女王杯二回戦が行われている中、時を同じくしてC区の各所にて特定のデュエリストたちが襲撃を受けていた。
被害者は全員がBランク以下のプロデュエリスト。
女王杯を観戦するため街を出歩く人間が少なくなり、セキュリティの巡回も手薄になる中で不良デュエリストグループによるプロデュエリスト狩りが行われているのだ。
「くそっ! 何で、こんなことに」
「とにかく今は逃げるしかない!」
C区の路地を走るのは二人のBランクプロデュエリスト、岡山次郎と吉田洋介。
数分前、彼らは金髪タンクトップの不良、名蜘蛛コージからデュエルで襲撃を受けた。
その場にいた三人目のBランクプロデュエリスト、北島健吾が強制デュエルの対象となったので、その間に逃げているのだ。
「ここまで来れば大丈夫か」
「ああ、何とか撒けたみたいだ」
助かったと思った直後、二人の前に複数の不良集団が現れた。
「フフ、ここにもプロデュエリストが二匹いるみたいだな」
「ツイてますね、蛭谷さん。このカス共からさっさとデッキとディスクを奪って転売してやりましょう」
リーダー格と思われる蛭谷と呼ばれた不良が前に出る。
次の瞬間、岡本次郎のデュエルディスクが自動的に起動した。
蛭谷と呼ばれた男から強制デュエルを仕掛けられたのだ。
「だ、駄目だ! プロデュエリストではこいつらには勝てない!」
吉田洋介はとっさに身を翻して脱兎のごとく逃走した。
幸運だったのは丁度付近の脇道に枝分かれした細い路地があったこと。
同僚であった岡本次郎を見捨てながらも洋介は何とか蛭谷の集団から逃げ切る。
「はやく、少しでも遠くへ」
だがそんな洋介の前に別の不良集団が立ち塞がった。
「百済木さん、プロデュエリスト発見です」
「取り囲んで百済木軍団の餌食にしてやりましょう!」
あっという間に不良たちから取り囲まれて逃げ道がなくなる。
そして百済木と呼ばれた頭が異様にデカい不良が近寄ってきた。
「今回のテーマは痛みだ!」
強制デュエルを仕掛けられ洋介のデュエルディスクが自動的に起動する。
「ち、畜生! やるしかないのか」
吉田洋介 / LP4000
VS
百済木 / LP4000
やむを得ずデュエルを受けて立つ洋介。
だが数ターンが経過する頃には洋介のライフは500になっていた。
一方で百済木のライフポイントは無傷。
Bランクプロデュエリストでは、裏でも闇が浅い、厳密に言えば裏に片足を突っ込んでいる程度と称される不良デュエリスト相手でも歯が立たない。
「こいつで痛みを与えてやるぜぇ! 暴鬼!!」
《暴鬼》
星4 炎属性 悪魔族
攻撃力1700 守備力1100
「更に装備魔法《ドーピング》発動!」
《暴鬼》
攻撃力1700→2400
「こ、攻撃力2400、そんなモンスターどうやって倒せばいいんだ!」
「暴鬼で攻撃!!」
リアルソリッドビジョンの衝撃によって洋介の体が宙を舞った。
吉田洋介 LP0
地面に転がった洋介から百済木がデュエルディスクごとデッキを奪い取る。
「お楽しみはこれからだ。おい、お前ら。こいつに痛みを与えるぞ」
「や、やめ」
不良集団によるリンチを受けた洋介の悲鳴がC区の裏路地に響き渡った。
現在、このようなプロデュエリスト狩りがブラックドミノシティC区の各所で行われている。
その原因の一つは堂本春男とSランクプロデュエリストたちが軒並み逮捕されたからだ。
プロデュエリストは裏において堂本春男の商品として認知されていたので、これまでは安易に手を出すような者はいなかった。
堂本の影響を受けない裏の大物は、そもそも高価なカードの入っていないデッキしか持っていないプロデュエリストごときを狙わない。
そして安価なデッキとデュエルディスクを奪って転売するような輩は、堂本やSランクプロデュエリストを敵に回すような真似はしなかった。
堂本春男が逮捕されたことによって、Bランクプロデュエリストは庇護を失い不良たちに獲物認定されたのだ。
しかし、それらの事情があったとしても、最近ではあまりにも多くのプロデュエリストが襲撃を受けている。
まるで彼らの個人情報が筒抜けになっているように。
一時間後。
C区のバーにて三人の不良デュエリストが集まっていた。
名蜘蛛、蛭谷、百済木の三名だ。
そして、その正面には数人の女たちがいる。
「フフ、いいビジネスだった。貴様の情報で多くのプロデュエリストを狩れたぜ」
蛭谷が女の一人に100万円を渡し、それに続いて名蜘蛛、百済木も同額の金を差し出す。
「きゃぴきゃぴ! 役に立ったなら良かったですぅ」
金を受け取ったのは紫色のブランド服を着た茶髪の女、フラワー花村。
Aランクプロデュエリストであり、プロデュエリスト協会の現会長だ。
「はい。じゃあ、新たなプロデュエリストの個人情報リストを渡しますぅ」
フラワー花村が不良三人にBランク以下のプロの個人情報が記されたリストを手渡す。
「クク、新しいカモ共の情報が満載だな。住所まで分かればいつでも狩れるぜ」
受け取ったリストに目を通した名蜘蛛が獰猛な笑みを浮かべる。
「こいつらからデッキとデュエルディスクを奪った後は、また痛みを与えやる」
百済木が興奮気味な様子で言った。
「きゃぴ! 低ランクプロの皆さん、お気の毒ですぅ」
これが現在、Bランク以下のプロデュエリストたちが狩られ続けている最大の原因だった。
商品だったプロデュエリストを曲がりなりにも守っていた堂本春男とは異なり、新会長のフラワー花村は下位のプロデュエリストを不良グループに売り渡していたのだ。
そしてこれはフラワー花村の独断というわけではない。
「こいつらは現会長である花村さんの辞任をしつこく訴えてくる、うざったいBランクのゴミ共でありんす。デッキとディスクを奪った後は徹底的にリンチしてもらってかまわんでありんすよ」
そう言ったのはフラワー花村の横にいた赤いブランド服を着た茶髪のAランクプロ、ダイヤモンド金剛。
元々、Bランク以下のプロデュエリストの個人情報売却をフラワー花村に進言したのはダイヤモンド金剛だった。
「おっと、リストを受け取ったからって変な気は起こさない方がいいでありんすよ。私たちプロデュエリストではあんた方にデュエルで勝つことはできない。だからこうして用心棒を雇ってるわけでありんすからね」
Aランクプロデュエリストたちの背後には金で雇われた護衛たちが複数人いる。
その内の一人、ダイヤモンド金剛が雇った裏のデュエリストである大柄な男が前に出た。
「シシシ、このお嬢さん方に手を出すなら俺が相手をしよう」
『闇』と書かれた帽子を被った悪人顔の大男であり、闇のプレイヤーキラーと呼ばれている裏のデュエリストだ。
「これが真のデュエリストのやり方でありんす。自分の使うカードの効果を一々覚える必要なんてないでありんすよ。そんなことしなくても強いデュエリストを雇えばいい」
このデュエルで全てが決まる世界において、カードテキストの解読スキルは人によって差があるが、自分の使用するデッキ40枚の効果だけであれば、どれだけデュエリスト適正が低い人間であろうと時間をかければ覚えることができる。
だがAランクプロデュエリストの中に自分のデッキに入ってるカードの効果を真面目に読んだ者など一人もいない。
それは彼女たちにとって面倒なことでしかなく、そんなことをせずとも堂本春男に股を開けばAランクの地位を得ることができた。
それにデュエルディスクが自動でカードの効果処理をしてくれるのだから、効果モンスターの効果も運が良ければ有効なタイミングで発動する。
「フフ、お前たちとはこれからも良好な関係を築いていきたいからな。そんな野蛮な真似はしないさ」
表面上は友好的な姿勢を見せる蛭谷の言葉をダイヤモンド金剛は信用しない。
用心棒として雇った裏のデュエリストたちがいなければ、この不良共が実力行使に及ぶ可能性も十分にあると考えている。
聞けば過去にフラワー花村は安易な気持ちで裏の仕事をしようとして痛い目にあったという。
プロデュエリストでは裏のデュエリストには勝てないのだ。
ならばその裏の人間を金で雇えばいい。
「じゃあさっそく、この新しいリストのプロデュエリスト共を狩りにいくぜ」
最初に名蜘蛛が出て行き、その後に蛭谷、百済木の順番で立ち去って行った。
「きゃぴ! 金剛ちゃんも考えたよね。邪魔なBランクプロを排除するだけじゃなく、こうやってお金まで手に入れちゃうなんて」
「Bランクのゴミ排除に金を使うのはもったいないでありんすからね。これなら無駄なくゴミを活用できるでありんす」
その言葉を聞いたAランクプロデュエリスト、ルビー赤石、サファイア青山、エメラルド緑谷がケラケラと笑った。
「この金があればまたデュエルホストに貢げるね」
「早く聖也君に会いたぁい」
「Bランクの男も生贄としては役に立つね」
Aランクプロデュエリストの中でも男遊びが激しく股が緩い、チューリップ虹絵、オーキッド白井、カーネーション桃美の三人が笑顔で言う。
「きゃぴきゃぴ! 金剛ちゃんは本当に頭がいいよね。春男ちゃんがいなくなったら、すぐにデュエル性被害者の会を立ち上げて協会のお金を独占することを思いつくなんて」
堂本失脚後、手のひらを返して自分たちはデュエル性被害者だと訴えて賠償金を取ろうと発案したのもダイヤモンド金剛である。
フラワー花村を始めとした頭も股も緩いAランクプロをまとめ上げて、Bランク以下に対する締め付けを大幅に強化しながらダイヤモンド金剛は着実に資産を増やしていた。
「まぁ男遊びも程々にした方がいいでありんす。前にも言いましたが近いうちにプロデュエリスト協会は崩壊するでありんすからね」
ダイヤモンド金剛とて長く搾取していけるなら、ここまでBランク以下の給料を減給して、挙句個人情報を売ってまで追い込むような真似はしなかった。
だが元々プロデュエリスト協会は人気だった実力派デュエリストが過去に軒並み抜けた時点で多くのスポンサーを失っており、残っていたスポンサーは堂本春男との関係を維持しておきたいという思惑がある者が大半だった。
その堂本が逮捕されたことによって、殆どのスポンサーがプロデュエリスト協会への出資を打ち切ったのだ。
「今のプロデュエリスト協会は沈みゆく泥船。救命ボートの数は限られてる。なら生き残るのは私たちAランクプロデュエリストでありんすよ」
Bランク以下のプロデュエリストが一家心中しようが下層区落ちしようが、そんなことは知ったことではない。
その時、バーの扉が勢いよく開いた。
「見つけたぞ、ダイヤモンド金剛!」
「てめえもだ! フラワー花村ぁ!!」
「Aランクのクソ女共が!」
扉の外に立っていたのは三人のBランクプロデュエリストだ。
「あー、面倒なゴミ共が来たでありんすね。護衛の皆さん、お仕事よろしく。相手は三人なんで、こちらも適当に三人選ぶでありんすよ」
「シシシ、その必要はない。プロデュエリスト程度なら俺一人で三人まとめて相手をしてやる」
言いながら闇のプレイヤーキラーが前に出た。
「きゃぴきゃぴ! 頼もしいですぅ。ゴミ掃除、やっちゃってください」
「くっ! 嘗めやがって!」
「相手が裏のデュエリストだろうと三人がかりなら!」
「まずはこいつを倒してからAランクのクソアマ共をデュエルで叩きのめす」
こうして三対一による変則強制デュエルが開始される。
闇のプレイヤーキラー / LP4000
VS
Bランクプロデュエリスト / LP4000
Bランクプロデュエリスト / LP4000
Bランクプロデュエリスト / LP4000
だが数ターンが経過する頃には既に大勢は決していた。
闇のプレイヤーキラー LP4000
Bランクプロデュエリスト LP240
Bランクプロデュエリスト LP390
Bランクプロデュエリスト LP260
闇のプレイヤーキラーのライフポイントが無傷であるのに対して、Bランクプロデュエリスト三人のライフは風前の灯火だ。
そして闇のプレイヤーキラーのフィールドには三体の上級モンスターがいる。
《闇魔界の覇王》
星5 闇属性 悪魔族
攻撃力2000→2500 守備力1530→1130
《ダーク・キメラ》
星5 闇属性 悪魔族
攻撃力1610→2110 守備力1460→1060
《カードを狩る死神》
星5 闇属性 悪魔族
攻撃力1380→1880 守備力1930→1430
「シシシ、俺は闇を味方につける」
それらのモンスターは闇のプレイヤーキラーが発動したフィールド魔法《ダークゾーン》の効果で攻撃力が500アップしている。
一方でBランクプロデュエリストの場には各自下級モンスターが一体ずついた。
《エルフの剣士》
星4 地属性 戦士族
攻撃力1400 守備力1200
《グリフォール》
星4 地属性 獣族
攻撃力1200 守備力1500
《砦を守る翼竜》
星4 風属性 ドラゴン族
攻撃力1400 守備力1200
いずれも《ダークゾーン》によって強化された闇のプレイヤーキラーの上級モンスターには太刀打ちできない。
闇のプレイヤーキラーは裏社会の中では下位のデュエリストであり、所持しているカードもそこまで強くはない。
他の用心棒たちも同程度の実力であり、これはダイヤモンド金剛が護衛費用を節約するために安く雇える人材を集めたからだ。
だがBランクプロデュエリストを相手にするなら、それらの安い裏の人材でも十分だった。
Bランク以下のプロは常に生活苦であり、例えレアカードを入手する機会があってもすぐに売却するためデッキには強いカードが入っていない。
女王杯に召集された面子はまだマシな方であり、この三人のデッキは女王杯予選敗退者のBランクプロよりも更にカードパワーが低かった。
「バトル! ダーク・キメラで砦を守る翼竜を攻撃」
Bランクプロデュエリスト LP0
「カードを狩る死神でグリフォールを攻撃」
Bランクプロデュエリスト LP0
「闇魔界の覇王でエルフの剣士を攻撃。魔導波!」
Bランクプロデュエリスト LP0
リアルソリッドビジョンの衝撃によってBランクプロたちは吹っ飛んでバーの床を転がった。
「雑魚が! Bランクのゴミの分際で私たちAランクプロデュエリストに歯向かってんじゃねえよ!」
ダイヤモンド金剛が倒れたBランクプロに近寄るとその顔面に蹴りを入れた。
「てめぇらゴミはプロデュエリスト協会が潰れる時まで、私たちAランクプロに黙って搾取されてればいいでありんす!」
強制デュエルによって無力化された状態のBランクプロを何度も踏みつける。
「きゃぴ! ちょっと待って金剛ちゃん」
それを静止したのはフラワー花村。
「何でありんす、花村さん」
「リンチする前にデュエルディスクとデッキを回収しとこうよ。こいつらのゴミデッキでも売ればホスト代の足しにはなりますぅ」
「そう言えばそうでありんすね。デュエルディスクは奪って転売すると足が付くから、裏ルートで初期化して売れる蛭谷たちにでも渡せばいいでありんしょ」
ダイヤモンド金剛がフラワー花村と共にBランクプロ三人からデッキをデュエルディスクごと回収した。
「か、返せ! それは俺たちの大切なデッキだ」
「だからうるせえって言ってんだろ!」
即座にダイヤモンド金剛がBランクプロの顔面をサッカーボールキックする。
「闇のプレイヤーキラーさん。このゴミ三人を店の外に連れてくでありんす」
「シシシ、了解」
闇のプレイヤーキラーがBランクプロ二人を両手で掴み上げると、三人目を腕に仕込んでいたワイヤーロープで捕獲して引きずりながら外に出した。
「私はこれから花村ちゃんとBランクのゴミをリンチするでありんすが、それ加わりたい奴は一緒に来るでありんす」
「じゃあ、私もやろうかな」
「サンドバックを蹴ってストレス発散だね」
「きゃはは! 私もリンチする」
ルビー赤石、サファイア青山、エメラルド緑谷はすぐにダイヤモンド金剛に続いた。
「えー、でも靴が汚れないかな」
「服とかにも返り血がつくかも」
「汚い男の血でブランド服を汚すのはやだなぁ」
チューリップ虹絵、オーキッド白井、カーネーション桃美は衣服が汚れることから躊躇を示す。
「きゃぴきゃぴ! 大丈夫ですぅ。このゴミデッキでも全部売れば新しいブランド服や靴を買う予算にはなるでしょう」
「そっか、ならリンチしちゃおう」
「Aランクプロデュエリストである私たちに盾突いた報いを受けさせないとね」
「下等なBランクの男とAランクプロの私たちとの格差を教えてあげる」
こうしてAランクプロデュエリストたちの手によってBランクプロはリンチされてバーの裏に捨てられた。
そして今この瞬間にもC区の至る所で不良デュエリストたちによるプロデュエリスト狩りが行われている。
プロデュエリスト協会崩壊へのカウントダウンは既に始まっていた。