切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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part3

 癲狂院遊羽 /  LP4000

 

      VS

 

  山岸健介 /  LP4000

 

 

 先攻をとったのは遊羽だった。

 

「私のターン」

 

 自分の手札を確認する。

 その中から一枚のカードを裏向きでデュエルディスクに置いた。

 

「モンスターをセット」

 

 裏側守備表示でモンスターを出せば、相手からはそのカードの情報は分からない。

 

「私はこれでターンエンド」

 

 遊羽がターン終了を宣言したことによって山岸にターンが渡る。

 

「なら俺のターンだな。ドローカード」

 

 山岸は後攻なのでデッキからカードを一枚ドローした。

 

「臆病者の表示形式である守備表示か。どうせ雑魚モンスター、すぐに蹴散らしてやるぜ」

 

 山岸が手札のカードを縦向きでデュエルディスクに叩きつける。

 

「魔人テラを攻撃表示で召喚」

 

 リアルソリッドビジョンによってモンスターが実体化した。

 

 《魔人テラ》

 星4 闇属性 悪魔族 

 攻撃力1200 守備力1300

 

 リアルソリッドビジョンは質量を持つソリッドビジョンである。

 モンスター同士の戦闘が行われた際、バトルに負けてライフポイントを失ったプレイヤーは衝撃の余波を受ける。

 プレイヤーへの直接攻撃、ダイレクトアタックを受けた場合は、衝撃で吹っ飛ばされることもある。

 それを防止するため、デュエルディスクには衝撃を和らげるセイフティモードも搭載されており、デュエルアカデミアやプロデュエリスト業界では、その設定をした上でデュエルが行われている。

 だがセイフティモードは両者が設定した場合のみ、デュエルに適応される設定だ。

 

「ねえ、セイフティモードがオフになってるんだけど」

 

 遊羽のデュエルディスクは初期状態であり、セイフティモードはオンの状態のはずだった。

 

「はは、当然俺がオフにしてるんだよ。デュエルで相手を痛めつけるためにな」

 

 片方がセイフティモードをオフした以上、このデュエルはセイフティモードなしで行われることになる。

 ブラックドミノシティのデュエルアカデミアではセイフティモードを外して校舎裏でデュエルリンチが行われているという。

 アカデミアより民度が低いであろうデュエル孤児院なら校舎裏どころか教室で行われるデュエルでもセイフティモードが外されるようだ。

 

「魔人テラで裏守備モンスターを攻撃」

 

 山岸の攻撃宣言を受けてバトルが行われる。

 

 《昆虫人間》

 星2 地属性 昆虫族 

 攻撃力500 守備力500

 

 遊羽がセットしていた《昆虫人間》の守備力は500、《魔人テラ》の攻撃力は1200。

 よって《昆虫人間》が戦闘破壊される。

 

「はは、まさか醜い昆虫カードを使うとはね。まあお前みたいな貧乳のまな板女にはピッタリのカスモンスターだな」

 

 今回は《昆虫人間》が守備表示であったため戦闘ダメージは発生せず、リアルソリッドビジョンによる衝撃もない。

 

「俺はこれでターンエンド。次のターン新たなモンスターを俺が出せば、今回みたいに守備表示で雑魚一体を壁にしてもしのげないぜ」

 

 仮に場にモンスターがいなくなった場合はダイレクトアタックとなり、リアルソリッドビジョンによる重度の衝撃を受けることになる。

 だがこの展開は遊羽にとって想定内だった。

 相手モンスターの攻撃表示を誘うため、あえて攻撃力の低い《昆虫人間》を囮にしたのだ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 遊羽は引いたカードを手札に加える。

 そして元から手札にあった魔法カードを発動した。

 

「フィールド魔法《森》を発動」

 

 デュエルフィールドが森に変化する。

 フィールド魔法は互いのモンスターに影響を及ぼすカードだ。

 

「続けてカマキラーを召喚」

 

 《カマキラー》

 星4 地属性 昆虫族 

 攻撃力1150 守備力1400

 

「バトル! カマキラーで魔人テラを攻撃!」

「馬鹿め、攻撃力はこちらが上だ」

 

 攻撃力1150の《カマキラー》と攻撃力1200の《魔人テラ》。

 一見すればこのバトルは《魔人テラ》が勝利するように見える。

 

「それはどうかな?」

 

 遊羽は薄く笑った。

 《カマキラー》のカマが振るわれ《魔人テラ》の首を刎ね飛ばした。

 

「な、何!? 何故!」

 

 状況に理解が及ばない山岸。

 

「フィールド魔法《森》の効果。場の昆虫族の攻撃力と守備力は200アップする」

 

 《カマキラー》

 攻撃力1150→1350

 

 フィールド魔法によって《カマキラー》の攻撃力は1350に上昇していた。

 山岸にリアルソリッドビジョンによる衝撃が襲い掛かる。

 

 山岸健介 LP3850

 

 今回はダメージが少数であったため山岸は僅かに仰け反る程度で済んだ。

 

「私はこれでターンエンド。さあ、あんたのターンだ」

「舐めやがって、ドロー!」

 

 引いたカードを見た山岸が口元を歪めて笑う。

 

「暗黒の竜王のカードを引いた」

 

 遊羽に見せつけるようにカードを表向きにする。

 

「はは、これで山岸さんの勝利は決まった」

「奴が山岸さんのモンスターを破壊できたのはまぐれでしかねえ」

 

 山岸の取り巻き二人が勢いづいた。

 

「召喚だ! 暗黒の竜王!!」

 

 山岸がデュエルディスクに攻撃表示でカードを叩きつける。

 

 《暗黒の竜王》

 星4 闇属性 ドラゴン族 

 攻撃力1500 守備力800

 

「新入りが暗黒の竜王に勝てるわけない」

「ならあの子、本当に屋上から飛ぶしかないの」

「流石にそれは可哀そうだ」

 

 ギャラリーの間では既に決着がついたような雰囲気なり遊羽に憐れみの目線が向けられている。

 

「おいおい、これじゃまるで俺が悪者だよ。仕方ねえな、てめえに選択肢をやる」

「選択肢?」

「今、ここで土下座してサレンダーするなら、条件を屋上じゃなくその窓、しかも足から落下に戻してやってもいい」

 

 サレンダーとはデッキに手を置いた上で自らデュエルの敗北を認める行為である。

 そしてデュエルを行っている両者の合意があれば、デュエル中に取り決めを変更することが可能だ。

 

「ただし生意気な態度をとった埋め合わせとして、てめえにはセックスしてもらう」

「は? 結局私を抱きたいってこと?」

「自惚れてんじゃねえぞまな板女。俺は巨乳以外とセックスはしねえ」

 

 言いながら山岸は後ろの取り巻き二人を親指で指す。

 

「そいつら二人相手に公開セックスだ。まあそういうショーも悪くはねえと思ってな」

 

 山岸は愉快なことを思いついた子供のように(実際、山岸は遊羽と同年代の子供)手を叩いて笑う。

 

「マジっすか! ラッキー! おこぼれ、あざっす」

「確かにそいつに胸はありませんが、まあ面はそこそこなんで俺としては全然ありです」

 

 山岸の言葉に取り巻き二人が歓喜する。

 

「悪いけど論外」

「あ?」

「その提案は断るって言ってんの」

 

 山岸の提案を遊羽は即座に拒否した。

 仮にデュエルで負けたのであれば、強姦されようが、両足骨折しようが、潰れたトマトのように頭がグチャグチャになろうが遊羽は受け入れるつもりだ。

 デュエルの結果を受け入れるのはデュエリストとして当然のことであり、それを拒絶するなどデュエル軽視に他ならない。

 もっとも拒絶しようが、全てがデュエルで決まる世界である故に、敗者は強制的に勝者に従わざるをえないのだが。

 

 重要なのは強姦だの死亡だのという『結果』の部分ではなく、その『過程』。

 遊羽がレイプされたり死んだりするということは、デュエルに負けるということ。

 デュエルの結果には従う。

 だが――

 

 デュエリストとしてデュエルに負けるのは我慢ならない。

 

「そうか、最後の情けを拒絶するなら、もう死ぬしかねえぞ」

 

 交渉が決裂してデュエルが再開する。

 

「バトルフェイズだ! 暗黒の竜王攻撃! 炎のブレス!」

 

 《暗黒の竜王》の火炎放射によって《カマキラー》が炎上! 爆散する。

 

 癲狂院遊羽 LP3850

 

 リアルソリッドビジョンの衝撃によって遊羽の体が僅かに後退した。

 

「俺はこれでターンエンド。さあ、てめえの番だぜ。もっとも攻撃力1500のモンスターを持たないてめえに暗黒の竜王は倒せねえ」

「私のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見て遊羽は薄く笑った。

 

「私が召喚するのはこのカード。ゴキボール!」

 

 元から手札にあったモンスターを攻撃表示で場に出す。

 

 《ゴキボール》

 星4 地属性 昆虫族

 攻撃力1200 守備力1400

 

「《森》のフィールドパワーによって攻撃力200アップ」

 

 《ゴキボール》

 攻撃力1200→1400

 

「はっ! それでも攻撃力は1400。俺の暗黒の竜王には及ばねえ。所詮昆虫じゃ、それが限界だってことだ」

 

 確かに現時点において《ゴキボール》の攻撃力は《暗黒の竜王》に劣っている。

 

「更に私は手札から装備魔法を発動する」

 

 ここで遊羽はこのターンドローしたカードをデュエルディスクの魔法、罠ゾーンに表向きで差し込む。

 

「《レーザー 砲機甲鎧》をゴキボールに装着!」

 

 装備魔法《レーザー 砲機甲鎧》が装備されたことによって《ゴキボール》の攻撃力、守備力が300ポイントアップする。

 

 《ゴキボール》

 攻撃力1400→1700

 

「そ、そんな薄汚いゴキブリの攻撃力が俺の暗黒の竜王を超えただと!?」

「バトル! ゴキボールで暗黒の竜王を攻撃!」

 

 《ゴキボール》に装着されたレーザー砲から放たれた光線によって《暗黒の竜王》が木端微塵に砕け散った。

 

 山岸健介 LP3650

 

 戦闘ダメージは200程度であり、発生したリアルソリッドビジョンの衝撃はそう強いものではない。

 

「ぐ、ぐああ!」

 

 だが自身の切り札を破壊されたことかショックだったのか山岸は足元がふらついており、そこに衝撃を受けたことによって足がもつれ、そのまま机に激突した。

 

「私はこれでターンエンド」

「……俺のデッキに暗黒の竜王を超えるカードはねえ……もう負けだ」

 

 そう言って山岸は自らのデッキに手を置いた。

 サレンダーである。

 

 実際のところ遊羽はここまでの山岸の言動に対して一切の嫌悪を抱くことはなかった。

 だが最後の最後で生じた不快感。

 もっともそれは山岸に対してではなく彼が行った行為。

 サレンダーに対してだ。

 まだデュエルが終わっていないにもかかわらずデュエルを諦める最低の所業。

 遊羽の認識においてサレンダーは、デュエリストとして最も恥ずべき行為であった。

 

「じゃあ、暗黒の竜王とデッキは貰うから」

「ち、畜生」

 

 山岸から《暗黒の竜王》を含めたデッキを受け取る。

 この全てがデュエルで決まる世界において敗者は取り決めから逃れることはできない。

 

「……おい、お前らいくぞ」

 

 負けた手前この場に居づらいのか山岸は取り巻きを連れて早々に立ち去ろうとする。

 

「あ? 何命令してるんだ」

「いつまでリーダー気取ってんだよ」

 

 だが山岸の意に反して取り巻きは動かず、それどころか荒っぽい口調で反抗した。

 

「お、お前ら、何を」

 

 呆然とする山岸。

 

「お前はデッキを失った。ああ、別にこの場で強制デュエルを仕掛けたりはしねえよ」

「そうそう。俺たちはデュエリストだ。正当なデュエルで勝負してやるさ。ほら、さっさとデッキを作れよ。主力の全てを失った余りもののカードでな」

 

 取り巻き二人がニヤつきながら言う。

 現在遊羽が手に入れたデッキには《暗黒の竜王》を始めとして山岸の主力となるカードの大半が投入されていたのだろう。

 所持しているカードで最大限に強いデッキを作るのは、基本的に間違ってはいない。

 だがそのデッキを失ったことが今の山岸にとっては危機の原因となっていた。

 

「おら、もたもたすんな、さっさとデッキを作れ!」

「リアルソリッドビジョンでデュエルリンチにしてやるよ」

 

 取り巻き二人はどうやら内心では山岸に相当な不満を抱いていたのだろう。

 調子よく従っていた姿が嘘のように態度が豹変している。

 

「畜生! 畜生おおおおおおおおおおおお!!」

 

 デュエルで全てが決まる世界において、山岸は豹変した取り巻き二人から逃れるすべはない。

 取り巻き達に連れられて山岸は教室から退出した。

 

 遊羽も《吸血ノミ》の所有者、谷口を探すため教室から出ていこうとした時、萩原真帆が視界に入った。

 《モウヤンのカレー》100枚を配布されたためにデッキを作ることができない不幸な少女。

 山岸は退場したが、萩原真帆のデッキがないという根本的な問題が解消されていない以上、いずれ彼女はまた同じような目に合うだろう。

 

 それを理解した上で遊羽は一切同情を抱かなかった。

 デュエル孤児院のカード配布で職員の杜撰な行動により《モウヤンのカレー》100枚を渡される。

 それは不運としか言えない結果であるが、デュエリストとしての目線から見れば受け入れるしかないことであった。

 ドローしたカードが劣勢な状況を打開するカードでなかったとして、それを嘆くのはデュエリストとして三流以下の行動だからだ。

 デュエリストであるならば、引いたカードも含めた自分の手札で勝負するしかない。

 そこに勝ち目がなかったとしてもデュエリストであるならドローの結果を受け入れるしかないのだ。

 故に萩原真帆も《モウヤンのカレー》100枚という結果を受け入れて行動していくしかない。

 

 萩原真帆から目線を外して再び教室の外へ歩みを進めようとしたところで遊羽の足は止まる。

 だとしても《モウヤンのカレー》100枚配布は萩原真帆のデュエリストとしての可能性を潰す行為だ。

 デュエル孤児院が孤児にデュエリストとなる機会を与える方針を掲げている以上、萩原真帆には最低限デュエリストになるチャンスが与えられるべきだった。

 

 手に持っていた山岸のデッキの中から《暗黒の竜王》を抜き出す。

 そして残りの39枚、命をアンティに上乗せして勝ち取ったカード全部を萩原真帆に投げ渡した。

 

「あ、あのこれは?」

 

 突然のことにキョトンとした様子の萩原真帆。

 

「今の私にとって重要なのは、この暗黒の竜王を吸血ノミとトレードすること。残りはあんたにあげる。好きにすればいい」

「え!?」

 

 驚いた様子の萩原真帆を背に今度こそ遊羽は教室を後にした。

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