切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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女王杯、本選

 女王杯、三日目。本選Bブロック。

 ついにこの日がやってきた。

 クイーンドーム(旧キングドーム)のゲート前に遊羽は望羽と共に到着した。

 館内は相当賑わっているようであり、外からでも観客たちの熱気が伝わってくる。

 三日目は女王戦があり決闘女王自身のデュエルを見られるので特に人気が高いそうだ。

 選手関係者入口に向かうとその付近に複数人の男女の姿があった。

 

「待っていたぞ、遊羽」

 

 最初に声をかけてきたのは赤い私服を着たセレナだった。

 その隣には白い上着に薄い黄色のシャツ姿の美玲と黒いコートを着たヘルカイザー亮がいる。

 

「約束通り応援に来てやったぜ」

 

 ワイシャツを着て片手に上着を持った牛尾が手を振る。

 彼の横にはグレージュのトレンチコートを着た射亜がいた。

 

「あんたが決闘女王になれるか見届けに来たわよ!」

 

 歯切れよく言ったのは赤いチャイナ服を着た幸。

 隣には姉の明美とゴスロリ服のミカ、緑のスーツを着た大瀧。

 まだ時間はかなりあるので集まってくれた皆と雑談した。

 

 本選出場者は十五席まで特別観客席に知人を招くことができる。

 席自体は他の観客席と同じだが、選手の友人等が集まって試合を観戦できるスペースだ。

 チケット代が無料になるわけではないので、ここにいる九名は自腹で女王杯チケットを購入した上で応援に来てくれた。

 望羽も民間の大会で得た賞金を使って自分でチケットを購入しており、現時点で遊羽に用意された特別観客席は五席開いている。

 

 できるならアカデミアに在学していた頃の友人にも決闘女王との決着を見届けてほしかったが、彼女は卒業後、親の都合で海外に行った。

 あとはバンデット・キースを探して呼ぼうか少しだけ迷ったが、それはやめておいた。

 遊羽はキースのファンだが、ファンであるからこそ節度を持った距離感を保たなくてはいけないと思っている。

 女王杯本選はテレビ中継もされるので、興味があるなら見てくれるだろう。

 

 試合開始四十分前となったので、皆を連れて関係者入口へ。

 係員が人数とチケットを確認してから通行許可を出した。

 

 館内の廊下で知った顔を見かける。

 子供杯(チャイルドカップ)で望羽に勝利して優勝した少年だ。

 女王杯の参加可能年齢は十八歳以上であり、彼は兄の応援に来ているのだろう。

 シュレイダー社の若社長の名前もBブロックの出場者名簿にあったはずだ。

 

「望羽とは一旦ここでお別れだね」

 

 これから遊羽は選手控室に行き、他の皆は特別観客席に向かう。

 選手控室の区画は大会出場者以外、立ち入り禁止だ。

 

「師匠、ご武運を」

 

 優しく頭を撫でると望羽が顔を綻ばせた。

 

「まぁ、天下のクイーンドームでこの前みたいなことはないと思うけど、万が一何かあったら私が何とかするわ」

 

 デュエルディスクをかざしながら幸が言った。

 

「ありがとう、頼りにしてる」

「ふん! 別にあんたのためじゃないわ。私は望羽の心配をしてるのよ」

 

 実際、幸も含めたこの九名がいれば、望羽が危険な目に合うこともないだろう。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

 手を振ってから遊羽は選手控室に向かった。

 奴隷杯の時と異なり女王杯の選手控室は個室であり、選手一人につき一部屋与えられている。

 部屋番号は女王杯アプリで事前に通知されていた。

 

 F号室と表札のついた部屋に到着。

 ここが遊羽専用の控室のようだ。

 室内にはデスクとオフィスチェア、中型のモニター、そしてロッカーがあった。

 きれいに掃除された清潔感のある部屋である。

 

 とりあえずオフィスチェアに座ってからモニターに目を向ける。

 画面にはBブロックのトーナメント表が表示されていた。

 今朝の時点で女王杯アプリでも告知されているので対戦相手は知っている。

 

 鈴木三郎。Bランクのプロデュエリスト。

 Aブロックの勝ち残りであるエリートプロ栄一のような異名もない無名のBランクプロらしい。

 Bブロックの本選出場者の中では唯一のプロデュエリストだ。

 

 トーナメント表によれば遊羽と鈴木三郎の試合はBブロック一回戦第一試合。

 デュエルスタジアムへの入場は十五分前から許可されるそうなので、まだあと二十分ほど時間はある。

 デュエルディスクからデッキを取り出して中身を確認した。

 今朝ブラックドミノホテルの部屋で済ませたが念のためだ。

 

 モニターの画面が切り替わり決闘女王、杠葉色音が映る。

 本日は黒と白のドレスにマントを羽織ったアイドル衣装だった。

 試合が開始されるまでの間、歌と踊りによって会場を沸かせているようだ。

 

 画面内の決闘女王がダンスを終える。

 時間を見ると、そろそろ試合開始十五分前になりそうだった。

 オフィスチェアから立ち上がる。

 そのまま遊羽はデュエルスタジアムに向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 デュエルスタジアムの入り口には女王杯の係員が一人いた。

 

癲狂院(てんきょういん)遊羽選手ですね。どうぞ、お通りください」

 

 係員に促されてスタジアムに足を踏み入れた。

 ドッと喧噪に包まれる。

 分かってはいたが凄い人数だった。

 デュエル場の周囲には約55000人の観客たちがいる。

 遊羽専用の特別観客席の場所は事前に把握しておいたので、何とか望羽たちを見つけることはできた。

 

 スタジアムには四方に四台の巨大モニターが設置されており、その画面にはBブロック一回戦第一試合の選手の顔写真が『VS』という文字に区切られて表示されている。

 決闘女王は観客席より上のスタジアム全体を見渡せる位置にある高級そうな洋室にいるのが目視できた。

 

「来るのが遅いね。やはりアマチュアは意識が低い」

 

 声をかけてきたのは対戦相手の鈴木三郎だった。

 

「十五分前になったら即座に入場できるようにスタジアムの入口で待機しようとは思わなかったのか」

 

 確かに遊羽は十五分前ぐらいになってから控室を出たが、試合開始の時間までに入場するならそれで十分だと思う。

 女王杯運営側も余裕を持たせて十五分という時間を設定しているはずだ。

 

「まあいいさ。しかし運が悪かったな。お前を目の敵にしていた堂本が逮捕されたのに、初戦で俺に当たるなんて。お前の一回戦負けは決まったぜ」

 

 鈴木三郎の態度はこれまでのBランクプロとは異なるものだった。

 予選で倒したBランクプロたちは、どこかデュエルを諦めている雰囲気だった。

 プライドを守るため、デュエルに勝つことではなく、負けたことを正当化するのに必死になっている様子だった。

 

 だが目の前にいるBランクプロ、鈴木三郎は明らかに勝つ気でいるようだ。

 無論、それはデュエリストとして正しい姿勢であり文句があるわけではない。

 その自信の源が何なのか、多少気になっただけだ。

 

「この最強のプロデュエリストである俺には誰も敵わねえんだよ!」

 

 互いのやり取りの一部は音声拡張ドローンによって観客席に伝わる。

 鈴木三郎の挑発的な言動によって、会場はそれなりに盛り上がっているようだ。

 

 トーナメント表に従って遊羽はデュエル場の右側の立ち位置につく。

 これでいつでもデュエルを開始できる準備は整った。

 その後も鈴木三郎が自分は最強のプロデュエリストだの、アマチュアがどうだのと長々と話すが、デュエルに備えて遊羽は雑音を遮断して意識を集中する。

 

『それでは試合開始の時間になりました。三日目の初試合の前に決闘女王、杠葉色音様からお話があるそうです!』

 

 四つの巨大モニターの画面が一斉に切り替わって決闘女王が映った。

 観客席から耳を劈くような大歓声が響き渡る。

 特別観客席以外の人たちは、ほぼ全員が決闘女王のファンと見て間違いないだろう。

 

『女王杯も三日目。正直に言うわ。一日目と二日目のデュエルはレベルが低かった』

 

 大会の運営者としては思っていても口にしてはいけないことを決闘女王は明言した。

 

『その認識を誤魔化した先にあるのが現在のプロデュエリスト業界よ。だから私ははっきりと言葉にする。その上で謝罪はしない。入場料以上のエンタメを私自身が提供したと自負しています』

 

 実際、一日目と二日目は試合の合間に決闘女王が歌やダンスを披露したことによって会場は盛り上がっていた。

 こうして三日目も一般席が満席になっているのだから、観客の満足度が高かったのは間違いない。

 

『ですが女王杯はデュエルの大会。だからBブロックのデュエリストたちには期待しているわ。Aブロックのデュエリストたちのような醜態を見せないで』

 

 巨大モニターの画面が再びBブロック一回戦第一試合の選手の顔写真に戻る。

 

「ふん、自分の大会であんなことを口にするなんて社会人としてのマナーを分かってない奴だ」

 

 苛立った様子で鈴木三郎が呟く。

 言外にBランクプロデュエリストを批判されたのだから無理もない反応か。

 だが観客席の人々は再び大歓声を上げた。

 決闘女王の誠実な姿勢は観客たちとって好印象だったようだ。

 

『それではBブロック一回戦、その第一試合を開始します。デュエリスト両名、デュエルディスクを起動してください』

 

 両者のデュエルディスクが展開され、カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。

 オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされた。

 デュエルディスクによって先攻、後攻が決定される。

 

 

 害虫 ―― 癲狂院(てんきょういん)遊羽 /  LP4000

 

          VS

 

 Bランクプロ ―― 鈴木三郎 / LP4000

 

 

「「決闘!!」」

 

 先攻をとったのは遊羽だった。

 

「私のターン。モンスターをセット」

 

 まずは裏側守備表示でモンスターを場に出す。

 

「カードを二枚セットしてターンエンド」

「ははっ! 何だ、臆病者の表示形式の守備表示とはアマチュアだな! 最強のプロデュエリストのデュエルを見せてやるぜ、ドロー!」

 

 引いたカードを鈴木三郎は手札に加える。

 

「完璧な手札だ! 永続魔法《魔神王の契約書》を発動!《魔神王の契約書》の効果で手札の《DDスワラル・スライム》と《DDヴァイス・テュポーン》を融合!」

「何っ!」

 

 遊羽が少なからず驚いたのには二つの理由があった。

 一つはBランクのプロデュエリストが『DD』という高級テーマを使ってきたこと。

 『DD』は数あるカテゴリの中でもかなり高額なテーマであり、間違ってもBランクプロデュエリストが購入できるカードではない。

 パックからこのテーマのカードを当てて揃える者もいるかもしれないが、そのレベルのデュリストは現在のプロデュエリスト協会には留まらないだろう。

 

 二つ目は戦術的な部分での疑問。

 《魔神王の契約書》は手札、フィールドからモンスターを墓地に送り悪魔族融合モンスターを融合召喚するカードだが、今回素材として用いられた《DDスワラル・スライム》の効果を使用すれば《魔神王の契約書》の効果を使わずに融合召喚を行えたはず。

 《魔神王の契約書》の効果が無制限で何度も使用できるならともかく、この永続魔法での融合は1ターンに一度しかできない。

 

 端的に言ってしまえば鈴木三郎は初歩的なプレイングミスを犯している。

 だがこのBランクプロデュエリストがそれに気づく様子は全くなかった。

 

「最強のプロデュエリストである俺の融合モンスターを見ろ! 融合召喚! DDD神託王ダルク!!」

 

 《DDD神託王ダルク》

 星7 闇属性 悪魔族

 攻撃力2800 守備力2000

 

 現れたのは自分が受ける効果ダメージを回復に変換することができる『DDD』の最上級融合モンスター。

 

「更にDDナイト・ハウリングを召喚」

 

 《DDナイト・ハウリング》

 星3 闇属性 悪魔族

 攻撃力300 守備力600

 

「このモンスターは墓地から『DD』モンスターを攻撃力と守備力を0にして特殊召喚できる効果がある。DDヴァイス・テュポーンを特殊召喚」

 

 《DDヴァイス・テュポーン》

 星7 闇属性 悪魔族

 攻撃力0 守備力0

 

「最強のプロデュエリストである俺は二つの召喚法を扱うことができる。レベル7《DDヴァイス・テュポーン》にレベル3《DDナイト・ハウリング》をチューニング! シンクロ召喚! レベル10《DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー》!」

 

 《DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー》

 星10 風属性 悪魔族

 攻撃力3000 守備力2500

 

「バトル! DDD神託王ダルクでアマチュアのモンスターを攻撃!」

 

 《DDD神託王ダルク》の攻撃を受けて、セットしていたモンスターが表向きになる。

 

 《擬態する人喰い虫》

 星4 地属性 昆虫族

 攻撃力450 守備力600

 

「はははっ! 何だ、そのカスモンスターは!」

「擬態する人喰い虫は戦闘では破壊されない。そしてリバースした時、フィールド場のモンスター1体を破壊する」

「何!?」

「その効果でDDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダーを破壊」

 

 《擬態する人喰い虫》の効果によって《DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー》が破壊される。

 

「そして破壊したモンスターの元々の攻撃力分、擬態する人喰い虫の攻撃力をアップ。更に種族をそのモンスターと同じにできる」

 

 《擬態する人喰い虫》

 昆虫族→悪魔族

 攻撃力450→3450

 

「何だよ、これは! クソ! あの女王気取りの女! もっと強いカードを入れておけよ! ターンエンド!」

 

 堂本春男が予選で逮捕された以上、鈴木三郎に『DD』デッキを渡した人物が他にいることは分かっていた。

 決闘女王は支配に長けているが、プロデュエリストの扱いに関しては堂本春男の方が上だったようだ。

 今更ながら堂本春男がSランクプロデュエリストに《デーモンの斧》や《ミスト・ボディ》を使わせていた理由を実感する。

 現在のプロデュエリスト協会にはテキスト量の多いカードや墓地効果のあるモンスターを使いこなせるプロデュエリストは存在しないのだろう。

 

「私のターン、ドロー。アーマード・ビーを召喚」

 

 《アーマード・ビー》

 星4 風属性 昆虫族

 攻撃力1600 守備力1200

 

「アーマード・ビーの効果でDDD神託王ダルクの攻撃力を半分にする」

 

 《DDD神託王ダルク》

 攻撃力2800→1400

 

「擬態する人喰い虫を攻撃表示に変更してバトルフェイズ。擬態する人喰い虫でDDD神託王ダルクを攻撃」

 

 鈴木三郎 LP1950

 

「ちっ! アマチュアのラッキーパンチか」

「アーマード・ビーでダイレクトアタック」

 

 鈴木三郎 LP350

 

「詰めが甘い、所詮アマチュアだな!《魔神王の契約書》がある限り俺は毎ターン融合召喚できる。そして俺の残りの二枚のエクストラデッキのカードはどちらも強力なDDD融合モンスターだ」

 

 果たしてこのプロデュエリストは《魔神王の契約書》の効果を全て把握しているのだろうか。

 

「私はこれでターンエンド」

「だがベオウルフの方じゃ、攻撃力の上がった虫けらを突破できねえか。いや、俺は最強のプロデュエリストだ。逆転のカードを引けるに決まってる、ドロー!」

 

 引いたカードを見た鈴木三郎の笑みが深くなる。

 

「よし! DDDモンスターを引けた。これで手札にDDDモンスターが二体。あとは《魔神王の契約書》でカエサル・ラグナロクを融合召喚すれば」

 

 この瞬間、鈴木三郎の場にあった《魔神王の契約書》の効果が自動的に発動する。

 

「な、何っ! 俺はまだ《魔神王の契約書》の効果を使ってないぞ」

「《魔神王の契約書》の所有者は自分のスタンバイフェイズに1000ダメージを受ける」

「何だ、その効果は! 俺は知らないぞ! そんなリスクがあるなんて!」

 

 このプロデュエリストの敗因は契約書の内容をよく読まなかったこと。

 或いは、読んだとしても理解するだけの頭がなかったこと。

 

 鈴木三郎 LP0

 

 《魔神王の契約書》によって1000ダメージ受けたことで、残り350だった鈴木三郎のライフポイントが0になった。

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