女王杯二回戦が進行する中、ブラックドミノシティC区のデュエルコンビニにて、二人の男性が大声をあげていた。
「おい! 大人しくレジの金を全部このバッグに詰めろ!」
「そうじゃなきゃ、俺たちとデュエルすることになるぞ!」
鞄をレジに放り投げながら、二人の男性はデュエルディスクを振りかざす。
彼らはデュエルコンビニ強盗だ。
「くっ! この女王杯で人が少ない時に!」
この場にいる二人のデュエルコンビニ店員の内、若手の男性、戸村が顔を顰める。
戸村はアカデミアを卒業しているが、在学中の成績は悪くオシリスレッドでの卒業だった。
そのためC区出身者でありながら、ろくな就職先が決まらず、時給900円のデュエルコンビニ店員をしている。
「これまでデュエルクレーマーなら何度かデュエルで撃退してきたが、デュエルコンビニ強盗を相手にしたことはねえぞ」
ブラックドミノシティC区は下層区と比較して、通報によりセキュリティが来てくれる可能性は高めだ。
しかし女王杯の最中は各所の警備があるので、デュエルコンビニ店員から通報を受けたところでセキュリティが即座に動く可能性は低い。
「落ち着け、戸村君。この強盗、見覚えがあるぞ」
それに気づいたのは、もう一人のデュエルコンビニ店員である年配の男性、吉岡だった。
「間違いない! こいつらプロデュエリストだ」
その言葉を聞いてデュエルコンビニ強盗の二人が動揺する。
事実、強盗二人はCランクプロデュエリストの藤田と松田という男性であり、彼らは生活が困窮してデュエルコンビニ強盗に及んでいた。
「ははは! 何だよ、それなら何の問題もないじゃないか!」
態度を一変させて意気揚々と戸村がデュエルディスクを構える。
「な、舐めるなよ! デュエルコンビニ店員相手なら俺たちプロデュエリストだって勝てるはず!」
「やってやる! このままじゃ、もう下層区落ちするしかないんだ。家族のためにもやってやるぞ!」
Cランクプロデュエリスト、藤田と松田が強制デュエルをしかける。
藤田 / LP4000
VS
戸村 / LP4000
松田 / LP4000
VS
吉岡 / LP4000
「「「「決闘!!」」」」
各デュエル、先行をとったのはCランクプロの二人。
「俺のターン。怒りの海王を攻撃表示!」
《怒りの海王》
星3 水属性 水族
攻撃力800 守備力700
藤田が召喚したのは《怒りの海王》。
「俺はくちばしヘビを召喚だ」
《くちばしヘビ》
星3 地属性 爬虫類族
攻撃力800 守備力900
松田が召喚したのは《くちばしヘビ》。
両者共に攻撃力1000以下の通常モンスター。
「俺はターンエンド」
「俺もターンを終了する」
伏せカードもなくターンを終了する。
これがCランクプロの一般的なプレイングだった。
「はは、吉岡さん。これは楽なデュエルになりそうだ」
「戸村君。君は確かアカデミア卒だったね。僕は中卒なんだが、それでもプロデュエリスト相手に負けることはなさそうだよ」
失笑する二人のデュエルコンビニ店員。
「俺のターン、ドロー! ウミノタウルスを召喚」
《ウミノタウルス》
星4 水属性 水族
攻撃力1700 守備力1000
戸村が召喚したのは《ウミノタウルス》。
「僕のターン。カミソーリトカゲを召喚する」
《カミソーリトカゲ》
星3 地属性 爬虫類族
攻撃力1500 守備力300
吉岡が召喚したのは《カミソーリトカゲ》。
数ターン後、相手のライフポイントに一切ダメージを負わせることもできず、Cランクプロ、藤田と松田のライフは0になっていた。
強制デュエルで敗北したことによってCランクプロの二人は無力化状態となる。
「吉岡さん、こいつらどうします」
「とりあえずコンビニの裏に連れて行くぞ」
言いながら吉岡は自らが無力化した松田を引きずりながら店の外に出る。
戸村も藤田を掴みながらそれに続いた。
そしてデュエルコンビニ裏に二人のCランクプロデュエリストが放り出される。
地面に転がったCランクプロ、松田の顔面を吉岡が力任せに蹴りつけた。
「ああ、成程、リンチするってわけですか」
「そうだ。プロデュエリストごときが舐めた真似すればどうなるか、わからせてやれ」
戸村としても低賃金の仕事で普段から鬱憤は溜まっているので、これは丁度いいストレス解消になりそうだと思った。
「や、やめ」
「悪いけど、しかけてきたのはそっちだぜ」
戸村がCランクプロ、藤田の腹を蹴飛ばす。
「しかし、あんたらも哀れだな。デュエルコンビニ店員は底辺職だが、プロデュエリスト程度のデュエルの腕じゃ、この職に就くことすらできねえ」
この世界は全てがデュエルで決まる。
デュエルが弱い人間は一般的にデュエル底辺職と言われているデュエルコンビニ店員の面接すら落とされる。
デュエルコンビニ店員はデュエルクレーマーやデュエルコンビニ強盗から強制デュエルを挑まれるリスクがあるからこそ時給900円なのだ。
こういったデュエル底辺職すら受からない人間の最後の行きつく先は一切デュエルをしない仕事だが、そういったデュエルに全く関係のない仕事は時給100円以下が普通だった。
「あんた達がどれだけ減給されてもプロデュエリスト協会にしがみついたのは他に行き場がなかったからだろう」
だからこそ不満を抱えながらも、これまでBランク以下のプロたちはプロデュエリスト協会を辞めなかった。
だが、そのプロデュエリスト協会は崩壊寸前であり、新会長はBランク以下のプロを処分しようとしている。
「あそこもいよいよヤバそうだから、こうして強盗に及んだんだろうが、あんたら身の程をわきまえろよ」
デュエルコンビニ店員、戸村の蹴りがCランクプロ、藤田の顔面に直撃した。
「プロデュエリスト程度の力量じゃデュエルコンビニ強盗は無理だ」
このデュエルで全てが決まる世界において、相手を加害するためにはデュエルで勝利しなくてはいけない。
故にCランクプロ程度のデュエリストでは、まともなデュエル犯罪者になることすら不可能だった。
「た、頼む。セキュリティへの通報はやめてくれ」
悲痛な声を上げる藤田。
「善良な一般市民としてはそうもいかねえだろ。まぁ金もレアカードも持ってねえプロデュエリストじゃ、デュエル刑務所側が受け入れを渋るだろうから嫌がるのも無理はねえか」
デュエル刑務所に収監されるデュエル犯罪者は大きく分けて二種類。
一つは本来なら死刑になるレベルのSランク以上の凶悪デュエル犯。
他の凶悪デュエル犯やデュエル犯罪組織の情報を持っている者に限り、司法取引のためブラックドミノ湾の離れの孤島にあるデュエル監獄『ブラックアルカトラズ』に収監される。
二つ目はある程度の金やレアカードを持っているデュエル犯罪者。
高額な賄賂が見込めそうだったり、刑務所内ギャンブルを盛り上げるようなデュエル犯罪者は特に人気が高い。
逆にBランク以下のプロデュエリストのような金はもちろん、まともなレアカードも持っていないデュエリストは人気が低く刑務所側が受け入れを拒否する場合が多い。
そういった者の行き付く先は下層区(D区)にあるデュエル強制収容所。
一般のデュエル刑務所と異なり最低限の人権が守られることもない低ランクデュエル犯罪者の廃棄場だった。
食事は三日に一度のカビの生えたパンのみ。
怪我や病気になっても治療は受けられない。
看守によるデュエル虐待も絶えず行われており、収容された低ランク犯罪者は半年も持たず死亡してブラックドミノ湾に沈められるという。
「覚えとけ、プロデュエリストごときじゃ、デュエルコンビニ店員には勝てねえよ!」
戸村が藤田の胸倉を掴み上げてから、勢いよく地面に叩きつけた。
「このぐらいでいいんじゃないですか、吉岡さん」
「そうだな。これで、この身の程知らず共は一日は動けないだろう。後はセキュリティに通報しておけばいい」
無力化が住んでいる旨を伝えておけば低ランクデュエル犯罪者であってもセキュリティは時間を見つけて引き取りに来てくれる。
本日は女王杯が行われていることもあって到着には数時間から半日ほどの時間を要するだろうが、デュエルせずに検挙ノルマの足しにできるデュエル犯罪者を確保できるならセキュリティも動くはずだ。
「あ、どうせならアンティとしてこいつらのデッキを貰っときますか」
仮にこの連中がセキュリティに訴えても強制デュエルをプロデュエリスト側がしかけてきたのはデュエルディスクの履歴に残っているし、店内の監視カメラにもその様子が映っている。
「や、やめてくれ。俺たちが悪かった。だからデッキだけは奪わないでくれ」
「あんたらはデュエルに負けたんだ。デュエリストなら潔くカードを渡せよ」
言いながら戸村は藤田のデュエルディスクからデッキを取り出す。
だがそのデッキの内容を見てため息をついた。
「何だよ、クソカードしかねえじゃねえか」
戸村はそれらのカードを地面にぶちまける。
「もう行くぞ、戸村君。こんな底辺どもにこれ以上構っても時間の無駄だ」
戸村と吉岡が立ち去った後、二人のプロデュエリストの咽び泣く声がデュエルコンビニ裏に響いた。
◇
時を同じくしてC区の路地裏で女性が強制デュエルを挑まれていた。
女性の名は木下智子。
C区にある企業に勤めるデュエルOLだ。
昼休憩で昼食を買いにデュエルコンビニに向かった途中で、突如40代ぐらいの男から強制デュエルを挑まれた。
「わ、私に何をする気」
「わかってんだろ! お前はデュエルに負けたらレイプされるんだよ!」
嫌な予感が的中する。
どうやらこの男性は決闘強姦魔のようだ。
こうして智子と決闘強姦魔によるデュエルが開始する。
木下智子 / LP4000
VS
決闘強姦魔 / LP4000
「「決闘!!」」
先行をとったのは決闘強姦魔。
「俺のターン! はにわを攻撃表示!」
《はにわ》
星2 地属性 岩石族
攻撃力500 守備力500
「ターンエンドだ」
「は?」
智子は思わず声を上げてポカンとする。
攻撃力の低い通常モンスターを出して伏せカードもなしにエンド宣言。
あまりにも低レベル過ぎるプレイングだった。
「な、何だ! 何がおかしい! 俺はDランクプロデュエリストだぞ!」
この言葉を聞いて納得する。
それならこの杜撰なデュエルタクティクスにも説明がつく。
最近ではプロデュエリスト協会もいよいよ崩壊寸前だというし、自暴自棄になった低ランクプロデュエリストが突発的なデュエル犯罪に及んでも不思議ではない。
「私のターン、ドロー」
通常、決闘強姦魔に襲われた女性は恐怖のあまり普段通りのプレイングができなくなる。
智子は至って普通の感覚を持った女性であり、本来であれば震えてデュエルの継続が困難になっていただろう。
だが、今の智子には何の恐れもなかった。
相手がプロデュエリストであれば間違っても負けることはないからだ。
「ホーリーフレームを召喚」
《ホーリーフレーム》
星4 光属性 天使族
攻撃力1500 守備力0
「装備魔法《シャイン・キャッスル》で攻撃力を700アップ」
《ホーリーフレーム》
攻撃力1500→2200
「こ、攻撃力2200!? そんなモンスター、Dランクプロに倒せるわけがない!!」
「ホーリーフレームではにわを攻撃」
《シャイン・キャッスル》によって強化された《ホーリーフレーム》の攻撃を受けて《はにわ》が戦闘破壊される。
決闘強姦魔(Dランクプロデュエリスト) LP2300
リアルソリッドビジョンの衝撃によってDランクプロデュエリストが大きくのけ反った。
「カードを一枚セットしてターンエンド」
「く、くそ! 俺のターン!」
ドローしたカードも含めてDランクプロの手札に《ホーリーフレーム》の攻撃力を上回るモンスターはいない。
というより、そもそも彼のデッキの大半は攻撃力、守備力共に500以下の通常モンスターで構成されており、攻撃力1000を超えるモンスターはいないため、この状況を打開するのは不可能だった。
「畜生! スカゴブリンを召喚して攻撃!」
《スカゴブリン》
星1 闇属性 悪魔族
攻撃力400 守備力400
やけになって攻撃するも当然、戦闘破壊される。
決闘強姦魔(Dランクプロデュエリスト) LP500
そして、その返しのターン。
「ホーリーフレームでダイレクトアタック」
智子による直接攻撃宣言。
Dランクプロにそれを防ぐすべはない。
決闘強姦魔(Dランクプロデュエリスト) LP0
リアルソリッドビジョンの衝撃によってDランクプロの体が宙を舞った。
決闘強姦魔をデュエルで返り討ちにできた女性の主な行動は大きく分けて二パターンある。
一つはその場からの逃走。
無力化されているとはいえ、大半の女性は決闘強姦魔から離れたいと思う。
もう一つは報復。
気の強い女性であれば、無力化状態の決闘強姦魔に殴る蹴るの制裁を加えることもある。
だが智子がとった行動はそのどちらでもなかった。
あまりにも弱すぎる決闘強姦魔を自称するプロデュエリストに哀れみの視線を向けながら智子は失笑した。
その反応を見てDランクプロは屈辱に顔を歪めながら号泣する。
この世界は全てがデュエルで決まる。
弱いデュエリストはまともなデュエル犯罪者にもなれないのだ。