女王杯三回戦第一試合。
現在、遊羽の場には三体の最上級昆虫族モンスターがいる。
《究極変異態・インセクト女王》
星7 地属性 昆虫族
攻撃力2800 守備力2400
《完全態・グレート・インセクト》
星9 地属性 昆虫族
攻撃力3000 守備力2600
《デビルドーザー》
星8 地属性 昆虫族
攻撃力2800 守備力2600
一方でジークフリード・フォン・シュレイダーの場には彼のエースモンスター《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》がおり、効果によって相手の場のモンスター1体につき攻撃力を500ポイントアップしている。
《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》
星7 光属性 天使族
攻撃力1800→3300 守備力2000
遊羽の手札にあるのは《超進化の繭》と《寄生虫パラノイド》の二枚。
通常であれば《寄生虫パラノイド》を《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》に装備して昆虫族に変化させてから《超進化の繭》でリリースする。
しかし《女神ウルドの裁断》の効果によって『ワルキューレ』モンスターは効果の対象にならないため、この戦術を使うことはできない。
それならば自分のモンスターに《寄生虫パラノイド》を使って《超進化の繭》によって攻撃力3500の《究極完全態・グレート・モス》を呼び出せば、現在の《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》の攻撃力を上回ることはできる。
だが《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》には守備力を1000下げることで、そのターン中『ワルキューレ』モンスターを戦闘破壊されなくする効果がある。
《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》を残したままターンを返せば《天馬の翼》によるダイレクトアタックで遊羽のライフは0になるだろう。
「バトルフェイズ!」
だからこそ遊羽は現時点では《寄生虫パラノイド》と《超進化の繭》のカードを使用せずバトルフェイズに移行する。
「デビルドーザーでワルキューレ・ヴリュンヒルデを攻撃!」
一見、それは無謀な自爆特攻。
《デビルドーザー》に戦闘破壊された際に発動する効果はなく、遊羽の手札に《デビルドーザー》の攻撃力を上げるカードはない。
青髪の戦乙女によって巨大な百足は一刀両断にされた。
インセクト遊羽 LP400
「……この戦術は!」
それを見たヨーロッパ無敗の貴公子は何かに気づいたように大きく目を見開いた。
◇
ジークフリード・フォン・シュレイダーは生まれながらの勝利者である。
大企業の跡取り息子として生まれ、その会社、シュレイダー社の業績も好調。
本人自身の能力も高く会社経営からデュエルまで天才と呼ばれる才能を有していた。
会社が好調なこともあって両親や弟、レオンハルトとの関係も良好であり、人間関係でのストレスもない。
だが、そんな順風満帆な人生であるにも関わらず、ジークは日頃から何か物足りなさを感じていた。
それを一言で言い表すのであればライバルの不在。
これまでジークの同年代で会社経営やデュエルにおいて好敵手になり得る存在が現れたことはなかった。
ジークは自信家であり、自分のライバルになり得る者など存在しないという結論を一度は出した。
しかし、それでも気づけば宿敵となり得る存在のことを考えてしまう。
そんな人物の心当たりなどないにも関わらず、日に日にライバルへの思いだけが増していくのだ。
まるで心にぽっかりと大きな穴が開いているかのよう。
そんな中、シュレイダー社がブラックドミノシティに本社を移すことが決まった。
ブラックドミノシティは世界で最もデュエルが発展している街であり、この街のA区に本社を構えるということは会社のステータス向上に繋がるのだ。
ブラックドミノシティへの移転を決めたのは会長である父だが、ジークもそれに異論はなかった。
この街であれば、これまで探し求めてきたライバルが見つかるのではないかと思ったからだ。
移転後、シュレイダー社はブラックドミノシティ四大企業に名を連ねることになった。
程なくして同じ四大企業の龍堂院カンパニーから交流デュエルの誘いを受けることになる。
企業規模がシュレイダー社に劣ることから序列が下がった龍堂院がデュエルによる立場の優位性を示すために企画したと思われる催しだった。
会長である父がこれを承諾、相手方には跡取りとして姉妹がいて、こちらは兄弟であることもあり、互いの長男と長女、次男と次女がデュエルをするという形で話が決まった。
そして交流試合当日。
ジークは対戦相手である龍堂院家の長女と向かい合っていた。
「あなたがわたくしの相手ですわね。精々、ワンターンキルされないようにしてくださいまし」
白いブランド服を身にまとった少女、龍堂院麗華。
龍堂院カンパニーの時期後継者であり、龍姫の異名を持つデュエリストだと聞いている。
デュエルが開始された。
先攻をとったのは龍堂院麗華。
「わたくしは《古のルール》を発動。青眼の白龍を特殊召喚ですわ!」
《青眼の白龍》
星8 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
その青き眼の白龍を見た瞬間、ジークに衝撃が走った。
――まさか、この女が自分の好敵手! ライバルとなり得る相手!!
それはこれまでにない高揚感だった。
目の前にいるのが探し求めていたライバル、運命の相手かもしれないからだ。
だが、そんな思いは早々に裏切られる。
「ワルキューレ・ヴリュンヒルデで青眼の白龍を攻撃!」
返しのターン、青髪の戦乙女の剣によって伝説の龍はいとも容易く首を刎ねられた。
「わ、わたくしのブルーアイズが!」
がら空きになった龍堂院麗華に大量展開したワルキューレの一斉攻撃が決まる。
後攻ワンターンキルの成立であった。
「……ほ、ほほ、流石はヨーロッパ無敗のデュエル貴公子。マグレとはいえわたくしに勝つとは褒めてさしあげますわ」
――この女は違う! とんだ期待外れ!
ジークの心は急激に冷めていった。
こんな女は断じて自分のライバルになる存在ではない。
むしろ宿敵となり得る存在に対する冒涜。
この女に《青眼の白龍》を使う資格はない。
そんな考えが頭の中に浮かんだ。
この日以降、ジークは荒れていき傲慢な立ち振る舞いが目立つようになる。
――デュエルなど所詮はゲーム。
デュエルを軽視するような発言までするようになり、それを弟、レオンハルトから窘められるも、態度を正す気にはなれなかった。
レオンハルトが兄のことを心配していることは分かっており、申し訳ないという気持ちもあるのだが、募る苛立ちを抑えることができなかったのだ。
それから数年後。
ブラックドミノシティ最強のデュエリストされる決闘王の男を杠葉色音という女が倒して初代決闘女王になった。
ジークとしては左程興味のない話題だった。
トップス最強に位置づけられていた当時の決闘王の実力もたかが知れており、なろうと思えば決闘王などいつでもなれたのだ。
ただあの日以降、ブラックドミノシティのデュエリストだけでなく、デュエルに対しても何処か冷めてしまい、わざわざ大会に参加する気がなかっただけのこと。
初代決闘女王就任から半年後、ジークに対して『狩猟杯』の招待状が届いた。
『
ジークは無視しようかと思ったが、父から成り上り者の傲慢を正してこいと言われて参加することになった。
そして狩猟杯当日。
ジークと決闘女王のデュエルは終盤を迎えていた。
決闘女王の場にいるのは二体の『蟲惑魔』モンスター。
《アティプスの蟲惑魔》
リンク3 地属性 昆虫族
攻撃力1800→2800
《アロメルスの蟲惑魔》
ランク4 地属性 昆虫族
攻撃力2200→3200 守備力600
一方でジークの場にはエースモンスター《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》がいる。
《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》
星7 光属性 天使族
攻撃力1800→2800 守備力2000
「アティプスの蟲惑魔の効果を発動。ワルキューレ・ヴリュンヒルデの効果を無効にして、私の墓地から《蟲惑の落とし穴》を除外することで破壊するわ」
前のターン《終幕の光》のライフコストを捻出するためとはいえ、三女神を《グリフォンの羽根帚》で自ら破壊したのが裏目に出た。
「くっ! ヴリュンヒルデ!」
青髪の戦乙女が蜘蛛の糸により雁字搦めにされて苦悶の表情を浮かべる。
そのまま徐々に首を絞められ、最後は目からハイライトが失われて息絶えた。
「更にアロメルスの蟲惑魔の効果発動。破壊されたワルキューレ・ヴリュンヒルデを私のフィールドに特殊召喚する」
《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》
星7 光属性 天使族
攻撃力1800 守備力2000
「ラストアタックはあなたの戦乙女で決めてあげるわ」
「悪趣味な真似を!」
「これがアイドルエンタメデュエルよ。クイーンのデュエルはアイドル活動でなくてはならない!」
軍服のアイドル衣装を着た決闘女王が妖艶に笑った。
「私のアイドルファンサービスを受けなさい! ワルキューレ・ヴリュンヒルデでプレイヤーにダイレクトアタック!」
奪われた青髪の戦乙女の剣を受けてジークのライフポイントが0になった。
「他よりはマシという程度ね。ヨーロッパ無敗と言っても、私のアイドルエンタメデュエルの前では無力。決闘女王の敵ではないわ」
「……私が負けた?」
それはジークにとって初めての経験。
――では、この女が探し求めていた宿命のライバルとなる存在なのか?
どうにもしっくり来なかった。
使用したモンスターという点では、まだ龍堂院麗華の方が宿敵に近いように思える。
《青眼の白龍》を見た時、何かを掴みかけた気がしたのだ。
とはいえ決闘女王に負けたのは事実であり、ここまで虚仮にされた以上、女王杯に参加してリベンジすることを決めた。
だが大会を勝ち進む中で自分が思ったよりも冷めていることに気づいた。
あそこまで冒涜されたのだから、もっと復讐心が湧くと思っていた。
だが決闘女王、杠葉色音に対してそこまで強い気持ちを抱くことはなかった。
――この女ではない。
ジークの根底にあるのは、そんな思いだった。
◇
そして現在。
「デビルドーザーでワルキューレ・ヴリュンヒルデを攻撃!」
自爆特攻してくる巨大な百足を青髪の戦乙女が一刀両断にする。
「……この戦術は!」
一見、自らのライフを削るだけの血迷った攻撃。
だがジークはその攻撃が『場のモンスターを減らすことで《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》の攻撃力を下げる』という目的であると気づいた。
デジャヴだ。
決闘女王を含めて、これまでデュエルした者の中にこのような戦術を用いたデュエリストはいない。
だがジークはこの戦術に既視感を覚え、それ故に自爆特攻の意図を即座に理解した。
《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》
星7 光属性 天使族
攻撃力3300→2800 守備力2000
「まさか、お前が私の宿敵となる存在だというのか」
言葉にして、そうではないと思った。
この女も違う。
探し求めていたライバル、宿敵ではない。
「究極変異態・インセクト女王で攻撃!」
「ワルキューレ・ヴリュンヒルデの効果、守備力を1000下げることで、このターン、ワルキューレは戦闘破壊されない!」
昆虫の女王が吐いた溶解液を青髪の戦乙女が盾で受け止めた。
盾の表面が傷み受けきれなかった溶解液が飛び散り鎧を溶かす。
鎧や服の一部が溶けたことで肌を露出させながらも青髪の戦乙女は昆虫の女王の首を刎ねた。
《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》
攻撃力2800→2300 守備力2000→1000
「グレート・インセクトでワルキューレ・ヴリュンヒルデを攻撃! モス・ハリケーン!!」
「耐えろ! ヴリュンヒルデ」
ジークフリード・フォン・シュレイダー LP600
戦闘ダメージによってライフを削られるも《ワルキューレ・ヴリュンヒルデ》は健在。
「手札から《寄生虫パラノイド》をグレート・インセクトに装備。更に速攻魔法《超進化の繭》を発動! 装備カードが装備された昆虫族をリリースしてデッキから新たな昆虫族モンスターを呼び出す!」
《寄生虫パラノイド》を装備した《完全態・グレート・インセクト》が黄金の繭に包まれる。
「地べた這いずる虫けらも
――羽虫となって
黄金の繭から新たな巨大な蛾のモンスターが姿を現した。
「究極完全態・グレート・モスを特殊召喚!」
《究極完全態・グレート・モス》
星8 地属性 昆虫族
攻撃力3500 守備力3000
「……そういうことか」
敗北が確定した状況でジークは一つの結論に至る。
やはり決闘女王は自分の宿敵となる存在、運命の相手ではなかったのだ。
おそらく女王杯はこの女、癲狂院遊羽と決闘女王の運命の場。
「ふん、下らん茶番に付き合わされたものだ」
決闘女王と再戦できないことに対して、もはや未練はない。
「究極完全態・グレート・モスでワルキューレ・ヴリュンヒルデを攻撃、モスパーフェクトハリケーン!」
だが癲狂院遊羽、この女の運命には多少なりとも興味が湧いた。
故に女王戦ぐらいは見届けてやってもいい。
ジークフリード・フォン・シュレイダー LP0
他人の運命に興味を持つなど初めてのことで、不思議と悪い気はしなかった。