切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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女王杯、三回戦終了

 クイーンドーム、特別観客席。

 三回戦第二試合開始前のインターバルにその男は現れた。

 

「何だ、ここは。随分と酷い客層だな」

 

 蛍光ピンクのスーツを着たピンク色の長髪の男性。

 ジークフリード・フォン・シュレイダー。

 ヨーロッパ無敗の貴公子。皇帝の異名を持つデュエリストだ。

 

「癲狂院、もう少し付き合う人間は選んだらどうだ」

「その強姦魔(レイパー)以外は友人だから。あんまり悪く言わないで」

 

 一般的な発言ではなかったとしても、それだけははっきと口にする。

 

「ふっ、見ていて退屈しない女だ」

「それで一体何の用なわけ」

 

 レイプデビル叡傲の時のように警戒する気はないが、この男は一体何のためにこの場に来たのか。

 

「空いている観客席を探していたが、ここなら丁度良さそうだな」

 

 本人不在で十四席が空席になっているBランクプロデュエリスト、鈴木三郎の特別観客席を指しながら言う。

 

「自分のところは? 確か弟も一緒じゃなかった?」

「レオンハルトはガールフレンドを連れてきている。それを邪魔するほど私は野暮ではない」

 

 どうやら弟との関係は良好なようだ。

 

「あなたも遊羽さんの応援をしにきたのですかぁ」

 

 おっとりとした口調でそう言ったのは明美。

 

「勘違いするな。私は決闘女王が負けるところを見ようと思っただけだ。本来なら私が直々に手を下すつもりだったが、どうやらその必要もなかったらしい」

 

 狩猟杯(ハンティングカップ)はテレビで生中継されていたので、あの大会の一件でヨーロッパ無敗の貴公子と決闘女王の間に因縁があるのは知っている。

 

「癲狂院、決闘女王の相手などお前で十分だ。あの成り上り者の女を王座から引きずり降ろしてみせろ」

 

 そう言ってジークは鈴木三郎の特別観客席へと歩みを進める。

 

「そこに強姦魔(レイパー)がいるけど大丈夫?」

「路傍の石など一々視界に入らん」

 

 レイプデビル叡傲を一瞥もせずに距離を置いた上でジークが着席した。

 

「くひひ、ヨーロッパ無敗の貴公子サマは寛容なことで」

 

 石コロ扱いされた決闘強姦魔も特に気に障った様子もなく軽口を叩く。

 

『それではこれより女王杯三回戦、第二試合を開始します』

 

 アナウンスが鳴り響いたのでコロシアムに目を向けた。

 そこにいるのは二人のデュエリストだ。

 

 一人目は紫色のロングドレスを着た茶髪の美少女。

 悪七(あくしち)魔里亜(まりあ)

 通称、デーモンプリンセス魔里亜。悪魔姫の異名を持つデュエリスト。

 表の大会で優勝歴もある実力者だ。

 

「ぐふふ、悪七魔里亜、十九歳には是非とも私の店の制服を着てもらいたいですねぇ」

 

 美少女ということもあり大瀧はあの水着みたいな服の上にペンギンのパーカーを羽織らせた格好をさせたがっている様子だった。

 

 二人目は青色のキャミソールの上に白のカーディガンを羽織り、グレーのレザースカートを履いた二十代前半の女性。

 右側は茶髪であり左半分を白く染めているツートンカラーのツーサイドアップが特徴的だ。

 ユウミという名前以外の情報は一切不明。

 裏の大会だけでなく表の大会でも見たことのないデュエリストだが、三回戦まで勝ち上がるだけあって実力は確かなようだった。

 

「それに対して、あのユウミという娘は……どうにもペンギンランドの制服を着せる気になりませんね。容姿は整っているが、彼女を見ていると何故か寒気がする」

 

 どうやらユウミの方は大瀧の好みに合わないようだ。

 

『デュエリスト両名、デュエルディスクを起動してください』

 

 両者のデュエルディスクが展開され、カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。

 オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされた。

 デュエルディスクによって先攻、後攻が決定される。

 

 

 悪魔姫 ―― 悪七(あくしち)魔里亜(まりあ) /  LP4000

 

          VS

 

      ユウミ / LP4000

 

『『決闘!!』』

 

 音声拡張ドローンを通して両者の声が観客席に響く。

 先攻をとったのはデーモンプリンセス魔里亜だった。

 

『私のターンよ! まずは《強欲で貪欲な壺》。デッキの上からカードを十枚裏側表示で除外して二枚ドロー。グローアップ・バルブを召喚』

 

 《グローアップ・バルブ》

 星1 地属性 植物族

 攻撃力100 守備力100

 

『グローアップ・バルブをリンクマーカーにセット。リンク召喚! 現れて、リンク1、サクリファイス・アニマ!』

 

 《サクリファイス・アニマ》

 リンク1 闇属性 魔法使い族

 攻撃力0 守備力0

 

『更に自分のデッキの上のカードを墓地に送り、グローアップ・バルブを守備表示で私のフィールド上に特殊召喚』

 

 《グローアップ・バルブ》

 星1 地属性 植物族

 攻撃力100 守備力100

 

『このモンスターは場にいる魔法使い族モンスター1体とレベル4以下の地属性モンスター1体を墓地に送ることでデッキから特殊召喚できる。サクリファイス・アニマとグローアップ・バルブを墓地送りにして憑依覚醒-デーモン・リーパーを特殊召喚!』

 

 《憑依覚醒-デーモン・リーパー》

 星5 地属性 獣族

 攻撃力2000 守備力200

 

『デーモン・リーパーの効果で墓地から再度グローアップ・バルブを特殊召喚する』

 

 《グローアップ・バルブ》

 星1 地属性 植物族

 攻撃力100 守備力100

 

『レベル5《憑依覚醒-デーモン・リーパー》にレベル1《グローアップ・バルブ》をチューニング。シンクロ召喚! レベル6、デーモンの招来!!』

 

 《デーモンの召喚(デーモンの招来)》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2500 守備力1200

 

 現れたのは、あのセックスデーモン豚島も使用した、場に存在する限りカード名を《デーモンの召喚》として扱うシンクロモンスター。

 デーモンプリンセス魔里亜は『デーモンの召喚』モンスターを使うデュエリストだ。

 

『墓地に送られたデーモン・リーパーの効果でデッキから永続魔法《憑依覚醒》を手札に加えて、そのまま発動よ。この効果で自分フィールド上のモンスターの属性一種類につき攻撃力を300ポイントアップ!』

 

 《デーモンの召喚(デーモンの招来)》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2500→2800 守備力1200

 

『続けて魔法カード《融合》を発動。デーモンの召喚とトリック・デーモンを手札融合! デーモンの顕現を融合召喚!』

 

 《デーモンの召喚(デーモンの顕現)》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2500→2800 守備力1200

 

『デーモンの顕現の効果で場のデーモンの召喚の攻撃力は500ポイントアップ!』

 

 《デーモンの召喚(デーモンの招来)》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2800→3300 守備力1200

 

 《デーモンの召喚(デーモンの顕現)》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2800→3300 守備力1200

 

『トリック・デーモンの効果発動。《デーモンの宣告》を手札に加えて発動よ』

 

 《デーモンの宣告》は1ターンに1度カード名を宣言してデッキをめくり、当たっていれば手札に加え、外れた場合は墓地に送る永続魔法。

 

『ライフを500払って《デーモンの宣告》の効果を使用。宣言するのは《デーモンの召喚》』

 

 めくられたカードを見たデーモンプリンセス魔里亜が笑みを浮かべる。

 

『私のデッキトップは《光の護封霊剣》。外れたから墓地に送る』

 

 初めから《デーモンの召喚》を当てようとは思っていなかったのだろう。

 墓地肥しが目的であり、あわよくば墓地で効果を発動するカードを落とす。

 《光の護封霊剣》は墓地から除外することで相手の直接攻撃を封じる永続罠だ。

 

『自分フィールド上にデーモンカードが存在する場合、デーモンの将星は手札から特殊召喚できる』

 

 《デーモンの将星》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2500→2800 守備力1200

 

『この効果で特殊召喚した時、フィールド上のデーモンカードを一枚破壊しなくてはならない。私が破壊するのは《デーモンの宣告》よ』

 

 効果使用後の《デーモンの宣告》を破壊して、必要最低限の負担でデメリット効果を処理したようだ。

 

『魔法カード《黙する死者》。墓地の通常モンスターを守備表示で特殊召喚する。デーモンの召喚を特殊召喚!』

 

 《デーモンの召喚》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2500→3300 守備力1200

 

『私はデーモンの召喚とデーモンの将星でオーバーレイ! 二体のレベル6モンスターによってオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! ランク6デーモンの超越!』

 

 《デーモンの召喚(デーモンの超越)》

 ランク6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2500→3300 守備力1200

 

 デーモンプリンセス魔里亜は1ターン目からシンクロ、融合、エクシーズ、合計三体の『デーモンの召喚』モンスターを展開してみせた。

 しかもそれらは《デーモンの顕現》と《憑依覚醒》の効果によって攻撃力が3300になっている状態だ。

 その上、《デーモンの招来》の効果によって相手は、これらの『デーモンの召喚』モンスターを効果の対象にできず、《デーモンの超越》の効果で戦闘、効果による破壊を無効にすることが可能。

 そして万が一、場のモンスターが一掃されても墓地の《光の護封霊剣》を除外すればダイレクトアタックを凌ぐことができる。

 

「あの女、セックスデーモン豚島よりも数段上のデーモンの召喚使いじゃのう。盤面の完成度が奴より上じゃ」

 

 ミカの分析は適切だった。

 一度セックスデーモン豚島を倒した遊羽だからこそ、悪魔姫の異名を持つ娘が、強姦悪魔の異名を持つ二大決闘強姦魔より格上であると断言できる。

 

『これで私はターンエンド。あなたのターンよ』

『私のターン、ドロー』

 

 攻撃力3000を超える三体の《デーモンの召喚》を前にしてもユウミという女性は落ち着いた雰囲気だった。

 

『魔法カード《七星の宝刀》。手札からレベル7モンスター、パンデミック・ドラゴンを除外して二枚ドローします。更に手札を一枚捨てて《D・D・R》を発動。このカードを装備して除外されているパンデミック・ドラゴンを特殊召喚!』

 

 《パンデミック・ドラゴン》

 星7 闇属性 ドラゴン族

 攻撃力2500 守備力1000

 

『パンデミック・ドラゴンの効果発動。100の倍数のライフを払い、その分だけこのカード以外のフィールド上のモンスターの攻撃力をダウンする。私はライフを2800ポイント払います』

 

 ユウミ LP1200

 

 《デーモンの召喚(デーモンの招来)》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力3300→500 守備力1200

 

 《デーモンの召喚(デーモンの顕現)》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力3300→500 守備力1200

 

 《デーモンの召喚(デーモンの超越)》

 ランク6 闇属性 悪魔族

 攻撃力3300→500 守備力1200

 

『くっ! デーモンの招来の耐性で、この効果は防げない』

 

 加えて《光の護封霊剣》で止められるのはダイレクトアタックのみなので、攻撃力の下がった《デーモンの召喚》を標的にされれば大幅にライフを削られる。

 

『アサルトワイバーンを召喚』

 

 《アサルトワイバーン》

 星4 光属性 ドラゴン族

 攻撃力1800 守備力1000

 

『バトル! パンデミック・ドラゴンで元のカード名が《デーモンの超越》のデーモンの召喚を攻撃!』

 

 《デーモンの超越》はエクシーズ素材を取り除くことで《デーモンの召喚》の破壊を無効にできるがデーモンプリンセス魔里亜はその効果を使用しなかった。

 《パンデミック・ドラゴン》によって《デーモンの召喚(デーモンの超越)》が戦闘破壊される。

 

 デーモンプリンセス魔里亜 LP1500

 

『墓地に送られたデーモンの超越の効果発動! デッキからデーモンの召喚を特殊召喚!』

 

 《デーモンの召喚》

 星6 闇属性 悪魔族

 攻撃力2500→3300 守備力1200

 

 あえて破壊させて無傷の状態の《デーモンの召喚》を呼び出す算段だったようだ。

 

『パンデミック・ドラゴンをリリースして、手札からカイザー・グライダー-ゴールデン・バーストを特殊召喚!』

 

 《カイザー・グライダー-ゴールデン・バースト》

 星6 光属性 ドラゴン族

 攻撃力2400 守備力2200

 

 だがまだサンドバックにできる攻撃力500の《デーモンの召喚》は二体残っている。

 《カイザー・グライダー-ゴールデン・バースト》は自らの場のモンスターをリリースして、フリーチェーンで特殊召喚できるモンスター。

 このモンスターの攻撃が通ればデーモンプリンセス魔里亜のライフは0になる。

 

『カイザー・グライダー-ゴールデン・バーストで元のカード名が《デーモンの招来》のデーモンの召喚を攻撃します』

『このデーモンプリンセス魔里亜を、悪魔姫の異名を持つ私を舐めないで! 墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外することで攻撃を無効にする!』

 

 《ネクロ・ガードナー》を落としたタイミングは《グローアップ・バルブ》を自己蘇生した際、デッキの一番上のカードを墓地に送った時か。

 あそこで防御札を落とせるあたり、デーモンプリンセス魔里亜は間違いなく超一流クラスのデュエリストだ。

 

『アサルトワイバーンで元のカード名が《デーモンの招来》のデーモンの召喚を攻撃』

 

 デーモンプリンセス魔里亜 LP200

 

『凌いだ! 更にデーモンの召喚を呼び出して返しのターンで反撃を』

『アサルトワイバーンの効果発動。モンスターを戦闘破壊したこのカードをリリースして、手札、墓地からドラゴン族モンスターを1体特殊召喚します』

『何!?』

『私は手札からクリスタル・ドラゴンを特殊召喚!』

 

 《クリスタル・ドラゴン》

 星6 光属性 ドラゴン族

 攻撃力2500 守備力1000

 

『また、新たなドラゴン族モンスター……この攻撃を防ぐ手段はもう』

 

 デーモンプリンセス魔里亜の場には攻撃力500の《デーモンの召喚》がまだ1体残っている。

 

『クリスタル・ドラゴンで元のカード名が《デーモンの顕現》のデーモンの召喚を攻撃!』

 

 デーモンプリンセス魔里亜 LP0

 

 《クリスタル・ドラゴン》には戦闘を行ったターンのバトルステップ時にレベル8のドラゴン族モンスターを手札に加える効果があるが、それを使用することなく勝負はついた。

 

『いいデュエルだった。完敗よ。あなたみたいな無名の凄腕デュエリストがいたなんてね』

 

 言いながらデーモンプリンセス魔里亜は握手を求めて手を差し出す。

 ユウミはその手を取ろうとして、途中で険しい顔になり手を引っ込めた。

 

『……敗者と馴れ合うつもりはありません』

 

 そのまま背を向けて立ち去っていく。

 

 準決勝の相手は決まった。

 無名でありながら超一流クラスの異名持ちを一蹴する実力を持つデュエリスト。

 このユウミという女性に対して、遊羽はこれまで感じたことのない感情を覚えていた。

 親友である杠葉色音や弟子である少女たちに対するものとも異なる親近感。

 それが何なのかを考える思考を一旦打ち切る。

 

 重要なのはこれから始まる準決勝だ。

 今回の三回戦、ユウミはドラゴン族モンスターを多用していたが、一回戦、二回戦では《X-ヘッド・キャノン》《Y-ドラゴン・ヘッド》《Z-メタル・キャタピラー》などの機械族ユニオン系のカードも使っていた。

 これまでのデュエルを分析した限りではエースモンスターは《XYZ-ドラゴン・キャノン》と《パンデミック・ドラゴン》といったところか。

 

 だが、本当にそれだけなのかという胸騒ぎがする。

 三試合見たがユウミのデッキは半分以上が未だに不透明だ。

 仮にユウミがこれまでの試合で本来のエースモンスターを使うことなく勝利を重ねているのだとすれば、それは彼女が女王杯における最大の難敵になり得るであろうことを意味していた。

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