A3号室に入室すると部屋の中には一人の女性がいた。
年齢は二十代半ば程。ゆるふわロングの銀髪であり、デュエルアカデミア上級教師の服装であるという青い服を着ている。
彼女が実技試験で最後にデュエルをするというアカデミアの教員であるのは間違いない。
「受験番号64番、
これまでの試験官は自己紹介などせず、命令口調で試験を進めていたが、この古牧美玲という女性は違うようだ。
あまり失礼な態度をとって減点されても困るので軽く頭を下げる。
「リラックスして試験に臨んでください。デュエルは自然体で行うのが一番ですから」
両者のデュエルディスクのオートシャッフルシステムが起動して互いのデッキが自動でシャッフルされる。
デュエルディスクによって先攻後攻が決定される。
癲狂院遊羽 / LP4000
VS
古牧美玲 / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのはデュエルアカデミアの教師、古牧美玲だった。
「私の先攻。まずは永続魔法《
アカデミアの上級教師は主にB区の出身であり、基本的に『
「また私が『古代の機械』モンスターをアドバンス召喚する場合、必要なリリース以上のカウンターが置かれた《古代の機械城》をリリースすることができます」
『
「古代の機械兵士を召喚。《古代の機械城》の効果で攻撃力が300ポイントアップ」
《
星4 地属性 機械族
攻撃力1300→1600 守備力1300
「ターンを終了します」
「私のターン。ドロー。ドラゴンフライを攻撃表示」
《ドラゴンフライ》
星4 風属性 昆虫族
攻撃力1400 守備力900
「更に装備魔法《火器付機甲鎧》をドラゴンフライに装着。攻撃力を700ポイントアップする」
《ドラゴンフライ》
攻撃力1400→2100
「バトル! ドラゴンフライで古代の機械兵士を攻撃」
装備魔法によって強化されたドラゴンフライによって古代の機械兵士が戦闘破壊される。
古牧美玲 LP3500
「装備魔法を用いたマジックコンボですね」
モンスターを破壊されライフを削られても古牧美玲に焦りは見えなかった。
「これでターンエンド」
「私のターン。ドロー」
引いたカードを古牧美玲は一旦手札に加えた。
「《古代の機械城》をリリースすることで最上級モンスターをアドバンス召喚します」
《古代の機械城》が発動してから《古代の機械兵士》と《ドラゴンフライ》が召喚されたため、現在《古代の機械城》には二つのカウンターが置かれている。
「古代の機械巨人を攻撃表示」
《古代の機械巨人》
星8 地属性 機械族
攻撃力3000 守備力3000
現れたのはあの《青眼の白龍》と同等の攻撃力を持つ機械族最上級モンスター。
『古代の機械』の中でも《古代の機械巨人》は代表的なカードであり、デュエルアカデミアの象徴的なモンスターでもあったはずだ。
「バトルフェイズに移行します。古代の機械巨人でドラゴンフライを攻撃。アルティメット・パウンド」
鋼鉄の巨人の拳によって、ドラゴンフライが装備魔法ごと叩き潰される。
癲狂院遊羽 LP3100
「ドラゴンフライの効果発動。戦闘破壊された時、攻撃力1500以下の風属性モンスターを特殊召喚する。アルティメット・インセクトLV3を特殊召喚」
《アルティメット・インセクトLV3》
星3 風属性 昆虫族
攻撃力1400 守備力900
「ターン終了です」
「私のターン。ドロー。アルティメット・インセクトLV3の効果発動。このカードを墓地に送ることで、デッキからアルティメット・インセクトLV5を特殊召喚」
《アルティメット・インセクトLV5》
星5 風属性 昆虫族
攻撃力2300 守備力900
「アルティメット・インセクトLV3の効果で特殊召喚されたアルティメット・インセクトLV5が場にいる時、私の場の古代の機械巨人の攻撃力は500ダウンしますね」
《古代の機械巨人》
攻撃力3000→2500
「ですが、それでも攻撃力は古代の機械巨人の方が上。次はどうしますか」
流石はデュエルアカデミアの上級教員だけあって、自分が使用するカード以外の効果も把握しているようだ。
「二枚目の《火器付機甲鎧》をアルティメット・インセクトLV5に装備」
《アルティメット・インセクトLV5》
攻撃力2300→3000
「更に代打バッターを召喚」
《代打バッター》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1000 守備力1200
「バトル! アルティメット・インセクトLV5で古代の機械巨人を攻撃」
アルティメット・インセクトLV5に装着された《火器付機甲鎧》から繰り出される火炎放射攻撃によって、古代の機械巨人が炎上、爆散する。
古牧美玲 LP3000
「代打バッターでダイレクトアタック」
古牧美玲 LP2000
「手札から速攻魔法《超進化の繭》を発動。《火器付機甲鎧》が装備されたアルティメット・インセクトLV5をリリースして、アルティメット・インセクトLV7を特殊召喚」
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
「……これは驚きました。装備魔法を装備するだけでなく、ワンステップ上のレベルに達しているとは。これほどのプレイングができる生徒はオベリスクブルーにもそう多くはいません」
「アルティメット・インセクトLV7でプレイヤーにダイレクトアタック!」
現在の古牧美玲のライフポイントは2000。
攻撃力2600のアルティメット・インセクトLV7による直接攻撃でライフを0にできる。
「……手札から《速攻のかかし》を捨てることで、直接攻撃を無効にしてバトルフェイズを強制的に終了させます」
「防がれたっ! 私の必殺コンボが」
装備カードを装備した昆虫族モンスターを《超進化の繭》によってリリースして《アルティメット・インセクトLV7》を特殊召喚した上で、連続攻撃を仕掛ける四枚のカードを使用したコンボ戦術は、キースと共に裏のデュエル場を巡った七日間でも破られたことはなかった。
今回のデュエルでは相手の場に伏せカードがなかった事もあり、勝負は決まったと思った。
あの《速攻のかかし》というカードは手札から効果を発動することができる、所謂手札誘発というレアカード。
流石はデュエルアカデミアの上級教師だけあって、いいカードを持っている。
「デュエルアカデミアの試験官としては、今の攻撃を防がずに通してデュエルを終了させるべきでした」
アカデミアの試験官の役割は受験者の実力を測ることであり、おそらく力をセーブするように指示を出されている。
「ですが、あなたとはデュエリストとして勝負がしたくなりました」
つまりここからは彼女の本来の実力が見られるということか。
「それは良かった。正直、試験だろうが手を抜かれて勝っても、あまりいい気分はしないからね。それに本気のあんたを倒せば、より上位四名以内での合格に近づける」
「強気な発言ですね。嫌いではありませんよ。上位四名……なるほど特待生制度ですか」
遊羽の生意気とも言える発言に、古牧美玲は微笑みを見せた。
「約束しましょう。仮にこのデュエルで私を倒すことができれば、あなたには最優良の評価をつけます。そうなれば首位で特待生としてアカデミアに入学することができるでしょう」
「言質は取った。確かここでの会話は全部録音されてるんだったよね」
五戦目の相手だった金盛に試験官が言っていたことだが、おそらくこの部屋も同様だろう。
「墓地の《超進化の繭》の効果発動。ドラゴンフライをデッキに戻して一枚ドロー。カードを二枚セットしてターンエンド」
「私のターン、ドロー」
古牧美玲の雰囲気が変わった。
口調や表情に変化はないが、デュエリストとして鋭くなったような感覚だ。
「永続魔法《
それは『アンティーク・ギア』モンスターに強固な耐性と与える要塞。
「更に魔法カード《
現在、古牧美玲の場にある表側表示のカードは一枚のみ。
「私は古代の機械要塞を破壊して、古代の機械巨人を攻撃表示で特殊召喚」
《古代の機械巨人》
星8 地属性 機械族
攻撃力3000 守備力3000
耐性を与える要塞と引き換えに特殊召喚されたのは、アカデミアの象徴である鋼鉄の巨人だった。
「それだけではありませんよ。《古代の機械要塞》が破壊された時、私は手札から『アンティーク・ギア』モンスターを場に出せます。古代の機械熱核竜を攻撃表示で特殊召喚」
《
星9 地属性 機械族
攻撃力3000 守備力3000
遊羽は僅かに唇を噛んだ。
《古代の機械熱核竜》は《古代の機械巨人》以上に厄介なモンスターだ。
故に伏せていたカードを使用して手を打つ。
「速攻魔法《禁じられた聖杯》発動。フィールド場の表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は400ポイントアップして効果が無効化される。私が選ぶのは古代の機械熱核竜」
《古代の機械熱核竜》
攻撃力3000→3400
一見すれば、それは敵に塩を送る行為。
ただでさえ高かった《古代の機械熱核竜》の攻撃力が更に上がってしまった。
「把握しているのですね。古代の機械熱核竜の攻撃時に発動できなくなるのは魔法、罠だけなくモンスター効果も含まれていることを」
《古代の機械熱核竜》は昆虫族の十八番であるリクルーターとの相性は最悪と言っても過言ではないモンスターだ。
それに加えて攻撃終了時にフィールドの魔法、罠カードを一枚破壊する効果まである。
だからこそ攻撃力を上げることになっても、その効果を無効化した。
「バトルフェイズに移行します。古代の機械巨人でアルティメット・インセクトLV7を攻撃。アルティメット・パウンド!」
巨大な昆虫が鋼鉄の巨人によって粉砕される。
現在のエースモンスターである《アルティメット・インセクトLV7》が初めて戦闘破壊された瞬間であった。
癲狂院遊羽 LP2700
だが遊羽は動じることなくデュエルに集中する。
一方で古牧美玲は真剣な表情で何かを考える仕草をした。
「《禁じられた聖杯》を発動させたのは代打バッターの効果を使用するため。ですが現在のあなたの手札は一枚。ブラフの可能性もある。その上、代打バッターで特殊召喚できる昆虫族モンスターに攻撃力3000を上回るモンスターはいない」
それはデュエルアカデミアの教師らしい適格な分析。
「いいでしょう。そちらの思惑に乗ります。古代の機械熱核竜で代打バッターを攻撃」
《古代の機械熱核竜》によって《代打バッター》が戦闘破壊される。
癲狂院遊羽 LP300
「代打バッターの効果発動。手札からデスサイズ・キラーを特殊召喚」
《デスサイズ・キラー》
星8 風属性 昆虫族
攻撃力2300 守備力1600
「最上級モンスターが手札にありましたか。確かにデスサイズ・キラーなら可能性はありますが、果たしてあなたに私の盤面を切り崩せますか?」
現在、遊羽の手札はなく、場にあるのは《デスサイズ・キラー》を除けば伏せカードが一枚のみ。
それだけでは二体の最上級『アンティーク・ギア』モンスターを攻略することはできない。
次のドローに全てがかかっている。
「ターン終了。さあ、あなたの可能性を見せてください」
「私のターン、ドロー!」
引いたカードを見て、遊羽は薄く笑った。
「ゴキポールを召喚」
《ゴキポール》
星3 地属性 昆虫族
攻撃力1000 守備力1200
「デスサイズ・キラーの効果発動。ゴキポールをリリースすることで攻撃力を500アップ」
《デスサイズ・キラー》
攻撃力2300→2800
これだけでは攻撃力3000の《古代の機械巨人》や《古代の機械熱核竜》には及ばない。
「ゴキポールの効果発動。墓地に送られた時、デッキからレベル4の昆虫族モンスター1体を手札に加える。そして、それが通常モンスターなら特殊召喚できる」
当然、この状況で選ぶのは通常モンスターの昆虫族。
「私はゴキボールを手札に加えて、そのまま特殊召喚」
《ゴキボール》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1200 守備力1400
「ゴキポールの効果によって、ゴキボールの攻撃力以上のモンスターを1体破壊できる。対象は古代の機械熱核竜」
《ゴキポール》の特殊能力で《古代の機械熱核竜》が木端微塵に砕け散った。
「二度目のデスサイズ・キラーの効果発動。ゴキボールをリリースして更に攻撃力アップ」
《デスサイズ・キラー》
攻撃力2800→3300
「バトル! デスサイズ・キラーで古代の機械巨人を攻撃!
巨大なカマキリの繰り出す大鎌によって、鋼鉄の巨人が真っ二つに切り裂かれた。
古牧美玲 LP1700
「ここでリバースカード発動!《リビングデッドの呼び声》」
《リビングデッドの呼び声》は墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する永続罠。
キースから渡されたカードの中でも汎用性の高いウルトラレアカードだ。
「私が墓地から蘇生するのは、アルティメット・インセクトLV7」
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
「前のターンで古代の機械熱核竜の効果を無効にしたのは、その伏せカードを守るためでもあったということですか。見事です」
「アルティメット・インセクトLV7でプレイヤーにダイレクトアタック!」
古牧美玲 LP0
《アルティメット・インセクトLV7》の直接攻撃によって、古牧美玲のライフが0になった。
「実技試験はこれで終了。いいデュエルでした」
そう言って古牧美玲が右手を差し出した。
その行動の意図が握手だと気づき、少し不思議な気分になる。
これまでのデュエルにおいて負けた相手からこうして友好的な態度をとられたことはあまりなく、握手を求められたのは初めてだった。
「あんたはこれまで私がデュエルした相手の中で一番強かった」
差し出された古牧美玲の手を握り返す。
デュエルの勝者と敗者が握手をする。
それはデュエル孤児院や裏のデュエル場ではなかったこと。
だが、こういうのも悪くはないと思った。
「試験結果は追って連絡します。次は入学式で会いましょう」
その三か月後、遊羽はデュエルアカデミアの高等部に特待生として首位で入学を果たした。