切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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予選終了

 プロデュエリスト協会会長、堂本春男との強制デュエルの決着がついた。

 見れば他のSランクプロデュエリストたちも、駆けつけてくれた皆と望羽によって無力化が完了している。

 

 その時、バイクに乗った男性がこの場に現れた。

 

「遅くなって悪かったな、遊羽」

 

 牛尾哲。ブラックドミノシティの治安を守るセキュリティだ。

 更に複数のデュエルパトカーが到着する。

 先頭の車から降りてきたのは夜桜射亜だった。

 

「今回は君とその仲間たちの活躍に感謝しなくてはいけないね」

 

 デュエルパトカーから降りたセキュリティたちによって、次々とSランクプロデュエリストが逮捕される。

 

「堂本会長、どういうことですか! セキュリティは抑え込んでくれるはずでしょう!」

 

 Sランクプロデュエリストの一人が悲痛な声を上げた。

 

「私も意外だったよ。小木曽(おぎそ)が妨害してくると思ったからね」

 

 手錠を取り出しながら射亜が言った。

 小木曽というのは、おそらくエリートセキュリティと呼ばれている男性、小木曽正真(しょうま)のことか。

 次期セキュリティ長官に最も近いと言われる男らしいが、黒い噂の絶えない人物でもある。

 どうやら堂本春男とも繋がりがあったようだ。

 

「そうなったら私一人、いや、そこにいる牛尾と二人で動くことになっただろう。彼は最近、随分と真面目に業務に励んでいるようで、私より早く動き始めていたよ」

 

 どうやら牛尾は率先して、この危機に駆け付けようとしてくれたらしい。

 

「随分と決闘女王に入れ込んで散財したそうじゃなか。それが原因で小木曽に見限られたんじゃないかな」

「金の切れ目が縁の切れ目ということか。小木曽君はそういう男だろうね」

 

 堂本春男に慌てる様子はなく、どこか諦めた雰囲気だった。

 堂本に手錠をかけようとした射亜が直前で手をとめる。

 

「堂本逮捕の手柄は君に譲るよ」

「……どういうつもりだ」

 

 僅かに不信感を含んだ口調の牛尾。

 キラーセキュリティと呼ばれているだけあって、射亜は同僚からも警戒されているようだ。

 

「私は出世を諦めた人間だからね。君が本気でセキュリティを良くしようと思ってるなら手柄を立てた方がいい」

 

 それだけ言うと射亜は手錠を片手にSランクプロデュエリストの逮捕に加わった。

 

「キラーセキュリティ……噂より、まともな女なのかもしれねえな。まあいい、堂本春男。お前を逮捕する」

 

 牛尾よって堂本春男の手首に手錠がかけられる。

 B区において絶対的な権力を誇ったプロデュエリスト協会会長逮捕の瞬間だった。

 

 ここで『クイーンシップ』から決闘女王によるアナウンスが鳴り響いた。

 

『参加者が残り十六名になったのを確認したわ。これで予選は終了よ。おめでとう、誇り高きデュエリストたちを称えましょう』

 

 遊羽の予選通過が確定する。

 現在のスターチップ所持数は二十二個であり、一個500万円で換金できるので1億1000万円になる計算だ。

 

「最後に言っておくよ、癲狂院。僕が君を棄権させようとしたのは、握り潰された参加者名簿を見たからだけじゃない」

 

 デュエルパトカーに連行される途中で堂本春男が足を止めてこちらを向く。

 

「君を潰すことを進言した時、決闘女王に言われたよ。プロデュエリストでは君には勝てないと。同時にこうも言っていた、癲狂院遊羽は取るに足らない存在であり、僕が何かする必要はないと」

 

 初代決闘女王である彼女としては何ら違和感のない言葉。

 

「だけど僕は女を見る目はある。だから分かったよ。取るに足らない存在と言いながら、決闘女王は君に特別な感情を抱いている」

 

 それはレイプされようが本選に出場するという遊羽の本質を見抜いた堂本春男の見立て。

 

「僕は羨ましかったんだ。決闘女王、あのお方に特別視されている君のことが」

 

 その言葉を最後に堂本春男は牛尾によってデュエルパトカーまで連れていかれ後部座席に乗せられた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一か月後。

 

 女王杯の本選はB区にある最大収容人数55000人の『クイーンドーム』にて三日間かけて開催されるデュエル大会である。

 Aブロック参加者が三十二名、Bブロック参加者が十六名。

 一日目と二日目は半分ずつに分けてAブロックの試合が行われる。

 

 今回の女王杯ではAブロックは参加者全員が一枠50億円のVIP参加枠で出場しているBランクのプロデュエリストだ。

 今はデュエル刑務所送りになった堂本春男の置き土産。

 彼がSランクプロデュエリストではなくBランクのプロを送り込んだのは、叩けば埃の出るSランクプロを使うと決闘女王に迷惑をかける可能性があるからだろう。

 

 本日は女王杯二日目であり、遊羽は望羽と共にブラックドミノホテルの部屋にあるテレビで大会を観戦していた。

 Bランクのプロ同士のデュエルのレベルは低く、試合では観客はあまり盛り上がっていない様子だ。

 だが流石は決闘女王と言うべきか。

 おそらくプロデュエリストの試合がつまらないのも織り込み済みだったのだろう。

 デュエルの合間に決闘女王自らが歌とダンスのパフォーマンスを披露して観客たちを沸かせている。

 これによって初日に続いて二日目もキャンセルが出ることなく満席のようだ。

 

 試合を見ても観客が盛り上がらない一方で、Bランクプロデュエリストたちはかなり必死な様子でデュエルをしていた。

 その理由は現在のプロデュエリスト協会の状態にあると思われる。

 諸悪の根源とも言うべき男がいなくなったことによって、一見すればプロデュエリスト協会は良くなると思われたこの状況。

 だがそれは大いなる間違い。

 

 堂本春男を含めた組織運営のノウハウがあったSランクプロたちが一斉逮捕されたことで、プロデュエリスト協会の体制は以前とは比較にならない程に悪化した。

 堂本の代わりに会長に就任したのはAランクプロデュエリストのフラワー花村。

 彼女はAランクプロたちが堂本春男からデュエルによる性的搾取の被害を受けていたと訴え、デュエル性被害賠償金と称して協会の金をAランクプロたちに分配。

 更に女性のプロデュエリストの給料を二倍にする一方で、男性のプロデュエリストの給料を半額にするという暴挙に及んだ。

 

 その結果、この一ヵ月でBランク以下のプロデュエリストの自殺者は三割に増加。

 一家離散や下層区落ちした男性プロデュエリストも続出したという。

 男性のBランクプロたちはフラワー花村に会長辞任を賭けたデュエルを要求するも、フラワー花村は都合が合わないと理由をつけて逃亡。

 現在はC区に複数あるデュエルホストでプロデュエリスト協会の金使って豪遊しているそうだ。

 

 仮にフラワー花村の暴挙をBランクプロが止めて会長から引きずり下ろしたとしても、Bランクプロたちにも組織運営のノウハウはない。

 このままではプロデュエリスト協会という組織は潰れることになるだろう。

 そうなった場合、どれだけの自殺者や下層区落ちする者が出るかは計り知れない。

 女王杯の参加資格を得たBランクプロにとって、これは沈みかけの船から逃げる最後のチャンスだった。

 

 閑話休題

 

 女王杯Aブロック最後の試合が終わった。

 勝ち残ったのは『エリートプロ栄一』という紺色のスーツを着た男性だ。

 

「望羽はこの男を知ってる?」

 

 問いかけに対して望羽が首を横に振る。

 遊羽もプロデュエリストのことは詳しく知らないので、とりあえず中古スマホで名前を検索した。

 エリートプロ栄一。本名は田所栄一。年齢は二十八歳。

 現在のBランクのプロデュエリストでは最も実力があると言われている男性らしい。

 Bブロックで最後まで勝ち残った場合、このプロデュエリストと決勝戦を行うことになる。

 

「女王杯本選前に最後のデッキ調整をするから、その後デュエルに付き合って」

「はい、師匠」

 

 Bブロックのトーナメント表はまだ発表されていないが、どのような相手でも全力でデュエルをする。

 それはデュエリストとしては当然こと。

 準備を万全にするべく遊羽はベッドの上でデッキの調整を始めた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 クイーンドームの廊下をくたびれたスーツを着た二十代前半の男性が歩いていた。

 男の名前は鈴木三郎。Bランクのプロデュエリストだ。

 彼は本日行われていた女王杯Aブロックの出場者ではなく、明日のBブロックに出場する選手だった。

 

 街全域で行われた予選において、三郎はデュエルを避けて逃げ続けることによって本選出場者十六名に入ることができた。

 堂本春男からは癲狂院(てんきょういん)遊羽なる人物を倒せばボーナスを出すと言われていたが、あえてその指示は無視した。

 

 三郎の目的は初期配布されるスターチップ二個を換金すること。

 一個500万円なので、二個なら1000万円の金が手に入る。

 堂本春男から予選終了時にスターチップ売却によって得た金は全額回収すると伝えられていたが、それに応じる気はなかった。

 以前、堂本春男の不正の証拠の一部を掴んでいたので、それを公表すると脅して金の回収を諦めさせるつもりだった。

 結果として堂本春男とSランクプロデュエリストたちが逮捕されたことによって、スターチップ代回収の話は有耶無耶になった。

 

 Bランクプロの生活は苦しく借金が700万円ほどあったが、1000万円あれば借金を一括返済した上で約300万円の金が手元に残る。

 この300万円で三郎はカードパックを購入した。

 これだけ買えば強力なレアカードが手に入るはず。

 そうすればデッキを大幅に強化できると思った。

 

 だがパック開封の結果は三郎にとって期待外れだった。

 ウルトラレアカードが一枚も当たらなかったのはいい。

 封入率が低いからこそカードショップで超高額な値段がついている。

 

 しかし開封された300万円分のパックにはスーパーレアカードすら入っていなかった。

 流石にレアカードは当たったが、それらは《闇魔界の覇王》《死霊伯爵》《ツイスター》などの、そこまで高額ではないレアカード。

 一番使えそうなカードはモンスターの攻撃力、守備力を700ポイントアップする《一角獣のホーン》だ。

 

 思えば昔からそうだった。

 パックを購入しても強力なカードが当たったことは一度もない。

 トップスやB区の裕福な市民でもない限り、デュエリストはパックから出たカードでデッキを構築する。

 例えブルジョアでなくとも、パックから強力なカードを入手して活躍するデュエリストは多数いた。

 

 同じプロデュエリストなら丸藤亮などがそれに該当する。

 あの男はブルジョアではなかったが、カイザー亮の異名を持つ実力派のデュエリストだった。

 調子を崩して落ち目になりプロデュエリストを辞めた時は内心いい気味だと思ったが、裏で復活したと聞いた時は面白くなかった。

 三郎だって強力なカードが手に入りさえすれば、カイザー亮と同等、いやそれすら上回るデュエリストになれるはずなのだ。

 

「失礼します」

 

 クイーンドームのVIP室のドアをノックしてから部屋の中に入る。

 室内で椅子に腰かけていたのは青と白のアイドル衣装を着た決闘女王だった。

 彼女の呼び出しを受けて三郎はここに来たのだ。

 

「一体どのような御用でしょうか。明日の試合に向けての準備もあるので手短にお願いしたい」

「デッキを見せなさい」

 

 平然と命令してきた女に内心苛立ちが募る。

 

「最優女王と呼ばれていい気になっているようだが、所詮あんたはアマチュア。プロデュエリストである私は他人に気軽にデッキを見せるような真似をする気は」

「いいから早く見せなさい」

 

 有無を言わさぬ口調。

 思わず怖気づいてデッキを差し出してしまう。

 三郎のデッキを軽く確認した決闘女王がため息をついた。

 

「このデッキじゃ力不足ね。女王杯で勝つことはできないわ」

「ふん、確かにAブロックのエリートプロ栄一のデッキよりはカードパワーが低いが、それでも優勝できないと決まったわけでは」

「そうじゃないでしょう。あなた一回戦で負けるわよ。癲狂院遊羽にね」

 

 決闘女王がBブロックのトーナメント表をかざして見せた。

 三郎の初戦の相手は癲狂院(てんきょういん)遊羽と記載されている。

 

「何を言うかと思えば、その癲狂院というのもアマチュア。まあ一度の試合ならプロがアマチュアに負けることもある。所詮女王杯といってもアマチュアの大会でしかない。プロはトータルで競う」

「あなたは癲狂院遊羽どころか、他の参加者14名と100回デュエルしても100回負けるわ。女王杯Bブロックの面子相手じゃトータルでも勝率は0%よ」

「ふざけるな!」

 

 思わず三郎は声を荒げた。

 

「アマチュアの女王があまりいい気になるなよ。堂本会長に気に入られていたようだが、あの人は逮捕された。プロデュエリストがあんたに従う理由はもうない」

「プロデュエリストごときを従えるのは造作もないことだけど、今はいいわ。それより、これ以上私の女王杯でレベルの低いデュエルは見たくないの。だからこれを使いなさい」

 

 決闘女王は懐から取り出したデッキを正面のデスクに置いた。

 

「アマチュアの作ったデッキなんて所詮は……何っ! 強力な効果モンスターが何枚も、それにエクストラデッキのカードだと!?」

 

 デスクに置かれたデッキを手に取って中身を見た三郎は驚愕する。

 

「こ、これを貸してくれるのか」

「いいえ。このデッキはあなたに差し上げるわ」

「くれる!? これが手に入る! はは、ははははは!」

 

 三郎の高笑いがクイーンドームのVIPルームに響き渡った。

 

「このデッキがあれば、エリートプロ栄一だろうが堂本だろうが、あのカイザー亮であっても敵じゃねえ! あんな奴らはカス! 俺が最強のプロデュエリストだ!!」

 

 口調が荒くなり一人称が私から俺に変化する。

 

「お望み通り女王杯で最強のプロデュエリストのデュエルを見せてやるよ。だが、さっきも言ったが俺はあんたに従う気はないんでね。優勝した後、女王戦で勝って決闘王になるが文句はないな」

 

 ブラックドミノシティにおいて決闘王(デュエルキング)の座を手にすれば、トップスの市民になることができる。

 

「そもそもブラックドミノシティ最強のデュエリストの称号がクイーンっていうのも気に入らなかったんだ。やはりトップに立つのはキング! 女は所詮、男の下なんだよ!」

 

 このデッキがあれば決闘女王相手でも負けることはない。

 

「じゃあな、決闘女王。残り少ない女王生活を楽しみな」

「待ちなさい。デッキを忘れてるわよ」

 

 踵を返してドアの方へ向かおうとしたが、決闘女王に呼び止められた。

 

「ああ、これか」

 

 決闘女王から自分が元々使っていたデッキを返してもらう。

 

「こんなゴミもういらねえよ!」

 

 そのデッキを部屋のゴミ箱に投げ込んだ。

 リアル、ダスト・シュートだ。

 決闘女王が僅かに顔を顰める。

 

「ははははっ! 明日の初戦、まずは癲狂院遊羽とかいうアマチュアのカスを蹴散らしてやる! 最強のプロデュエリストである俺がな!」

 

 Bランクプロデュエリスト、鈴木三郎に最早怖いものは何もなかった。

 

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