ブラックドミノシティB区の歩道を鈴木三郎は歩いていた。
女王杯一回戦で敗北した後、三郎は早々にクイーンドームを後にした。
今回、あの
『DD』というテーマ自体は悪くないが《魔神王の契約書》とかいう自分がダメージを受けるクソカードがデッキに入っていた故の敗北。
そんなカードをデッキに入れた決闘女王がヘボだったのが一回戦負けの原因だ。
目的地であるカードショップに到着した三郎は《魔神王の契約書》を含めて不要なカードを売却。
カードを売って得た金で《融合》や《融合賢者》などのカードを買った。
これらのカードなら自分が1000ダメージ受けるようなクソ効果は付いていない。
元から《融合》のカードがデッキに入っていなかった辺り、決闘女王は所詮、金を持っているだけのアマチュアなのだ。
運良く女王の座についただけの女、あのAランクプロたちと大差のないデュエリストでしかないということ。
カードショップを出て少し歩いたところで三郎の前に突如、金髪の青年が現れた。
蜘蛛のマークのタンクトップ姿のガラの悪い不良だ。
「へへ、見つけたぜ。お前がDDのカードを持ってるプロデュエリストだな」
女王杯は生中継されており多くのブラックドミノ市民がテレビで見ている。
言い換えるならそれは三郎が『DD』というレアカードを持っていることを多くの人間が知っているということ。
「く、くそ!」
その考えに至った時、三郎は咄嗟にスマホを取り出してセキュリティに通報しようとした。
だが一手遅い。
三郎が腕につけていたデュエルディスクが自動的に起動する。
これによって強制デュエルを仕掛けてきたタンクトップの青年に勝利するまで外部と連絡できなくなった。
「な、何のつもりだ!」
「決まってんだろ。プロデュエリストなんてカスが不相応なカードを持ってるみたいだからな。奪いに来たんだよ!」
最悪の予感が的中する。
「実力が大したことねえのはテレビで見て分かってんだ」
この金髪タンクトップの青年は名蜘蛛コージ。
デュエルで暴行、恐喝など行い奪ったレアカードを転売しているデュエリストだ。
普段、名蜘蛛は『DD』のような強力なデッキを持っている相手には手を出さないようにしている。
だが相手がプロデュエリストであるなら話は別だ。
この盆暗が持っているカードに見合うだけの実力がないことは女王杯を見ていたので分かっている。
「サレンダーしておとなしくDDのカードを差し出すか、痛い目に合うか選ばせてやるぜ」
「舐めるなよ! 俺は最強のプロデュエリストだぞ!」
カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。
オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされる。
デュエルディスクによって先攻、後攻が決定された。
鈴木三郎 / LP4000
VS
名蜘蛛コージ / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのは三郎だった。
だが手札を見た瞬間、思わず顔を顰める。
三郎の初手五枚は
《融合》
《融合》
《融合》
《DDスワラル・スライム》
《DDD覇龍王ペンドラゴン》
かろうじて融合召喚を行うことはできるが、お世辞にも良い手札とは言えない。
「何故だ、女王杯の時はこんな事は」
本日、鈴木三郎が行った最大のプレイングミス、それは《魔神王の契約書》を売却したこと。
より正確に言うのであれば《魔神王の契約書》を含めた複数枚のカードを売却して、新たなカードを加えたことで決闘女王の組んだデッキを崩したことだ。
『DD』は本来、鈴木三郎レベルのデュエリストに扱えるカードではない。
それでも女王杯で三郎の初手が良かったのは、決闘女王のデッキ構築があまりにも完璧だったからだ。
その芸術的なまでに整ったバランスのデッキを三郎は自ら壊してしまった。
せめてブルジョアのような強運があれば、デッキ構築が杜撰でも初手やドローには恵まれたかもしれないが、三郎にはその強運すらない。
「ちっ、魔法カード《融合》を発動。DDスワラル・スライムとDDD覇龍王ペンドラゴンを融合してDDD剋竜王ベオウルフを融合召喚」
《DDD剋竜王ベオウルフ》
星8 闇属性 悪魔族
攻撃力3000 守備力2500
「これでターンエンド」
それでも攻撃力3000の最上級モンスターを出してターンを終えることができた。
所詮、こんなチンピラに《DDD剋竜王ベオウルフ》を倒せるはずがない。
「俺のターン、ドロー。マスマティシャンを召喚」
《マスマティシャン》
星3 地属性 魔法使い族
攻撃力1500 守備力500
「召喚に成功した時、デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地に送る。俺はカーボネドンを墓地に送るぜ」
「はは、相手の場に攻撃力3000のモンスターがいるのに攻撃力1500のモンスターを召喚するとはアマチュアだな」
やはりこのような不良のアマチュアなど最強のプロデュエリストである自分の敵ではないと三郎は高を括る。
「永続魔法《超自然警戒区域》を発動。更にカーボネドンを墓地から除外することで、デッキからレアモンスター、ダイヤモンド・ドラゴンを守備表示で特殊召喚」
《ダイヤモンド・ドラゴン》
星7 光属性 ドラゴン族
攻撃力2100 守備力2800
「最上級モンスターを出したか。だが所詮、そいつの攻撃力は2100。俺のDDD剋竜王ベオウルフは倒せない。これがプロデュエリストとアマチュアの差だよ」
「《超自然警戒区域》の効果発動。効果モンスター以外のモンスターが表側表示で特殊召喚された時、相手フィールド場のカード1枚を破壊するぜ。その対象はDDD剋竜王ベオウルフ」
《超自然警戒区域》の効果によって《DDD剋竜王ベオウルフ》が破壊される。
「な、何!? 効果モンスター以外のモンスターなど一体何処に」
「まだ気づいてねえのか。俺のレアカード、ダイヤモンド・ドラゴンは通常モンスターだ」
「馬鹿な、こんなアマチュアに俺のDDDモンスターが」
最上級融合モンスターを失い呆然とする三郎。
「マスマティシャンでダイレクトアタック!」
《マスマティシャン》の直接攻撃によるリアルソリッドビジョンに衝撃によって三郎は大きく仰け反った。
鈴木三郎 LP2500
思わず呻き声を上げる。
プロデュエリスト業界のデュエルはセイフティモードをオンにして行われるため、このような痛みには慣れていない。
「所詮、プロデュエリストごとき俺の敵じゃなかったみてえだな! カードをセットしてターンエンド」
「……俺のターン」
痛みを堪えながらでもデュエルを続けるのは、ここで負ければ『DD』のカードを奪われるからだ。
これほどの高額デッキを手にする機会など、おそらく三郎には二度と訪れない。
「ドロー!」
三郎の引いたカード、それは……
《融合賢者》
「そ、そんな」
現在の三郎の手札は《融合》《融合》《融合賢者》の三枚。
これでは何もすることができない。
だがターンエンドすれば相手モンスターの直接攻撃でライフが0になってしまう。
「誰か! 誰か助けてくれ!」
三郎は大声を上げて叫んだ。
B区はブラックドミノシティでも比較的治安が良い場所であり、通行人がセキュリティに通報してくれる可能性は十分にある。
だが今日に限っては、その通行人が周囲にいなかった。
女王杯は人気の大会であり、会場に来れなかった人でも自宅のテレビで観戦する。
そのため本日街を出歩いている市民は殆どいない。
「助けて! 誰かセキュリティに通報してくれぇ!」
それでも三郎はデュエルにおける時間制限いっぱいまで助けを求め続ける。
だがそんな足掻きも空しくデュエルディスクのタイムカウンターが300秒になり、自動的にターンが相手に移った。
「下らねえ真似しやがって。身ぐるみを剥がすだけじゃなく、てめえは二度とデュエルが出来ねえぐらいリンチされてえみてえだな」
「い、嫌だ、そんな」
「俺のターン。へへ、いいカードを引いたぜ。《ドーピング》をダイヤモンド・ドラゴンに装備」
《ダイヤモンド・ドラゴン》
攻撃力2100→2800
「モンスターの攻撃力が上がればリアルソリッドビジョンの衝撃もでかくなる。まずはデュエルでリンチしてやるよ」
サレンダーしようとする三郎の手が止まったのはプロデュエリストのプライドではなく、『DD』というレアカードへの未練。
「ダイヤモンド・ドラゴンを攻撃表示に変更してバトルフェイズ! マスマティシャンで攻撃」
鈴木三郎 LP1000
「ダイヤモンド・ドラゴンでプレイヤーにダイレクトアタック!」
リアルソリッドビジョンの衝撃によって三郎の体が宙を舞った。
鈴木三郎 LP0
そのまま地面に転がった三郎のデッキを名蜘蛛がデュエルディスクごと奪い取る。
「や、やめてくれ! カードが手に入れば十分だろう」
「うるせえよ! デュエルに負けた奴は勝った人間に何をされようと文句は言えねえんだよ!」
強制デュエルによって無力化された三郎に抵抗するすべはない。
リンチされ両手両足の骨を折られた三郎は有り金を全て奪われた後、ゴミ捨て場に捨てられた。
◇
クイーンドームのスタジアム全体を見渡せる位置にあるVIP観戦ルームにて決闘女王、杠葉色音は試合を見ていた。
現在行われているのは一回戦第三試合。
部屋のドアがノックされたので窓全体のブラインドを下す。
「入っていいわ」
「それじゃあお邪魔しますよと」
開いたドアの外にいたのは三十代ぐらい茶髪の男性だった。
髪型は茶髪のスペインカール。
白いシャツの上からダークブラウンの革ジャンを着てジーパンを履いている。
「第一試合は残念だったな、女王サン。わざわざDDなんて強力なデッキを渡したのに無駄になってよ」
「無駄? 何か勘違いしてるみたいだけど鈴木三郎が負けることは初めから決まっていたわ。プロデュエリストでは
それはかつて堂本春男にも言ったこと。
「最初に言ったでしょう。Aブロックのデュエルはレベルが低かった。だからこれ以上デュエルの質を下げないために、鈴木三郎にデッキを渡したのよ」
とはいえ正直なところ鈴木三郎のデュエルは予想の更に斜め下だった。
『DD』を使わせれば数ターンは持つと思ったが、結果は実質的なワンキル。
いや、あのような負け方はワンキル以下だ。
堂本の資産を根こそぎ集金するためとはいえ、プロデュエリストを多く参加させたことで女王杯のレベルが下がってしまった。
「だとしたら解せねえな。あんたは癲狂院という奴を潰したがってるはずだろ。なら何故一回戦目から俺に当てなかった」
プロデュエリストでは
それならばプロデュエリストではない裏のデュエリストを送り込むだけのこと。
「確かにあなたなら癲狂院遊羽を倒しうる可能性がある。
ブラックドミノシティ二大決闘強姦魔、
それが目の前にいる茶髪の男の正体であり、決闘女王、杠葉色音がBブロックに送り込んだ刺客だった。
「倒しうるからこそ二回戦で当たるように調整したのよ」
女王杯のトーナメント表を作ったのは色音であり、ここまでの流れは全て想定内。
「女王杯の一般参加費は五億円。私からすれば五億円程度は小銭だけど、癲狂院遊羽は必死になって集めたのでしょう。なのに一回戦負けでは可哀そうじゃない」
五億円程度のはした金のために癲狂院遊羽は裏の大会である奴隷杯に参加したという情報を掴んでいる。
「だから確実に勝てるであろうプロデュエリストを一回戦の相手にした。これで思い出作りは十分でしょう。私なりのファンサービスよ」
「成程ね。俺には理解できねえ感覚だが、流石は女王サンってとこか。それで俺を呼び出した理由は何だ」
一回戦第二試合を見た上で色音はレイプデビル叡傲をこのVIP観戦ルームに呼びつけた。
「本選ではレジェンド・デビルをデッキから抜くように言っておいたはずよ」
それはレイプデビル叡傲の使用しているカードに問題があったからだ。
《レジェンド・デビル》はカードパワーの低いモンスターであるが、それだけでデッキから外すように言っているわけではない。
「承諾した覚えはないぜ、女王サン。悪いが俺はこれまでのやり方を変える気は一切ない」
「癲狂院遊羽は常にどのような相手でも全力でデュエルをする。たとえ相手がプロデュエリスト程度の相手でもね。あなたは彼女のそういうところを少しは見習うべきだわ」
それを聞いてレイプデビル叡傲がニヒルに笑った。
「俺とは真逆ってわけか。その癲狂院って女に多少は興味が出たぜ。何せ俺は普段から、あらゆることを手抜きするように心掛けてるからな。その中でもデュエルとレイプ。特にデュエルでは必ず手を抜くと決めてるぜ」
そう、この決闘強姦魔は手抜きのために、あえてカードパワーの低い《レジェンド・デビル》とそれをサポートするカードをデッキに投入している。
レイプデビル叡傲のデッキにおける『本来』のテーマとのシナジーが皆無であるにもかかわらずだ。
「俺が本気を出したら一瞬で勝負が終わっちまう。それじゃあ暇潰しにならねえからな」
「もう一度だけ警告します。癲狂院遊羽相手には全力を出しなさい」
「嫌だね、断る。心配しなくても俺はデュエルに勝っちまうだろうよ。俺の相手には二種類しかいねえのさ。暇潰しの相手になるか、ならないか。どちらにしてもそいつの敗北は決まってる」
やはりこの決闘強姦魔に手抜きを辞めさせることは不可能だと色音は判断する。
だが、それならそれで構わない。
元より手抜き込みでレイプデビル叡傲は癲狂院遊羽を倒しうるデュエリストだからだ。
同じ二大決闘強姦魔のセックスデーモン豚島とかいう犯した女の数が多いだけのカスとは格が違う。
「鈴木三郎は最強のプロデュエリストを自称していたわ。それに倣うならあなたは最強の決闘強姦魔といったところかしら」
「おいおい、三十代のおっさんが最強なんて自称したら恥ずかしいだろ」
レイプデビル叡傲が両手を広げてやれやれという仕草をする。
「だがあえて自称するなら最強程度じゃ足りねえよ。そんなのはとっくに通り越してる。そうだな言うなれば無敵。そう無敵の決闘強姦魔だ」
最強より更に上、それは無敵。
「俺に勝てるデュエリストはブラックドミノシティ、いやこの世界には存在しねえ」
一切の迷いなくレイプデビル
「さて、それじゃあ試合の観戦に戻らせてもらうぜ。三回戦以降にも暇潰しが出来る相手がいるか確認しときたいんでね」
その言葉を最後にレイプデビル叡傲がVIP観戦ルームから出て行った。
色音は冷蔵庫にあるワインボトルを取り出してグラスに注いでから、大窓のブラインドを上げる。
そして試合場に目を落とし、ワイングラスに口を付けながら妖艶に笑った。