堂本春男 / LP2900
VS
龍堂院麗華 / LP3500
デュエル刑務所にてプロデュエリスト協会元会長、堂本春男と龍堂院カンパニー元後継者、龍堂院麗華による飯を賭けたデュエルが行われていた。
ライフポイントが減るたびに電流が流れるライトニング・デスマッチだ。
春男が賭けたのは収監中の自分の飯。
龍堂院麗華は他の受刑者から奪ったニ十食以上の一か月分の飯を賭けている。
アンティの差を埋めるために、両者の電流が流れる条件には違いがあった。
春男は本来のルール通りライフポイントが減るたびに電流を受けるが、龍堂院麗華はライフポイントが0になった時点でのみ電流が流れる取り決め。
一見、両者の条件に大差はないように見えるが、それは大いなる間違い。
デュエルにおける勝利条件とは相手のライフポイントを0にすること。
本来であれば、その過程でどれだけ自分のライフを減らしたとしても、最終的に勝利できれば問題ない。
ライフコストとして自分のライフを払うのはもちろん、相手の攻撃をあえて受けて防御札を温存することもできる。
だがライトニング・デスマッチは、ライフポイントが減るたびに電流が流れる仕組みだ。
それ故にプレイヤーは自らのライフを減らす戦略をとることを躊躇せざるを得ない。
春男のデッキはライフコストを払う『デーモン』系のカードが多く入っており、それらの効果を使うだけでも電流を覚悟しなくてはならなかった。
一方で龍堂院麗華はライフコストを気にせず、普段通りのデュエルを行うことができる。
「わたくしはターンエンド。さぁ、あなたの番ですわ」
「僕のターン。ライフを500払い、セットしていた《デーモンの雄叫び》を発動」
堂本春男 LP2400
直後に流れる高圧電流を堪えながら春男は罠カードの効果を使用する。
「このカードによって僕は墓地のデーモンと名の付くカードを蘇生する。デーモンの巨神を特殊召喚!」
《デーモンの巨神》
星6 闇属性 悪魔族
攻撃力2400 守備力1600
「ほほ、それはさっきブルーアイズで倒しましたわ。蘇らせたところで意味はなくてよ」
「更にダーク・スプロケッターを召喚」
《ダーク・スプロケッター》
星1 闇属性 悪魔族
攻撃力400 守備力0
「レベル6《デーモンの巨神》にレベル1《ダーク・スプロケッター》をチューニング! シンクロ召喚! レベル7《デーモン・カオス・キング》!」
《デーモン・カオス・キング》
星7 闇属性 悪魔族
攻撃力2600 守備力2600
「なっ! プロデュエリストごときがシンクロモンスターですって! ですが攻撃力ならわたくしのブルーアイズの方が上ですわ」
「バトル! デーモン・カオス・キングで青眼の白龍を攻撃!」
「ほほ、数字もわからないとは所詮プロデュエリスト。返り討ちにして差し上げなさい、滅びのバーストストリーム!」
「デーモン・カオス・キングの効果発動。攻撃宣言時、相手フィールド場全てのモンスターの攻撃力と守備力を入れ替える」
《青眼の白龍》
攻撃力3000→2500 守備力2500→3000
「な、なんですって」
《デーモン・カオス・キング》によって《青眼の白龍》が木端微塵に砕け散る。
龍堂院麗華 LP3400
「くっ! プロデュエリスト風情がわたくしのブルーアイズを!」
「僕はこれでターンエンド」
「わたくしのターン。ドローですわ!」
引いたカードを龍堂院麗華がそのまま発動する。
「《強欲で貪欲な壺》。デッキの上からカードを十枚裏側表示で除外して二枚ドローいたしましてよ。ほほ、やはりわたくしは真のデュエリスト。必要なカードは全て手札に揃いましたわ。まずは《死者蘇生》を発動。墓地から青眼の白龍を特殊召喚」
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
「そして魔法カード《融合》。わたくしの残りの手札は二枚とも青眼の白龍。それを場のブルーアイズと融合しますわ。融合召喚! 真青眼の究極竜!!」
《真青眼の究極竜》
星12 光属性 ドラゴン族
攻撃力4500 守備力3800
手札を全て使い切ったとはいえ究極竜の融合に必要なカードを全て揃える辺り、この令嬢の強運は本物だ。
「ほほ、さあバトルですわ! 真青眼の究極竜の攻撃、ハイパー・アルティメット・バースト!!」
《真青眼の究極竜》の攻撃を受けた《デーモン・カオス・キング》が一瞬で消滅する。
「ぐっ! がぁああああああああああああああああ!!」
堂本春男 LP500
体に重度の高圧電流が迸り春男は激痛で呻き声を上げながら片膝をついた。
「おほほほほ! ザマァですわぁ! そしてわたくしの攻撃はまだ終わっていなくてよ」
「……真青眼の究極竜はエクストラデッキのブルーアイズ融合モンスターを墓地に送ることで二回まで連続攻撃できる」
「あら、知っていらっしゃったの」
これでも春男はプロデュエリスト協会の会長を務めていたデュエリストであり、それぐらいの知識はある。
「ならお分かりになると思うけど、もう終わりですわ。あなたの場にモンスターはおらず伏せカードもない。真青眼の究極竜の攻撃を防ぐすべはなくてよ。プロデュエリストのようなゴミでは、わたくしのような一流のデュエリストに勝てるはずもなかったということ」
「……黙れ」
「何ですって?」
久しぶりだった、他人に対してここまで怒りを露わにしたのは。
「僕を馬鹿にするのはいい。だがこれ以上、プロデュエリストを侮辱するのは許さない」
どの口で言っているのかと自分でも思う。
だがそれでも、かつて競い合った者たち、全盛期のプロデュエリスト協会にいたライバルたちまで侮辱されるのは我慢ならなかった。
「ほほ! 生意気ですわね。その言葉、攻撃力4500の高圧電流をくらった後でも言えるか試してあげますわ! エクストラデッキの《青眼の究極竜》を墓地に送り真青眼の究極竜でプレイヤーに」
《真青眼の究極竜》が攻撃を行おうとした瞬間、複数の光の剣が空から降り注いだ。
「墓地にある《光の護封霊剣》の効果発動。このターン相手はモンスターで直接攻撃できない」
「そんなカードいつの間に!」
「あったんだよ。僕が《光の護封霊剣》を墓地に送るタイミングが一度だけね」
最初の《コストダウン》を使用した際に捨てたのが《光の護封霊剣》だった。
「あ、あり得ませんわ! プロデュエリストが墓地で効果を発動するような複雑なカードを使用するなんて」
「昔のプロデュエリスト協会にいた上位のデュエリストなら誰でもできたテクニックさ」
そして現在のプロデュエリストでは誰一人として使うことができない技術。
そんな盆暗しかいないプロデュエリスト協会を作り上げたのは他ならぬ春男自身だ。
「ふん、それでもわたくしの真青眼の究極竜は健在。こんなのは一時凌ぎにしかならなくてよ。次のターンで高圧電流をくわらせてやりますわ。ターンエンド」
「僕のターン、ドロー。魔法カード《闇の誘惑》を発動」
引いた《闇の誘惑》を即座に使用。
「デッキから二枚カードをドローして手札の闇属性モンスター1体を除外する」
手札に闇属性モンスターがいない場合は手札全てを墓地に送ることになるが、春男の手札には闇属性のモンスター《迅雷の魔王-スカル・デーモン》がいる。
「僕が除外するのは迅雷の魔王-スカル・デーモン。更に召喚僧サモンプリーストを召喚」
《召喚僧サモンプリースト》
星4 闇属性 魔法使い族
攻撃力800 守備力1600
「召喚されたこのカードは守備表示になる。そして召喚僧サモンプリーストの効果発動。手札の魔法カードを捨ててデッキからレベル4のモンスターを特殊召喚する」
手札の《冥界流傀儡術》をコストにして《召喚僧サモンプリースト》の効果を使用する。
「僕はデッキからライトロード・デーモン ヴァイスを守備表示で特殊召喚」
《ライトロード・デーモン ヴァイス》
星4 光属性 悪魔族
攻撃力0 守備力1700
「レベル4《召喚僧サモンプリースト》にレベル4《ライトロード・デーモン ヴァイス》をチューニング。シンクロ召喚! レベル8、カオス・デーモン-混沌の魔神-!」
《カオス・デーモン-混沌の魔神-》
星8 闇属性 悪魔族
攻撃力2500 守備力1800
「またシンクロモンスターを! ほほ、でも攻撃力2500では、わたくしの真青眼の究極竜には遠く及びませんわ」
「カオス・デーモンの効果。このターンにカードが除外されている場合、攻撃力が2000アップする」
《カオス・デーモン-混沌の魔神-》
攻撃力2500→4500
「なっ!? 除外なんていつ!?」
「忘れたのか、僕はこのターン《闇の誘惑》を使用している」
《闇の誘惑》によって《迅雷の魔王-スカル・デーモン》が除外されているため、攻撃力アップの条件は満たされる。
「で、ですが、それでも攻撃力は互角。攻撃すれば、あなたのモンスターも破壊されましてよ」
「だから何だ。カオス・デーモン-混沌の魔神-で真青眼の究極竜を攻撃」
「くっ、迎え撃ちなさい、真青眼の究極竜。ハイパー・アルティメット・バースト!」
《カオス・デーモン-混沌の魔神-》と《真青眼の究極竜》が相打ちになって両方が戦闘破壊された。
「これであなたの場のモンスターはいなくなりましたわ。次のターン、わたくしがモンスターを引けば、それで終わりでしてよ」
「カオス・デーモンの効果発動。このカードが相手によってフィールドから離れた場合、エクストラデッキからカオスシンクロモンスター1体を特殊召喚できる」
「ゑ……?」
阿呆のように大口を広げる龍堂院麗華。
「カオス・アンヘル-混沌の双翼-を特殊召喚!」
《カオス・アンヘル-混沌の双翼-》
星10 闇属性 悪魔族
攻撃力3500 守備力2800
「そ、そんな高額ウルトラレアカードをプロデュエリストごときが」
「おい、小娘。あまりプロデュエリストを舐めるな」
それは春男に残っていた元プロデュエリストとしてのプライド。
「カオス・アンヘル-混沌の双翼-でプレイヤーにダイレクトアタック!」
手札はなく場にモンスターもいない龍堂院麗華にこの直接攻撃を防ぐすべはない。
龍堂院麗華 LP0
そしてライフポイントが0になった瞬間、その際の攻撃分のダメージ、つまり3500ダメージ分の電流が流れる。
「あへえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
全身に超高圧電流を受けた龍堂院麗華は奇声を上げながら転倒、失禁して股座から黄金水を垂れ流した。
◇
三日後。
懲罰房にて麗華は飯を食っていた。
ここで与えられる食事は硬いパン一個と冷めたスープ一杯。
すぐに食べ終えるも当然、満足できるはずもない。
「あれは! 見つけましたわ!」
そこで麗華は牢屋の床を這っている一匹の生物を発見した。
「ゴキブリ! ゴキブリですわ!!」
即座に右手でスタンピングして捕獲する。
更にここで床を這うもう一匹の生物が目に入った。
「便所虫もいましてよ! 逃がしませんわ!」
左手でスタンピングして便所虫を手掴みにする。
「おほほほ! 大量でしてよ!」
右手にゴキブリを、左手に便所虫を。
まずは巨大ゴキブリの頭をバリボリと噛み砕いた。
「お、おい、龍堂院麗華、面会だ」
ゴキブリと便所虫を頬張って咀嚼していると、若干引いた様子で看守が話しかけてきた。
「わたくしに面会? 一体、誰かしら」
「……来れば分かる」
看守に連れられて面会室まで行くと、そこには馴染み深い人物がいた。
高級スーツを着た、厳つい顔の中年男性。
「お父様!」
龍堂院正臣、麗華の父であり龍堂院カンパニーの社長だ。
「お父様、わたくしを助けにきてくださったのね」
「……麗華、お前はどこまで龍堂院家の恥を晒せば気が済むんだ」
龍堂院正臣の声には怒りと呆れが含まれていた。
「保釈金! 保釈金を払ってくださいまし! 娘に対する温情があるなら保釈金を!」
「温情なら、既に過剰なほどにかけている」
「ど、どういうことですの」
「分からないか。お前から青眼の白龍を始めとしたデッキのカードを取り上げていない。それが勘当した娘に対する最大限の温情だということを」
父の言葉の意味を麗華は理解できない。
恵まれた環境で育った麗華には、それがどれほどの温情か分からない。
このデュエルで全てが決まる世界において強いデッキを持っているというのはそれだけで身を守ることに繋がるが、龍堂院麗華が勘当されてなお《青眼の白龍》を所持しているという事実は親の庇護を完全に失っていないということを意味する。
この令嬢から無理やり《青眼の白龍》を取り上げれば四大企業の龍堂院カンパニーを敵に回しかねないという牽制になった。
だからこそ刑務所内でも堂本春男というスケープゴートが現れるまでは、この令嬢が好き勝手に振る舞うのを所長、鷹栖も止めなかった。
「麗華、お前は出所しようと思えばいつでもできるだろう」
「何を言ってますの。わたくしからクレジットカードを取り上げて口座を凍結したのはお父様でしょう!」
「デッキのレアカードを売って保釈金を作ればいい。それだけではない。青眼の白龍を一枚売却すればB区の一等地で庶民としては高級な生活を不自由なく過ごせる」
《青眼の白龍》は一枚300億円であり、確かにこれを売れば庶民基準では裕福な生活を一生働かずに送ることは可能だ。
「嫌ですわ! わたくしは絶対に青眼の白龍を手放す気はなくてよ!」
だが麗華は迷うことなく拒否する。
それはデュエリストとしてデッキのカードを売れないとか《青眼の白龍》に愛着があるとかではなく別の理由。
「ブルーアイズはわたくしがVIPであることの証明! 絶対に売ったりすることはできませんわ!」
龍堂院カンパニーの後継者ではなくなった麗華にとって《青眼の白龍》は自らが特別であることを示す唯一無二のカードであり、それを手放すという選択肢は存在しない。
《青眼の白龍》に限らず、他のレアカードもブルジョア時代の栄光の象徴であり、一枚たりとも売却する気はなかった。
「……馬鹿娘が。もう勝手にしろ」
呆れた様子で立ち去って行く龍堂院正臣。
父親から提示された救いの道を蹴った麗華は再び懲罰房へと戻された。