それはサプライズとでも言うべき展開であった。
本来、Aブロックの決勝進出者はエリートプロ栄一という男。
現在のプロデュエリスト協会において最も強いとされるデュエリストだ。
だが決勝戦前に急遽始まった特別試合。
その試合の勝者がAブロックから決勝に進むという条件のデュエル。
両者合意の元に行われたという試合において、エリートプロ栄一はワンターンキルされた。
現プロデュエリスト協会最強の男を瞬殺したのは、元全米チャンピオン。
盗賊の異名を持つデュエリスト、バンデット・キース。
本名はキース・ハワード。
「どうやら決勝戦が楽な消化試合になることはなさそうじゃのう」
特別試合が終わり最初に口を開いたのはミカだった。
「強姦魔、あんた何か知ってるんじゃないの」
レイプデビル叡傲にそう問いかけたのは幸。
決闘女王に雇われていたこの男なら事情を知っているのではないかという判断。
「生憎だが女王サンからは何も聞いてねえよ。俺が負ける可能性も考慮して二人目の刺客を用意してたってところか。用心深い女だねぇ」
この特別試合は決闘女王によって行われたもの。
ならばキースを女王杯に招いたのが決闘女王なのは間違いない。
「決闘女王はAブロックでプロデュエリストが質の低いデュエルをしたと苦言を呈していました。それなら遊羽さんに関係なく、どのみち特別試合はするつもりだったのではないでしょうか」
おっとりとした口調で指摘したのは明美。
「成程な。プロデュエリストを決勝で使うのを嫌ったってわけか」
牛尾が納得したように頷く。
「一回戦のプロも酷い醜態だったからね。弱いデュエリストに強いデッキを与えるより、初めから強いデュエリストを使った方がいいと判断したということかな」
決闘女王の意図を射亜が推察した。
「この街に来た当初、私もプロデュエリストとデュエルをしたことはあるが、プロと呼ぶに値しない輩だったよ」
見下したような態度でジークが言う。
「確かにプロデュエリストが弱いのは有名だ。アカデミアでも不人気職ワースト3にランクインしていたぞ」
学生であるセレナにすらこう評価されるが、それも仕方ないだろう。
テレビで流れていたプロデュエリストのデュエルは大きく分けて二通り。
Bランク以下のプロデュエリストたちによる、攻撃力1500以下の通常モンスターによる殴り合い。
Aランクの女子プロによる、カードの効果を碌に把握していないBランク以下とは違った意味で質の低いデュエル。
テレビ放送でプロデュエリストたちは自分たちが弱いデュエリストだと宣伝しているような状態だった。
堂本逮捕後、プロデュエリスト番組は放送終了したが、おそらく堂本利権目当てのスポンサーが軒並みいなくなったからだろう。
「ですがバンデット・キースは所詮過去の男。全米チャンピオンと言っても元でしょう。素人の子供に負けたのも有名ですし、一概に強いと言い切ることはできないのでは?」
大瀧の言葉に思わず反論したくなるが堪える。
バンデット・キースが初心者の子供に負けて表舞台から去ったのは事実。
遊羽はキースのファンであるが信者ではないと自負しているので受け入れるべきことは受け入れる。
「私はむしろ逆だと思います。元全米チャンピオンであるからこそ彼は強い」
大瀧に反論したのは美玲。
「近年のアメリカではポリコレ流が主流となって、デュエルの勝敗をポリコレに配慮したプレイングをしたかどうかで決めています」
現在アメリカで最も大規模な大会はポリコレカップ。
トーナメント制のデュエル大会だが、勝利条件は相手のライフポイントを0にすることではない。
モンスターの肌の色や性別、容姿等で多様性のあるデッキを使用しているか、所謂ポリコレに配慮したデュエルをしたかどうかで勝敗が決まる。
たとえ相手のライフポイントを0にしてもポリコレに配慮したデュエルをしていなければトーナメント敗退になるそうだ。
しかもポリコレカップに限らず、アメリカの大会の多くでこのルールが採用されているという。
結果としてアメリカのデュエリストレベルは大きく低下した。
「奴はアメリカデュエル界が正常だった頃、世界一のデュエル大国だった時代のデュエリスト、歴代最強の全米チャンピオンだ」
ヘルカイザー亮がそう断言した。
◇
遊羽がクイーンドームのコロシアムに入場した時、その男は既にそこにいた。
バンデット・キース。
サイバー流で言うところのリスペクトデュエルの精神を持たない遊羽が唯一リスペクトするデュエリスト。
「クク、来たか、癲狂院」
その相手と大舞台でデュエルできることにデュエリストとして高揚感を覚えている。
「キース……今日ここで私はあんたを超える」
あえて強気な啖呵を切った遊羽に対してキースは何も言わない。
サングラスの奥の瞳は伺い知れなかった。
『いよいよ女王杯、決勝戦が開始となります! 双方デュエルディスクを展開してください』
カードプレートがソリッドビジョンによって生成される。
オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされる。
デュエルディスクによって先攻、後攻が決定された。
害虫 ――
VS
盗賊 ―― キース・ハワード / LP4000
「「決闘!!」」
先攻をとったのはキース・ハワード。
「俺様のターンから行くぜ! モンスターをセット」
キースの場に裏側守備表示でモンスターが出される。
「更にリバースカードを一枚セットしてターンエンドだ」
「私のターン、ドロー」
引いたモンスターを遊羽は即座に召喚する。
「ジャイアント・メサイアを攻撃表示!」
《ジャイアント・メサイア》
星3 地属性 昆虫族
攻撃力1200 守備力1500
「ジャイアント・メサイアの効果。手札の応戦するGを攻撃力と守備力を500アップする装備カードとして装備する」
《ジャイアント・メサイア》
攻撃力1200→1700 守備力1500→2000
「装備カードを装備した守備力2000の昆虫族モンスターをリリースして、完全態・グレート・インセクトを特殊召喚!!」
《完全態・グレート・インセクト》
星9 地属性 昆虫族
攻撃力3000 守備力2600
「更に墓地に送られた応戦するGの効果発動。デッキから代打バッターを手札に加える」
「トラップカード発動!《デモンズ・チェーン》!」
飛翔した鮮やかな羽の蛾に紫色の鎖が絡みついた。
準決勝で遊羽も使用した罠カード《デモンズ・チェーン》。
これによって《完全態・グレート・インセクト》は攻撃を封じられ、効果も無効化される。
「だったら魔法カード《アドバンスドロー》。グレート・インセクトをリリースして二枚ドロー!」
《アドバンスドロー》は自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター1体をリリースして二枚ドローする魔法カード。
「墓地のジャイアント・メサイアを除外して、ジャイアントワームを特殊召喚!」
《ジャイアントワーム》
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1900 守備力400
「バトル! ジャイアントワームでセットされたモンスターに攻撃!」
バトルが行われキースの場の裏守備モンスターが表向きになる。
《モーターシェル》
星4 闇属性 機械族
攻撃力1300 守備力1800
《ジャイアントワーム》が《モーターシェル》を戦闘破壊した。
「モーターモンスターは破壊されても部品を場に残すぜ」
《モータートークン》
星1 地属性 機械族
攻撃力200 守備力200
「私はカードを一枚セットしてターンエンド」
「俺のターン、ドロー! モータートークンをリリースしてモーターバイオレンスをアドバンス召喚!」
《モーターバイオレンス》
星6 闇属性 機械族
攻撃力2100 守備力1200
「モーターバイオレンスの効果発動! このカードが召喚に成功した時、攻撃力を相手ターン終了時まで守備力の半分アップする」
《モーターバイオレンス》
攻撃力2100→2700
「オラ! まだまだ行くぜ! 魔法カード《融合派兵》!」
《融合派兵》はエクストラデッキの融合モンスター1体を相手に見せ、そのモンスターにカード名が記された融合素材モンスター1体を手札、デッキから特殊召喚する魔法カード。
「エクストラデッキの《ガトリング・ドラゴン》を公開することで、デッキからリボルバー・ドラゴンを特殊召喚!!」
《リボルバー・ドラゴン》
星7 闇属性 機械族
攻撃力2600 守備力2200
「更に《アイアンドロー》発動! デッキからカードを二枚ドローするぜ!」
《アイアンドロー》は自分の場に機械族の効果モンスターが二体のみ存在する場合、発動できる魔法カード。
キースの場にいる《モーターバイオレンス》と《リボルバー・ドラゴン》は二体とも機械族なので条件は満たしている。
「リボルバー・ドラゴンの効果発動! 銃砲に備え付けられたシリンダーを回転させ二分の一の確率で敵モンスターを破壊する。ロシアン・ルーレット!!」
カチリと音が鳴る。銃弾は不発だった。
「……クク、そうだよな、癲狂院。あの時も弾丸は出なかった」
どこか懐かしむような様子でキースが言う。
「だがなロシアン・ルーレットで勝てても、元全米チャンピオンである俺様にデュエルで勝とうなんざ10年早いんだよ! リボルバー・ドラゴンでジャイアントワームを攻撃! ガン・キャノンショット!!」
鋼鉄の機械龍の攻撃によって巨大な百足が木端微塵に砕け散った。