地面に転がって呻く金盛から遊羽はアンティカードの《エビルナイト・ドラゴン》を回収した。
この世界は全てがデュエルで決まる。
事前に取り決めを行いデュエルした場合、敗者は強制的にそれを履行することになる。
「富岡、あんたもさっさと《ダイヤモンド・ドラゴン》を出して」
この全てがデュエルで決まる世界において、それ法則であり逃れることはできない。
取り決めに従って遊羽は《ダイヤモンド・ドラゴン》受け取り、色音には《トライホーン・ドラゴン》が譲渡された。
「……クソ、お前らこんなことして無事で済むと思うんじゃねえぞ」
捨て台詞を残して富岡は立ち去って行く。
その後を追いかけるように銭山と金盛、他のオベリスクブルー生たちがついていった。
◇
翌日、遊羽はオシリスレッド寮長の赤田
携帯端末のメッセージで指定された時間は16時30分。
15分前に到着したので部屋の中に入り、椅子に座って待つ。
5分経過するとドアが開いたので赤田
16時35分になったところで、再び生徒指導室のドアが開く。
くたびれたスーツを着た中年男性、アカデミアの教師であり、オシリスレッドの寮長、赤田
「二人共揃っているようだね」
昨日の今日で色音と一緒に呼び出された時点で、何の話があるかは察しが付く。
「オベリスクブルー生から被害届が提出された。何でも君たちはデュエルを強要してレアカードを巻き上げたそうじゃないか」
この教師が富岡たちとグルなのは知っているので別に驚きはないが、ここまで露骨な真似をしてくるとは。
「資料によれば君たちはF区の出身らしいな。これだから下層区出身者は育ちが悪い。善良なトップスの子供たちに何という事をしたんだ」
この男に何か言っても無駄なので黙って話を聞いておく。
こちらがやれることは既に済ませてある。
「富岡君はレアカードの返却と君たちの退学を求めている。僕はそれを受理した。君たちには自主退学してもらう。書類を用意したから今すぐ書きなさい」
「それはアカデミア全体の意向なのかしら」
ここで口を開いたのは色音だった。
「何が言いたい、
「彼らは高額レアカードのアンティを親に知られるのを恐れていたわ。アカデミア沙汰にするとは思えない。この件、彼らとあなたの独断なのでしょう」
自主退学書類に署名させれば、退学の理由など適当にでっち上げられるということか。
「君はそうやって罪のない富岡君たちに責任を押し付けるつもりか。いいからこの書類にサインを」
色音が学生服のポケットから銀色の棒状の機械を取り出した。
『富岡君。先ほどのような言葉をメガホンを使って言わないでください。隠蔽するのは僕なんですよ』
『それを上手くやるのがお前の仕事だろ。ほら、今月分のレアカードだ』
『それじゃあ僕は何も見なかったことにします。あとは君たちのお好きどうぞ』
その機械から録音された会話が流れる。
これはボイスレコーダーだ。
「今すぐこれをアカデミアに提出してもいいのよ」
「くっ! そいつをこっちに渡せ!」
昨日の時点でボイスレコーダーを学園に提出することもできたはず。
だが色音はあえてそれをしなかった。
富岡たちとのやり取りの音声を恫喝材料にして、この教師から利益を引き出すことにしたわけか。
それが今の色音のやり方なのだろう。
「下層区の小娘の分際で小賢しい真似しやがって!」
赤田
「どうせ退学書類を書かないなら、デュエルで書かせてやるつもりだったんだ。そのボイスレコーダーもデュエルで回収してやる」
色音が僅かに顔を顰めてデュエルディスクを起動したところで、生徒指導室のドアが開いた。
青い服を着たゆるふわロングの銀髪の女性。
アカデミアの上級教師、
「そこまでです、赤田先生」
「こ、これは古牧先生、どうされたのですか。僕は生徒指導中なのですが」
「癲狂院さんから報告を受けました。あなたがオベリスクブルーの生徒から賄賂としてレアカードを受け取ってデュエル恐喝行為を見逃していると」
色音の思惑を潰す形になったのは申し訳ないが、昨日の時点で教師である古牧美玲に報告した。
入学試験のデュエルを通して感じた印象で、彼女が不正を隠蔽する可能性は低いと判断したからだ。
「小牧先生、癲狂院は下層区の市民。どうせ嘘を言ってるに決まってる」
「その発言も問題ですが、既にこの件は複数のオシリスレッド生から証言を得ています。二年生や三年生からも詳しい話を聞けました」
「な、何だと!」
新入生はともかく先輩方は富岡たちからのデュエル報復を恐れていたはずだ。
「彼らは言っていましたよ。オベリスクブルー生相手に三対一で勇敢にデュエルする癲狂院さんに勇気を貰ったと」
遊羽としてはアンティで三億円の《エビルナイト・ドラゴン》を入手するのが主目的だったのだが、先輩方が少しでも立ち直ったのなら、それは良いことなのだろう。
「職員会議が行われ、あなたへの処分が決まりました。私とデュエルをして負けた場合は懲戒解雇、勝つことができれば減給一ヵ月」
「くっ、そんなの事実上の懲戒解雇じゃないか。僕の実力で上級教師のあんたに勝てるわけないだろ」
どうやら教師同士でも明確な実力差があるようだが、それでも赤田
「あなたにはもう一つ選択肢が用意されています。もっともこの選択肢を選べるかは彼女次第ですが」
古牧美玲から視線を向けられ、遊羽は首を傾げる。
「
「そっちだ! 僕はそっちを選ぶ!」
赤田
同じ教師として古牧美玲の実力を知っているが故の判断なのだろうが、デュエリストとして軽視されているようで、あまりいい気はしない。
「ただし、これは癲狂院さんがデュエルを承諾した場合のみ選択することができる。以上がアカデミアの決定です」
赤田正人とのデュエルを受けるかどうかの決定権は遊羽にあるようだ。
「癲狂院! デュエルするよな! 10000DP欲しいだろ」
必死な様子の赤田正人。
「癲狂院さん、どうしますか」
「私はデュエルを受ける」
赤田正人の言う通り10000DPを入手する機会を逃すわけにはいかない。
それにデュエリストとして挑まれたデュエルから逃げる気はなかった。
「デュエル場に移動します。ついてきてください」
「小牧先生、私も同行してよろしいでしょうか」
色音が席から立ち上がりながら聞いた。
「かまいません。あなたも当事者としてデュエルを見届けてください」
◇
古牧美玲に案内されたデュエル場は貸し切り状態だった。
遊羽と赤田
「それでは両者、デュエルを始めてください」
古牧美玲の合図で互いにデュエルディスクを起動する。
カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。
オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされる。
デュエルディスクによって先攻、後攻が決定された。
癲狂院遊羽 / LP4000
VS
赤田
「「決闘!!」」
先攻をとったのは遊羽だった。
「私の先攻、モンスターをセット」
裏側守備表示で場に出したのは《人喰い虫》。
リバースした時、フィールド場のモンスター1体を破壊する昆虫族モンスター。
「カードをセットしてターンエンド」
「不公平だと思わないか、癲狂院。このデュエル、負ければ僕は懲戒解雇になる。勝っても減給六か月だ。それに比べて、お前は勝てば10000DPが貰える。そして負けた場合のリスクは何もない」
カードをドローした赤田正人がそんなことを言い出した。
「何が言いたいわけ?」
「僕と個人でアンティをしないか。お前が勝ったら僕の持っているレアカードを何でも一枚くれてやる。だが負けたら退学してもらう」
「何を馬鹿なことを!」
声を上げたのは古牧美玲だった。
「そんなことが認められるわけがないでしょう」
「アカデミアではアンティが容認されている。デュエルの途中だろうと互いに納得すれば可能だ」
「癲狂院さん、受ける必要はありません」
心配してくれる古牧美玲には悪いが、遊羽の返答は決まっている。
「いいよ。その条件で続けよう」
遊羽が承諾したことによりアンティが成立する。
「はは、下層区の市民は考えが浅いな。レアカードに目が眩んだのだろうが、負けた時のリスクの有無はここ一番という場面で必ず響く」
どうやら赤田正人の狙いはプレッシャーをかけることだったらしい。
「ああ、それから、これも言っておくべきだな。お前は入学試験で古牧先生を倒して天狗になっているようだが、上級教師はデッキ構築の時点でハンデがあってね。受験者を相手にする時、エクストラデッキ未使用というルールがあるんだよ」
互いのエクストラデッキの枚数はデュエルディスクで確認できる。
確かに実技最終試験において古牧美玲のエクストラデッキは0枚だった。
『
「所詮お前は学生! 本気のアカデミア教師には勝てるわけがないのさ」
赤田正人の目的は更にプレッシャーをかけることなのだろうが、遊羽としてはいずれ全力の古牧美玲とデュエルがしたいと思った。
だが今は目の前のデュエルに集中する。
それはデュエリストとして当然の事だ。
「それではデュエル再開といこう。僕はA・O・Jリサーチャーを召喚」
《A・O・Jリサーチャー》
星3 闇属性 機械族
攻撃力1400 守備力100
「手札を一枚捨てて効果発動。相手フィールド場の裏側守備表示モンスターを攻撃表示にする。その際、リバース効果モンスターの効果は発動しない」
《A・O・Jリサーチャー》によって、セットされていた《人喰い虫》が攻撃表示になる。
《人喰い虫》
星2 地属性 昆虫族
攻撃力450 守備力600
「破壊効果が使えなくて残念だったな。学生の姑息な戦略など、教師である僕には通用しない。更に永続魔法《マシン・デベロッパー》発動。フィールド場の機械族モンスターの攻撃力を200ポイントアップ」
《A・O・Jリサーチャー》
攻撃力1400→1600
「バトルフェイズ。A・O・Jリサーチャーで人喰い虫を攻撃」
《A・O・Jリサーチャー》によって《人喰い虫》が戦闘破壊される。
リアルソリッドビジョンの衝撃によって遊羽の体が仰け反った。
癲狂院遊羽LP2850
「おや、デュエルディスクのセイフティモードを誤ってオフにしていたようだ」
「赤田先生、あなたは生徒に何ということを! このデュエルは中止です」
古牧美玲が怒りを露わにする。
「ま、待て、小牧先生、そう怒らずともいいでしょう。所詮、癲狂院は下層区の市民。しかも書類によれば親なしだ。保護者からクレームが来るわけでもない」
焦った様子で赤田正人がまくし立てた。
プレッシャーのダメ押しでセイフティモードをオフにしたのだろうが、古牧美玲が中止を宣言するのは予想外だったらしい。
一度セイフティモードがオフでデュエルが始まれば、途中で設定を変更することはできない。
盤面でもライフでも優勢なので、彼としてはこのままデュエルを続けたいのだろう。
「私はこのまま続行でいい。デュエリストとして一度始めたデュエルを中断する気はない」
それにデュエル孤児院ではセイフティモードをオフにしてくる相手など幾らでもいた。
「はは、威勢がいいじゃないか。そういう事で古牧先生、デュエルは続行してかまいませんね」
赤田正人を無視して古牧美玲が真剣な表情で遊羽と目を合わせる。
「……癲狂院さん。本当にいいのですね」
無言で頷くと一度だけ目を伏せてから古牧美玲がデュエルの再開を告げた。