切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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四大企業

 二か月後。

 ブラックドミノシティB区で開催されているデュエル大会『子供杯(チャイルドカップ)』の観客席にて遊羽は試合を観戦していた。

 子供杯は民間のデュエル大会であり、十四歳以下の子供のみに出場資格がある。

 参加費は一万円。優勝者への賞金は十万。準優勝者には五万円という至って健全な表のデュエル大会だ。

 子供向けの大会であるが、それでもプロデュエリスト業界よりレベルの高いデュエルが繰り広げられており、ある意味ではプロとアマチュアの逆転現象を体現しているような大会だった。

 

 現在行われているのは決勝戦であり、試合をしているのは二人のデュエリスト。

 片方は三条望羽(みう)

 元トップス市民であり、元決闘奴隷の少女。

 遊羽がこの場にいるのは、彼女の試合を見るためだった。

 

 この二ヵ月で望羽は多くの表の大会に参加して優勝トロフィーを持ち帰って来た。

 遊羽もデュエルの仕事がない日はこうして試合を見に来ている。

 望羽は元トップスの市民であるが、ブルジョア流やセレブ流のようなボンクラ流派には染まっておらず、高いデュエルタクティクスを有していた。

 

 実際、この子供杯においても、苦戦することなく決勝まで進んできた。

 だが決勝戦の相手である赤紫髪を一本結びにした、そばかすの少年はかなりの強敵だ。

 現在の望羽のライフポイントは1200であり追い詰められている。

 

「私のターン。ドロー」

 

 引いたカードを望羽はそのまま発動した。

 

「魔法カード《トゲトゲ神の殺虫剤》。フィールド場の昆虫族モンスターを全て破壊する」

 

 現在の望羽の魔法、罠ゾーンには《DNA改造手術》と《虫除けバリアー》の二枚がある。

 《DNA改造手術》はフィールド場全てのモンスターを宣言した種族に変更する永続罠であり、望羽が宣言しているのは昆虫族。

 《トゲトゲ神の殺虫剤》によって望羽の場にいる《代打バッター》と対戦相手の少年の場にいた《鉄のハンス》と《鉄の騎士》が全て破壊された。

 

「代打バッターが墓地に送られたことによって、私は手札の昆虫族1体を特殊召喚できる。インセクト女王を攻撃表示で特殊召喚」

 

 《インセクト女王》

 星7 地属性 昆虫族

 攻撃力2200→2400 守備力2400

 

 相手の場を一掃しながら、望羽はエースモンスターである《インセクト女王》を出すことに成功した。

 

「僕は鉄の騎士の効果発動。破壊された時、鉄のハンスを手札に加える」

 

 だが赤紫髪の少年は落ち着いた様子で自身のモンスターの効果を使用する。

 

「更にネオバグを召喚」

 

 《ネオバグ》

 星4 地属性 昆虫族

 攻撃力1800 守備力1700

 

 望羽が追加で昆虫族モンスターを場に出した。

 

 《インセクト女王》

 星7 地属性 昆虫族

 攻撃力2400→2600 守備力2400

 

 これによってインセクトクイーンの攻撃力が更にアップする。

 そして《虫除けバリアー》は相手フィールド場の昆虫族モンスターが攻撃宣言を行えなくなる永続魔法。

 《DNA改造手術》とのコンボによって対戦相手は攻撃宣言できない状況だ。

 

 一方で望羽の攻撃も赤紫髪の少年が使用した《シュトロームベルクの金の城》によって封じられている。

 攻撃宣言時にその攻撃モンスターを破壊して、攻撃力の半分のダメージを与えるという強力なカウンター効果を持つフィールド魔法である。

 

「……私はこれでターンエンド」

 

 手札に場の魔法カードを除去できるカードがなかったのか、望羽がターン終了を宣言する。

 《シュトロームベルクの金の城》は維持コストとしてスタンバイフェイズごとに、デッキの上から10枚カードを除外しなければならないので、耐えていれば数ターンで自壊する。

 

 だが赤紫髪の少年は『奇跡の天才少年』の異名を持つデュエリストであり、ヨーロッパの大会で連続優勝した実績があったはずだ。

 プロデュエリストより遥かに上の実力者であり、ここで攻め込めなかったのは致命傷になりかねないと感じた。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 《シュトロームベルクの金の城》によって少年のデッキから10枚のカードが除外される。

 

「《シュトロームベルクの金の城》の効果発動。このカード名が記されたモンスターをデッキから1体特殊召喚する。僕はヘクサ・トルーデを攻撃表示で特殊召喚」

 

 《ヘクサ・トルーデ》

 星8 闇属性 魔法使い族

 攻撃力2600 守備力2100

 

 あの少年、流石に強力なカードを持っている。

 《シュトロームベルクの金の城》と同様に《ヘクサ・トルーデ》も一部でしか流通していないレアカードだ。

 

「ヘクサ・トルーデの効果発動。《シュトロームベルクの金の城》が存在する時、フィールド場のカードを一枚破壊する。僕は《DNA改造手術》を破壊」

 

 これで《ヘクサ・トルーデ》の昆虫化が解除され《虫除けバリアー》によって攻撃阻止ができなくなった。

 現在の《インセクト女王》の攻撃力は2600であり《ヘクサ・トルーデ》とは互角。

 

「ヘクサ・トルーデでネオバグを攻撃」

 

 《ヘクサ・トルーデ》によって《ネオバグ》が戦闘破壊された。

 

 三条望羽 LP400

 

 《インセクト女王》

 攻撃力2600→2400

 

 場の昆虫族モンスターが減ったことによって《インセクト女王》の攻撃力がダウンする。

 だがまだ望羽のライフポイントは残っている。

 次のターンに新たな昆虫族モンスターを展開できれば《ヘクサ・トルーデ》の攻撃力を上回ることも不可能ではないだろう。

 だが《ヘクサ・トルーデ》には更なる特殊能力がある。

 

「このカードが戦闘でモンスターを破壊した時、自分フィールド場のモンスターの攻撃力を400アップする」

 

 《ヘクサ・トルーデ》

 攻撃力2600→3000

 

「このターン、ヘクサ・トルーデは二回までモンスターに攻撃できる。インセクト女王に攻撃」

「あっ……!」

 

 《ヘクサ・トルーデ》の攻撃によって《インセクト女王》が木端微塵に砕け散った。

 

 三条望羽 LP0

 

『これで決着です!』

 

 実況者のアナウンスが会場に響く。

 

『今回の優勝者はレオンハルト・フォン・シュレイダー』

 

 勝者である赤紫髪を一本結びにした、そばかすの少年の名前が告げられた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 表彰式が終わり観客席に戻って来た望羽はしょんぼりとしていた。

 手には準優勝者に与えられる銀杯を持っているし、賞金の五万円が入った封筒を受け取っていたが、やはり優勝できなかったのは悔しいのだろう。

 遊羽もデュエルで負ける悔しさはわかるので、中途半端な慰めの言葉はかけない。

 

「……ごめんなさい。あなたが貴重な時間を使って見に来たのに負けてしまった」

「別にそれは気にしなくていい」

 

 元々、今日は仕事の予定がなかった日だ。

 奴隷杯で優勝したことで多少はデュエルの仕事の依頼が来るようになった。

 女王杯までに可能な限りデッキを強化するため、原則として仕事を優先している。

 

 とはいえ、毎日仕事が貰えるわけでもないので、そういう日は割と自由に過ごしていた。

 こうして望羽が出場する大会を見に来たり、ミカや幸、明美とB区のデスティニーランドで遊んだり、大瀧に頼まれてペンギンランドの一日店員をやったりもした。

 

 以前までなら空いた時間は青眼の銀ゾンビ販売をしていたが、足を洗うと決めた以上はもうやらない。

 仮にこの甘さが原因で決闘女王に負けるなら、自分はそこまでのデュエリストだったということ。

 

「師匠、ホテルに戻る前にカードショップに寄っていきたい」

 

 今回の賞金でパックを買ってデッキを強化しようということか。

 それはデュエリストとして正しい姿勢であり拒否する理由はない。

 

「いいけど、その前に昼食にしようか」

「なら、その代金は私の賞金から出す」

「いや、私が払うよ。準優勝だって立派な結果だ」

 

 相手が誰であろうと負ける理由にはならないが、それでもあの少年は強敵だった。

 レオンハルト・フォン・シュレイダー。

 奇跡の天才少年の異名を持つデュエリスト。

 そしてブラックドミノシティ四大企業の一角にあたる『シュレイダー社』の若社長の弟。

 

 裏のデュエル社会に身を置くにあたって、四大企業の基本的な情報は全て把握している。

 シュレイダー社は元々ヨーロッパの会社であり、四大企業としては一番新しいとされている。

 だが企業規模は同じ四大企業である龍堂院を抜いて第三位だったはずだ。

 

「望羽は四大企業についてどのぐらい知っている」

 

 元トップス市民なので、案外遊羽より詳しいかもしれないと思い聞いてみる。

 

「企業序列第三位、シュレイダー社。今日私がデュエルしたのはシュレイダー兄弟の弟」

「もしかして面識があった?」

「話したことはない。社交界の場で見かけたことはある」

 

 社交界。遊羽には想像もつかない世界だ。

 こうして話を聞くと望羽が元トップスの市民だったと実感する。

 

「奴隷杯で師匠とデュエルしてたのが、企業序列四位の龍堂院カンパニーの姉妹の姉」

「そっちも社交界で見かけた?」

「彼女はマナーを守らず無礼に振る舞うことで有名だった」

 

 成程、どうやらあのお嬢様は日頃からあの調子だったらしい。

 

「それから企業序列第二位チャイルドスマイルカンパニー。デュエルで子供の笑顔と人権を守る会の創始者が経営している会社」

 

 序列は二位だが闇の深さではダントツで一位。

 ブラックドミノシティに最も古くからある四大企業。

 それが『チャイルドスマイルカンパニー』だ。

 社長は善行(ぜんぎょう)笑愛(えいと)

 デュエルで子供の笑顔と人権を守る会の創始者であり元会長、現在は相談役の老人。

 表向きは人権派デュエリストであり、デュエル有識者としても有名な人物。

 

 だが裏ではこのブラックドミノシティにおいて最も子供を性的消費してきたデュエリストとして名高い男である。

 デュエルで子供の笑顔と人権を守る会の現会長である子守(こもり)良人(りょうと)は1000人以上の子供を強姦してブラックドミノ湾に沈めてきたが、善行(ぜんぎょう)笑愛(えいと)はその10倍、1万人以上の子供を凌辱してブラックドミノ湾送りにした老獪だ。

 しかもお気に入りの子供は『妻』と称してコレクションしているらしく、善行(ぜんぎょう)笑愛(えいと)の自宅の地下室には1000以上の子供の剥製が並んでいるそうだ。

 

 デュエルで子供の笑顔と人権を守る会の幹部には裏社会において二つ名がある。

 現会長の子守良人は『チャイルドレイプマン』。

 奴隷杯オークションに来ていた副会長の正岡誠実は『ライアーペニスマン』。

 その他十数名の幹部たちの頂点に立つ存在である善行(ぜんぎょう)笑愛(えいと)は『Dr.ペドフィリア』と呼ばれている。

 

「そして企業序列第一の」

「あの、すいません」

 

 声のした方を向いてみると小さな女の子がいた。

 

「サインお願いしてもいいですか」

 

 手に持っていた色紙とペンを望羽に差し出す。

 

「……私に?」

「はい。昆虫族を使ったデュエルかっこよかったです」

 

 観客席にいた人々の多くは、おとぎ話系のモンスターを使うレオンハルトを応援していたが、望羽のファンになった者もいたようだ。

 望羽が戸惑った様子でこちらに目を向けてくるので頷いてみせる。

 昆虫好きのファンは大事にした方がいい。

 

「わかった」

 

 望羽が色紙にサインしてから、それを手渡すと女の子が嬉しそうに受け取る。

 

「これからも応援してます。頑張ってください」

 

 ぺこりと頭を下げた後、色紙を大事そうに抱えながら女の子は去って行った。

 

「私たちもそろそろ行こうか」

「はい、師匠」

 

 一先ず昼食がとれるところを探す。

 何を食べようか考えながら席から立ち上がった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 二週間後。

 女王杯の予選まで一ヵ月切った。

 本日は仕事の依頼を受けて、デュエルアカデミア付近にある喫茶店を訪れた。

 今回のクライアントは奴隷杯で知り合ったデュエル成金ではなく、デュエルアカデミアに在学していた頃から面識がある人物だ。

 喫茶店のドアを開けて中に入ると、依頼主は奥の方の席にいた。

 

「お久しぶりです、遊羽さん」

「こちらこそご無沙汰だね、美鈴先生」

 

 ゆるふわロングの銀髪の女性、古牧(こまき)美玲(みれい)

 デュエルアカデミア在学中から世話になった恩師である。

 

「まさか先生から連絡があるとは思わなかった」

 

 デュエルアカデミアを卒業して、裏のデュエル社会に足を踏み入れると決めた時点で、遊羽はそれまでの人間関係を全て断ち切った。

 それは青眼の銀ゾンビ販売などの商売をする上でのケジメでもあった。

 だが数日前に遊羽が現在使用しているメールアドレスに美鈴から連絡が入った。

 奴隷杯でそれなりに名が売れてデュエルの仕事をするようになったので、その経由でアドレスを知ったのだろう。

 

 対面の席について、近くにいた店員にコーヒーを注文する。

 美鈴の恰好はアカデミアで見慣れていた上級教師の青い服装ではなく私服だった。

 白い上着に薄い黄色のシャツ、グレーのロングスカートを履いている。

 

「まずはあなたの無事な姿が見れて良かった。裏社会には危険が伴うデュエル大会があると聞いています。四肢を欠損したり、或いは命を失うような大会が」

 

 実際、そういったデュエル大会は存在する。

 奴隷杯のようなセキュリティ公認で拠点を構えて開催しているような大会ではなく、人が死んだり不具になったりするデュエル大会。

 その中には参加費が無料で賞金額が奴隷杯の十倍の大会もあった。

 採算は度外視でデュエルに負けた人が死ぬを見るのが趣味のブルジョアたちの出資によって成り立っている大会。

 

「私はその手の大会には出てないから大丈夫」

 

 裏に来てから一度『禁忌杯(パンドラカップ)』という大会のプロモーターから参加の誘いを受けたことがあった。

 禁忌杯は参加費無料、賞金は十億円。

 両足を足枷で固定した状態でデュエルを行い、ライフポイントが減るたびに回転鋸が接近してくる。

 互いの足元には鍵の入った箱があり、デュエルに勝利した側は鍵を取り出して足枷を外すことができる。

 そして敗北した側は回転鋸で両足を切断されるというルールの大会だ。

 

 結果として遊羽は禁忌杯出場を断った。

 足を失うことを恐れたわけではない。

 遊羽は常に勝つ前提でデュエルをするし、仮に負けたのなら不具者になることをデュエリストとして受け入れる。

 デュエルの結果を受け入れないのは、デュエル軽視に他ならないからだ。

 

 だが禁忌杯で遊羽が勝てば対戦相手は両足を失うことになる。

 鍵が両者同じであれば勝った後に相手の足枷を外せるかもしれないが、運営が対策して別々の鍵にしている可能性もある。

 そもそも敗者が足を切断する条件を両者合意の上でデュエルするにもかかわらず、負けた側を助けるというのはデュエル軽視になりかねない。

 対戦相手もデュエリストである以上、負けたなら不具者になることを受け入れるべきだ。

 

 それでも人の足を切断したくはなかったので禁忌杯に出場するのは見送った。

 

「それで今日は仕事の依頼で来たんでしょ」

「ええ、実は」

 

 そこで美鈴の言葉が止まった。

 彼女の視線は喫茶店内のテレビに向いている。

 先ほどまではニュースが流れていたはずだが、デュエルアイドル番組に切り替わっていた。

 画面に映っているのは『最優女王(パーフェクトクイーン)』と謳われる決闘女王。

 彼女はブラックドミノシティ№1のデュエルアイドルでもあり『完全偶像(アイドルマスター)』の異名も持っている。

 

 見れば喫茶店内の客の多くがテレビを見ており、皆が好意的な視線を向けていた。

 そんな中で美玲だけは、怒りを含んだ険しい表情でテレビの画面を見ている。

 その理由は知っているが、既に決着がついた事なので何か言うつもりはない。

 

「美鈴先生、私に何を頼みたいの」

 

 名前を呼ぶとはっとした表情を浮かべて美鈴がこちらを向いた。

 

「……そうですね。本来なら教師として私が何とかするべきなのですが、実は一人の生徒について相談があります」

 

 アカデミアを卒業した時に教師にならないかと誘われたことはあるが、現在の遊羽は裏デュエリスト。

 そんな立場の人間に学生のことで一体何を相談するというのか。

 

「彼女はあなたが卒業したのと入れ違いで入学してきた生徒でした」

「まさか弱いアカデミア生を指導してくれとでも」

 

 言ってみて、それはないと判断する。

 部外者の遊羽に指導を頼むのは意味不明だし、この古牧美玲という教師なら自ら指導するはずだ。

 

「逆です、彼女は同学年の誰よりもデュエルが強い。いえ、他学年も含めて、現在のアカデミア在学生で彼女に勝てる生徒はいないでしょう」

「そんなに強いんだ」

 

 強いデュエリストというのには少し興味がある。

 遊羽の卒業時の二年や一年にも腕の立つデュエリストはいた。

 その女学生は教師の目から見て、それらの後輩たちよりデュエルが強いという。

 

「あなたには二人の対等なライバルがいましたね」

 

 その一人は杠葉色音。

 そしてもう一人はトップス出身の女性である友人。

 最終的に色音が主席で卒業したとはいえ、それまで上位三名は随時変動していた。

 

「卒業試験があのような結末を迎えたとはいえ、それでも対等にデュエルできるライバルの存在は貴重なのだと思います」

 

 在学中は主席で卒業することが何より重要だった遊羽にとって、ライバルの存在は最大の障害でもあった。

 それでも確かに三人で競い合った時間は楽しかった。

 

「彼女にはそれがいなかった。だからこそアカデミア生の身でありながら、強い相手とのデュエルを求めて裏に足を踏み入れてしまった」

 

 成程、遊羽がここに呼ばれた理由がわかった。

 

「あなたが裏のデュエル社会に行ったのは悲しいですが、卒業後の人生を決めるのは教師ではない。けれども彼女はまだアカデミアの生徒です。見過ごすわけにはいきません」

「裏に精通している私にその女学生を探してほしいってこと? 決闘強姦魔とかに襲われる前に見つけ出して連れてくる」

「いえ、その段階は既に通り越しています。彼女は決闘強姦魔を正面から倒している。裏のデュエル場でも勝利を重ねているとのことです」

 

 一般的な女性は決闘強姦魔に強制デュエルを挑まれるとプレッシャーになるらしいが、その女学生は圧力を跳ね除けたということか。

 そしてプロデュエリストよりも上の実力者が集まる裏デュエル場で連勝している。

 まさに負けなしというわけだ。

 

「……危ないね、それ」

 

 ブラックドミノシティの裏は深い。

 アカデミアに入学する前、キースからデッキを強化してもらい、裏のデュエル場で勝利を重ねたことはある。

 だけど今だから分かる。

 あれはキースがあの時の遊羽の実力で勝てる場所を選んでくれていたのだ。

 

「彼女は裏のデュエル場では満足せず、裏のデュエル大会に参加しようとしています。禁忌杯(パンドラカップ)という大会を探しているそうです」

「何っ! 禁忌杯」

 

 よりにもよって裏の大会の中でもハイリスクな大会を選ぶとは。

 アカデミアで負けなしならアンティカードも大量に持っているはず。

 それを換金すれば比較的安全な裏の大会に出場できるだろうに。

 

「やはり危険な大会なのですか」

「ああ。負けたら両足が回転鋸で切断される」

 

 美鈴が息を呑んで顔面蒼白になった。

 

「裏の大会でも多少はリスクが低いのは幾らでもあるのに、何で禁忌杯(パンドラカップ)に」

「知らないのだと思います。大会の内容がそのように残虐であることを。彼女はただ強い相手とデュエルして、自らの実力を証明したがっている」

 

 それはデュエリストとしては正しい姿勢だが、猪突猛進が過ぎる。

 裏の大会に出場するなら最低でも大会の内容はリサーチするべきだ。

 

「それで今、その女学生はどうしてるの」

「アカデミアの授業にも出席しておらず、自宅にも戻っていないそうです」

 

 禁忌杯の開催場所を探して下層区をうろついているというわけか。

 

「あなたに依頼したいのは、彼女を見つけ出してデュエルで勝利すること。その上で説得して連れ戻してください」

 

 言いながら美鈴は一枚の写真を取り出した。

 そこには青い髪を黄色のリボンで束ねたポニーテールの少女が映っている。

 

「彼女の名前はセレナ。赤馬セレナ」

「赤馬って、まさか」

「はい。彼女はレオ・コーポレーション社長、赤馬零王の娘です」

 

 ブラックドミノシティ四大企業、序列一位『レオ・コーポレーション』。

 四大企業を一通り調べているのだから、当然社長の名前も知っている。

 その上で他者の口から聞かされて改めて違和感を覚えた。

 『レオ・コーポレーション』の社長は赤馬零王という禿のおっさんではなく、もっと若い眼鏡をかけた青年なのではないかと。

 

 そして写真の少女、赤馬セレナ。

 その苗字と名前の組み合わせが、遊羽には酷く歪に感じられた。

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