街中でプロデュエリストたちが襲撃を受ける中、その代表だった男、プロデュエリスト協会元会長、堂本春男はC区の北西にあるデュエル刑務所に収監された。
春男は普段から身に着けていた質の良いブランド服を脱いで、横縞の囚人服に着替える。
「ふふ、まさか僕がこの服を着る時がくるとはね」
プロデュエリスト協会会長から一転してデュエル囚人に転落したが不思議と悪い気はしなかった。
八百長も忖度もなく、デュエリスト同士が全力でぶつかり合うデュエル。
こんな世界もあったのかという思い。
いや、知らなかったのではなく、忘れていただけ。
それは、かつて春男がプロデュエリスト協会に入った頃、駆け出しプロデュエリストだった頃に持ち合わせていた気持ち。
収監された際、携帯電話こそ取り上げられたものの、それ以外の私物が没収されることはなかった。
金銭やデッキだけでなくデュエルディスクの所持も認められている。
数年前まではデュエルディスクは没収されていたそうだが、最近では人権派デュエリストたちがデュエル犯罪者の人権を守れと騒ぎ立てた結果、一般のデュエル刑務所では囚人のデュエルディスク着用を認可しているという。
看守に連れられて到着したのは六人部屋の雑居房だった。
室内には五人の男がいる。
部屋の中に入った春男に最初に声をかけたのは四十代ほどの細身の男性だった。
「あんたのことは知ってる。プロデュエリスト協会の会長だな」
「元会長だよ。それでどうする。プロデュエリストから恐喝でもしてみるかね」
「冗談抜かせ。あんたは今の雑魚しかいないプロデュエリスト協会を作った張本人だが、同時に全盛期のプロデュエリスト協会のデュエリストの一人でもある」
事実として、春男は全盛期のプロデュエリスト協会において上の下の実力があると評されたデュエリストだ。
「それに俺は、いやここにいる俺たちに新入りをデュエルで恐喝する気力はないんだ」
見ればこの男に限らず、ここにいる五名は全員がぐったりとした様子だった。
「何だ。このデュエル刑務所はまともな食事も出ないのか」
だとしても春男としては、それでかまわなかった。
むしろ収監されたこの機会に肥満気味の体型を改善できるかもしれないと思っている。
これまでは全く意識していなかったが、決闘女王のファンになってからは自分の体型を気にするようになっていた。
「いや、食事はちゃんと配給されている。だがあの女に、俺たちはデュエルで飯を奪われたんだ」
どうやら囚人の中に食事をデュエルで強奪する女性がいるらしい。
「あんたも気を付けることだな。あの女はレアカードを餌にして一か月分の飯を賭けさせてデュエルを行う。その際、看守に仲介させることで契約を確実なものにしてる」
ここにいる者たちはその女にデュエルで敗北して一か月分の飯を譲渡したということ。
「その女の名前は……いや、奴もあんたと同じく有名人だ。食堂に行けば嫌でも分かるだろう」
それだけ言うと細身の男性は牢屋の隅に戻り寝転がった。
◇
三時間後、春男は他の五名の男性と共に食堂に向かった。
彼らはデュエルに敗北して一か月分の食事を譲渡する契約をしたようだが、パンだけは与えられるようだ。
刑務所側としても囚人が餓死すると問題になるので、パンは奪わないように勧告したのだろう。
食堂に到着すると、そこでは看守立ち合いの元、二人の男女がデュエルを行っていた。
《ザ・キックマン》
星3 闇属性 アンデット族
攻撃力1300 守備力300
男性の方の場にはアンデット族の下級モンスター《ザ・キックマン》いる。
一方で女性の方の場には、あの有名なドラゴン族モンスターがいた。
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
「おほほほ! これでこの男の飯もわたくしの物ですわ! 滅びのバーストストリーム!」
《青眼の白龍》の攻撃によって《ザ・キックマン》が木端微塵に戦闘破壊され男性のライフポイントが0になった。
成程。確かにあの女は春男とは違った形で有名人だ。
横縞の囚人服を着た金髪ロングヘアの少女。
龍堂院カンパニーの元後継者である令嬢、龍堂院麗華だった。
「……僕が責任をとるしかないか」
それは以前であれば考えもしなかったこと。
プロデュエリスト協会会長だった頃の春男にとって責任はとるものではなく押し付けるものだった。
あの令嬢がこの刑務所に来ることになったのは、元はと言えば春男が原因である以上、責任を果たそうと思った。
「久しぶりだね、龍堂院君」
「あなたは堂本! よくもわたくしの前に顔を出せましたわね。あなたのせいで、わたくしはこんな所に来る羽目になりましたのよ」
「そのお詫びも兼ねて僕のパン以外の食事を君に渡そう」
それがこの令嬢が刑務所送りになるきっかけを作った春男なりのケジメ。
「ただし交換条件として他の囚人の食事は返してやってくれないか」
春男の言葉に周囲にいた囚人たちがざわついた。
その中には困惑している者が多くいる。
世間一般における堂本春男という人物の悪いイメージ像と今の言動が一致しないからだろう。
「ほほ、何を言うかと思えば。お断りですわ! 手に入れた飯は全部わたくしもの! そんな条件飲まずとも、あなたの飯もデュエルで奪ってやりますわ」
穏便に行きたかったがこうなっては仕方ない。
「なら僕の食事と他の囚人から奪った食事を賭けてデュエルしよう」
「わたくしは既に二十人以上の囚人に一ヵ月分の飯の譲渡を契約させましたわ。あなたの一食ではまるで足りなくてよ」
思った以上にこの令嬢は囚人たちから食事を強奪しているようだ。
「だったら一ヵ月と言わず僕が刑務所にいる間のパン以外の食事全てを賭けるならどうだ」
「ほほ、毎月デュエルで奪う手間を省ける飯が一食あるというのはいいですわね。ですが、それだけでは二十食の一か月分の飯とは釣り合いませんわ」
アンティの折り合いがつかずデュエルが成立しない状況。
「おやぁ、何やら揉めているようだな」
ここで現れたのは黒い肌をした髭面の大男だった。
「俺様はこの刑務所で所長をしている鷹栖という者だ」
髭面の大男が鼻毛を抜きながら自己紹介を行う。
「アンティ条件の調整は俺様がしてやろう。そして龍堂院カンパニーの元後継者とプロデュエリスト協会の元会長。このマッチングに相応しいデュエルの場を用意してやる」
「所長、あれをやるんですね」
何やら期待した様子で看守の一人が言った。
「そうだ。俺様の刑務所伝統のライトニング・デスマッチ。デュエルディスクにチェーンを繋いでライフポイントが減るたびに電流が流れるデュエル。負けた側は一か月間、懲罰房送りになってもらう」
「ちょっと待ってくれないか。僕は若い娘に電流を流す趣味はないんだが」
流石に刑務所内で死人を出す気はないだろうが、相当な痛みを伴うようなデュエルであることは明白だ。
春男としては囚人たちの食事を取り戻せればいいわけで、この令嬢をデュエルで痛めつける気はない。
「あら! よろしいではなくて。肥え太った豚が感電する様子はさぞかし見ものでしょう。撮影してDチューブにアップできないのが残念ですわ」
だが龍堂院麗華は乗り気な様子だった。
「そこでアンティの調整の話になるが、電流が流れる条件に差をつける。元会長は本来のルール通りライフポイントが減るたびに電流を流すが、お嬢様の方はライフが0になった時のみ電流が流れるというのはどうだ」
「ほほ、いい条件ですわね。プロデュエリストごときに負けることはあり得ませんが、マグレでダメージを負った時、電流が流れるのは面倒だと思ってましたの。よろしくてよ。この条件でデュエルを受けますわ」
「お嬢様は乗り気のようだな。プロデュエリスト協会の元会長としてこの勝負から逃げるわけにはいかないのでは?」
猫なで声で鷹栖が言質をとろうとしてくる。
「……分かった。僕もその条件で受けよう」
「よし、決まりだな。おっと、言っておくが、このデュエルは貴様らが勝手に始めたこと。何が起ころうと俺様に責任はないぞ。元会長、それにお嬢様」
◇
所長、鷹栖に連れて来られた先はデュエル刑務所内にあるデュエル場だった。
デュエルリングの周囲では複数の囚人と看守たちが金を取り出して何かのやり取りをしていた。
「俺はあのお嬢様に七万賭ける」
「龍堂院に十万円」
「元会長に九万」
「ブルーアイズ女に八万」
「堂本に五万だ」
どうやらこれから始まるデュエルの勝者予想で賭けをしているようだ。
「チェーン・デスマッチは刑務所内でも人気のあるエンタメでな。外部にもライブ配信したら、これが大ヒット。人権派デュエリストやデュエル有識者とかいう連中にも人気なんだ」
鼻毛を抜きながら鷹栖は自慢げに語る。
「何だ、俺様に何か言いたいことでもあるのか」
「いや、少し意外でね。所長殿。あなたは囚人をもっと手酷く扱う人間に見えたのだが」
プロデュエリスト協会会長として多くの権力者に接してきた春男の第一印象としては、この鷹栖という男はもっと粗暴で暴力的な人間に見えた。
正直なところ、トップに立って刑務所をまとめていくような器ではないという印象だった。
だが実際話してみると意外と保身や金策に長けており、看守や囚人たちのガス抜きとして賭けを認める器量もある。
「ほぉ、人を見る目はあるようだな。その通り、俺様は囚人などゴミのように扱って構わんと思っている。だが長く刑務所を管理する内にゴミにも使い道があることに気づいたんだよ」
単に締め付けるのではなく、飴と鞭を使い分けることで私腹を肥やすことを学んだということか。
仮に囚人たちの中にヒーローのような存在がいれば、この男は粗暴な内に倒されて所長をクビになっていたかもしれない。
だが、そうはならなかった。
囚人の英雄などおらず、結果として所長、鷹栖はより狡猾にランクアップしたのだ。
「精々、頑張るんだな。なぁに、仮に負けても賄賂を払えば期間の短縮、金額次第では懲罰房から出してやってもかまわんぞ」
鷹栖がその場から離れた後、看守の一人に案内されてデュエルリングの立ち位置につき、デュエルディスクに鎖を装着する。
見れば龍堂院麗華も鎖を繋ぎ終えて準備が整った様子だ。
いよいよデュエルが始まろうという時、数人の囚人たちが声をかけてきた。
「勝ってくれ、堂本春男」
「あんたの評判は良くないが、それでも今は応援してる」
「レアカードに目が眩んで飯を奪われた僕たちは自業自得だ」
「そんな私たちを助けてくれるなら、あなたのことを信用する」
二十人ほどの男女がおり、その中には同じ雑居房にいた五人の男性もいる。
「頼む、堂本さん。俺たちの飯を取り戻してくれ!」
春男は囚人たちのヒーローなんて器ではなく、鷹栖を断罪する資格もない。
だがせめて、彼らの奪われた食事を取り返すぐらいのことはしようと思った。
「デュエルディスクの起動を許可する」
看守の指示を受けて両者がデュエルディスクを展開した。
カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。
オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされた。
デュエルディスクによって先攻、後攻が決定される。
堂本春男 / LP4000
VS
龍堂院麗華 / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのは龍堂院麗華だった。
「わたくしのターン。サファイアドラゴンを攻撃表示!」
《サファイアドラゴン》
星4 風属性 ドラゴン族
攻撃力1900 守備力1500
「カードを一枚セットしてターンエンドですわ」
攻撃力1900のモンスターを召喚するセレブ流の定石であるプレイング。
「僕のターン、ドロー。手札を一枚捨てて《コストダウン》を発動。このターン僕が召喚するモンスターのレベルは2ダウンする。デーモンの巨神を召喚」
《デーモンの巨神》
星6→4 闇属性 悪魔族
攻撃力2400 守備力1600
「バトル! デーモンの巨神でサファイアドラゴンを攻撃!」
「おほほ、上級モンスターを出したのは多少驚きましたが、所詮はプロデュエリスト。かかりましたわね。トラップ発動!《聖なるバリア -ミラーフォース-》」
《聖なるバリア -ミラーフォース-》は相手の場の攻撃表示モンスターを全て破壊する罠カード。
「攻撃は反射されてあなたの場のモンスターは返り討ちでしてよ!」
「デーモンの巨神の効果発動。このカードが効果で破壊される場合、代わりにライフを500払うことができる」
「なっ! プロデュエリストごときが特殊能力モンスターを! ほほ、ですが、お忘れになっているわけではないのでしょう。あなたがライフを減らすという事の意味を」
堂本春男 LP3500
ライフポイントが減った瞬間、春男の体全身に高圧電流が流れた。
「ぐっ! ぐぁぁぁ!」
「おほほほほほ! 本当に動画に出来なくて残念ですわ! これは最高のエンタメデュエルでしてよ!」
「……だがデーモンの巨神の攻撃は止まらない」
《デーモンの巨神》によって《サファイアドラゴン》が戦闘破壊される。
龍堂院麗華 LP3500
「ふん、やせ我慢を。どこまで電流に耐えられるか見ものですわね」
「僕はカードを一枚セットしてターンエンド」
「わたくしのターン、ドローですわ」
引いたカードを龍堂院麗華はそのまま発動した。
「魔法カード《古のルール》。手札にあるレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚しますわ! わたくしが出すのは当然、青眼の白龍!!」
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
「バトルでしてよ! 青眼の白龍の攻撃、滅びのバーストストリーム!!」
《青眼の白龍》の攻撃によって《デーモンの巨神》が戦闘破壊される。
堂本春男 LP2900
「ぐっ!」
再び襲い来る電流を春男は歯を食いしばって堪えた。
「おほほほほほほほほほほほ!! わたくしのブルーアイズでたっぷりと痛めつけてから飯を奪って、懲罰房送りにしてやりますわ!」
龍堂院麗華の高笑いが刑務所内のデュエル場に響き渡った。