《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》の流星落下によるバーンダメージ能力。
その直撃を受けてなお、遊羽のライフポイントは無傷だった。
インセクト遊羽 LP700
「私が発動したのは《ホーリーライフバリアー》。このターン、相手から受ける全てのダメージを0にする」
《ホーリーライフバリアー》は戦闘ダメージ、効果ダメージの両方を1ターンの間受けなくする罠カード。
「更に私のモンスターは戦闘破壊されない」
「だったらこいつを使っておくか。魔法カード《サンダー・ボルト》」
雷が遊羽の場のモンスターに降り注ぐ。
「《闇の増産工場》の効果。グレート・インセクトを墓地に送って一枚ドロー」
《マザー・スパイダー》が《サンダー・ボルト》によって破壊された。
「《大樹海》効果発動。デッキからセイバー・ビートルを手札に加える」
《貪欲な壺》でデッキに戻しておいたレベル6モンスター《セイバー・ビートル》が手札に加わったことにより遊羽の手札は二枚になる。
「さて、これでお互いに手札が二枚になったわけだが、俺の手札の一枚はこのカードだ」
レイプデビル叡傲が表向きにしてみせたのは《黒炎弾》のカードだった。
《黒炎弾》は《
《
この決闘強姦魔の場にはカード名を《真紅眼の黒竜》として扱う《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》がいるので《黒炎弾》によるダメージは3500ポイント。
「次の俺のターンでこいつを使えば、今度こそ暇潰しは終わる」
実際、今の遊羽の手札に効果ダメージを無効化する手段はない。
「だからお前は何としてもそれまでに決着をつけなきゃいけないわけだが、残念なお知らせがあるぜ。俺の二枚目の手札はこれだ」
最後に残った手札をレイプデビル叡傲が表向きにする。
そのカードは《神の宣告》。
ライフポイントを半分払うことで召喚、特殊召喚、魔法、罠、あらゆるカードを無効化するカウンター罠。
つまり次のターン、レイプデビル叡傲は遊羽の使うカードを何でも一枚は無効化できるということ。
「そして流星竜メテオ・ブラック・ドラゴンが墓地に送られた時、通常モンスター、要は真紅眼の黒竜を蘇生できる。おっと、アカデミアを次席で卒業した奴にこの説明はいらねえか」
仮に《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》を破壊しても《真紅眼の黒竜》を残せば《黒炎弾》を発動される。
「ここまででも相当厳しいと思うが、更に残酷な事実を教えてやる。俺の墓地のカードを見な」
そう言ってレイプデビル叡傲がデュエルディスクの墓地のカードを公開する。
目に入ったカードを見て、思わず遊羽は唇を噛んだ。
そのカードは《超電磁タートル》。
デュエル中、一度のみ使用できる効果モンスターであり、相手のバトルフェイズに墓地から除外することで、そのバトルフェイズを強制的に終了させるカード。
「ま、ざっとこんなもんだ。雇い主にも言ったが俺は最強を超越した無敵の決闘強姦魔なんでね。無敵とは読んで字のごとく敵が無しということ。俺に勝てるデュエリストなんて存在しねえのさ」
両手を大きく広げながらレイプデビル叡傲が半笑いで宣言する。
「くひひ、俺は《神の宣告》をセットしてターンエンド」
強い。
最早、それは認めざるを得ない。
ハンデ付き強者と称した決闘強姦魔だが、この男は他とは別次元の存在。
同じ二大決闘強姦魔でもセックスデーモン豚島とは格が違う。
レイプデビル叡傲は紛れもなく超一流のデュエリストだ。
流石に決闘女王が刺客として差し向けただけはある。
絶望的状況の中で遊羽の脳裏に浮かんだのは、デュエルアカデミア最終卒業試験の記憶だった。
◇
二年前。
ブラックドミノシティ、デュエルアカデミアの試験場にて、遊羽はオベリスクブルーの青い制服を着てデュエルを行っていた。
対戦相手は杠葉色音。
彼女も同じように青い制服を着ている。
行われているのは成績最上位者二名による最終卒業試験。
このデュエルに勝利したデュエリストが、主席で卒業して決闘王に挑む権利を得ることができる。
デュエルは既に最終局面に差し掛かっていた。
杠葉色音 LP900
ライフポイントだけなら色音がリードしているが、盤面や手札、墓地の状況を見ると遊羽の方が圧倒的に有利、否、既に勝利は決まった。
現在は遊羽のターンであり、場にいるのは三体の最上級昆虫族モンスター。
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
《ポセイドン・オオカブト》
星7 地属性 昆虫族
攻撃力2500 守備力2300
《デスサイズ・キラー》
星8 風属性 昆虫族
攻撃力2300 守備力1600
一方で色音の場には三体の最上級植物族モンスターと一体のエクシーズモンスターがいる。
《
星8 水属性 植物族
攻撃力2800→2500 守備力1200→500
《
星8 風属性 植物族
攻撃力2800→2100 守備力2600→1900
《
星8 炎属性 植物族
攻撃力2800→2100 守備力1600→900
《フレシアの蟲惑魔》
ランク4 地属性 植物族
攻撃力300→0 守備力2500→1800
それらの植物族モンスターは《アルティメット・インセクトLV7》の効果で攻撃力と守備力が700ポイントダウンしていた。
色音に手札はなく、魔法、罠ゾーンにもカードはない。
墓地にあるカードは全て把握できており、攻撃妨害系のカードがないのは分かっている。
色音の墓地に残っている中で、唯一墓地から効果を発動できるカードは《ブレイクスルー・スキル》。
墓地から除外することで相手フィールド場のモンスター1体の効果を無効にする罠カードだが、あの墓地効果は自分のターンにしか発動できない。
一番、厄介だったのは守備表示で場にいる《フレシアの蟲惑魔》。
エクシーズ素材を取り除き、デッキから『落とし穴』通常罠カードを墓地に送ることで、その罠カードと同じ効果を使うことができるエクシーズモンスター。
だが《フレシアの蟲惑魔》には既にエクシーズ素材がなく、その効果を発動することはできない。
「バトル! デスサイズ・キラーで
《デスサイズ・キラー》が大鎌で《姫葵マリーナ》の首を刎ねた。
杠葉色音 LP700
更に色音の場の植物族モンスターが減ったことで《桜姫タレイア》の攻撃力が100ダウンする。
《桜姫タレイア》
攻撃力2500→2400
あと二体、《ポセイドン・オオカブト》と《アルティメット・インセクトLV7》で植物姫を攻撃すれば色音のライフポイントを0にできる計算だ。
「……遊羽、勝負はこれからよ」
色音が制服のポケットからプラスチックケースを取り出した。
その容器には『長い腕とかぎ爪が特徴の奇妙な姿をした悪魔』のラベルが貼られている。
間違いない。あれはデュエルドラッグの中でも、短時間に三粒飲めば絶命すると言われているSランクの危険薬物『Theモリンフェン』だ。
「今の攻撃で私はモンスターを一体失った」
色音が容器から錠剤を一つ取り出すと躊躇なく飲み込んだ。
「そこでモンスターが倒されるたびに、私は一粒ずつ、このデュエルドラッグを飲んでいく」
「何!?」
「私が逆の立場なら躊躇なく攻撃するでしょう。あなたはどうするの、遊羽。デュエルで私を殺して目的を達成する覚悟があるのかしら」
仮にここで攻撃をしなければ、次の色音のターンで墓地の《ブレイクスルー・スキル》を使用され《アルティメット・インセクトLV7》の効果が無効化される。
そうなれば攻撃力が元に戻った植物姫によって、こちらの大型昆虫モンスターが撃破されライフポイント100の遊羽は敗北する。
「何を馬鹿げたことをしているのですか!」
「見損ないましたわ、杠葉さん!」
この試験場には他に二名の女性がおり、彼女たちが声を上げた。
それらの声を無視して色音は無言で視線を合わせてくる。
その目を見れば言葉による説得は不可能と理解させられた。
「……私は負けられない。真帆を助けなくちゃいけない。ポセイドン・オオカブトで
《ポセイドン・オオカブト》が三叉槍で《椿姫ティタニアル》を刺し抜いた。
杠葉色音 LP300
即座に色音がプラスチック容器から二つ目の錠剤を取り出して飲み込む。
《桜姫タレイア》
攻撃力2400→2300
デュエルアカデミアは医療設備も整っているのだから、三粒目を飲んでも、そのまま死ぬことはないはず。
倒れた色音をすぐに医務室に運び込めば、医療スタッフによる処置を施すことが可能だ。
「私はアルティメット・インセクトLV7で桜姫タレイアに――」
それでも、もし間に合わなかったら。
医務室での治療が上手くいかず色音が絶命したら。
死ななかったとしても後遺症が残ったら。
攻撃宣言ができない。
時間だけが経過していく。
そしてデュエルディスクのタイムカウンターが300秒になって相手にターンが移った。
「私の勝ちよ」
カードをドローした色音が墓地の罠カードの効果を発動する。
「《ブレイクスルー・スキル》を除外してアルティメット・インセクトLV7の効果を無効にするわ」
《
攻撃力2300→3000 守備力500→1200
「桜姫タレイアでアルティメット・インセクトLV7に攻撃」
《桜姫タレイア》の攻撃によって《アルティメット・インセクトLV7》が木端微塵に砕け散る。
癲狂院遊羽 LP0
この瞬間、最終卒業試験の勝者が決まった。
「杠葉さん! あなた自分が何をしたか分かっていらっしゃるの!!」
デュエル終了後、最初に言葉を発したのは赤髪縦ロールの女学生。
最終成績三位であり、この卒業試験の場に立ち会うことを認められたオベリスクブルーの生徒、
トップスの市民であるがノブレス・オブリージュの精神を持つデュエリストだ。
「遊羽さんはデュエリストとして正々堂々デュエルをした。それなのに、よくもこんな卑怯な真似を!」
オベリスクブルーに昇級した当初はぶつかり合った間柄だった。
そんな彼女が今、握りしめた扇子を軋ませながら、遊羽のために本気で怒っている。
「部外者は黙っていてくれるかしら」
それを色音は酷く冷徹な声で一蹴した。
「でしたら試験官である私が言いましょう。この最終卒業試験は無効です」
この場にいたもう一人の女性、古牧美玲が淡々と宣言した。
言葉遣いこそ普段通りの丁寧口調であるが、声色からは怒りが滲み出ている。
「いいや、古牧君。このデュエルの勝者は杠葉色音だよ」
試験会場のドアが開き禿げ頭の中年男性が現れた。
「何をふざけたことを言っているのでしょう、校長」
この男はブラックドミノシティ、デュエルアカデミア校長、
「ふざけているのは君だろう。ライフポイントが0になったのは癲狂院遊羽だ。このデュエルの勝者が誰であるかは明白だよ」
「その過程に明らかな問題があるでしょう」
「僕もモニター越しにデュエルを見ていた。音声も聞いていたが、あのデュエルには何の問題もなかったよ」
そしてオベリスクブルーの制服越しに色音の尻を鷲掴みにする。
「分かっているね、色音君。これが終わったら校長室に来るように。僕はもう興奮が抑えられないよ」
正元公平の股間は膨れ上がっており勃起していた。
その光景を見て遊羽は状況を理解する。
疑問ではあったのだ。あの勝ち方では試験官である美玲が色音の勝利を認めないだろうと。
だから色音は上級教師の美玲より上の権力者、校長である
ブラックドミノシティのデュエルアカデミアでは不正を防止するため、試験におけるデュエルの結果は即座に公開され、全教員及び全校生徒の携帯端末で共有される。
それによってトップス市民の生徒が試験官に圧力を掛けても、デュエルの結果が覆されることはない。
だが逆に言えばどんな形であろうとデュエルに勝ちさえすれば、あとは決定権を持った人間を味方につけることで、その結果を押し通せるということ。
「校長、いえ、正元公平。このような行いは教育者として許されることではありません」
「君は優秀な教師だ。だから今の暴言は一度だけ聞き流そう。だが二度目はないよ」
これ以上、反抗するなら教師を続けられなくなると言外に含ませている。
「そもそもデュエル開始前の口上でもこう言ってるだろう。勝敗はカードの強さのみで決まらず。デュエリストの技量のみで決まらず。ただ、結果のみが真実、と」
言いながらも
「杠葉さん。あなたは女性として、デュエリストとして恥ずべき行為をした」
「お言葉ですが古牧先生、私は自分が何ら恥じることをしたとは思っていません。むしろ主席での卒業が決まったことを誇りに思っています」
「き、貴様!」
美玲がデュエルディスクを起動して、セイフティモードを解除した。
ここまで怒りを露わにした古牧美玲という教師を見たのは初めてだ。
「デュエルで体罰ですか、先生。デュエル教育委員会に訴えますよ」
「そうだよ、古牧君。冷静になりたまえ。そんなことをしたら君を懲戒解雇にせざるを得なくなる」
「上等です、やってみ」
「やめて、美玲先生。もういいよ」
美玲が強制デュエルを仕掛けようとしたところで、遊羽は声をかけて静止した。
恩師が懲戒解雇になるのを黙って見過ごすわけにはいかない。
「このデュエル、私の負けだ」
これまで人生において敗北したのは一度きりだった。
別にデュエルで一回しか負けたことがないわけではない。
デュエル孤児院やアカデミアで行った全てのデュエルで常勝無敗だったわけでもない。
遊羽にとっての敗北とは、勝たなくてはならない場面で負けることだ。
一度目の敗北は無力故に。
ブルジョア流デュエリスト北条
そして、これは二度目の敗北。
その甘さ故に、最終卒業試験という場において杠葉色音に敗北した。
「あなたは虫けらのように地を這いなさい、癲狂院遊羽」
嘲るような声色だった。
口元を歪ませ嘲笑を浮かべながら色音が言い放つ。
「私が天に立つ」
その一か月後、宣言通り決闘王を下して、杠葉色音は初代決闘女王となった。