切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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アンティルール

 通常であれば退学になるような行為が発覚しても、トップスの市民にはそれを穏便に済ませる手段がある。

 

『親父がアカデミアに十億円でも二十億円でも寄付金を払えば、退学ぐらいなら幾らでも取り消せるぜ』

 

 逆にそれだけの金を支払っても取り消せるのは退学までのようだ。

 アカデミア全体のスタンスとしてはトップス市民に忖度はしても、完全に恭順はしないといったところだろうか。

 少なくともデュエル孤児院のように施設そのものが犯罪に加担しているわけではない。

 だからこそ富岡は赤田正人(まさと)のような教師を買収している。

 

『仮に俺が一ヵ月停学になったとして、チクった奴は停学明けに徹底的にデュエルリンチしてやるぜ。てめえらオシリスレッドが俺たちブルジョア流に勝てるわけがねえんだからな』

 

 結局のところ、オシリスレッドの先輩方が富岡たちに従っている根本的な理由はデュエルに勝てないからでしかない。

 実際、ここまで挑発されても先輩方は悔しそうに俯くばかりで言い返す様子もなかった。

 

『それは新入り共も変わらねえ。高等部からの新入生だろうと寄付金を三億円払えばラーイエローには行けるんだからな。ここに残ってるのはそれができねえC区の底辺ぐらいだろ』

 

 どうやら高等部からの入学生でもB区の市民は三億円寄付金を払ってラーイエローからスタートするのが一般的らしい。

 

『もしかしたらB区市民でも三億払えねえでオシリスレッドに来た奴がいるかもしれねえがな。どちらにせよ、そんな底辺共のデッキじゃ、俺たちブルジョア流には勝てねえよ』

 

 つまり高等部から入学してオシリスレッドに配属される生徒の大半はC区の市民であり、残りは三億円の寄付金を払えないB区の市民ということか。

 遊羽と色音の場合、B区どころかC区ですらない下層区、それもF区の出身者であるが。

 

『さて、吉田ちゃん。レアカードを寄越すかDPを払うか、それともセックスするか、普段なら選ばせてやるんだが、新入り共への見せしめが必要なんでね』

 

 愉快そうな口調で笑う富岡。

 

『今回は俺が決めてやる。安心しな、レアカードやDPは奪わないでおいてやるよ。吉田ちゃんにはこの場で俺と公開セックスしてもらう』

「い、嫌、そんな」

 

 吉田が声を震わせる。

 

『嫌ならデュエルで抵抗してみろよ。それも含めて見せしめだぜ』

 

 富岡がデュエルディスクを起動した。

 だが吉田は戦意喪失しているのかデュエルディスクを構えない。

 

「へへ、富岡さんの後でいいんで俺も犯したいんですがいいですかね」

 

 富岡の隣にいた小柄なオベリスクブルーの生徒が下卑た笑みを浮かべる。

 

「構わねえぜ、銭山。どうせなら俺と一緒にこいつを犯すか」

「あざっす、流石富岡さん!」

 

 あの小柄なオベリスクブルー生は銭山という名前らしい。

 

「いい加減にしろよ」

 

 ここで声を上げたのは坊主頭のオシリスレッド生だった。

 彼も吉田と同様に入学式にいた新入生だったはずだ。

 

「俺は松寺。お前らにデュエルを申し込む」

 

 松寺と名乗ったオシリスレッド生がデュエルディスクを構える。

 

「確かに俺はC区出身だ。だけど女性にこんな酷いことをする奴らはデュエリストとして許せない」

「あ? 何だ、こいつナイト気取りかよ」

 

 小柄なオベリスクブルー生、銭山が苛立ちを露わにする。

 

「いいじゃねえか、銭山。どの道、見せしめでデュエルするつもりだったんだ」

「じゃあ俺がやりましょうか。このナイト気取りの小僧に、俺のブルジョア騎士デッキで本当のナイトを教えてやりますよ」

「いや、見せしめは俺がやる。誰がこの場で一番デュエルが強いのか、分からせてやらねえといけねえからな」

 

 デュエルディスクを起動した状態の富岡が、坊主頭のオシリスレッド生、松寺と向かい合う。

 

「デュエルはアンティルールで行うぜ。勝った側が負けた側のレアカードを一枚手に入れるルールだ」

 

 入学時の説明によれば、ブラックドミノシティのデュエルアカデミアにおいて、双方の合意があればアンティルールは認められている。

 

 富岡が学生服のポケットから小型のカードファイルを取り出した。

 成程。アンティルールが一般化しているアカデミアにおいては、生徒がデッキとは別にアンティ用のカードをファイルに入れて持ち歩いているわけか。

 

「C区の劣等生なら、こいつで十分だろ」

 

 カードファイルの中から富岡が一枚のカードをかざして見せた。

 

 《ダイヤモンド・ドラゴン》

 星7 光属性 ドラゴン族

 攻撃力2100 守備力2800

 

 確か《ダイヤモンド・ドラゴン》は1000万円するウルトラレアカードだ。

 実用性よりも希少価値から高い値段がついているタイプのカードだったはず。

 

「てめえがアンティに出すレアカードを見せな」

 

 松寺がデッキからカードを一枚抜き出してかざす。

 

 《アックス・レイダー》

 星4 地属性 戦士族

 攻撃力1700 守備力1150

 

「おいおい、その程度のレアカードしかないのかよ。アンティってのは互いに価値がつり合ってるカード同士でやるもんだがね」

「これは父がデュエルアカデミアの入学祝いに買ってくれたカードだ。それを馬鹿にするなんて許さないぞ」

「ほぉ、そういうことなら受けてやる」

 

 互いが合意したことによってアンティが成立した。

 両者のデュエルディスクのオートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされる。

 デュエルディスクによって先攻後攻が決定される。

 

 

 松寺大祐 /  LP4000

 

     VS

 

 富岡善一郎 / LP4000

 

 

「「決闘!!」」

 

 先攻をとったのは松寺だった。

 

「俺のターン! アックス・レイダーを攻撃表示!」

 

 《アックス・レイダー》

 星4 地属性 戦士族

 攻撃力1700 守備力1150

 

 おそらくは松寺のエースモンスターであろう《アックス・レイダー》が召喚される。

 

「更に魔法カード《稲妻の剣》を発動! アックス・レイダーに装備することで攻撃力を800ポイントアップ」

 

 《アックス・レイダー》

 攻撃力1700→2500

 

 攻撃力を800上げる装備魔法を持っているのは、流石にC区の市民と言ったところか。

 デュエル孤児院では職員にレア抜きされるので、このレベルの装備魔法は手に入らなかった。

 

「永続魔法《連合軍》。俺のフィールド場の戦士族モンスターの攻撃力は戦士族、魔法使い族モンスター1体につき200アップする」

 

 《アックス・レイダー》

 攻撃力2500→2700

 

「俺はターンエンド」

 

 《連合軍》もデュエル孤児院においては手に入らない水準の永続魔法だ。

 次のターン以降、松寺が新たに戦士族や魔法使い族のモンスターを召喚すれば、更に《アックス・レイダー》の攻撃力を上げることもできるだろう。

 

 だがこれでは駄目だ。

 ブルジョア流を相手にしたから分かる。

 この盤面では奴らのレアカード連発戦術を止められない。

 

「やはりC区の劣等生じゃその程度か。俺のターン、ドロー」

 

 富岡が引いたカードをそのまま発動する。

 

「《ハーピィの羽箒》を発動!」

 

 一瞬にして松岡の場の《稲妻の剣》と《連合軍》が破壊された。

 

 《アックス・レイダー》

 攻撃力2700→1700

 

「くっ、アックス・レイダーの攻撃力が元に戻ったか」

「攻撃力? そんなの気にする必要もねえぜ。《サンダーボルト》発動!」

 

 《アックス・レイダー》が消し炭になり、松寺の盤面がガラ空きになる。

 

「お、俺のエースモンスターがこんなに簡単に」

「この程度の雑魚モンスターでエースとは笑わせるぜ。本当のエースって奴を見せてやる。《古のルール》発動。手札からトライホーン・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 《トライホーン・ドラゴン》

 星8 闇属性 ドラゴン族

 攻撃力2850 守備力2350

 

「こ、攻撃力2850、だと」

「単に攻撃力が高いだけじゃねえよ。こいつは一枚五億円するウルトラレアカードだ。こういうのを本当のエースモンスターって言うんだよ。更に幻殻竜を攻撃表示」

 

 《幻殻竜》

 星4 闇属性 幻竜族

 攻撃力2000 守備力0

 

「バトルだぜ! 幻殻竜で攻撃」

 

 松寺大祐 LP2000

 

「ぐっ!」

 

 《幻殻竜》の直接攻撃を受けた松寺の体が仰け反った。

 富岡がリアルソリッドビジョンのセイフティモードをオフにしているのだろう。

 

「トライホーン・ドラゴンでオシリスレッドの劣等生にダイレクトアタック!」

 

 リアルソリッドビジョンの衝撃によって松寺の体が宙を舞った。

 

 松寺大祐 LP0

 

 地面に転がる松寺に富岡が近寄る。

 

「さて、じゃあアンティとして、このカスレアを貰うぜ」

 

 この世界はデュエルで全てが決まる。

 デュエルに負けた松寺はそれを拒否することはできない。

 

「普段なら手に入れたレアカードはファイルに入れてコレクションするんだが、これは見せしめなんでね」

 

 富岡が手にした《アックス・レイダー》を松寺の目の前で破り捨てた。

 

「あ、ああ! 俺のアックス・レイダーが!」

 

 松寺が地面に膝をついたまま破れたカードを手に取って涙を流す。

 その様子を見て富岡の周囲にいたオベリスクブルー生たちが、げらげらと笑い声をあげた。

 

『これで分かったか! てめえらオシリスレッドの劣等生じゃ、俺たちオベリスクブルー、それもブルジョア流のデュエリストには勝てねえんだよ!』

 

 富岡がメガホンを使ってオシリスレッド寮全体に聞こえるように宣言する。

 

「ねえ、デュエルしてよ」

 

 頃合いだと判断して遊羽はこの場に乱入した。

 

「……その黒のロングコート。そうか、てめえが身の程知らずにも下層区の市民でありながらアカデミアに入学した女か」

「何で知ってるわけ」

 

 確かに下層区出身のアカデミア生は珍しいだろうが、まだ入学初日。

 F区出身であることを誰かに話したりはしていない。

 教師なら把握しているだろうが、赤田正人(まさと)がわざわざ富岡にそれ話すかというと疑問詞がつく。

 

「俺が教えたんだよ。てめえが下層区のゴミ女だってな!」

 

 オベリスクブルー生の一人が前に出た。

 遊羽はこの男子生徒を知っている。

 

「あんたは……金盛」

 

 実技試験五戦目の相手だったトップスの市民、金盛がいた。

 

「疑問に思ってんだろ。何で高等部から入学した俺がオベリスクブルーに配属されたのか」

 

 三億円の寄付金を支払って昇級できるのはラーイエローまで。

 とはいえ金盛がトップス市民である以上、何をしたかは大体想像がつく。

 

「パパがアカデミアに三十億円を寄付してね。特例として俺はオベリスクブルーになったんだよ。ルールだから順位は変えられねえってのは気に入らねえけどな」

 

 そんな形式だけのオベリスクブルー生という立場には全く魅力を感じない。

 この時点でオベリスクブルーになれば10000DP支給される期間が一年増えるが、それで三十億円使っては本末転倒だ。

 

「お前の相手は俺がしてやるぜ。アンティルールで勝負だ。てめえが負けたら、ここで集団レイプされてもらうぜ」

「いいよ。だったらあんたにはエビルナイト・ドラゴンを賭けてもらう」

 

 昆虫デッキにエビルナイト・ドラゴンは全く合わないが、希少性の高さからあれは三億円の値がついている。

 売却すれば高額な昆虫族のカードを数枚購入してデッキ全体のパワーを底上げできるはずだ。

 

「……調子に乗ってんじゃねえぞ。てめえの体にエビルナイト・ドラゴンと同じ三億円の価値があるわけねえだろ」

 

 金盛の言うことはその通りではあるが、それでもこの反応は意外だった。

 エビルナイト・ドラゴンをディスっていた割にアンティに出すのは渋るのか。

 

「何? また負けるからビビってるの」

「ふざけんじゃねえ! あんなマグレは二度と起きねえが、パパから言われてるんだよ。一億円以上するカードはアンティに出すなってな」

「そういう事だ。アンティには俺のダイヤモンド・ドラゴンを出してやる。後輩のデュエルの手伝いぐらいしてやるさ」

 

 富岡が再びカードファイルを取り出すと《ダイヤモンド・ドラゴン》を見せる。

 トップス市民の多いアカデミアなら億単位のウルトラレアカードをアンティで入手できるかと思っていたが、そう都合よくはいかないらしい。

 おそらく金盛に限らず、富岡や他のトップス市民も超高額カードをアンティに出さないように親から言いつけられている。

 

「だったら両方賭けてよ」

 

 だからこそ、ここは強引にでも《エビルナイト・ドラゴン》を賭けさせる。

 この場の状況と金盛の性格なら、条件次第ではアンティを受けるはずだ。

 おそらく、この機会を逃せばアカデミアで億単位のウルトラレアカードをアンティできるチャンスはそう来ないだろう。

 

「あんた達にはエビルナイト・ドラゴンとダイヤモンド・ドラゴンを両方賭けてもらう」

 

 普通に考えれば、そんな要求は通るはずもない。

 

「その代わり、金盛だけじゃなくて、あんたとそこの銭山とかいうのも合わせて三対一でデュエルしてあげる」

 

 提案するのは三対一による多人数デュエル。

 金盛とは一度デュエルして、富岡のデュエルを見た上で勝算はあると判断した。

 ここはリスクをとってでも三億円の《エビルナイト・ドラゴン》を手に入れる。

 

「どこまで舐めてやがるんだ! 上等だよ、受けてやるぜ、下層区のゴミ女!」

 

 案の定、こちらの挑発に乗って、怒りを露わにする金盛。

 

「……だとしても、あまりにも価値がつり合わないアンティはデュエリストしてするべきじゃねえな」

 

 一方で富岡は冷静だった。

 オシリスレッド生を軽視している男ではあるが、遊羽が一度金盛を倒したことを知っているので警戒しているのだろう。

 

「だったら私の体も賭けましょう」

 

 この場に新たなオシリスレッドの生徒が乱入する。

 長い黒髪とスタイルの良い体つきの整った顔立ちの女性。

 

「……色音」

 

 杠葉(ゆずりは)色音(いろね)だった。

 

「デュエルの条件は三対一のままでけっこうよ。あなた達の一人でも遊羽に勝つことができれば、私のことも一緒に犯してかまわない」

 

 あくまでも二対三を要求するわけではないと色音は前置きする。

 

「ただし遊羽が勝った時はあなたのトライホーン・ドラゴンを貰うわ」

「馬鹿な! トライホーン・ドラゴンは一枚五億円のウルトラレアカードだぞ! どれだけいい体をしてようとアンティがつり合わねえよ。親父からも絶対にアンティに出すなと言われている」

「あら、ブルジョア流というのは三対一で下層区の市民に負けるのかしら」

 

 おそらく色音もアカデミアで億単位のウルトラレアカードをアンティできるチャンスが限られているということを理解している。

 

「と、富岡さん、やりましょう」

 

 興奮気味に進言したのは銭山。

 

「まな板女と違って、これほどのスタイルの女はそうはいねえ。三対一ならマグレで負ける可能性だってねえはずです」

 

 アンティに乗り気になったのは他のオベリスクブルー生も同様だった。

 

「俺はあの女を犯してえよ、富岡さん」

「あのまな板はどうでも良かったが、こっちを逃す手はねえ」

「教師は買収してるんだから、このアンティ勝負が親に伝わることもないはずです」

 

 この連中のリーダー格である以上、こうなってしまえば富岡はアンティを断ることはできない。

 

「……いいだろう。アンティを受けてやる。銭山、金盛やれるな」

「へへ、あの女を犯すのが今から楽しみですよ」

「パパにバレねえなら何の問題もねえ! 下層区のゴミ女をぶっ潰してやるぜ」

 

 当事者が合意したことによってデュエルが成立する。

 オベリスクブルー生たちが歓声を上げた。

 

 勝負の内容は三対一による多人数デュエル。

 遊羽が勝利した場合、金盛は《エビルナイト・ドラゴン》、富岡は《ダイヤモンド・ドラゴン》をアンティカードとして渡す。

 更に富岡は《トライホーン・ドラゴン》を色音に譲渡する。

 富岡、金盛、銭山のいずれか一人でも勝利した場合、遊羽と色音はこの場でオベリスクブルー生に集団レイプされる。

 

 一度だけ振り返って色音を見る。

 こうして目を合わすのは久しぶりだった。

 

「あなたの新しい強さを私に見せて」

 

 多くは語らず色音が一言だけ告げる。

 無言で頷いてから遊羽は前を向いた。

 

 各自のデュエルディスクが展開され、カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。

 オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされた。

 デュエルディスクによって先攻からの順番が決定される。

 

 

 癲狂院遊羽 /  LP4000

 

     VS

 

 富岡善一郎 / LP4000

 金盛良平 / LP4000

 銭山優介 / LP4000

 

 

「「「「決闘!!」」」」

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