インセクト遊羽 / LP2300
VS
ユウミ / LP2700
女王杯、準決勝。
未知なる青眼の使い手、ユウミの猛攻によって遊羽は追い詰められた。
ユウミの場にいるのは二体の《青眼の白龍》を墓地に送ることで特殊召喚された融合モンスター《青眼の双爆裂龍》。
その融合素材に相応しく二つの頭を持つブルーアイズだ。
《青眼の双爆裂龍》
星10 光属性 ドラゴン族
攻撃力3000 守備力2500
攻撃力、守備力こそ《青眼の白龍》と同じだが、戦闘破壊されず、攻撃時に破壊できなかったモンスターを除外する効果に加えて、モンスターに対する二回攻撃の能力まで有している。
このユウミという女性は《青眼の白龍》を一枚しか所持していないが、カード名を《青眼の白龍》として扱う《青眼の亜白龍》というカードを用いてこの融合モンスターを出してきた。
《青眼の双爆裂龍》と《青眼の亜白龍》はどちらも遊羽の知らない青眼モンスターだ。
これらの未知の青眼を抜きにしても《太古の白石》や《銀龍の轟咆》を駆使した繊細なテクニックは非常にレベルが高く、同じ青眼の所有者である龍堂院麗華より遥かに格上の青眼使いであることが分かる。
現在の遊羽の場と手札にカードはなく、ここで劣勢を覆せるカードを引けなければ詰む状況。
「ドロー!!」
手にしたカードを遊羽は即座に使用する。
「魔法カード《おろかな埋葬》を発動!!」
《青眼の双爆裂龍》の効果を完全に把握できていない以上、賭けになるがそれでもやるしかなかった。
「デッキからゴキポールを墓地へ送る」
《ゴキポール》が墓地に送られた時、レベル4の昆虫族モンスター1体を手札に加えることができ、通常モンスターなら場に出すことができる。
「ゴキポールの効果で甲虫装甲騎士を手札に加えて攻撃表示で特殊召喚!」
《
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1900 守備力1500
「そして甲虫装甲騎士の攻撃力以上のモンスター1体を破壊する。対象は青眼の双爆裂龍」
《青眼の双爆裂龍》に効果破壊耐性があればこの効果は無駄打ちになり、返しのターンで攻撃表示の《甲虫装甲騎士》が戦闘破壊されてダメージを受けることになる。
それでも、ここで攻め込まなくては勝ち目はない。
《ゴキポール》の特殊能力によって《青眼の双爆裂龍》が木端微塵に砕け散った。
「青眼の双爆裂龍、撃破!」
これでユウミの場にモンスターはいなくなった。
「バトル! 甲虫装甲騎士でプレイヤーにダイレクトアタック!!」
ユウミ LP800
「ターンエンド」
あと一撃。
次のターン、もう一度《甲虫装甲騎士》で直接攻撃すればライフを0にできる。
ユウミのデッキには最上級ドラゴン族が多く入っていると思われ、手札次第では壁モンスターを出せない可能性もあるはずだ。
「私のターン」
ぞっとするほどの戦慄が迸った。
今、ユウミが引こうとしているカードに対して、デュエリストとしての直感が警鐘を鳴らす。
同時にもう一度《甲虫装甲騎士》で攻撃できるという想定が希望的観測であると理解する。
このレベルのデュエリストがここで逆転に繋がるカードを引けないはずがない。
「ドロー!」
引いたカードをユウミが即座に使用する。
「儀式魔法《カオス・フォーム》を発動!」
また知らないカードだった。
現在のユウミの手札は二枚。セオリー通りならその内一枚が儀式モンスターであり、残りの一枚のレベルが同じモンスターを手札からリリースして儀式召喚を行うはずだ。
「このカードの効果によって墓地から《青眼の白龍》を除外することで、手札からカオス儀式モンスター1体を儀式召喚できます」
この儀式魔法も《青眼の白龍》関連のカードということか。
リアルソリッドビジョンによって未知の儀式モンスターが実体化していく。
《青眼の亜白龍》と《青眼の双爆裂龍》を上回るサイズの巨大なドラゴン。
ただ大きいだけでなく凄まじいプレッシャーを放っている。
「儀式召喚! 降臨せよ! ブルーアイズ・カオス・MAX」
ここでユウミが何かを思い出したかのように大きく目を見開いた。
そして苦虫を嚙み潰したような顔になる。
その表情の意図が分からず見ていると視線が合った。
数秒後、ユウミはどこか安堵したように微笑んでから、自らのデッキの上に手を乗せる。
「何っ!?」
実体化寸前だった儀式モンスターが消えていく。
ユウミ LP0
「……サレンダー、どうして」
茫然としているのは遊羽だけではなかった。
会場全体がざわつき、アナウンサーも予想外の事態に対応できていない様子だ。
「私はこの大会を棄権します」
それだけ言うとユウミは踵を返して立ち去っていく。
『……じゅ、準決勝の勝者が決まりました。Bブロックから決勝進出を決めたのはインセクト遊羽です!』
数十秒してから我に返ったアナウンサーがそう宣言した。
◇
クイーンドームの通路でユウミはビデオ通話を行っていた。
電話の相手は白衣を着た女性だ。
『君が冷静で良かったよ、ユウミ』
画面の向こうの白衣の女は満足気な様子だった。
『女王杯で公開していいのは《青眼の亜白龍》と《青眼の双爆裂龍》まで。カオス・MAXを出すような状況になったらサレンダーする。私の指示を守ってくれたようで何よりだ』
それが先ほどの試合でユウミがサレンダーした理由。
『最終目的達成まで、まだ時間がかかるからね。この時点でカオス・MAXを大衆の目にさらすのは好ましくない』
「わかっています」
『いや、君には済まないことをしたと思っているよ。サレンダーはデュエリストとして恥ずべき行為。二種類の原作デュエリストの遺伝子が混ざっている以上、君たちは並みのデュエリスト以上にデュエル脳になるからね』
ユウミには実感がないが、母にとって娘たちは『デュエル脳』というものらしい。
『ましてや君は海馬瀬人の遺伝子を持っている。サレンダーはさぞ屈辱だったろう』
武藤遊戯と海馬瀬人の遺伝子を併せ持つデュエリスト。
それがユウミの正体だった。
『それともあの失敗作が決勝に進めて安心したかい』
「……申し訳ありません」
『謝らなくていいさ。君が妹思いなのも遺伝子の影響だからね。そして喜ぶといい。カオス・MAXまで出させた以上、あの失敗作は合格だ』
白衣の女の言葉にユウミは安堵する。
仮に失格になっても殺処分だけはやめるように懇願するつもりだったが、現在はユウミ以外にもデュエリストとして優れた娘たちが多くいる。
以前のように母が頼みを聞いてくれるとは限らなかった。
『今の私は機嫌がいい。あの失敗作が有効活用できる水準に達しているのを検証できたし、三回戦では君の成長も見られたからね』
三回戦の対戦相手はデーモンプリンセス魔里亜。
『デーモンの召喚』モンスターを使うデュエリストの少女。
『ああ、デュエルの内容は関係ないよ。最高傑作である君がこの世界のゴミに勝つのは当たり前だ』
ユウミは顔を顰めるが、白衣の女は気にすることなく続ける。
『私が評価したのは君が握手に応じなかったことさ。海馬瀬人は敗者と馴れ合わない。海馬瀬人は敗者からの握手に応じたりしない。私の教育の成果が出ているようで何よりだ』
ぎゅっと胸が締め付けられる。
だが、それでも海馬瀬人の遺伝子を持つデュエリストとして相応しい行動をとらなければならない。
『武藤遊戯は原点にして頂点。歴代主人公の中で最も偉大なる存在。その宿命のライバルである海馬瀬人は歴代ライバルの中で最も優れたデュエリストだ。君はその両方の遺伝子を持つ最高傑作である自覚を常に持たなくてはいけないよ』
「分っています」
武藤遊戯と海馬瀬人が偉大なるデュエリストであるということは何度も聞かされたし、彼らをリスペクトすることについては何ら異論はない。
「……母さん、本当に全員を滅すしかないのでしょうか」
『その話は前にしたと思うけどね』
「この世界にもまともなデュエリストはいる。だから」
『駄目だ。この世界の人間は全員滅ぼす。原作キャラも含めてね』
ユウミは拳を強く握りしめた。
『再構築された正しい遊戯王の世界にもこの世界と同じ原作キャラはいるさ。まぁ同一存在であっても同一人物ではないけどね』
世界の崩壊と共に全ての生命を滅ぼすというのが母の決定だった。
『君は何度も見たはずだよ。この世界の人間の醜さを』
最近ではBランク以下のプロデュエリストが女児をデュエルで襲って返り討ちにされる事件が多発している。
だが、そんなのはまだマシな方だ。
プロデュエリストが弱過ぎてデュエル強姦は未遂に終わっている。
Bランク以下のプロデュエリストは、弱いデュエリストであるが故に、ある意味では無害な存在だった。
並みのデュエル犯罪者ならこうはいかない。
女児がデュエルで無力化されて強姦される事件はこの街のいたる所で起こっている。
それを取り締まるはずのセキュリティはまともに仕事をしない者が多く、それは現場だけではなく上層部も同様だ。
決闘強姦魔は逮捕されても不起訴になるか、短期間で出所して再犯を犯す。
そして治安が悪いのはこの街に限った話ではない。
今や世界各地の治安は悪化して決闘強姦魔や決闘殺人鬼によるデュエル犯罪が多発している。
皮肉にも犯罪都市と呼ばれるこのブラックドミノシティは世界有数の安全地帯だった。
下層区にデュエル犯罪者を追いやる政策によって、A区は世界で最も治安の良い場所となっている。
『デュエルに負けて強姦されている子供を君は救ったこともあったね。それで何か変わったかい。何も変わらない。結局同じような悲劇がこの街で、世界各地で繰り返される』
その言葉にユウミは俯いた。
『君の目に留まった人間だけをノアの箱舟に乗せるなんて不公平だと思わないかい。生き残る人間を選別するなんて傲慢な行為だ。それにまともな人間なら世界と共に滅ぶのはある意味幸せなんじゃないかな。こんな醜い世界で生きていても仕方ないだろう』
母の言葉全てに同意するわけではない。
だが、それでもユウミは思ってしまったのだ。
こんな世界は間違っていると。
『さて、話は以上かい。それじゃあ今日の君の仕事は終わりだ。残りの時間はオフでいいよ』
ビデオ通話が切れたのでスマホをポケットにしまう。
目から涙が零れ落ちる。
この世界と共に滅ぶことになる善人、まともな人間たちのことを思うと胸が張り裂けそうだった。
それに世界を滅ぼす前にユウミには成さねばならないことがある。
三枚の《青眼の白龍》を紛い物の使い手から奪取して、その内の一枚、四枚目のブルーアイズを破り捨てる。
母の言う原作において海馬瀬人が行った偉業を再現するのだ。
「四枚目は敵になるかもしれない」
それは偉大なるデュエリストの言葉。
「四枚目は敵になるかもしれない。四枚目は敵になるかもしれない。四枚目は敵になるかもしれない」
その言葉を復唱して自らに言い聞かせる。
「四枚目は敵になるかもしれない。四枚目は敵になるかもしれない。四枚目は敵になるかもしれない。四枚目は敵になるかもしれない。四枚目は敵になるかもしれない」
この《青眼の白龍》に対する愛情も海馬瀬人のものであって自分の感情ではないのだ。
「四枚目は敵になるかもしれない!!」
それでも