《リミッター解除》によって攻撃力が二倍になった《リボルバー・ドラゴン》の銃撃が《デビルドーザー》へと放たれる。
その銃弾は悪魔の名を冠する巨大な百足の胴体に命中したかと思われた。
だが寸前で《デビルドーザー》の体が透けていく。
「私はチェーンして速攻魔法《星遺物を巡る戦い》を発動!《デビルドーザー》を除外する」
このターンドローしたカード《星遺物を巡る戦い》。
その効果によって《デビルドーザー》が除外されたことによってバトルは不成立。
そしてこの速攻魔法の効果は自分のモンスターを除外するだけではない。
「更にリボルバー・ドラゴンの攻撃力と守備力を除外したモンスターの攻撃力、守備力分ダウン!」
《リボルバー・ドラゴン》
攻撃力2600→0 守備力2200→0
攻撃力が0になれば《リミッター解除》で二倍になったところで《リボルバー・ドラゴン》の攻撃力は変わらず0。
「ここでトラップカードを発動!《リビングデッドの呼び声》! 墓地からアルティメット・インセクトLV7を特殊召喚!!」
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
究極の名を冠する昆虫が再びフィールドに舞い戻った。
◇
キース・ハワードはかつて全米の頂点に君臨したデュエリストであった。
あらゆる大会の賞金を掻っ攫っていくことから付いた異名は盗賊。
アメリカ№1の賞金稼ぎとして日々デュエルで金を稼いでいた。
そんな中、キースにある話が持ちかけられる。
それは五万人を収容できるドームにて全国放送でデュエルモンスターズ初心者の子供と対戦を行わないかという提案だった。
この企画の発案者はウェーブのかかった黒髪の眼鏡をかけた女性。
実験室にいるわけでもないのに白衣を着ているのが印象的なアジア人だった。
彼女は画期的な発明を次々と行って特許を取得しているアメリカでも有名な科学者だ。
Mary Sueと名乗っており、
対戦相手となる子供は観客の中からランダムに選出。
キースが勝利したなら100万ドルの賞金を支払う。
ただし白衣の女がアドバイザーとしてその子供をサポートするという条件のデュエル。
キースはこの申し出を即座に受けた。
子供に勝利すれば100万ドルを得られるなど、落ちている金を拾うようなものだ。
試合当日。
条件通り観客の中からキースの対戦相手が選ばれた。
まだジュニアスクールに通うぐらいの娘だ。
テレビ局のスタッフが『おませな女の子』と呼び始めたので、その名前で番組が進行した。
――金持ち科学者の道楽だか何だか知らねえが、こんな子供に賞金王である俺様が負けるわけがねえ。
自信満々に始めたデュエル。
だが……。
「トラップカード《戦線復帰》を発動するよー。墓地から飛行エレファントを特殊召喚!」
《飛行エレファント》
星4 風属性 獣族
攻撃力1850 守備力1300
キースが使用した《地割れ》にチェーンしておませな女の子が発動した《戦線復帰》により《飛行エレファント》が蘇生。
《地割れ》は相手フィールドの攻撃力が一番低いモンスターを破壊する魔法カードであり、本来破壊しようとしたモンスターではなく《飛行エレファント》が対象になってしまう。
そして《飛行エレファント》は相手ターンに一度だけ、相手の効果では破壊されない。
「はい。これで君の狙った《地割れ》のコンボは失敗」
白衣の女が愉快そうに言った。
このターン、キースにできることはなく、おませな女の子にターンが移る。
「いっくねー。飛行エレファントを攻撃表示にして《流星の弓-シール》を装備!」
《飛行エレファント》
攻撃力1850→850
一見すれば、自分のモンスターの攻撃力を下げる初心者のプレイングミス。
だが《流星の弓-シール》には装備モンスターを相手プレイヤーに直接攻撃できるようにする効果がある。
「せめちゃうよ! 飛行エレファントでプレイヤーにダイレクトアタック!」
前のターンに効果破壊を免れた《飛行エレファント》の直接攻撃が成立したことにより、おませな女の子の特殊勝利が確定した。
「わーい! 勝ったよー」
信じ難い事態にキースはその場に膝から崩れて「オーマイガー!」と何度も叫んだ。
「こういう時は何というべきなのかな。おませな女の子の勝ちデース、なんてね」
満足気な様子で白衣の女が笑う。
「私には心を読む力も、未来を見通す力もないし、絶対運命力を与えるような真似だってできないんだけどね。でも結局、君たちはそうなるんだね。天敵がいなくても私が介入して似たような状況を作った程度で史実と同じことを繰り返す」
キースには白衣の女が何を言っているかわからない。
「ありがとう、礼を言うよ。いいデータがとれた。バンデット・キース。世界は違えど君は敗北者だ」
だがこちらを見下しているのは理解できた。
「これから君は落ちぶれるんだろうね。でもかまわないだろう。だって原作でもそうなったんだ。こんな歪な世界とはいえ君は原作を遵守することができる。原作と同じ正しい道を歩めるんだ」
その上でこの白衣の女に対して必要以上の怒りや復讐心が湧いてこない。
――この女じゃねえ。
そんな漠然とした思いがキースの胸にはあった。
それからキースは白衣の女の宣言通り落ちぶれていくことになる。
表舞台から姿を消し最終的にブラックドミノシティに流れ着いた。
街にきて早々、敗北した側が二分の一の確率で弾が出るロシアンルーレットを行う裏のデュエル大会『
その後も幾度となく裏のデュエル大会で勝ち続けるが満足感は得られない。
あの敗北からキースはずっと地獄にいた。
そんな地獄の中で出会ったのが
緑みがかった短髪に首から金属タグをかけた小娘だ。
出会い頭にロシアンルーレットを挑んできた時は薬でもやっているのかと思った。
その瞳はキースと同じ地獄を知っている者の目。
それだけであればこの街では珍しくはない。
だが、この娘はキースや他の者たちとは決定的に異なる部分がある。
地獄を知りながら、癲狂院遊羽の瞳は地獄に染まっていない。
踏み潰されようとも前に進み続けるという絶対的な意思。
自暴自棄ではなくロシアンルーレットにすら希望を見出している。
それはキースがどれだけ裏の大会を制して金をかき集めても得られなかったもの。
一度は地獄に沈みながら、この娘は地獄を克服している。
とどのつまりキース・ハワードは出会ったその瞬間から癲狂院遊羽に敗北していたのだ。
◇
インセクト遊羽 / LP400
VS
バンデット・キース / LP1900
女王杯、決勝戦。
デュエルは最終局面を迎えていた。
現在、遊羽の場には《リビングデッドの呼び声》で蘇生された《アルティメット・インセクトLV7》が一体。
《アルティメット・インセクトLV7》
星7 風属性 昆虫族
攻撃力2600 守備力1200
一方でキースの場にはエースモンスターの《リボルバー・ドラゴン》がいるが《星遺物を巡る戦い》の効果で攻守共に0になっている。
《リボルバー・ドラゴン》
星7 闇属性 機械族
攻撃力0 守備力0
お互いに手札はなく墓地で効果を発動するカードもない状況。
「アルティメット・インセクトLV7でリボルバー・ドラゴンを攻撃!!」
究極の名を冠する昆虫によって、鋼鉄の機械龍が木端微塵に砕け散った。
バンデット・キース LP0
決着。
会場が一瞬静まり返る。
『ついに女王杯の優勝者が決まりました! 勝者はインセクト遊羽! 決闘女王に挑む権利を勝ち取ったのは癲狂院遊羽選手です!!』
アナウンサーの宣言を受けてドッと観客席から歓声が上がった。
会場が沸き立つ中、数秒間、互いに無言で向かい合い、先に口を開いたのはキース。
「……おい、小娘」
キースがジャケットの内側にある複数のデッキから一枚のカードを抜き出して、こちらに投擲する。
「アンティカードとしてくれてやる」
投げ渡されたカードを二本指でキャッチした遊羽はそれを表向きにした。
《増殖するG》
星2 地属性 昆虫族
攻撃力500 守備力200
それは昆虫族のカードの中でもトップクラスのウルトラレアカード。
決闘女王相手にも有効な一枚であり、ブラックマーケットで探していたが、結局入手することができなかった手札誘発。
「どうして」
デュエル前にアンティの取り決めをしていない以上、キースがレアカードを渡す必要はないはずだ。
「俺様はデュエルキングなんざ大して興味はないんでな。俺の目的は金。既に雇い主からたっぷりと前金を貰ってる時点で目的は達成してるんだよ」
言外にデュエルでは負けたが勝負では勝ったとにじませている。
「だが、てめえはデュエルクイーンを目指してるみたいだからな。だったら未来の決闘女王に貸しを作っておくのも悪くねえと思っただけだ」
その言葉を最後にキースは背を向けて立ち去って行った。
◇
VIP観戦ルームにて決闘女王は一人無言で佇んでいた。
決勝戦が決着した試合場を無表情で見下ろしている。
「認めましょう、遊羽」
強姦魔王の異名を持つ二大決闘強姦魔。
皇帝の異名を持つヨーロッパ無敗の貴公子。
無名でありながら準決勝まで進んだ未知の青眼使い。
盗賊の異名を持つ元全米チャンピオン。
女王杯にて四人の強敵を癲狂院遊羽は打ち破って見せた。
「あなたには決闘女王である私とデュエルをする資格がある」
四名の内の二名は決闘女王が差し向けた刺客。
だが、その二本の矢を用意したのは癲狂院遊羽に臆したからではない。
故に決闘女王の声に悲観的な色はなかった。
刺客が敗北したのであれば、自らの手で処理するまでのこと。
――地べた這いずる虫けらも、羽虫となって天を舞う。
聖園叡傲。
ジークフリード・フォン・シュレイダー。
ユウミ。
キース・ハワード。
女王杯の対戦相手だった者たちとのデュエルにおいて癲狂院遊羽が口にした召喚向上。
その言葉通り、あの娘は優勝して女王戦まで辿り着いてみせた。
「だったらその羽を毟り取って、何度でも地を這わせてあげるわ」
決闘女王は口元を歪め一人嗤った。