癲狂院遊羽 / LP4000
VS
杠葉色音 / LP4000
先攻をとったのは色音だった。
「私は恍惚の人魚を攻撃表示」
《恍惚の人魚》
星3 水属性 魚族
攻撃力1200 守備力900
色音が召喚したのは攻撃力1200。
このデュエル孤児院で行われるデュエルにおいては比較的高水準の攻撃力のモンスター。
そしてこのカードは性的な要素が含まれるため子供の教育に良くないとして、デュエル孤児院が配布するパックを事前に開封する建前として例に挙げていたカードでもある。
建前ぐらい最低限守れと思わなくもないが、遊羽にとって重要なのはそこではなかった。
「魚族?」
記憶が正しければ杠葉色音という少女が集めていた種族は別の種族だったはず。
1000枚以上カードを集めておきながら種族統一ができないとも考えづらい。
「さすがは色音様のモンスター!」
「相変わらず美しい!」
一方で色音の召喚した《恍惚の人魚》にファンの男子たちが興奮して歓声をあげる。
「私はこれでターンエンド。遊羽、あなたのターンよ」
「私のターン。ドロー」
後攻なので遊羽はデッキからカードを1枚ドローする。
手札に揃ったカードを見て、山岸の時と同じ戦術が用いれると判断する。
「私はカマキラーを召喚、攻撃表示!」
《カマキラー》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1150 守備力1400
「更にフィールド魔法《森》を発動してバトルフェイズ! カマキラーで恍惚の人魚を攻撃」
攻撃宣言によって巨大な蟷螂のモンスター《カマキラー》が《恍惚の人魚》に向かっていく。
「姉さんのモンスターの方が攻撃力なら上。このバトルを制するのは姉さんね」
デュエルを後方で見守っている色音の妹、沙良が力強く言う。
一見すれば攻撃力で劣る《カマキラー》は《恍惚の人魚》に返り討ちにされると思われるこのバトル。
だが《カマキラー》の鎌が振るわれ、《恍惚の人魚》の首が宙を舞った。
杠葉色音 LP3850
「なっ! 姉さんのモンスターが戦闘破壊された! どうして!?」
妹、沙良はこの状況が理解できていないようだ。
「フィールド魔法《森》の効果。昆虫族、獣族、植物族、獣戦士族のモンスターの攻撃力と守備力は200ポイントアップする。そうでしょう、遊羽」
だが色音はこの現象を正確に把握しているらしい。
落ち着いた様子で遊羽の使用したフィールド魔法《森》の効果を説明する。
《カマキラー》
攻撃力1150→1350
山岸の時と異なり、デュエルディスクの設定はお互いにセイフティモードであるため、リアルソリットビジョンの衝撃は緩和されている。
「私はこれでターンエンド」
「なら私のターンね」
色音はデッキからカードを1枚ドローする。
「それなら、このカードを召喚しましょう」
《魔界のイバラ》
星3 地属性 植物族
攻撃力1200 守備力900
「魔界のイバラでカマキラーに攻撃」
色音に攻撃宣言によってバトルが行われる。
「さっきの攻防を理解できてないの? 攻撃力1200だろうと癲狂院さんのカマキラーは《森》で攻撃力が上がってる」
「このバトルも癲狂院さんの勝ちね」
デュエルを観戦していたFクラスの女子二人が言う。
だがそんな女子たちの予想に反して、《魔界のイバラ》のつるが《カマキラー》に巻き付き、そのまま絞め殺す。
癲狂院遊羽 LP3950
このバトルの結果に対して驚きはなかった。
今、何が起こったのかを正しく理解しているからだ。
「フィールド魔法はお互いのモンスターに影響を及ぼすカード。そしてさっき私が言った通り、《森》は植物族モンスターの攻撃力もアップするわ」
《魔界のイバラ》
攻撃力1200→1400
色音の召喚した《魔界のイバラ》は植物族のカード。
つまり遊羽の発動した《森》の恩恵を受けることができるのだ。
やはり杠葉色音という少女のデッキは植物族がメインで構成されているらしい。
「これであなたの優位性は消滅したわ。ターンエンド。次はどうするの、遊羽」
面白いと遊羽は薄く笑った。
目の前の相手は間違いなく山岸より数段上のデュエリスト。
強い相手とのデュエルはデュエリストとして高揚感を覚える。
「私のターン、ドロー!」
引いたカードを見て、それをそのまま召喚する。
「吸血ノミを攻撃表示!」
《吸血ノミ》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1500 守備職1200
「更に《森》のフィールドパワーで攻撃力200アップ」
《吸血ノミ》
攻撃力1500→1700
「そう、攻撃力1500のモンスター、既に持っていたのね」
感心したような態度の色音。
「バトルフェイズ、吸血ノミで魔界のイバラに攻撃!」
素の攻撃力ですら《森》で強化された《魔界のイバラ》を上回っている《吸血ノミ》。
フィールドパワーも加算された巨大なノミの攻撃によって《魔界のイバラ》は一撃で破壊される。
杠葉色音 LP3550
「あの色音様が押されている」
「さすがは色音様のご友人といったところか」
「だが色音様のお力はこんなものではない」
劣勢にもかかわらず色音の勝利を信じて疑わないファンの男子たち。
その横で姉を見守る妹、沙良。
「私はターンエンド」
「ドロー、氷水を攻撃表示」
《氷水》
星3 水属性 水族
攻撃力1150 守備力900
今度は水族のモンスターを召喚する色音。
植物族ではないため森の恩恵は受けられず攻撃力はそのままだ。
最初の《恍惚の人魚》と共通しているのは同じマーメイド型のモンスターであり、性的な要素が強いカードであるということ。
《氷水》の召喚に色音のファンの男子たちは歓声をあげている。
そしてそれは色音のファンたちだけではない。
Fクラスの男子たちも興奮した様子で《氷水》を見ている。
「これでターンエンドよ」
「なら私のターン。ドロー」
遊羽は引いたカードを手札に加えたのち、更にモンスターを召喚する。
「ツンドラの大蠍を攻撃表示」
《ツンドラの大蠍》
地属性 昆虫族
星3 攻撃力1100 守備力1000
「フィールド魔法《森》の効果で攻撃力200上昇」
《ツンドラの大蠍》
攻撃力1100→1300
「バトルだ、ツンドラの大蠍で氷水に攻撃」
本来攻撃力で劣る《ツンドラの大蠍》であるが《森》の効果によって現在の攻撃力は1300。攻撃力1150の《氷水》を上回る。
青い蠍の毒針によってマーメイドの女性は破壊された。
杠葉色音 LP3400
このデュエルにおいて現在優位に立っているのは遊羽であり、通常であればこういう場合は遊羽に声援が増えるはずだった。
そもそも色音の妹、沙良やファンであるEクラス男子たちを除いて、この場に居るFクラスの子供は遊羽寄りのはずだ。
「あんな美しいモンスターを破壊するなんて」
「杠葉さんのモンスターが可哀そうだ」
だが、あからさまに色音寄りの発言がFクラスの男子たちから出はじめる。
ここにきてようやく色音が植物族デッキにおいて、植物族以外の性的要素の強いモンスターを使用している意図を理解する。
先ほどの氷水も裏側守備表示で出せば戦闘ダメージを受けることはなかったにもかかわらず、色音はあえてモンスターが立体映像で表示される攻撃表示で召喚した。
裏側守備でセットしたのでは破壊される瞬間しかモンスターが見えないからだ。
「あら、遊羽。遠慮せずにバトルフェイズを続けていいわよ」
優越感をたっぷり含んだ色音の笑み。
既にFクラスの男子たちは色音のファンになりつつあった。
これが杠葉色音という少女のデュエルタクティクスなのだろう。
性的なモンスターを用いて周囲の男子を味方につける。
そしてその男子たちによって対戦相手にプレッシャーをかける。
「カマキラーでプレイヤーにダイレクトアタック!」
杠葉色音 LP2050
《カマキラー》の直接攻撃を受けた色音は鎌が当たった胸を押さえて痛みをこらえるような仕草をする。
デュエルディスクの設定がお互いにセイフティモードである以上、大きな衝撃などあるはずもない。
一見すればオーバーなパフォーマンス。
だがFクラスの男子たちは色音に心配するような視線を向ける一方で、遊羽を非難するような目で見る。
「し、師匠」
その異様な状況を肌で感じたのか不安そうな眼差しを真帆が向ける。
「私はこれでターン終了」
「だったら私のターンね。ドロー」
引いたカードを見た色音が笑みを深めて、そのカードを召喚する。
「水の踊り子を攻撃表示」
《水の踊り子》
星4 水属性 水族
攻撃力1400 守備力1200
これまで色音が出した中でも最も性的で肌の露出度が高いモンスター。
Eクラスの色音のファンたちはもちろん、Fクラスの男子たちも激しく興奮して歓喜している。
もはやFクラスの男子たちは杠葉色音のファンと化していると考えていいだろう。
しかも、このモンスター露出度だけでなく、素の攻撃力も高い。
「バトルフェイズ、水の踊り子でツンドラの大蠍に攻撃」
《森》のフィールドパワーによって攻撃力1300に強化された《ツンドラの大蠍》が戦闘破壊される。
癲狂院遊羽 LP3850
「私のターンはこれで終了」
色音のエンド宣言を受けて遊羽はカードをドローする。
いくら素の攻撃力が1400あるとはいえ、フィールド魔法で強化された攻撃力1700の《吸血ノミ》なら容易に戦闘破壊することが可能。
「やめろ! 馬鹿野郎!」
声をあげたのはFクラスの男子の一人だった。
それを皮切りにして大勢のFクラスの男子たちが遊羽に罵声を浴びせる。
「こんな美しい女性を攻撃するような真似はよせ!」
「あの綺麗なモンスターを破壊したら許さないぞ!」
「それでもデュエリストか!」
色音のファンと化したFクラスの男子が大声を張り上げて行う攻撃の静止。
だが遊羽からすればそれは意味不明なツイッターだった。
「私はキラー・ビーを召喚、攻撃表示」
《キラー・ビー》
星4 風属性 昆虫族
攻撃力1200→1400 守備力1000→1200
「そのままバトルフェイズ」
特に気にすることなく攻撃宣言を行おうとする。
「やめろって言ってんだろ! 馬鹿女!!」
「いい加減にしろ、自分が何してるかわかってんのか!」
更に激しくなる男子たちの怒声。
それを聞いて遊羽は薄く笑った。
「悪いけど、私にこのデュエルタクティクスは通用しない」
「どういうことかしら?」
「単純に疑問なんだけど、デュエル中に外野から応援されたり、罵倒されたりした影響で次にドローするカードが変わったりする?」
当然のことではあるが、外野の声でカードが変化することなどない。
つまり外野の声などデュエルには何の関係もないということであり、ならばデュエリストとしての答えは一つだ。
「私からすれば外野の応援も罵倒も、どちらも等しく無意味で無価値」
それは
「今、外野でツイッター垂れ流してる奴も、文句があるならこのデュエルが終わった後に私とデュエルすればいい」
この発言に色音のファンになっていたFクラスの男子が委縮した様子で黙る。
おそらく山岸が倒された時の光景を思い出したのだろう。
「……私のファンとなった人の支配権を多少なりとも奪い返したというの」
「だからその支配ってやつに私は興味がない」
これ以上、デュエル中にデュエルに関係のない話をする気はなく、バトルフェイズを続行する。
「吸血ノミで水の踊り子を攻撃!」
容赦なく攻撃宣言する。
《吸血ノミ》によって《水の踊り子》が戦闘破壊された。
杠葉色音 LP1750
「キラー・ビーでプレイヤーにダイレクトアタック」
森によって攻撃力が1400に上昇した《キラー・ビー》の直接攻撃だ。
杠葉色音 LP350
「ターンエンド」
「私のターンね。遊羽、あなたは一つ勘違いしているわ」
カードをドローして手札に加えながら色音が言う。
「ファンによって相手を委縮させるのは副次的な効果であって、私が攻撃表示でモンスターを出し続けた理由は別よ」
続けて色音は元から手札にあったカード一枚を優雅な仕草でつまむ。
「一つ目はデュエルを見ている人たちを視覚的に楽しませるため。ソリッドビジョンの性質上、攻撃表示で出さないとモンスターの立体映像が表示されないでしょう」
確かに裏側守備で出した場合はモンスターの立体映像ではなくカードの裏面が表示される。
「そして二つ目はこの状況を作り出すため。私はわざと自分のライフポイントをギリギリまで減らしたの。こうやってピンチを演出してから逆転することによって、エンタメ性の高いデュエルをすることができる」
それは遊羽が考えたこともないことであった。
最近はプロデュエリスト業界でも一部の派閥がエンタメデュエルを支持しているのは知っている。
だが遊羽にとってデュエルは真剣勝負であり、そこにエンタメの入り込む余地などなかった。
「私はモンスターをセット。更にリバースカードを1枚セットしてターンエンドよ」
先ほどまでは異なり裏側守備表示でモンスターをセットした上で、魔法、罠ゾーンに一枚のカードを伏せた上でのエンド宣言。
「私のターン、ドロー」
引いたカードを一度手札に加える。
「ゴキボール、攻撃表示!」
《ゴキボール》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1200→1400 守備力1400→1600
遊羽の場に並ぶのは《吸血ノミ》《キラー・ビー》《ゴキボール》。
いずれも《森》のフィールドパワーによって強化されたインセクトカード。
昆虫軍団を遊羽はフィールドに展開した。
「更に私は装備魔法《レーザー 砲機甲鎧》を吸血ノミに装着」
《吸血ノミ》
攻撃力1700→2000
「バトルフェイズだ」
既に色音のライフポイントは350。
一体でもダイレクトアタックが通れば遊羽の勝ちが決まる。
「吸血ノミで攻撃!」
まずは一番攻撃力が高い《吸血ノミ》で色音の場にいる裏側守備モンスターを攻撃する。
《緑樹の霊王》
星3 地属性 植物族
攻撃力500 守備力1600
「守備力1600のモンスター、そんなカードが」
守備力とはいえ1500を上回るカードがデュエル孤児院で流通していた事実に驚きが隠せない。
しかもこのモンスター、植物族であるため森の恩恵を受けることができる。
《緑樹の霊王》
守備力1600→1800
「でも装備魔法で強化した《吸血ノミ》の攻撃力はそれを上回る!」
現在の《吸血ノミ》の攻撃力は2000でありいかに守備力1800のモンスターとはいえ戦闘破壊することができる。
だが、それはあくまでもこのままの数値であればの話。
「トラップカード、オープン」
「何!? 罠カード!」
トラップカードとは一度伏せることによって使用することができるカードである。
遊羽に配布された100枚の中にも数枚は入っていたが、いずれもカードパワーが低いものであり、それらをデッキに入れるなら下級モンスターを入れた方がマシというレベルのカードばかりだった。
「私が伏せていたカードは《城壁》」
「守備力増強の罠か!」
遊羽の手持ちだけでなく山岸のカード、そしてこのFクラスの子供たちのデッキに攻守の数値を変化させる罠カードは1枚たりとも存在しない。
《城壁》はデュエル孤児院の基準ではかなり貴重で有用性が高いカードであることは明白だ。
「緑樹の霊王の守備力を500アップ」
《緑樹の霊王》
守備力1800→2300
癲狂院遊羽 LP3550
反射ダメージで遊羽のライフポイントが削られてしまう。
《緑樹の霊王》は守備表示であったため、《吸血ノミ》が破壊されることはなかった。
だが《緑樹の霊王》をどうにかしない限り、遊羽の残りのモンスターたちはこのターン攻撃することはできない。
「……私はこれでターンエンド」
「そう。ではターンを貰うわ」
色音カードをドローして手札へと加える。
「私は緑樹の霊王をリリースして、紅葉の女王をアドバンス召喚!」
《紅葉の女王》
星5 地属性 植物族
攻撃力1800→2000 守備力1500→1700
「上級モンスターかっ!」
上級モンスターとは星5、星6のモンスターのことであり、通常召喚するためには自分の場のモンスター1体をリリースしなければならない。
「私は装備魔法《魔菌》を発動。紅葉の女王の攻撃力を300ポイントアップ」
《紅葉の女王》
攻撃力2000→2300
「装備魔法によるマジックコンボはあなただけの専売特許じゃないのよ、遊羽」
高い守備力のモンスターと罠カードで攻撃を凌ぎつつ、上級モンスターの召喚に繋げる。
そして上級モンスターを装備魔法で強化するというプレイング。
正統派のデュエリストとしても杠葉色音という少女はハイレベルであると認めるしかない。
外野の男子でプレッシャーをかける行為があくまで副次的効果と言ったのもハッタリではないということだ。
「これで形勢逆転ね」
勝利を確信した人間特有の優越感を含む口調で杠葉色音が宣言した。