切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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高級決闘奴隷

 ライアーペニスマンと脂ぎった醜い禿デブのおっさんによる入札合戦の雌雄が決した。

 

『これ以上の入札がないようなので10億円で落札とさせていただきます』

 

 遊羽にとって、それは最良の結果と言っても過言ではなかった。

 女王杯参加費の5億を払っても、奴隷売却金だけで5億が残る。

 そこに賞金の1億とセックスデーモン豚島とのアンティカードの売却金を上乗せすれば、大幅に昆虫デッキを強化することができる。

 

『これにて奴隷杯オークションは終了です。お帰りの際は観客席の出口までお戻りください。またのご来場をお待ちしております』

 

 アナウンスを受けて観客たちが少しずつコロシアムから立ち去っていく。

 ライアーペニスマンもふらふらとした足取りで出口へと向かっていった。

 奴隷杯スタッフが檻の鍵を開けて、三条望羽(みう)を外に出す。

 

「僕はデュエル児童養護施設をボランティアで運営しているんだ。ふひひ、今日から望羽(みう)たんもそこに入園できるよ」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんがこちらに近づいてくる。

 成程。建前として子供の保護を名目に掲げるやり方。

 この男もライアーペニスマンと同じ類の輩のようだ。

 

「ふひひ、ちゃんと可愛がってあげるからね」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんが近づいてきても、三条望羽(みう)は目を逸らさずに前を向いている。

 気丈な態度で、それでも完全に恐怖を隠すことができなかったのか半歩後退る。

 その際、一枚のデュエルモンスターズのカードが地面に落ちた。

 

 高級決闘奴隷はデッキを取り上げられるが、その中から一枚だけカードを所持することが許される。

 それは慈悲ではなく無力の証明。

 デュエルを行うには40枚のデッキが必要であり、一枚だけ渡すことでデュエリストではないという自覚を促すための制度。

 

 裏向きで地面に落ちたカードを遊羽は拾った。

 

「お願い、返してっ!」

 

 これまで表情を崩さなかった三条望羽(みう)が取り乱して声を上げる。

 彼女にとってこれは余程大事なカードのようだ。

 元トップス市民のデッキのカードならレアカードだろうし、奴隷売却の前に取り上げることもできるが、流石にそこまでやる気はなかった。

 三条望羽(みう)にカードを差し出した時、その表面が目に入る。

 

 《インセクト女王》

 星7 地属性 昆虫族

 攻撃力2200 守備力2400

 

 カードを返却された三条望羽(みう)は安心したように笑顔を見せた。

 

「それじゃあ遊羽君。ブラックドミノ銀行の口座番号を教えてくれ。振り込みが完了次第、決闘奴隷の所有者の証である鍵を僕に」

「……やめる」

 

 ポツリと遊羽は呟いた。

 

「決闘奴隷の売却をやめる」

「な、何!?」

 

 動揺した様子の脂ぎった醜い禿デブのおっさん。

 

「……どうして」

 

 それは三条望羽(みう)も同じのようだった。

 戸惑いの視線を遊羽に向ける。

 

「私は目的のために決闘奴隷を売却することに躊躇いはない」

 

 目的を達成するために甘さを捨てると、デュエルアカデミアを卒業した日に決めた。

 

「だけど昆虫好きは見捨てられない」

 

 もしかしたら、それ以外の理由もあるかもしれないと心の片隅で思った。

 

「はぁ……要するに金額を吊り上げたいのか。いいだろう。11億払ってやる。それで満足かね」

「私は売らないと決めた」

 

 一度決断した以上、駆け引きなどする気はない。

 

「まさか本当に同情したのか。考え直した方がいい。人一人の衣食住を保障するということは当然、相当の費用がかかる。この大会に参加したということは金が必要なんだろ。君が今やろうとしていることは金を減らす行為だ」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんの言葉は正論だった。

 ここで三条望羽(みう)を売らないということは、現状維持どころか、間違いなく目的から遠ざかる行為。

 

「それに幾ら決闘奴隷を売る権利を君が持っているとはいえ、こんな直前での売却拒否は奴隷杯運営もいい顔をしないと思うね。まだここで稼ぐつもりなんだろ」

 

 ブラックドミノシティの裏の大会の中でも、奴隷杯はその内容はともかく条件面では紛れもなく優良な大会だ。

 決闘奴隷をオークションにかける大会は他にもあるが、商品の品質は奴隷杯に及ばない上に、奴隷売却時の手数料も取られる。

 

 大会の内容ですら、表向きはセキュリティに隠れて不定期開催されているような、デュエルの敗者が死んだり不具になったりする大会に比べれば、まだリスクが低いと言える。

 現時点において、裏の大会で最も割りよく稼げるのが奴隷杯なのだ。

 ここで三条望羽(みう)の売却を拒否すれば、そんな美味しい大会から出禁にされかねない。

 

「そして、いい顔をしないのは大会の運営だけではないだろうね。ここに集まっている他の者たちも君に不信感を持つことになるよ」

 

 この場にはまだ多数のデュエル成金が残っているし、ここでの奴隷売却拒否は人づてに伝わるだろう。

 そうなればデュエル成金とコネクションを作って仕事を貰うのが困難になるかもしれない。

 

 正直なところ、かなり揺れた。

 仮にトップス市民になってA区の情報にアクセスするという、アカデミア在学中の目的のままだったら、三条望羽(みう)の売却を承諾していたと思う。

 あの時は一分一秒でも早く達成する必要があった。

 

「……何度も言わせないで。売らない」

 

 現在の目的だって決して軽いものではない。

 それでも女王杯への参加を一年間遅らせることを決めた。

 次の女王杯の開催は半年後であり、その次なら一年半の猶予が生まれる。

 たとえ奴隷杯を出禁になっても、一年半あれば三条望羽(みう)を手元に置いた状態で五億円の参加費とデッキ強化の資金を集めることは可能と判断した。

 

「金だけの問題ではないんだよ。子供を健康的に育てるには環境が整っていなくてはならない。先ほども言ったが僕はデュエル児童養護施設を運営している」

「デュエル性奴隷小屋の間違いでしょ」

 

 もうこの脂ぎった醜い禿デブのおっさんと話すことは何もない。

 

「だったらデュエルで勝負だ! 僕が勝ったら望羽(みう)たんを渡してもらう」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんは、何が何でも三条望羽(みう)をデュエル性奴隷にしたいらしい。

 だが遊羽としては悪い展開ではなかった。

 

「私が三条望羽(みう)を賭けるとして、あんたは何を賭けるの?」

「10億、いや11億賭けてやるよ。それで満足だろ」

 

 一般的な価値観では少女と金を賭けてのデュエルなど非人道的行為。

 だがこれで女王杯への参加を一年間先延ばしにする必要はなくなった。

 それにデュエリストとして挑まれたデュエルから逃げる気はない。

 

「悪いけどあんたを賭ける」

 

 一言だけ三条望羽(みう)に断りを入れる。

 

「売らないと言ってくれただけで十分。それに、あなたのデュエルを間近で見てみたい」

 

 賭けの対象にされているにもかかわらず三条望羽(みう)の態度は落ち着いたものだった。

 

「ふひひ、話がついたようだね。僕は11億円を、君は三条望羽(みう)を賭けてデュエルする」

「いいよ。それで条件成立だ」

 

 互いの合意を持って取り決めが成立し、デュエルの準備が整う。

 

望羽(みう)たん、僕の施設に来ることが君のためになるんだよ。ふひひ、すぐにデュエルで保護してあげるからね」

 

 両者のデュエルディスクのオートシャッフルシステムが起動して互いのデッキが自動でシャッフルされる。

 そしてデュエルディスクによって先攻後攻が決定される。

 

 

 害虫 ―― 癲狂院遊羽 /  LP4000

 

         VS

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさん / LP4000

 

 

「「決闘!!」」

 

 

 先攻をとったのは脂ぎった醜い禿デブのおっさんだった。

 

「僕のターン。まずは《強欲で金満な壺》を発動」

 

 《強欲で金満な壺》はエクストラデッキから三枚、または六枚ランダムに除外して、三枚につき一枚ドローする魔法カード。

 ドロー効果を持つ『壺』カードの中でも、最も価格が高額であり一枚50億円はするブルジョアレアカード。

 並の成金デュエリストでは手が出せない代物だ。

 

「ふひひ、僕はエクストラデッキからカードを六枚除外して二枚ドロー」

 

 これで確信する。

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんは成金デュエリストではなく、A区の人間、ブルジョアデュエリストだ。

 

「ジャイアント・オークを攻撃表示」

 

 《ジャイアント・オーク》

 星4 闇属性 悪魔族

 攻撃力2200 守備力0

 

 トップス市民である以上、脂ぎった醜い禿デブのおっさんもブルジョア流かセレブ流の使い手なのかと思ったが、召喚されたモンスターを見て違うと判断する。

 一見すれば、あれらの流派が好みそうな攻撃力の高い四つ星モンスターだが《ジャイアント・オーク》には攻撃を行った後、守備表示になり次の自分のターン終了時まで表示形式を変更できない効果がある。

 ブルジョア流とセレブ流のデュエリストはデメリット効果を持つモンスターを嫌っており投入を控えていたはずだ。

 

「更にカードをセットして、僕はターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 

 遊羽は引いたカードを手札に加える。

 

「モンスターをセット」

 

 《共鳴虫》を裏側守備表示で場に出した。

 《ジャイアント・オーク》に戦闘破壊されたとしても《共鳴虫》は効果で攻撃力1500以下の昆虫族モンスターを特殊召喚できる。

 攻撃を行った《ジャイアント・オーク》は守備表示になるため、返しのターンで戦闘破壊することは容易だ。

 とはいえ相手がトップスのデュエリストである以上、戦闘破壊トリガーのリクルーターは《サンダーボルト》などで雑に無力化される可能性も高い。

 

「更にカードをセット」

 

 セットしたのは《ダメージ・ダイエット》。

 仮に《ハーピィの羽箒》と《サンダーボルト》で盤面を一掃してきても《ダメージ・ダイエット》を発動すれば、そのターン受けるダメージを半減させることができる。

 

「私はこれでターンエンド」

「なら僕のターンだ。ドロー」

 

 引いたカードを脂ぎった醜い禿デブのおっさんは即座に使用する。

 

「《強欲で金満な壺》発動! エクストラデッキから六枚除外して二枚ドロー!」

 

 ここで二枚目の《強欲で金満な壺》を使用。

 一枚50億円のブルジョアレアカードを連発してくる。

 

「ゴブリン突撃部隊を攻撃表示」

 

 《ゴブリン突撃部隊》

 星4 地属性 戦士族

 攻撃力2300 守備力0

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんが出したのは、またも攻撃後、守備表示になり表示形式を変更できなくなる守備力0のモンスター。

 これらのモンスターで単調な攻撃をしてくるだけなら、戦闘破壊トリガーのリクルーターで問題なく対処できる。

 

「更に僕は《二重召喚》を発動」

 

 《二重召喚》は二回まで通常召喚を行えるようになる魔法カード。

 

「ふひひ、僕は白魔導士ピケルたんを召喚」

 

 《白魔導士ピケル》

 星2 光属性 魔法使い族

 攻撃力1200 守備力0

 

 また攻撃力の高いモンスターを並べてくるのかと思いきや、現れたのは幼い女の子のモンスターだった。

 スタンバイフェイズ時に自分フィールド場に存在するモンスターの数×400のライフポイントを回復する効果を持っている。

 攻撃力を重視するセレブ流のデュエリストなら、まずデッキに入れることがないカードだ。

 

 ――このおっさん、一体どんなデュエルタクティクスを使う?

 

 デュエルアカデミアで多くのセレブ流やブルジョア流の使い手を相手にしてきたが、これらのモンスターを用いるトップスのデュエリストは見たことがない。

 

「さて、じゃあ僕はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんは《共鳴虫》を攻撃してこない。

 奴隷杯の一回戦以降、昆虫族リクルーターによる戦略は何度も見せたので、試合を観戦していた脂ぎった醜い禿デブのおっさんには読まれているようだ。

 

「私のターン、ドロー」

 

 遊羽は引いたカードを手札に加える。

 

「リバースカード発動。《ガリトラップ-ピクシーの輪-》」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんが最初のターンに伏せていたカードを使用する。

 《ガリトラップ-ピクシーの輪-》は自分フィールド場に表側攻撃表示のモンスターが二体以上存在する場合、一番攻撃力の低いモンスターが攻撃対象に選択されなくなる永続罠。

 攻撃力2200の《ジャイアント・オーク》や攻撃力2300の《ゴブリン突撃部隊》がいる限り、攻撃力1200の《白魔導士ピケル》への攻撃は届かない。

 

「ふひひ、怖いお姉ちゃんから、僕がピケルたんを守るからね」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんの狙いは、おそらく次のターンのスタンバイフェイズに《白魔導士ピケル》の効果でライフを回復すること。

 現在、脂ぎった醜い禿デブのおっさんの場には三体のモンスターがいるので、このままの盤面でターンを渡せば1200ライフを回復されることになる。

 

「アーマード・ビーを召喚」

 

 《アーマード・ビー》

 星4 風属性 昆虫族

 攻撃力1600 守備力1200

 

「おや、その攻撃力じゃピケルたん以外の僕のモンスターは倒せないんじゃないかな」

 

 そして《白魔導士ピケル》は《ガリトラップ-ピクシーの輪-》で守られていると、脂ぎった醜い禿デブのおっさんは言外に含ませている。

 

「アーマード・ビーの効果発動。指定したモンスターの攻撃力を半分にする。私はゴブリン突撃部隊の攻撃力を半減させる」

「おっと、それなら1000ポイントライフを払って《スキルドレイン》を発動」

 

 脂ぎった醜い禿デブのおっさん LP3000

 

 《スキルドレイン》はフィールド場、全ての表側表示モンスターの効果を無効にする永続罠。

 これによって《アーマード・ビー》の効果が無効化されたことにより、《ゴブリン突撃部隊》の攻撃力はそのままだ。

 それに加えて《ジャイアント・オーク》と《ゴブリン突撃部隊》の攻撃後に守備表示になる効果も無効化されるため、デメリットを無視して攻撃できるようになる。

 どうやら、この脂ぎった醜い禿デブのおっさんは、セレブ流やブルジョア流のようなレアカードで力押しするだけのデュエリストではないらしい。

 

「私はターンを終了する」

「ふひひ、僕のターン、ドロー」

 

 だが《スキルドレイン》によって無効化されるのは《白魔導士ピケル》の効果も同様だ。

 結果的に脂ぎった醜い禿デブのおっさんのライフ回復は阻止することができた。

 現在の《白魔導士ピケル》は攻撃力1200の効果のないモンスターでしかない。

 

「ふひひひひ、僕は白魔導士ピケルたんに、この薬物カードを使う。《ドーピング》!」

 

 《ドーピング》は装備モンスターの攻撃力を700アップさせる装備魔法。

 

 《白魔導士ピケル》

 攻撃力1200→1900

 

 だが自分のスタンバイフェイズが来るたびに攻撃力を200ダウンさせてしまう効果もある。

 トップスの市民なら、そんなデメリットなどなく、もっと上昇値の高い装備魔法が手に入るはずだ。

 一枚50億円の《強欲で金満な壺》を二枚使用するような男が《ドーピング》より高性能な装備魔法を購入できないはずがない。

 

「ふひひ、いいねぇ、ピケルたん。可愛いねぇ。お薬で痙攣する姿もプリティだよ。ほっぺたスリスリしてあげよう」

 

 リアルソリッドビジョンは質量を持つソリッドビジョンである。

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんは《ドーピング》によって体を痙攣させている《白魔導士ピケル》に頬ずりをし始めた。

 

 ――そういうことか。

 

 ここでようやく脂ぎった醜い禿デブのおっさんのデッキのコンセプトを理解する。

 オークやゴブリンなど創作において女性を強姦するモンスターを場に展開しながら、小さな女の子のモンスターに《ドーピング》を使用して薬漬けにする。

 脂ぎった醜い禿デブのおっさんの欲望丸出しのデッキ。

 言うなれば『凌辱デッキ』だ。

 

「さあ、ピケルたん。僕と一緒にこの怖いお姉ちゃんを倒して、望羽(みう)たんを保護してあげようね」

 

 《白魔導士ピケル》への頬ずりを続けながら、脂ぎった醜い禿デブのおっさんは三条望羽(みう)へと視線を向けた。

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