切り札はゴキボール   作:白銀蟷螂

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Episode3
決闘修道女


 ブラックドミノシティC区の片隅にある古めかしい修道院。

 聖決闘教会の扉の前に佇むのは四人の男女だった。

 その中の一人。緑みがかったショートヘアに小柄な体格。黒のロングコートを羽織り、首からは金属タグをかけている。

 胸はツルペタでまな板のような体系だ。

 二代目決闘女王、癲狂院遊羽である。

 

 その右隣にいるのは遊羽とは対照的な女性的魅力に溢れた長い黒髪の女だった。

 黒のタートルネックに細身のデニムを着用した美女。ブラックドミノシティ№1のデュエルアイドル、杠葉色音。

 

 左隣にいるのは黒いコートを着た暗い青色の髪と鋭い目をした青年、ヘルカイザー亮。

 その横にいるのは赤い私服姿の少女、セレナである。

 

 年齢も性別のバラバラの四人が教会を訪れた理由。

 無論、それは宗教に入信するためなどではない。

 

 アカデミアに在学していた頃、遊羽はデュエル宗教、もといカルトの勧誘を何度か受けたことはある。

 教祖とセックスすればドロー力が向上するだの、神の精液を飲めば好きなカードが引けるようになるだの勧誘文句は色々だ。

 それら全てを遊羽は断ってきた。

 

 では、そんな遊羽が何故、こうして協会の前に立っているのか。

 その理由は腕に浮かび上がった銀色の痣が原因だ。

 鋭く尖った羽根のような銀紋が三枚、斜めに重なる形で刻まれている。

 朝、刺すような痛みで目を覚ました時、それは既に遊羽の腕にあった。

 その数日後に届いたのが一通の手紙。

 銀色の痣について知りたければ聖決闘教会に来るようにと記してあった。

 痣が現れ手紙を受け取ったのは遊羽だけではなく他の三人も同様。

 

 正直なところ遊羽は神だの仏だの宗教というものを一切信じていない。

 聖決闘教会がC区に乱立するドロー力向上を謳うデュエル宗教のように信者の勧誘を積極的に行っているという話は聞かない。

 だとしても遊羽からすれば五十歩百歩だ。

 

 門鈴を鳴らして暫くすると軋む音と共に扉が開いた。

 

「お待ちしておりました。私はこの教会の修道院長マリア・クラウスと申します」

 

 現れたのは装飾の施された白い修道服を纏った女性。

 ヴェールの下から覗く髪は淡い栗色で、きちんとまとめられている。肌はまだ張りを保ち若さを宿していた。

 身体つきは細く、修道服に包まれた肩や背は華奢に見える。

 その隣にはくせ毛のある赤い髪の若い修道女がいた。

 

「どうぞ、中にお入りください」

 

 高い天井から差し込むステンドグラスの光は床に色とりどりの影を落とす。

 並んだ長椅子の横を通り抜けながら修道院長マリアは祭壇の前で立ち止まる。

 

「それじゃあ説明してもらおうか。この痣が何なのか」

 

 真っ先に口を開いたのはセレナだった。

 その若干失礼とも言える態度に赤いくせ毛の修道女は顔を顰めるも、修道院長マリアは気分を害した様子はなく微笑む。

 

「ええ、もちろん教えましょう。あなた達はそれが何なのか知らなければならない。既に悪しき魔の先兵たちが動き始めているのですから」

 

 新手の宗教勧誘かと思いながらも黙って話を聞く。

 少なくとも鍵のかかった自室にいる遊羽の腕に芸術作品のような痣を出現させるのはトリックでは不可能。

 ましてやこの痣は時折、銀色に発光するのだ。

 

「それは聖痕と呼ばれる選ばれし者に刻まれる紋章です」

 

 今度は選ばれし者と来たか。

 こんなオカルト痣がなければさっさと教会から出ていくところだ。

 

「聖痕について語る上でまずはこの世界に危機が迫っていることを話さなくてはいけません。淫邪神リリアが目覚めようとしています」

 

 本当に帰りたくなってきた。

 一応、最後まで話は聞くつもりだが、その邪神を倒すために金を払えだの言ってきたら流石に撤収しようと思う。

 

「淫邪神リリアが復活すればこの世全ての女は淫魔へと転生させられ、男は皆性奴隷にされるでしょう」

 

 その時はセレナも一緒に連れて帰る。

 この娘は良くも悪くも純粋なのでカルトの妄言を信じかねない。

 

「邪神の使徒、決闘淫魔(デュエルサキュバス)。それは死の間際に淫魔へと転生した元人間。1000年に一度、淫邪神リリアは復活のために四人の人間を自らの使徒に転生させることができます」

 

 一見すれば、それはカルトのツイッター。

 

「聖痕を宿したデュエリストはそれを阻止するために決闘淫魔と戦う宿命なのです」

 

 だがこの銀色に発光する痣だけはカルトのトリックでは説明がつかない。

 

「私を雇いたいというならそれ相応の報酬は支払ってもらえるのかしら」

 

 黙って話を聞いていた色音がここで口を開いた。

 

「何ですって」

 

 くせ毛のある赤髪の修道女が不快そうに眉を顰める。

 

「私は完全偶像(アイドルマスター)の異名を持つブラックドミノシティ№1のデュエルアイドルよ。そして彼女は二代目決闘女王。他の二人にしてもデュエルの仕事を依頼したいなら金かレアカードを支払うのが筋でしょう」

「仕事なんてレベルの話をしてるんじゃないのよ。聞いてなかったの? 邪神が復活すれば人間の世界は滅ぶことになる!」

 

 赤髪の修道女が激高するも色音は冷静。

 

「仮に今のファンタジーが事実だとしても報酬を支払わない理由にはならないわ」

「元より私たち決闘修道女(デュエルシスター)は聖痕を宿した者たちを支援する所存です。レアカードの提供は最初からするつもりでした」

 

 修道院長マリアが持ってきたのは聖書型のカードファイル。

 そこには裏でも中々お目にかかれないようなレアカードがファイリングされていた。

 その中で目に留まったのは悪魔族モンスター《デーモンの召喚》。

 

「それは三年程前にここに押し入った決闘強姦魔を私がデュエルで無力化した上で寄付してもらったアンティカードですね」

「それって」

「ええ、あなたもよく知る人物。セックスデーモン豚島ですよ」

 

 セックスデーモン豚島、それはかつて奴隷杯の王だった男。

 

「聖痕を宿した者のことは事前に調査しています。癲狂院遊羽さん、杠葉色音さん、丸藤亮さん、赤馬セレナさん」

 

 遊羽がかつて奴隷杯に出場したことも把握しているようだ。

 

「このカードファイルの大半は教会に押し入ってきたデュエル犯罪者から寄付されたアンティカードですよ」

「修道女がアンティなんてしていいわけ?」

「私たちは修道女であると同時にデュエリストです。デュエリストであるならば敗者からカードを寄付してもらうのは正当な行為でしょう」

 

 それに関しては否定のしようがない。

 遊羽自身、目的のためとはいえアカデミア在学中は多くのアンティカード集めた。

 

「よく豚島を倒せたね」

 

 負ければレイプされるという状況では女性は冷静なデュエルができなくなるという。

 三年前と言えばセックスデーモン豚島の全盛期のはずだ。

 

「ワンターンキルしてアンティカードを寄付してもらった後、セキュリティの方に引き渡しましたよ」

 

 女性しかいない聖決闘教会を狙うデュエル犯罪者は多い。

 レイプ目的の決闘強姦魔などマシな方で、人身売買や臓器目的の凶悪デュエル犯もいる。

 だがそれらのデュエル犯罪者を決闘修道女が軒並み返り討ちにしてセキュリティに引き渡しているというのは裏でも有名な話だった。

 

「セックスデーモン豚島レベルのデュエリストならたとえ三人いてもワンターンスリーキルできます。私に限らずこの聖決闘教会にいる決闘修道女なら誰でも」

 

 奴隷杯で遊羽とデュエルした際、豚島は会場のレイプコールを破壊不能な自分専用のフィールド魔法と称した。

 だが逆に言えばその破壊できないフィールド魔法とやらがなければ女に負ける。その事実を受け入れられないが故に奴隷杯に引き籠っていたのかもしれない。

 

「癲狂院遊羽さん。あなたが淫邪神リリアの復活を信じていないことは分かります。けれどもいずれ決闘淫魔はあなた達の前に現れる。戦いの定めから聖痕を宿した者は逃れることはできない」

「……話を続けて」

 

 カルトのツイッターを全て信じたわけではない。

 ただ本当に決闘淫魔とかいうデュエル犯罪者が襲ってくるなら降りかかる火の粉を払う必要はあった。

 

「決闘淫魔は《幻魔の扉》というカードを所持しています」

 

 遊羽はアカデミアで現存する全てのカードの知識を習得しているが《幻魔の扉》なんて名前のカードは聞いたことがない。

 隣に目を向けるが色音もヘルカイザー亮、セレナも知らない様子だ。

 

「そのカードはライフポイントを半分支払うことで相手フィールド上のモンスター全てを破壊し、その後、相手の墓地からモンスター1体を特殊召喚できます」

「何だ、その《サンダー・ボルト》と《死者蘇生》を合わせたようなカードは!」

 

 驚愕するセレナ。

 

「デュエル中に一度しか使用できないという制約はありますが歴代決闘淫魔が使用してきたとされる恐るべきカードです。そしてそれ以上に厄介なのがテンプテーションドローという能力」

 

 テンプテーションとは誘惑を意味する英語。

 

「決闘淫魔は淫邪神リリアの加護により運命を魅了する。具体的にはデュエル中に一度だけ自分が引きたいカードをデッキトップからドローすることができます」

「ありえない。そんなイカサマできるわけない」

 

 この世界はデュエルで全てが決まる。

 袖に仕込んだカードを手札に加えるとかオートシャッフルに細工して積み込むとか、そういった行為は法則としてできない。

 

「イカサマではなく運命力の操作です。これは多かれ少なかれデュエリストが無意識にやっていること」

「じゃあ何、あんた達の宗教に入信すれば、その運命力とやらが上がるとでも」

 

 ここでYESと答えるなら、やはりこの連中は他と変わらないカルトだ。

 

「主は我らにドロー力を与えたりはしません。ですが邪神は違う。決闘淫魔とデュエルすることになれば否応なく、その力を目にすることになるでしょう」

 

 はいそうですかと信じることはできなかった。

 

「そして決闘淫魔が行うのは闇のゲームという高位のデュエル。モンスターによるダメージは現実のものとなり、その痛みはリアルソリッドビジョンとは比べ物にならない」

「それってヘルカイザーが持ち歩いてる衝撃増幅装置とか、最近刑務所で流行ってるライトニングデスマッチみたいな電流の流れる鎖を使ったデュエルってこと?」

「そんなお遊びと一緒にしないで!」

 

 声を荒げたのはくせ毛のある赤髪の決闘修道女だった。

 

「シスターアメリア、控えてください」

「いいえ、修道院長。やはりこんな連中に決闘淫魔の相手を任せることはできません!」

 

 アメリアと呼ばれた赤毛の決闘修道女が不快感を露わにする。

 

「私たち決闘修道女は数多くの悪霊をデュエルで除霊してきた本物のプロフェッショナル。それに対してこの連中は闇のゲームをしたことがないアマチュアですよ!」

「アマチュア呼ばわりは心外ね。私は完全偶像の異名を持つデュエルアイドル。そして遊羽は二代目決闘女王よ」

「それがアマチュアなのよ! 二代目決闘女王? 闇のゲームではない遊びの大会の称号でしょう。お前たちがやっているデュエルはニセモノ。ホンモノのデュエルである闇のゲームには遠く及ばない」

 

 色音の言葉を決闘修道女アメリアが一蹴する。

 

「言っておくけど二代目決闘女王、それからヘルカイザー亮、お前たちが裏でやっているデュエルもニセモノよ。衝撃増幅装置? ライトニングデスマッチ? 負けたらレイプ? 脚を切断? 首を刎ねられる? その程度のリスクしか負ってない分際でデュエリストを気取らないで!」

 

 命を賭けたデュエルですら、この決闘修道女は偽物だと語る。

 

「ましてや痛みを伴わず、何も賭けないデュエルなんて論外! 元決闘女王と学生、お前達がやってるのは最早デュエルですらないわ! お前たちはデュエリストモドキよ!」

「何だと!」

 

 激怒するセレナ。

 色音も笑顔を浮かべてはいるが、あれは怒っている時の笑顔だ。

 

「ニセモノのお前たちに教えてあげる! ホンモノのデュエルというのは闇のゲーム! それ以外のデュエルはニセモノでしかない! 闇のゲームを制してきた私たち決闘修道女こそがホンモノ! 運よく聖痕が刻まれただけのニセモノに世界の命運は任せられないわ!」

「き、貴様ぁ!」

 

 セレナの怒りは臨界点に達したようだ。

 

「私がやっつけてやる! デュエルだ!」

「いや、デュエルは私がする」

 

 遊羽はセレナを手で制しながら前に出た。

 このアメリアという決闘修道女に嫌悪なる感情を抱いたわけではない。

 だが色音から託された決闘女王の称号を侮辱したのは聞き流せなかった。

 

「それで何を賭けるのかしら? 脚? それとも首? 私たち決闘修道女からすれば闇のゲームですらないデュエルはリスクにすらならないわ」

 

 この決闘修道女を不具にしたり殺したりする気はない。

 普段ならレアカードのアンティで手を打つところだが、既に修道院長マリアはレアカードを寄越すと言っている状況。

 

「ヘルカイザー、あれ貸してくれる」

 

 視線を向けるとヘルカイザー亮は無言で衝撃増幅装置を差し出した。

 

「そんな玩具を付けたデュエルなんて闇のゲームに比べれば児戯でしかないわ。やはり裏のデュエリストもニセモノね。決闘修道女筆頭、このアメリア・ヴァレンティがホンモノを見せてあげる」

 

 互いに衝撃増幅装置を装着した上でデュエルディスクを起動。

 アメリアが展開したのは白い十字架型のカードプレート。

 あれが噂に聞く決闘修道女専用のデュエルディスクか。

 

 オートシャッフルシステムが起動して、互いのデッキが自動でシャッフルされた。

 デュエルディスクによって先攻、後攻が決定される。

 

 

   害虫 ―― 癲狂院(てんきょういん)遊羽 /  LP4000

 

          VS

 

 決闘修道女 ―― アメリア・ヴァレンティ / LP4000

 

 

「「決闘!!」」

 

 先攻をとったのは遊羽だった。

 

「私のターン! プリミティブ・バタフライを特殊召喚」

 

 《プリミティブ・バタフライ》

 星5 風属性 昆虫族

 攻撃力1200 守備力900

 

「プリミティブ・バタフライの効果発動。自分フィールド上の昆虫族モンスター全てのレベルを上げる」

 

 《プリミティブ・バタフライ》

 星5→星6

 

「更に魔法カード《孵化》を発動! プリミティブ・バタフライをリリース! そして究極変異態・インセクト女王を特殊召喚!!」

 

 《究極変異態・インセクト女王》

 星7 地属性 昆虫族

 攻撃力2800 守備力2400

 

「カードを一枚セットしてターンエンド。エンドフェイズ時、究極変異態・インセクト女王の効果によって、インセクトモンスタートークン一体を守備表示で特殊召喚」

 

 《インセクトモンスタートークン》

 星1 地属性 昆虫族

 攻撃力100 守備力100

 

 これにより《究極変異態・インセクト女王》は効果の対象にならず、相手の効果では破壊されなくなった。

 

「私のターン。エクソシスター・マルファを特殊召喚」

 

 《エクソシスター・マルファ》

 星4 光属性 魔法使い族

 攻撃力1600 守備力800

 

「効果によりデッキからエクソシスター・エリスを特殊召喚するわ」

 

 《エクソシスター・エリス》

 星4 光属性 魔法使い族

 攻撃力500 守備力800

 

「レベル4のエクソシスター・マルファとレベル4のエクソシスター・エリスをオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 

 それは清廉なる決闘修道女の召喚口上。

 

「聖なる法の名において告ぐ。

 墓地に蠢く異端よ、悔い改めよ。

 修道女の祈りは剣となり、信仰は罰となる。

 エクシーズ召喚。

 降り立て、ランク4。

 エクソシスター・ミカエリス!!」

 

 《エクソシスター・ミカエリス》

 ランク4 光属性 魔法使い族

 攻撃力2500 守備力1800

 

「エクソシスター・ミカエリスの効果発動! 究極変異態・インセクト女王を除外よ!」

 

 《エクソシスター・ミカエリス》の除外効果は対象をとらない効果であり《究極変異態・インセクト女王》の耐性は無力。

 

「その程度の耐性しか持たないモンスターを使うなんて、やはり闇のゲーム未経験者のプレイングはぬるい」

 

 決闘修道女アメリアが笑顔を浮かべる。

 

「教えてあげるわ! 真のデュエリストに至るための最低条件は闇のゲームを制すること。闇のゲームで負けるようなデュエリストはニセモノよ。そして闇のゲームでデュエリストとして高みを極めた決闘修道女の中でもその筆頭である私こそが真のデュエリスト!」

 

 正直なところ闇のゲームというのがどれ程御大層なデュエルかは分からない。

 本当にテンプテーションドローなる能力が存在するなら、成程、それは確かに遊羽がこれまでやったことのないデュエルだ。

 

「生憎だけど、私は真のデュエリストには興味がない」

 

 だからそれだけ言って癲狂院遊羽は薄く笑った。

 

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