遊羽がセレナを連れて向かった先は人気のない廃墟だった。
F区に安全な場所はないが、比較的人が来ない場所ならある。
青眼の銀ゾンビ販売をしていた時の知識が思わぬ形で役に立った。
「それで
このセレナという少女、大した度胸だ。
遊羽が女性であるとはいえ、見知らぬ他人に廃墟に連れて来られたにもかかわらず、全く臆していない。
危機意識が足りないとも言えるが、それを補うだけのデュエルの実力があるが故の自信か。
「その前にあんたは禁忌杯がどんな大会か知ってるわけ」
「裏でも強いデュエリストたちが集まる大会だと聞いている」
その情報は間違っているわけではない。
だが決闘奴隷同士のデュエルではレベルの低い内容になってしまうのが、観客たちにとっては不満だったそうだ。
観客たちが望んだのは、強いデュエリスト同士がデュエルをして、その果てに負けた方が両足を失う姿。
だからこそ現在は参加費無料、賞金十億円という採算度外視の条件となっているのだろう。
その賞金目当てに裏でも実力のあるデュエリストが参加しているのは事実だった。
「
「回転鋸だと……だが、どんなルールだろうと私は負けない!」
本当に大した度胸だ。
そして、それはデュエリストとして正しい姿勢でもある。
「あんたが勝ったら、対戦相手は両足を失う。それでも大会の参加するの?」
その言葉を聞いてセレナは初めて表情を曇らせた。
「……いや、私は対戦者の足を奪いたいわけではない。負けた者の足を切断せずに勝ち進むことはできないのか」
好戦的ではあるが、そういった優しさは持ち合わせている少女のようだ。
「できない。優勝するためには、そこに至るまでのデュエリストたちの足を回転鋸で切り刻むしかないよ」
あえて、こう明言する。
実際、出資者たちは負けたデュエリストの両足切断が見たいのだから、鍵が両者別々になっているか、敗者の足が切断された後に勝者側の鍵の入った箱が開くようにしている可能性が高い。
「わかった、
思ったよりも物分かりが良くて助かった。
「その代わり
「は……?」
「それも裏の大会で、お前はその大会の優勝者なのだろう。インセクト遊羽と呼ばれていたな」
あのごろつき共が話した内容をちゃんと聞いていたらしい。
余計な事を喋ってくれたものだ。
F区のデュエリストの中では理性的な連中であったが、それが良い結果に繋がるとは限らないということか。
「……やめた方がいいと思う」
「何故だ。その奴隷杯も敗者の足が切断されるのか?」
「いや、足はなくならないけど」
「だけど奴隷杯ではレイプされる」
「そのレイプというのは何だ? 一体、どんなデュエルタクティクスだ」
「え……?」
一瞬、呆然として、すぐに理解する。
成程、決闘強姦魔相手に臆せずデュエルできるわけだ。
この娘はレイプという言葉の意味を知らないらしい。
「えっと、レイプっていうのは」
内容を語ろうとして、どこまで話していいのか迷った。
あまり生々しいことを言うのは、一般的な基準では教育に良くないのかもしれない。
恩師から仕事を引き受けた手前、できる限りマイルドな表現を用いた方が良さそうだ。
「デュエルに負けた時、男の人から服を脱がされて乱暴されることだよ」
「何だ、それは? それならデュエルに勝てばいいだけの話ではないか」
困った。
何が困ったかというと、遊羽自身もそれに近い思考でデュエルをしているからだ。
デュエリストである以上、どのような条件であろうと常に勝つ前提でデュエルを行う。
仮に負けた時は、犯されようが足を切断されようが、デュエルの結果を受け入れる。
「だったら私とデュエルしてよ」
セレナを止めるには言葉ではなくデュエルをするしかない。
元々、依頼の内容はデュエルに勝利した上で連れ戻すことだ。
こうなることが教師である美玲には分かっていたのかもしれない。
「あんたが勝ったら、奴隷杯の開催場所を教える。運営に紹介してもいい。だけど私が勝ったらアカデミアを卒業するまでは下層区に出入りするのはやめること」
「何故、見ず知らずのお前が私の邪魔をしようとする」
「美玲先生に頼まれた。あんたを少なくとも在学中は裏から遠ざけほしいって」
「そういうことか。だが教師の言うことなど聞く筋合いはない」
こういう好戦的な性格には割と好ましさを覚える。
「私に勝てないようじゃ、奴隷杯で優勝なんてできないよ」
「いいだろう。裏の大会の優勝者の実力を見せてみろ!」
両者のデュエルディスクが展開され、カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。
オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされた。
デュエルディスクによって先攻、後攻が決定される。
害虫 ――
VS
赤馬セレナ / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのは遊羽だった。
「私の先攻。まずは
インセクト遊羽 4500
「更にモンスターをセット」
裏側守備表示でモンスターを場に出す。
「カードを一枚伏せてターンエンド」
「私のターン、ドロー」
セレナが引いたカードを一旦手札に加えた。
「手札からマジックカード《融合》を発動! 私が融合するのは《
融合素材となったのは、どちらも『
「月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん! 融合召喚! 現れ出でよ、月明かりに舞い踊る美しき野獣! 《
《
星7 闇属性 獣戦士族
攻撃力2400 守備力2000
「更に融合素材となった月光黄鼬の効果によって《
《
星4 闇属性 獣戦士族
攻撃力1400 守備力800
「効果でエクストラデッキから
これでこのターン、セレナが《
「《
使用したのは先程サーチした『月光』専用の融合魔法。
「月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん! 融合召喚! 現れ出でよ、月光の原野に舞い踊るしなやかなる野獣!
《
星8 闇属性 獣戦士族
攻撃力2800 守備力2500
瞬く間に耐性持ちの最上級融合モンスター二体が並んだ。
流石に現在のアカデミアにおいて全学年でトップの成績を誇るだけはある。
「墓地に送られた
これによってセレナの手札は三枚まで持ち直した。
融合召喚は手札消費の激しい召喚法だが、それを戦略的に補うプレイングだ。
「バトルだ!
インセクト遊羽 4400
そしてバトルが行われセットしていたモンスターが表向きになる。
《応戦するG》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1400 守備力1400
《応戦するG》が《月光舞猫姫》によって戦闘破壊された。
「応戦するGの効果発動。デッキから攻撃力1500以下の昆虫族、地属性モンスターを手札に加える。私が選ぶのは《ジャイアント・メサイア》」
「続けて
今、手札に加えた《ジャイアント・メサイア》を特殊召喚することもできるが、ここは場に伏せておいた罠カードを使用する。
「トラップカード発動《ガード・ブロック》。この戦闘で発生するダメージを0にしてカードを一枚ドローする」
これによって現在の遊羽の手札は五枚になった。
「上手く躱したか。だが防戦一方とは拍子抜けだな。裏大会のチャンピオンと言ってもこの程度か」
セレナの声には失望が含まれていた。
「このままなら次のターンで私の勝ちだ。カードをセットしてターンエンド」
デュエル中も相変わらず大した自信だが、こちらの反撃準備は整っている。
「私のターン、ドロー。
インセクト遊羽 4900
「《
インセクト遊羽 3900
「クワガー・ヘラクレスを特殊召喚」
《クワガー・ヘラクレス》
星6 地属性 昆虫族
攻撃力1900 守備力1700
「魔法カード《孵化》発動。クワガー・ヘラクレスをリリースすることで、レベルが一つ上の昆虫族を特殊召喚する。究極変異態・インセクト女王を特殊召喚!」
《究極変異態・インセクト女王》
星7 地属性 昆虫族
攻撃力2800 守備力2400
「少しは歯ごたえがありそうなモンスターが出てきたようだな……だが昆虫の女王か」
《究極変異態・インセクト女王》を見たセレナが僅かに顔を顰める。
「何? 昆虫族は嫌いなの」
勝気な娘であるが、その辺りは普通の女の子ということだろうか。
「いや、そういうわけではないが、そのモンスターを見ていると何故か無性に腹が立つ」
昆虫族が気持ち悪がられたり嫌われたりするのは珍しくないが、見ただけで腹を立てられるのはあまりないことだ。
「デュエルを続けるよ。前のターンで手札に加えたジャイアント・メサイアを召喚」
《ジャイアント・メサイア》
星3 地属性 昆虫族
攻撃力1200 守備力1500
「ジャイアント・メサイアの効果発動。墓地から応戦するGを攻撃力と守備力を500アップする装備カードとして装備する」
《ジャイアント・メサイア》
攻撃力1200→1700 守備力1500→2000
「装備カードを装備した守備力2000の昆虫族モンスターをリリースすることによって、完全態・グレート・インセクトを特殊召喚」
《完全態・グレート・インセクト》
星9 地属性 昆虫族
攻撃力3000 守備力2600
「墓地に送られた応戦するGの効果発動。デッキから寄生虫パラノイドを手札に加える」
「寄生虫、だと」
「バトル、グレート・インセクトで
《完全態・グレート・インセクト》の竜巻攻撃によって《月光舞豹姫》が戦闘破壊される。
セレナ LP3800
「トラップカード《
セレナが手札に加えたのは《
「究極変異態・インセクト女王で
「月光舞猫姫は戦闘では破壊されない」
「だけどダメージは受けてもらう」
セレナ LP3400
「カードを二枚セットしてターン終了。エンドフェイズ時、究極変異態・インセクト女王の効果によって、インセクトモンスタートークン一体を守備表示で特殊召喚する」
《インセクトモンスタートークン》
星1 地属性 昆虫族
攻撃力100 守備力100
「私のターン、ドロー。
《
星4 闇属性 獣戦士族
攻撃力1400 守備力800
「ここでトラップカード《蝕みの鱗粉》発動。完全態・グレート・インセクトに装備カード扱いで装備する。このカードが装備されている限り、相手はこの装備モンスター以外の昆虫族を攻撃できない」
昆虫族限定の攻撃誘導能力に加えて、《蝕みの鱗粉》には二つ目の効果がある。
「更に《蝕みの鱗粉》がある限り、あんたが召喚、特殊召喚をするか、魔法、罠、モンスター効果を発動するたびに、あんたの場のモンスター全てに鱗粉カウンターを一つずつ置く。そして鱗粉カウンターの数だけ攻撃力、守備力が100ダウンする」
「だから何だ。私は
セレナが躊躇なくモンスター効果を使用した。
「この瞬間、《蝕みの鱗粉》によって鱗粉カウンターが乗る」
《
攻撃力1400→1300 守備力800→700
《
攻撃力2400→2300 守備力2000→1900
「魔法カード《融合》を発動! 場の月光彩雛と手札の
魔法カードの使用によって再度、鱗粉カウンターが乗る。
《
攻撃力1300→1200 守備力700→600
《
攻撃力2300→2200 守備力1900→1800
「月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん! 融合召喚! 現れ出でよ、月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王!
《
星10 闇属性 獣戦士族
攻撃力3500 守備力3000
三体の『月光』モンスターの融合によって姿を現したのはレベル10の最上級融合モンスター。
単に攻撃力が高いだけではなく、一度のバトルフェイズ中に二度攻撃できる連続攻撃能力。
そして相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されないという強固な耐性を持つ『月光』最大のモンスターだ。
現在、手札にある《寄生虫パラノイド》もこの月光姫には通用しない。
「更に
おそらくデュエルディスクのエラーが出ているのだろう。
発動させようとしたのは融合素材にした《
「究極変異態・インセクト女王の効果によって、他の昆虫族モンスターがいる時、私のフィールド場の昆虫族モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない」
「くっ! その昆虫の女王の効果か」
「そして新たにモンスターが特殊召喚されたことによって鱗粉カウンターは蓄積する」
《
攻撃力3500→3400 守備力3000→2900
《
攻撃力2200→2100 守備力1800→1700
対象を取らず破壊効果でもない《蝕みの鱗粉》の鱗粉カウンターによる弱体化なら《
「小賢しい、そんなにそのカウンターを乗せたいなら、望み通りもっと乗せてやる。紫の毒持つ蝶、
《
攻撃力3400→3300 守備力2900→2800
《
攻撃力2100→2000 守備力1700→1600
「青き闇を徘徊する猫、
《
星4 闇属性 獣戦士族
攻撃力1600→1500 守備力1200→1100
《
攻撃力3300→3200 守備力2800→2700
《
攻撃力2000→1900 守備力1600→1500
「
《
攻撃力3200→6600 守備力2700→2600
《
「言ったはずだ。このターンで私の勝ちだと」
セレナの勝利宣言と共に最強の月光姫の刃が巨大な蛾に向けられた。