切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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初代決闘女王

 遊羽の決闘奴隷の売却拒否から始まったデュエル騒動。

 最終的に奴隷杯のスタッフから言い渡されたのは、遊羽に対する奴隷杯への出禁だった。

 いくら優勝者とはいえ、オークション終了後に直前で奴隷売却を拒否した挙句、購入相手をデュエルで倒して11億円を巻き上げたのだから当然の処置とも言える。

 それは奴隷売却拒否の時点で脂ぎった醜い禿デブのおっさんから警告されていたことであり、承知の上で遊羽は三条望羽(みう)の売却を拒絶した。

 

 せめてもの救いは、集まっていた何人かの成金デュエリストから名刺を受け取り、連絡先を交換できたことか。

 セックスデーモン豚島を倒して優勝した件もあり、デュエルの腕はアピールできていたこと。

 奴隷売却拒否は良くも悪くも目立ち、それを面白がったり、好意的に見た客も一定数はいたようだ。

 

 ヘルカイザー亮は遊羽と三条望羽(みう)を一瞥してから立ち去って行った。

 もしかしたら彼は遊羽が決闘奴隷をどうするのか見届けるつもりだったのかもしれない。

 観客席の出口へ戻っていくバンデット・キースの後姿も目に映った。

 

「今回、貴様は人として正しいことをした」

 

 デュエル成金が周囲からいなくなった後、ミカが声をかけてきた。

 

「じゃが分かっておるのか、一見正しいことが間違っておることもある。特にこの街ではのう」

 

 三条望羽(みう)に目線を向けながら、ミカが複雑そうな表情を浮かべる。

 

「癲狂院遊羽、19歳。購入者の男性も指摘していましたが、人一人を養育するのは容易なことではありません」

 

 ミカの懸念を具体的に言葉にしたのは大瀧。

 

「ましてや治安の悪いF区では猶更だ。君に三条望羽(みう)、12歳を育てられますか」

 

 現在、遊羽が寝泊まりしているのは格安デュエル宿であり、1K以下の広さの部屋にかろうじてシャワー室が付いている宿泊施設だった。

 これでもF区の中では環境が良い施設であり、裏に来た当初は予算を節約するため廃墟や空き家で寝泊まりするつもりだった。

 だが《青眼の銀ゾンビ(ブルーアイド・シルバーゾンビ)》販売という、曲がりなりにも客商売をする手前、あまりにも不潔で不衛生では商売に影響が出ると言う判断から、格安宿を利用することにした。

 遊羽一人で寝泊まりする分には問題ないが、子供を育てる環境としては相応しくないだろう。

 

「はん! それを覚悟でこいつは決闘奴隷を助けた。外野がごちゃごちゃ言うことじゃないでしょ。あのおっさんからデュエルで11億も手に入れたしね」

 

 歯切れよく言ったのは幸。

 確かに11億円あれば、F区からもっと良い環境に拠点を移すことはできる。

 

「でも幸ちゃん、癲狂院さんには目的があったはずよ。固定費を上げれば、その目的から遠ざかることになるわ」

 

 おっとりとした口調で明美が指摘する。

 仮にF区からC区に移住するとなると、およそ10倍の固定費がかかるようになる。

 明美の言葉は基本的に正論であるが、遊羽には考えがあった。

 

「次回の女王杯まであと半年を切ってる。一週間前ぐらいから受付が始まってるはずだからそれにエントリーする」

「成程のう。女王杯の宿泊施設制度を利用するつもりか」

 

 5億円支払って女王杯にエントリーした者は予選開始日まで間、B区にあるブラックドミノホテルを無料で利用できる。

 同伴者も一人までは認められていたはずだ。

 

 一見便利そうだが、実際この制度を利用する者はそこまで多くないという。

 参加費5億円を払えるようなデュエリストは基本的にA区やB区に立派な自宅があり、わざわざホテルを利用する必要はない。

 これは街の外から来た女王杯参加者のために用意されている制度だ。

 また予選を突破することができれば、本選まで宿泊期間が延長される。

 

「だとしても、無料でブラックドミノホテルを利用できるのは長くて半年じゃ。その先はどうする」

「さっき私は決闘女王に勝つのが目的であって、その称号やトップス市民になることには左程興味がないと言った。けど理由が出来たよ」

 

 ミカの言葉を受けて遊羽の中で一つの決意が固まった。

 

「私は二代目決闘女王(デュエルクイーン)になる」

 

 確かな覚悟をもって遊羽はその言葉を口にした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その晩、遊羽は三条望羽(みう)を連れてF区の格安デュエル宿に戻った。

 女王杯へのエントリーは行ったが、それが受理されるまでの間はこの施設を使うことになる。

 布団を敷けば足の踏み場もないような部屋だったが、一応同じ布団で二人寝れないことはない。

 

「こっちに来て」

 

 遊羽は懐から装飾の施された鍵を取り出した。

 ブラックドミノシティの制度において決闘奴隷は認められている。

 仮に決闘奴隷が逃亡しても、所有者が通報すればセキュリティは逃げた決闘奴隷の捕縛に動く。

 無論、セキュリティを動かすには賄賂が必要だが、重要なのは法律が決闘奴隷ではなく所有者の味方であるということ。

 首輪がある限り、決闘奴隷は主人の所有物という扱いになる。

 

「もうちょっと首をこっちに寄せて」

 

 傍に来た三条望羽(みう)の首輪を遊羽は装飾鍵を使って外した。

 

「……私が逃げると思わないの」

「逃げたいなら好きにすればいい。賢い行動とは思えないし、おすすめはしないけど」

 

 三条望羽(みう)が本気で逃亡したいなら無理に捕まえる気はないが、F区でその選択をすれば破滅するので警告だけはしておく。

 決闘奴隷ではなくなったとはいえ、デッキとデュエルディスクもない身で下層区をうろつけば、決闘強姦魔に犯されるか、決闘殺人鬼に殺されるだけだ。

 

「まずはこれを渡しておく」

 

 ここに戻るまでのカードショップで購入した新品のデュエルディスクを袋から出すと三条望羽(みう)に差し出した。

 

「デュエルディスクを……私に? どうして」

 

 確かにそこまでする理由はないかもしれないが遊羽は中途半端が嫌いだった。

 何をやるにしても全力で取り組んできたし、それは《青眼の銀ゾンビ》販売であっても例外ではない。

 三条望羽(みう)を脂ぎった醜い禿デブのおっさんに売らず、助けると決めた以上はできることは全てする。

 

「座って」

 

 言いながら自身も畳に腰かける。

 そしてロングコートの内側のポケットから複数個のカードの束を取り出した。

 

「このカードを使ってあんたのデッキを作る」

「……どうして、そこまでしてくれるの」

「あの場でも言ったけど昆虫好きは見捨てられない。それだけ」

 

 目的達成のためアカデミアにいた頃に入手したカードやアンティで得たカードの大半は売却しているが、昆虫族のカードと自身のデッキに使用できそうな魔法、罠カードは残している。

 予備の昆虫族カードの中には四枚目のドラゴンフライや共鳴虫も含まれており、二つ目の昆虫デッキを問題なく作ることができた。

 

 おそらく、これは未練だ。

 あのアカデミアの卒業試験以来、初代決闘女王となった彼女とは会うことも連絡を取り合うこともなく、一言たりとも会話をしていない。

 だから万が一の可能性もあるのではないかと考えてしまう。

 同時にそんな可能性はないとも思っている。

 現在の関係がどうであれ、仮に彼女たちが無事なら何かしらの形で伝えてくれるはずだ。

 だって初代決闘女王である彼女は親友なのだから。

 

「カードを渡すのは今回限り。デッキとデュエルディスクが手に入れば、あんたはもう決闘奴隷(デュエルスレイブ)じゃなくて決闘者(デュエリスト)だ」

 

 予備のカードで作った39枚の昆虫デッキを三条望羽(みう)に手渡す。

 残りの1枚は決闘奴隷として所持していた《インセクト女王》を入れれば使用可能なデッキが完成する。

 

「聞こえてたと思うけど、これから半年はB区にあるブラックドミノホテルに滞在できる。だから逃亡を考えるなら、それ以降にした方がいい」

 

 遊羽の言葉に三条望羽(みう)は首を横に振った。

 

「逃げたりしない。だって私にはもう帰る場所がないから」

 

 どうやら龍堂院麗華のように勘当されたというわけではないらしい。

 この様子だと最悪の場合、両親が亡くなっているという事もあり得る。

 詮索する気はないので本人が話さない限り聞く気はないが。

 

「あなたがいいと言うなら傍にいる。私にできることは何でもする」

 

 三条望羽(みう)は自身のスカートの両端をつまんで持ち上げる動作をする。

 白い下着が見えても平気そうな顔をしているが、両手は僅かに震えていた。

 

「奴隷杯の運営がやれって言ったの?」

「こうすれば所有者は喜ぶって」

「あんたはもう決闘奴隷じゃなくてデュエリストだ。やりたくないことはしなくていい」

 

 遊羽の言葉を受けて三条望羽(みう)はつまんでいたスカートから手を放す。

 

「でも、それじゃあどうすればいい。これだけの物を与えられて、私はあなたに何も返せていない」

 

 同じ元トップス市民でも龍堂院麗華とは随分と異なる娘だと思った。

 あのお嬢様なら、デュエルディスクやデッキを貰っても、それが当然という態度をとるだろう。

 いや、アカデミア在学中にトップスの少女と友人関係になったし、A区市民全員が龍堂院麗華のような輩でないことは知っているが。

 

「だったら今後、デッキ調整後のデュエルの相手をして」

 

 裏に来て以降は調整したデッキをそのまま本番のデュエルで使っていたが、練習相手がいるならそれに越したことはない。

 

「あなたが望むなら、そうする。ところで、あなたの事は何と呼べばいい? 奴隷杯の管理者からはご主人様かお嬢様と呼ぶように言われたけど」

「お嬢様はやめて。流石に私には合わない」

 

 いつぞやの不良セキュリティとの会話を思い出す。

 

「あんたが決闘奴隷じゃなくなった以上、私はご主人様でもない。それ以外で好きに呼んで」

 

 遊羽の言葉を受けて三条望羽(みう)は長考する。

 

「……あなたの昆虫族を使いこなしたデュエルは凄かった。これからも傍で見て学びたい。だから師匠って呼んでいい?」

 

 数秒間、沈黙が流れる。

 三条望羽(みう)が不安そうな表情を見せた。

 こちらの機嫌を損ねたとでも思ったのだろうか。

 

「……そう呼びたければ好きにすればいい。これからよろしく、望羽(みう)

「はい、師匠」

 

 この格安デュエル宿の部屋に鏡など存在しない。

 だから今、自分がどのような表情をしているか遊羽には分からなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一週間後。

 

 B区にあるデュエルプラチナホテルのスイートルームにて二人の男女が交わっていた。

 男の方の名前は堂本春男。

 プロデュエリスト協会の会長である。

 B区の市民である春男の個人資産は数日前までトップス民に届きうる金額だった。

 彼はこの数年の間、所属しているプロデュエリストたちの給料から不当にピンハネを続けて膨大な金を蓄えた。

 

 元々、春男はプロデュエリスト協会において高い地位ではなかった。

 かつてのプロデュエリスト協会はデュエルの腕で会長が決まる仕組みであり、春男のデュエリストとしての実力は上の下程度。

 とてもじゃないが会長になれる器ではなかった。

 

 転機が訪れたのはエンタメデュエルが流行し始めた時期の事。

 プロデュエリスト協会の中でもエンタメデュエルを取り入れるべきという意見が出始めた時、春男は真っ先にそれを支持してエンタメデュエルを推奨する派閥を立ち上げた。

 結果的にその派閥がトップになったことで春男はプロデュエリスト協会の会長に就任することができた。

 

 会長就任後、春男は邪魔になるデュエリストをプロに相応しいエンタメデュエルをしていないという理由で減給。

 それに不満がある者は次々とプロデュエリストを辞めていき、結果としてプロデュエリスト業界のデュエルの質は劣化した。

 だが春男にとっては私腹を肥やすことが最優先であり、デュエルの質なんてどうでもいい。

 エンタメデュエルですら自身が権力者になるための道具でしかなかった。

 

 権力基盤を固めてからは、自分と性行為をした女子プロのみをAランクプロデュエリストにして、それ以外の男性プロデュエリストをBランク以下に追いやった。

 そしてBランク以下の給料を更に減給して、より一層自分の資産を増やしていった。

 

 最近ではAランクプロの女たちにも飽きてきたので給料を減給。

 それによってAランクの女子プロが裏で稼ごうとしてデュエル事件に巻き込まれることが増えたが知ったことではなかった。

 

 現在の春男のお目当てはブラックドミノシティ№1のデュエルアイドルと言われる女だ。

 『完全偶像(アイドルマスター)』の異名を持つデュエリストであり、そのファンはブラックドミノシティだけで軽く100万人を超えている。

 彼女は単なるデュエルアイドルではなく、ブラックドミノシティ最優のデュエリストと謳われており『最優女王(パーフェクトクイーン)』の異名で知られる決闘女王でもあった。

 

 一か月前、その最優女王(パーフェクトクイーン)から春男にコンタクトがあった。

 このデュエルプラチナホテルのスイートルームにお誘いを受けたのだ。

 トップス市民の最優女王(パーフェクトクイーン)ですら、プロデュエリスト協会の会長である自分を無視することはできないと春男はより一層自信を肥大化させた。

 

 そして現在、春男はこのスイートルームにて最優女王(パーフェクトクイーン)と二度目のセックスを行っている。

 

「やりました女王様ぁ! 僕の個人資産をつぎ込んで、次回の女王杯のAブロックをBランクのプロデュエリストたちで埋めました。VIP参加枠を女王様の指示通り、全て購入させていただきました」

 

 女王杯は一般参加枠が5億円であるのに対して、予選免除のVIP参加枠は1枠だけでも50億円の参加費がかかる。

 VIP参加枠の限度いっぱいであるAブロックの参加人数分の参加費を春男は惜しみなく支払った。

 これによって、これまでプロデュエリストたちから搾取し続けた春男の個人資産の大半が溶けた。

 

「それだけでなく、僕の残りの資産を使ってBブロックにも可能な限り一般参加枠でプロデュエリストを送り込みましたぁ! 最終的にプロデュエリスト同士が勝ち残れば、女王様の勝利は確実です」

 

 女王戦でプロデュエリストに事前に負けるように指示を出しておけば最優女王(パーフェクトクイーン)は安泰となる。

 これまで春男にとって女など変えの利く性欲処理の道具に過ぎなかった。

 だが現在、自分の上に跨って腰を振っている最優女王は別次元の存在。

 自分の資産を全て捧げてしまうほどに堂本春男は最優女王のファンであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 数十分後、絶頂して果てた堂本春男が眠るベッドに腰かけながら、最優女王(パーフェクトクイーン)は女王杯参加者のリストに目を通していた。

 Aブロックに興味はない。

 現在のプロデュエリストはゴミであり、AランクはもちろんBランクであっても、それは変わらない。

 

 BランクのプロデュエリストたちはAランクと異なり自身の使うカードの効果程度は把握しているが、所詮はそれだけだ。

 企業お抱えのデュエリストになれるだけの実力もなく、裏に行く度胸もない。

 枕営業でAランクの地位を得た女子プロたちの下で、不満を言いながら現状に甘んじている存在。

 デュエリストとしてはともかく、人としてはAランクの女子プロにすら劣ると最優女王(パーフェクトクイーン)は考えている。

 

 Bブロックに一般参加枠で送り込まれたプロデュエリストはおそらく予選、遅くとも一回戦で全滅するだろう。

 故に目を通すのはプロデュエリスト以外のBブロックの参加者。

 

 顔写真付きの参加者リストをめくっていた手が止まる。

 その参加者は緑みがかった髪の女であり、名前欄には『癲狂院(てんきょういん)遊羽』と書かれていた。

 

「……そう。あなたはまた天を目指そうとしているのね」

 

 最優女王(パーフェクトクイーン)はベッドに付着していた白濁液を手ですくいとると、それを『癲狂院(てんきょういん)遊羽』の顔写真にべったりと擦り付けた。

 

「だったら何度でも教えてあげるわ」

 

 そのまま白濁液で汚れた『癲狂院(てんきょういん)遊羽』の顔写真付きのリストをぐちゃぐちゃに握り潰す。

 

「あなたは地を這う虫けらでしかないということを」

 

 『最優女王(パーフェクトクイーン)』と『完全偶像(アイドルマスター)』。

 二つの頂点を極めたブラックドミノシティ最優のデュエリスト。

 

「ねえ、遊羽」

 

 初代決闘女王、杠葉(ゆずりは)色音(いろね)は口元を歪めて笑った。

 

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