切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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殺人警官、夜桜射亜

 夜桜射亜(いりあ)はブラックドミノシティB区の出身者である。

 比較的治安のいい地区で育った射亜であるが、この街が犯罪都市であることは知っていた。

 幼い頃よりデュエル犯罪者から罪のない人々を守りたいという思いがあり、アカデミアを卒業後、セキュリティ採用試験を受けることになる。

 その試験を首位で突破してセキュリティに採用された後はB区に配属されて職務に励むことになった。

 

 セキュリティに所属できるのはC区以上の市民に限られているが、トップス市民でセキュリティ試験を受ける者はいない。

 そのため事実上、ブラックドミノシティのセキュリティはB区とC区の市民によって構成されている。

 その中でもB区出身者は出世が早く、試験を首位で突破したこともあり、射亜は将来有望とされる人材だった。

 

 B区に配属されてから半年が経過した頃、射亜はある事件に遭遇する。

 女性を狙った連続デュエル強姦殺人事件だ。

 その犯人を突き止めてデュエルで拘束したのは射亜だった。

 彼女はデュエルだけでなく、事件捜査能力にも長けていた。

 

 犯罪都市と言われるブラックドミノシティにおいてもデュエル殺人はそれなりに重い刑罰が科されるデュエル犯罪である。

 今回の連続デュエル強姦殺人事件の犯人は既に八人をデュエルで殺害しており捕まれば死刑は確実と思われていた。

 

 だが連続デュエル強姦殺人犯が未成年だったことにより状況は変わる。

 

「デュエルで俺を拘束して勝ったつもりか。俺は未成年! 更に13歳であることによって刑事責任能力は得られない。よってデュエル死刑、及びデュエル懲役刑の効果は無効だぜ!」

 

 実際、ブラックドミノシティの法律において、14歳未満の刑事責任能力はないものとしてみなされる。

 

「これで分かったか、セキュリティ女! このデュエルの真の勝者は俺だ! 14歳未満で強姦殺人をした俺こそが真のデュエリストだぜ!!」

 

 勝ち誇ったように宣言する連続デュエル強姦殺人犯の少年。

 事実として、この犯人がデュエル実刑を受けることはなく、デュエル家庭裁判所に送られていった。

 それを伝えた時の被害者遺族の涙を今でも覚えている。

 

 その一年後、射亜のセキュリティ内での評価は一変していた。

 デュエルで拘束した後の犯人を射殺する狂人。

 合法的にデュエルで人を殺したくてセキュリティに入った女。

 血に飢えた殺人狂、殺人警官。

 

「おや、これはキラーセキュリティ。いや夜桜じゃないか」

 

 犯人射殺についての始末書を提出するため訪れたセキュリティ本部で遭遇したのは、紺色のスーツを着て眼鏡をかけた二十代前半の男性だった。

 

「何の用だい、小木曽」

 

 この男は小木曽(おぎそ)正真(しょうま)

 射亜の同期であり、同じB区の市民だ。

 

「口の利き方には気を付けろ。今の君と私とでは立場が違うのだからね」

「……何か私に用でしょうか、小木曽警視」

 

 小木曽正真(しょうま)はデュエルの腕は上の下程度であり、捜査能力も高いわけではないが、上司への点数稼ぎと不正の隠蔽能力に長けており、この一年半で警視にまで昇進したセキュリティだ。

 『エリートセキュリティ』の異名を持つデュエリストであり、次期セキュリティ長官に最も近いと言われている男でもある。

 

 だが裏では決闘強姦魔に女性の情報とレアカードを提供して強姦させた上で逮捕するというマッチポンプを行っており、隠蔽能力が高いこともあって証拠を掴むまでに時間がかかった。

 射亜が証拠のレアカードを押さえて決闘強姦魔を連行した時には、小木曽正真(しょうま)は警視に昇進してセキュリティ内で権力基盤を構築していた。

 結果として「決闘強姦魔の証言やレアカードだけでは証拠にならない」「そもそも決闘強姦程度のデュエル軽犯罪で騒ぐな」「キラーセキュリティと言っても所詮女だな」と直属の上司から証拠を握り潰されてしまった。

 

「またデュエル犯罪者を射殺したそうだな。犯人にも人権というのがあるんだよ。少しは人権派デュエリストを見習おうとは考えないのか」

「私の行為は全てセキュリティの規則に則っていますよ」

「確かに上は君を重宝している。殺人趣味のイカレた女とはいえ、セキュリティの権威を示すのに君のような狂犬は一匹いた方がいいからねぇ」

 

 いくら規則に違反してないとはいえ、射亜のやっていることはグレーゾーンだった。

 それが毎回始末書を書くことで黙認されているのには理由がある。

 

「この街には凶悪デュエル犯が多いからねぇ。頭のおかしい犯罪者デュエリストには同じように頭のおかしいセキュリティをぶつけるのがいい」

 

 キラーセキュリティ、夜桜射亜という存在は凶悪デュエル犯に対するセキュリティの切り札だった。

 

「それにトップスの連中に便宜を図る必要はあるが、恭順するわけにはいかない。だからこそ、君のような殺人狂を放し飼いにしておけば牽制になる」

「話がそれだけなら、もう行っていいですか」

「けっこう。いずれ私の物になるセキュリティのために、精々仕事に励んでくれ」

 

 デュエル犯罪者を撃ち殺すのは小木曽正真(しょうま)のためでもなければ、セキュリティの権威を守るためでもない。

 それでも射亜はこれからも犯人を射殺し続ける。

 

 

 

 

 

 

 癲狂院(てんきょういん)遊羽 LP75

 

   VS

 

 夜桜射亜(いりあ) LP600

 

 

 《破壊指輪(はかいリング)》によって《ゴヨウ・エンペラー》が爆散したことにより、両方のプレイヤーは1000ポイントのダメージを受けた。

 

 癲狂院遊羽 LP0

 夜桜射亜(いりあ) LP0

 

 同時にライフポイントが0になった場合、デュエルは引き分けとなる。

 

「じゃあもう一度やろうか」

 

 即座に遊羽はそう提案した。

 日頃からセキュリティと揉めるのは避けているが、デュエルが引き分けで終わった以上、再戦して決着をつける。

 デュエリストとして当然の事だ。

 それに現在の遊羽にはB区に残らなければならない理由がある。

 キラーセキュリティの管轄がB区である以上、ここできっちりと話しをつけておきたい。

 

「……いや、残念だけど私に来客のようだ」

 

 見ればデュエルディスクを付けた十数人の男性がぞろぞろと集まってくる。

 その男性たちの背後に見覚えのある中年女性がいた。

 セキュリティ本部前でマスコミたちの傍にいたオバサンだ。

 

「その女をデュエルで殺した奴に1000万円払うわ! 私の息子を殺した報いを受けさせなさい!」

 

 どうやらあの加害者遺族のオバサンは夜桜射亜にデュエルで報復するために人を集めたらしい。

 オバサンの指示を受けて男たちがこちらに近寄ってくる。

 

「君はもう行っていいよ。巻き込まれたくはないだろう。それとも君も1000万円のために私と強制デュエルでもするかい」

 

 その選択は幾ら何でもあり得なかった。

 先ほどのように取り決めしてデュエルするならともかく、セキュリティ相手に殺害目的で強制デュエルを挑むなど、ブラックドミノシティの裏社会でもタブーとされている。

 犯罪に寛容なブラックドミノシティでは一人デュエルで殺したぐらいでは死刑にならないが、相手がセキュリティなら話は別だ。

 殺意ありきで強制デュエルを仕掛けた時点で重罪。

 強制デュエルの記録はデュエルディスクに残るため言い逃れはできない。

 

 仮にデュエルに勝利して殺害に成功しても、身内が殺されたとなればセキュリティは捜査本部を立ち上げて犯人検挙に臨む。

 そうなってはブラックドミノシティでは、まともな生活を送れなくなる。

 おそらく、この場に集められた男たちは、そういった裏のルールを分かっていない、低レベルの裏デュエリストたちなのだろう。

 

「あんたと強制デュエルする気はないけど、ここから立ち去る気もない」

「何……?」

 

 夜桜射亜が疑問の表情を浮かべる。

 

「あのオバサンと男たちのせいで、あんたとの再戦が邪魔された。だったらデュエリストとして、まずはこいつらをデュエルで倒してから決着をつける」

 

 別に加害者遺族のオバサンに嫌悪感があるわけではない。

 だがデュエルを邪魔されるのは、デュエリストとして我慢ならない。

 

「何ごちゃごちゃ言ってるのよ! そいつもその女の仲間みたいだし、デュエルで殺しなさい!」

 

 加害者遺族のオバサン。所謂、加害者ババアがわめき散らす。

 遊羽と仲間認定されるのはキラーセキュリティにとって不本意だろうが、そこは我慢してもらうしかない。

 腕に付けていたデュエルディスクが自動的にデュエルモードに移行した。

 男たちの一人が強制デュエルを仕掛けてきたようだ。

 真夜中のC区郊外にてデュエルによる殺し合いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 一時間後。

 この場で立っているのは三人のデュエリストだけだった。

 一人目は害虫の異名を持つデュエリスト、癲狂院(てんきょういん)遊羽。

 二人目は殺人警官の異名を持つデュエリスト、夜桜射亜(いりあ)

 三人目は加害者遺族のオバサン、通称、加害者ババアだ。

 

 現在デュエルを行っているのは夜桜射亜と加害者ババアの二人だった。

 

 

 夜桜射亜(いりあ) LP3600

 

   VS

 

 加害者ババア LP1400

 

 

 現在、加害者ババアのフィールドには《復讐のソード・ストーカー》がいる。

 

 《復讐のソード・ストーカー》

 星6 闇属性 戦士族

 攻撃力2000 守備力1600

 

「私のターン。チューナーモンスター、TGストライカーを特殊召喚」

 

 《TGストライカー》

 星2 地属性 戦士族

 攻撃力600 守備力0

 

 夜桜射亜が出したのは遊羽とのデュエルでも使用されたウルトラレアカード。

 《TGストライカー》は相手の場にモンスターがいる時、特殊召喚できるチューナーモンスターだ。

 

「更にサーチ・ストライカーを攻撃表示」

 

 《サーチ・ストライカー》

 星4 風属性 戦士族

 攻撃力1600 守備力1200

 

 通常召喚されたのはポリスモンスターである《サーチ・ストライカー》。

 これによって夜桜射亜の場には二体のモンスターが揃った。

 

「レベル4《サーチ・ストライカー》にレベル2《TGストライカー》をチューニング。荒ぶる獣の牙もて捕獲せよ。シンクロ召喚! レベル6、ゴヨウ・プレデター」

 

 《ゴヨウ・プレデター》

 星6 地属性 戦士族

 攻撃力2400 守備力1200

 

「バトル! ゴヨウ・プレデターで復讐のソード・ストーカーを攻撃」

 

 《ゴヨウ・プレデター》が《復讐のソード・ストーカー》を戦闘破壊して、リアルソリッドビジョンの衝撃によって加害者ババアの体が仰け反る。

 

 加害者ババア LP1000

 

「ゴヨウ・プレデターの効果発動。戦闘破壊したモンスターを私のフィールドに特殊召喚する」

 

 《復讐のソード・ストーカー》

 星6 闇属性 戦士族

 攻撃力2000 守備力1600

 

「わ、私のモンスターが」

「復讐のソード・ストーカーでダイレクトアタック」

 

 リアルソリッドビジョンの衝撃によって、加害者ババアの体が地面を転がった。

 

 加害者ババア LP0

 

 地に這いつくばった加害者ババアに夜桜射亜が銃を向ける。

 

「や、やめ」

 

 有無を言わさず発砲して、銃弾が加害者ババアの頭を貫通した。

 それは既に何度も繰り返された光景。

 遊羽が倒した相手も含めて、この場で強制デュエルを仕掛けてきたデュエリストたちは、全員が夜桜射亜(いりあ)によって射殺されていた。

 

 噂の通り容赦なくデュエル犯罪者を撃ち殺すキラーセキュリティ。

 人によっては夜桜射亜を血に飢えた殺人狂と言う者もいる。

 だがその様子を見て遊羽が感じたのは真逆のこと。

 

「あんたさ、本当は誰も殺したくないんじゃないの」

 

 思わず口をついて出た言葉に、夜桜射亜が僅かに動揺したような素振りを見せた。

 

「……何故そう思った」

「だってそいつら射殺する瞬間、悲しそうな顔してるから」

 

 デュエル犯罪者の射殺は彼女にとってやりたくない行為なのかもしれない。

 

「君の勘違いだよ。こいつらは死んで当然の輩、ましてやセキュリティに強制デュエルを挑んだ以上、生かして連行しても死刑になる」

 

 後者に関してはその通りなので、夜桜射亜が犯人を射殺する際、何も言わなかった。

 大した実力もないのに、セキュリティに強制デュエルを挑んで負けたのだから、デュエリストとしては自業自得。

 だがそれでも遊羽は思うのだ。

 

「別に死んで当然とは思わないけど」

 

 一見すれば、それはどんな罪を犯した人間でも殺すべきではないという正義感。

 だが、この感覚はそんなものではない。

 

「死んで当然の人間なんてこれまで見たことがない」

 

 それは優しさや甘さとは全く別の何か。

 デュエル孤児院の正門前で目を覚ましてから今に至るまで、一度として癲狂院(てんきょういん)遊羽は死ぬべきだと思う人間には会ったことがない。

 

「……本気で言ってるみたいだね。トップスやB区ならともかくF区出身者の君が」

 

 目の前で人が殺されまくったせいか、普段から心掛けている常人の発言を逸脱した内容を喋ったかもしれない。

 

「だけど納得がいったよ。私は職業柄、いや他のセキュリティ以上に人から嫌悪感を向けられるのだけど、君には一切それがなかった」

「……私の事はもういいでしょ。それよりデュエルの決着をつけよう」

 

 元々この場に残ったのも引き分けに終わったデュエルの再戦が目的だ。

 

「いや、その必要はないよ」

 

 だが夜桜射亜はデュエルディスクを待機モードに移行させる。

 

「正義の守護者であるセキュリティとして、デュエルに敗北するわけにはいかなかった。だけど自分のエースモンスターを自爆させて引き分けに持ち込んだ時点で、デュエリストとしては私の負けだ」

 

 おそらくそれはキラーセキュリティではなく、一人のデュエリスト、夜桜射亜としての矜持。

 

「それに君がB区、ブラックドミノホテルにこだわったのは三条望羽のためなんだろう。奴隷杯で獲得した決闘奴隷の娘」

 

 青眼の銀ゾンビ販売や遊羽の経歴まで調べていたのだから、奴隷杯の件も調査済みなのだろう。

 

「いや元決闘奴隷か。首輪はなかったし、デュエルディスクをしていたからね。正直判断に迷ったよ。君が何故、11億で娘を売らなかったのか。性的な目的だとしても、それなら決闘奴隷から解放したのには疑問が残る」

 

 レズのペドフィリアとでも思われたのだろうか。

 

「だからデュエルで確かめることにした。君がどのような人間なのかをね」

「あんたのお眼鏡にはかなったって事?」

「そういうことになるね。今後B区で私が君に干渉することはないよ」

 

 言いながら夜桜射亜がスマホを取り出す。

 

「連絡先は教えておく。何かあったら通報しなよ」

 

 あのキラーセキュリティの携帯番号を入手してしまった。

 通報しても金を要求してくることはなさそうだが、代わりに犯人が射殺されてしまうかもしれない。

 彼女には申し訳ないが、原則は牛尾に連絡すると思う。

 

「さて、君はもう行くといい。これからセキュリティの処理班を呼ぶからね」

 

 加害者ババアを含めて、ここには10を超える死体が転がっていた。

 この場に残っていれば事情聴取を受けることになるのは確実だ。

 

「君なら女王杯の本選に進むことになるだろう。その時は応援に行かせてもらうよ」

 

 聴取の手間を省いてくれるというのは、夜桜射亜なりの誠意なのかもしれないと、その言葉を聞いて思った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ブラックドミノホテルに到着したのは午前二時前。

 流石にこの時間帯だけあって昼間より人が少ない。

 エレベーターに乗り込んで六階まで移動。

 『6-4号室』の前でカードキーをかざしてドアを開錠した。

 

 望羽はもう寝ているだろうから、静かにドアを開けたのだが、部屋の照明がまだついている。

 

「お帰りなさい、師匠」

 

 明かりをつけたまま寝てしまったのかと思ったが、そうではなかったようだ。

 

「ただいま」

 

 駆け寄ってきた望羽の頭を遊羽は優しく撫でた。

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