、フィールド場の表側表示の魔法、罠カードを一枚破壊する。俺が破壊するのは《DNA改造手術》」

 

 《パワー・ウォール》で墓地に落ちた三枚目のカード。

 《闇の増産工場》ではなく《DNA改造手術》を迷う事なく破壊してきた。

 当然と言えば当然のこと。

 二度も同じ戦術を見せた以上、この男レベルのデュエリストが先読みできないはずがない。

 

「《オーバーロード・フュージョン》を発動! 墓地からサイバー・ダーク・ホーン、サイバー・ダーク・エッジ、サイバー・ダーク・キールを除外」

 

 《パワー・ウォール》で落ちた残りの三枚は《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の融合素材である『サイバーダーク』モンスター三種類だった。

 これで《パワー・ウォール》で墓地に送られた、全てのカードが除外されたことになる。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンを特殊召喚!!」

 

 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》

 星8 闇属性 機械族

 攻撃力1000 守備力1000

 

 三度現れる漆黒の鎧を纏った竜。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンの効果発動! 墓地からF・G・Dをその攻撃力と共に装備」

 

 この一瞬のチャンスを待っていた。

 

「ここだ! 私は手札から寄生虫パラノイドを発動!」

 

 《寄生虫パラノイド》はフリーチェーンで発動できる手札誘発の昆虫族モンスター。

 対象を指定して装備カードとなる。

 

「鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴンに取り付いて昆虫族に変化させる」

 

 《サイバーダーク・インフェルノ》の耐性は装備カードが装備された『サイバーダーク』モンスターにのみ付与される。

 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の墓地からドラゴン族モンスターを装備する効果にチェーンすれば《寄生虫パラノイド》を装備させることは可能だ。

 

 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》

 星8 闇属性 昆虫族

 攻撃力6600 守備力1000

 

「寄生虫パラノイドが装備されたモンスターは昆虫族モンスターを攻撃することができない」

 

 遊羽の場のモンスターは全て昆虫族。

 これでこのターン《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は攻撃を行うことができない。

 加えて装備カードを装備した昆虫族になっているため、即座に《超進化の繭》でリリースすることができる。

 

「サイバー・ヴァリーを召喚」

 

 《サイバー・ヴァリー》

 星1 光属性 機械族

 攻撃力0 守備力0

 

 《サイバー・ヴァリー》は複数の能力を持ったモンスターであり、その内一つが自分フィールド場の表側表示モンスターと自身を除外して二枚ドローするという効果だ。

 

「速攻魔法発動《超進化の繭》!」

 

 遊羽は即座に《超進化の繭》を発動した。

 仮に《超進化の繭》をセットしていなければ、《寄生虫パラノイド》で足止めした《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を処理されて、ヘルカイザー亮に二枚手札を与えるところだった。

 

 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》が黄金の繭に包まれる。

 このデュエルで二度目となる召喚口上を遊羽は言い放つ。

 

「地べた這いずる虫けらも

 ――羽虫となって(ソラ)を舞う」

 

 黄金の繭から巨大な蛾のモンスターが姿を現す。

 

「究極完全態・グレート・モスを特殊召喚!」

 

 《究極完全態・グレート・モス》

 星8 地属性 昆虫族

 攻撃力3500 守備力3000

 

「装備カード扱いの寄生虫パラノイドが墓地に送られた時、手札からレベル7以上の昆虫族モンスターを特殊召喚する。アルティメット・インセクトLV7を特殊召喚」

 

 《アルティメット・インセクトLV7》

 星7 風属性 昆虫族

 攻撃力2600 守備力1200

 

 これで遊羽の場には五体の昆虫族モンスターが並んだ。

 しかも《昆虫機甲鎧(バイオインセクトアーマー)》を装備した《ゴキボール》以外は最上級モンスターだ。

 

「俺はこれでターンを終了する」

 

 それだけの昆虫軍団に囲まれてなお、ヘルカイザー亮の闘志は衰えていない。

 

「私のターン、ドロー!《闇の増産工場》の効果でポセイドン・オオカブトを墓地に送って一枚ドロー」

 

 引いたカードを即座に《闇の増産工場》で墓地送りにして新たにドローする。

 

「私は墓地の《超進化の繭》を除外、寄生虫パラノイドをデッキに戻して一枚ドロー。バトルフェイズだ!」

 

 《サイバー・ヴァリー》の攻撃力は0。

 一見、このまま攻撃すれば勝負がつくように見える。

 だが《サイバー・ヴァリー》には第二の特殊能力がある。

 攻撃対象に選択された際、自身を除外して一枚ドローした上で、バトルフェイズを終了させる効果だ。

 

 だからこそ遊羽はライバルから受け取った、この最上級融合モンスターの特殊能力を発動する。

 

「完全態・グレート・インセクトの効果! 相手フィールド場のモンスター全てを破壊する。モス・バーニング・デス・トルネード!」

 

 色鮮やかな羽をした巨大な蛾が空中から繰り出す竜巻によって、地上にいる《サイバー・ヴァリー》は跡形もなく消し飛んだ。

 

「究極完全態・グレート・モスでプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 今度はもう視線を外したりはしない。

 

「モスパーフェクトハリケーン!!」

 

 リアルソリッドビジョンの衝撃によってヘルカイザー亮が後方に飛ばされて転倒した。

 

 ヘルカイザー亮 LP0

 

 会場が静寂に包まれる。

 

『ついに決着がつきました! 今回の優勝者はまさかの女性デュエリスト! インセクト遊羽選手だぁぁぁぁ!!』

 

 運営のアナウンスと同時に観客席から大歓声が巻き起こった。

 奴隷杯においてやられ役でしかなかった女性が優勝するというのは、完全なイレギュラーでありエンタメになったようだ。

 

「待って!」

 

 無言で起き上がって立ち去ろうとしているヘルカイザー亮に遊羽は駆け寄った。

 

「サイバー・エンド・ドラゴン、まだ倒してない」

 

 確かに今回、裏サイバー流の使い手であるヘルカイザー亮に勝つことはできた。

 だがサイバー流の切り札である《サイバー・エンド・ドラゴン》と対決することは叶わなかった。

 それでは本当の意味で丸藤亮というデュエリストを倒したとは言えないのではないかと思った。

 

「だから、またデュエルしよう」

 

 そう言って遊羽は手を差し出した。

 それは勝者としての傲慢なのかもしれない。

 だけど今回は自分が勝ったのだから、そのぐらいの我儘は押し通していい。

 

「……次は俺が勝つ」

 

 その一言と共にヘルカイザー亮は差し出された手を取った。

 意外ではない。

 確かに彼は勝利を求めているが、だからと言って他者を貶めるようなことはしないように思える。

 この街の闇に飲まれているわけではないとデュエルを通して感じた。

 

 勝者と敗者が握手するという光景は奴隷杯に似つかわしくないもので、それでも観客たちからの歓声は鳴りやまなかった。

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