女王杯予選まであと一週間。
本日、遊羽はB区の企業の依頼を受けてデュエルを行っていた。
企業間のデュエルにおける代打ちのような仕事であり報酬額は高い。
また成果を出すことができれば、継続して仕事を貰える可能性もある。
今回、行っているのはタッグデュエルであり、パートナーを務めているのは依頼主の社長本人だった。
「私のターン、ドロー」
引いたカードを遊羽は手札に加える。
現在、こちらの場にはパートナーの社長が召喚した《ギガプラント》がいる。
《ギガプラント》
星6 地属性 植物族
攻撃力2400 守備力1200
一方で相手の場には《半魚獣・フィッシャービースト》と伏せカードが二枚存在した。
《半魚獣・フィッシャービースト》
星6 水属性 魚族
攻撃力2400 守備力2000
「魔法カード《ツインツイスター》発動」
まずは邪魔なセットカードを破壊。
相手のライフポイントは2100。
このターンで勝負を決めるつもりだ。
「ギガプラントを再度召喚して効果発動。墓地からアルティメット・インセクトLV7を特殊召喚」
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
《ギガプラント》は植物族だけではなく昆虫族も蘇生できる。
パートナーのモンスターではあるが、その効果は把握済みだ。
「アルティメット・インセクトLV7で半魚獣・フィッシャービーストを攻撃」
《アルティメット・インセクトLV7》の攻撃によって《半魚獣・フィッシャービースト》が戦闘破壊される。
「ギガプラントでダイレクトアタック」
相手の企業側のデュエリストのライフが0になったことでデュエルの決着がついた。
「よくやってくれました、
パートナーの社長がこちらに声をかけてくる。
スーツを着て眼鏡をかけた男性だ。
「こちらこそ、仕事を貰えて感謝してるよ、植木社長」
彼は植木森林、プラントコーポレーションの社長であり、ファックプラント植木の異名を持つデュエリストである。
「私は奴隷杯決勝戦の君のデュエルを高く評価している。それに今回はタッグデュエルでしたからね。昆虫族を使う君ならパートナーとして適任だった」
大企業の経営者とデュエリスト、両方の視点からの判断というわけか。
実際、彼のエースモンスターである《ギガプラント》には昆虫族を蘇生する効果があり、それが勝負の決め手となった。
「だけど奴隷杯オークションの売却拒否。あれは、あんたみたいな社会人の信頼を損なう行為だと思ったけど」
「確かに君は社会人としては問題がある。だが奴隷杯会場でも話しましたが私は愛妻家だ。アカデミア初等部に通う娘もいます」
そう言って植木がスーツのポケットから写真を取り出して見せた。
その写真には綺麗な成人女性と少女が写っており、それが奥さんと娘さんのようだ。
「奴隷杯の少女、三条望羽といったかな。彼女を助けようとした君の行為を、私は同じ年頃の娘を持つ父親として賞賛します。今後も君に仕事を依頼することがあるでしょう」
その後、報酬の1000万円が口座に振り込まれたのを確認してからB区の企業デュエル場を後にした。
◇
ブラックドミノホテル『6-4号室』に到着したのは17時頃だった。
カードキーを使って中に入ると室内は無人。
本日、望羽はC区で開催されるデュエル大会『
一般杯は参加費三万円、賞金二十万円の表の大会であり、その名の通り一般的なレベルの大会だ。
それでもプロデュエリスト業界よりは参加者の質が高いため、Bランクプロが小遣い欲しさに参加して一回戦負けする事例が多々あるという。
先ほどデュエルラインに望羽から優勝したとメッセージが入っていた。
帰る途中でカードショップに寄るらしいので、ホテルに到着するのは18時ぐらいになるとのことだ。
とりあえずコートを脱ごうとしたところで、中古スマホのアラームが鳴った。
即座にスマホを取り出して画面を見る。
それは望羽のデュエルディスクにインストールしておいた、見守り機能アプリによる警告音だった。
このアプリは主に親が子供の安全のために使用するものであり、見守り機能をインストールしたデュエルディスクが強制デュエルを開始すると保護者にそれが伝わる仕組みになっている。
大会に出場するため単独行動するようになった望羽のデュエルディスクに追加しておいた機能だ。
この状況、現在C区の何処かで望羽が強制デュエルを挑まれたことを意味している。
相手は決闘強姦魔か、最悪の場合、決闘殺人鬼の可能性もあった。
まずはセキュリティに通報する。
真っ先に思い浮かんだのは牛尾だが、彼はF区の管轄であり、C区までの移動には時間がかかる。
最近知り合ったもう一人の方ならB区の管轄なので距離は近いが、場合によっては犯人が射殺されるかもしれない。
ともかく、まずは牛尾に連絡をする。
『お前から電話とは珍しいな、クズ野郎。いや足を洗ったんだから、その呼び方はやめた方がいいか?』
「呼び方とかどうでもいいから、今どこにいるか教えて」
『あ? 今日はセキュリティ本部にいるが、何かあったのか』
それは好都合だった。
セキュリティ本部はB区にある。
「望羽が危ない」
「あの嬢ちゃんが? 場所は何処だ」
流石にベテランのセキュリティだけあって即座に状況を理解してくれたようだ。
「C区、多分、
「わかった、すぐ現場に向かう」
「金は100万支払えばいい?」
普通に通報したところでブラックドミノシティのセキュリティが真面目に仕事をしてくれる保障はない。
そのためセキュリティを確実に動かすためには、事前にコネを作った上で金を渡すのがこの街の常識だ。
「前にも言ったが、俺はもう賄賂は受け取らねえと決めたんだ」
「デュエル犯罪のもみ消しだけじゃなくて、こういう金も受け取らないんだ」
「安心しな。金なんざ貰わなくても、仕事はしっかりするからよ」
その言葉を最後に通話が切れた。
本当にあの金が好きだった男が凄い変わりようである。
これでセキュリティへの通報は済んだわけだが、このままホテルで待機しておくつもりなどない。
地図アプリを開きながら一般杯の会場付近のカードショップを検索する。
どうやらその付近には五件ほどのカード屋があるようだ。
スマホを片手に遊羽はブラックドミノホテルの部屋を飛び出した。
◇
15分前。
ブラックドミノシティC区にあるカードショップの店内にて、三条望羽はショーケース内のカードを見ていた。
その手には
一般杯の賞金は20万円であり、それを使って新たなカードを入手するつもりだった。
《万能地雷グレイモヤ》 800万円
《炸裂装甲》 750万円
《奈落の落とし穴》 1500万円
《聖なるバリア -ミラーフォース-》 2000万円
《ハーピィの羽根帚》 6000万円
《サンダー・ボルト》 3000万円
やはりショーケース内のカードは安くても数百万円はする。
現在の手持ちではパックを購入して有用なカードを当てるしかない。
強力な昆虫族や汎用性の高い魔法、罠を手に入れることができれば、来週女王杯に参加する彼女の力になることができるはずだ。
レジ前のショーケースにある複数のパックの中から、昆虫族が多く封入されたパックを選んで店員に伝える。
賞金の20万円で可能な限りそのパックを購入してから店を後にした。
C区の犯罪発生率は40%であり、下層区程ではないとはいえ治安が良いわけではない。
周囲を警戒しながら望羽はB区にあるブラックホテルまでの道を歩く。
出来る限り人通りがある所を選んで移動しているが、どうしても人気のない道を通らなければならない時もある。
カードショップを出て10分ほど歩いた人通りのない道で、突如として金髪ロングヘアーの女が立ち塞がった。
「ごきげんよう、三条望羽」
白い毛皮のコートとブランド服を着た女性だ。
身に着けている衣服は一級品だが、それらは泥で汚れておりボロボロだった。
「あなたは……」
そして望羽は目の前の女のことを知っている。
「龍堂院麗華」
トップス四大企業、龍堂院カンパニーの令嬢であり時期後継者だった女。
「あら、わたくしをご存じで。まあ、あなたも元はトップスの市民なのだから当然ですわね」
実際、社交界の場でも見たことがあるし、奴隷杯の試合もモニターを通して観戦していたので知っている。
「私に何の用」
言いながらも望羽は後退った。
不穏な空気を感じ取り、すぐに踵を返して逃げようと試みる。
「逃がしませんわよ」
身に着けていたデュエルディスクが自動的に起動した。
強制デュエルを仕掛けられたのだと理解する。
「何のつもり?」
「これは復讐ですわ。あなたをデュエルで拉致して、
何故、この元令嬢が女王杯参加のことを知っているのかは分からない。
だが、自分がここでデュエルに負ければ彼女に迷惑がかかってしまう。
それだけは絶対にダメだ。
「あら、まさかわたくしに勝てると思っているのかしら」
デュエルディスクを構えた望羽を見て、龍堂院麗華が嘲笑する。
「教えてあげますわ。同じ元トップスの人間であっても、わたくしとあなたでは格が違うということを!」
カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。
オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされる。
デュエルディスクによって先攻、後攻が決定された。
三条望羽 / LP4000
VS
龍堂院麗華 / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのは望羽だった。
「私のターン。モンスターをセット」
場に裏側守備表示でモンスターを出す。
「更にリバースカードを一枚セットしてターンエンド」
「ほほ、臆病者の表示形式である裏側守備表示でモンスターを出すなど、元トップス市民として恥ずかしくなくて」
ブルジョア流やセレブ流が先行1ターン目から高額モンスターを攻撃表示で出す戦術をとるのは知っている。
トップス時代にも指摘されたことはあるが、周りに合わせようと思ったことは一度もない。
「まるで
それは望羽にとって誉め言葉だった。
僅かに微笑むと、気持ち悪いものを見るような目を龍堂院麗華から向けられる。
「もういいですわ。このデュエル、速攻で片を付けてさしあげます。わたくしのターン、ドロー」
引いたカードを龍堂院麗華が即座に発動する。
「《ハーピィの羽箒》を発動しますわ!」
「トラップカード《レインボー・ライフ》」
《レインボー・ライフ》は手札を一枚捨てることで発動できる罠カード。
「私はこのターン戦闘、効果によってダメージを受ける代わりに、その数値分ライフを回復する」
この令嬢がセレブ流のデュエリストであることは知っている。
それらの流派の戦術は幼少期より嫌というほど見てきた。
「味な真似を。ならば《融合》を発動。手札にある三枚のブルーアイズを融合」
セレブ流のデュエリストの中でも龍堂院麗華は強運であることで有名だった。
後攻1ターン目で手札に三枚の《青眼の白龍》と《融合》を揃える辺り、その強運は親に勘当されてトップスから追放されてなお衰えていない。
「真青眼の究極竜を融合召喚ですわ!」
《真青眼の究極竜》
星12 光属性 ドラゴン族
攻撃力4500 守備力3800
「更に魔法カード《死者蘇生》。墓地から青眼の白龍を攻撃表示で特殊召喚しましてよ!」
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
「おほほほほほほほっ! これが格の違いですわ!!」
高笑いが響き渡る。
龍堂院麗華の場に攻撃力4500の《真青眼の究極竜》と攻撃力3000の《青眼の白龍》が並んだ。